表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
就職します!  作者: Suzugranpa
19/33

第18話 裏表

 夜遅くにクラブ・サラに由良がやって来た。OLとして働いている由良は、店には一切関わらず、滅多に姿も見せない。由良がやって来る時は決まって、お姉ちゃん助けてー の話がある時だけだ。要領がいいのは小さい頃から変わっていない。


「で、どうしたのよ由良」

「一人が淋しい夜もあるのよ」

「へえ、私は退屈しないけどねえ」

「だってお姉ちゃんは石と話できる人だからね。私から見たらこの世の人に見えないよ」

「失礼ね。この世から神様に取り次ぐ巫女でもあるのよ」

「まあーねー。信じらんないよ、そのタフさ。流石(さすが)は元ヤンキー」

「うるさいね、あんたもずっとそのままって訳にはいかないでしょ。ってかずっと一人でいるつもりなの?」

「まさか。只今アプローチ中よ」

「へえ本当?どんな人?」

「奥さんと死別しちゃった人だけど、一緒にロード乗ったりしてるんだ」

「ふうん、趣味が共通か。幾つの人?」

「確か私より2つ下かなあ。でもさ、その人娘がいるんだよね。その子がちょっと、いろいろ差し障るのよ」

「お父さんの再婚には反対なんだ」

「まだそこまでの話にはなってないよ。最近会ってないし。でもさ、1年位前だけどさ、結界石持たせたりしてね、捨てたけど」

「穏やかじゃないねえ」

「ちょっとヤンキーっぽいでしょ。お姉ちゃんに教えてもらったから石の意味とかすぐ解ったよ。ほら、私、お姉ちゃん手伝って宮司さんから貰ったのあるじゃん。このリング」

由良は指の赤いリングを沙良に見せた。

「ああ、すっかり忘れてた。そんなの持ってたんだ」

「そ。宮司さんにリング貰うと思わなかったよ。バイト料代わりにしてもね」

「宮司さん、なんでそんなの持ってたんだろう」

「それは聞いたんだ。だって気持ち悪いじゃん」

「へぇ、なんで?」

「奉納されたんだって。呪いとか恐いものじゃなくて単なる忘れ物だって宮司さん言ってた。一応石はお祓いって言うのか、浄化って言うのか、クリーニングみたいなことしたし、石以外は新品だよって」

「ふうん」

沙良は由良のグラスにビールを継ぎ足した。

「それでもさ、まだ不安だから持主が怪死したり呪われたりしませんかって聞いたら、ここをどこと心得る!宝石神社じゃぞ だって」

「それで貰っちゃったんだ」

「うん。宮司さん縁結びにいいって言ったんだよねえ。だから貰った。これがあるから安心」

「縁結びだけじゃなくて勝負のパワーを引き出すって石だけどねえ」

「そうなんだ。もうちょっと頑張って貰わないとなあ。その人たまにツーリングに来ても男子だけで固まって行っちゃうんだよね。あ、乗る時はこれ、外してるからか・・・」

「何だか判んないけど、石に頼っちゃ駄目よ。自分の事は自分でやる」

「お姉ちゃん、今日は優しくない」

由良は拗ね顔を見せた。

「全く由良は何歳なのよ。今日は奢ったげるから飲んでさっさと帰って寝る!ボヤいてると顔に出るよ」

「はあい」

姉妹はいつまで経っても姉妹のままだと尽く尽く沙良は思った。



栞は、大学2年生からクラブ・サラでのバイトを再開した。もっとも左門の注文もあり以前と同じカフェ・タイム

限定とされたていたが。お客のいないある日、カウンターにもたれながら沙良が栞に聞いた。


「そう言やさ、栞ちゃんが高校生の頃に言ってた青い石さ、どうなったの?ほら、仕掛けたって言ってた」

「あー、ブルーレースアゲートですね。付けたままですよ」

「へえ、彼氏だっけ?」

「違いますよ。パパです。なんでしょう、ちょっと言い寄られてるみたいだったので」

「ふうん。どこに付けたの?」

「えっと自転車です。ロードバイクに乗るので、そこに付けたんです。自転車乗ってる時が一番言い寄られてるみたいなので」

「効果あったの?」

「それが、一度捨てられちゃったんです」

「えー?」

「その言い寄ってくる女の人が、多分あの石が結界みたいになってるのに気づいたようで、川原に投げ捨てちゃったんですって」

「それでどうしたの?」

「探しました。二晩かかりましたけど。こうやって低くして見透かすと月明かりにキラって光ってくれて、ここだよーって教えてくれたんです。凄いですねえパワーストーンって」


ん? 沙良は引っ掛かった。ロードバイクって由良が乗ってる奴だよね。沙良は先日由良と交わした会話を思い出した。

左門さんも栞ちゃんも前からロードバイク乗ってるって言ってたな。由良はロードバイクに乗ってる人にアプローチ中で、その相手には娘がいて、その子が持たせた石を捨てたって言ってた。栞ちゃんの話と裏表じゃないの?

もしそうだとしたら、由良は左門さんが好きで、栞ちゃんに嫉妬してるって事? 


うーん。もしそれが本当なら由良に分が悪い。見た所、左門さんと栞ちゃんの絆は強固で、これを引き裂くっていい結果になりはしない。妹のこととは言え、どうしたもんだか。


もう1点、沙良には気になる事があった。栞ちゃんが言ってた石が光った話だ。月明かりに見透かして見つけたって言ってた。これってずっと前に砂織さんが言ってた探し方と同じだ。石が光ってくれるとか言ってた。栞ちゃんも同じ事を言っている。偶然なんだろうか。砂織さんが産んだ子どもは消息を聞かないが、生きていたら丁度これ位の歳ではないのか。沙良の頭も迷路のようになっていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ