表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
就職します!  作者: Suzugranpa
32/33

第31話 旅立ち

左門と栞の生活は落ち着きを取り戻した。表札は依然として[西陣 左門・栞]のままだが、その裏側で、たったひと夏の間に、[長女 西陣 栞]→ [長女 高井 栞] → [妻 西陣 栞] になっていたなんて一体誰が想像できただろうか。

そんなある日、新たに買い替えたスマホを(のぞ)いていた栞が言った。


「お父さん、明日、挨拶に来るって」

「またベルギー戻るんだって言ってたなあ」

「うん、そう」



♪ ピンポーン


翌日の昼下がり、インターフォンが鳴った。栞がモニターを見て喋っている。

「パパー、時間ないんだって。だから共同玄関で挨拶だけするって」

「ふうん」

左門と栞は共同玄関へ降りた。忠興は相変わらずにこやかだ。


「すみません、遅くなって時間なくなっちゃって。今夜の便なんで」

「いえ、大変ですね。しばらく向こうで山籠もりですか?」

「いやその前に向こうで結婚式を挙げる予定なんですよ」

「はい?」

栞もきょとんとしている。左門は恐る恐る聞いた。

「誰が結婚するんです?」

前科一犯の忠興だ。油断ならない。

「いやあ、お恥ずかしいけど、僕たちのです。ほら、出ておいで」

共同玄関の影から現れたのは・・・ 由良だった。


「あ?え?山室さん?」

「ハーイ ニッシー!、ニッシーは栞ちゃんに取られちゃったけど、オオモノ釣り上げちゃった」

由良は悪戯っぽく笑った。

「意味が解んなーい」

栞もふくれている。忠興が言った。


「話すと長いんで後ほどゆっくり報告しますけど、こっちは赤い石のご縁なんですよ」

「赤い石?」

左門と栞が同時に叫んだ。由良が胸元のペンダントをそっと手で持ち上げる。形は栞のペンダントと同じだ。

「栞ちゃんはお気に召さなかったって、どこかで聞いたんだけど大丈夫よ。ルビーだと思ってたけど違うんだって。忠興さんが言ってた。それに栞ちゃんとおソロなのよ。だって私は栞ちゃんのママなんだから」


左門と栞は開いた口が(ふさ)がらなかった。


「じゃ、すみません、タクシー待たせているんで。栞のこと、よろしくお願いします」

忠興と由良は腕を組んで颯爽と去って行った。左門と栞は声もなくエレベータに乗り込んで5階に上がる。玄関を開けて部屋に戻った途端、

「あーびっくりした!」

二人は同時に叫んだ。そして涙が出るほど笑いあった。

「さっすが栞のお父さん!山師って言うだけある!」

「パパのお父さんでもあるんだよ!」

「そりゃそうだあ。それによく考えたら由良さんって俺のお義母さんなんだ!」

「うん、新しいお母さん、きれいだった。ピッカピカ!」

「もう大丈夫だよ」

「うん」

戯れる二人の間で栞の胸元の青い石がきらっと光った。


その同じ瞬間のタクシーの中。

「はっくしょん!」

由良が胸元のペンダントを触る。

「ごめんなさい。なんだかこの石からムズムズが来たの」

忠興は澄まして言った。

「きっとお転婆娘がテレパシーを送って来たんだよ」

「え?怖い奴じゃないよね?」

「新しいお母さんへの挨拶だよ。それにね、その石は坂東さんにちゃんと浄化してもらったからもう栞の石と喧嘩はしない」

「そっか、でもそもそも坂東さんがくれたんだよ、この石」

「え?そうだったの?」

「うん。お正月に神社が忙しいから手伝ってくれってお姉ちゃんに頼まれて、行ったことあるんだ。その時にね、バイト代の代わりにって坂東さんがくれたんだ。引越しの忘れ物ですって奉納されたリングから石を外して、新しいリング作ったんだって。坂東さん、きっとこの石がいい人連れて来てくれるよって言ってた。本当になっちゃった」

忠興はペンダントを手に取り、赤い石をまじまじと見つめた。気がつかなかった。これってもしや・・・。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ