物語
世界の理を説明したところで、僕の話をしよう。
人類暦1006年 夏 村の片隅 村人が『天使の巨木』と呼ぶ大きな木の下で、12歳の僕はLv.02のスライムと戦っていた。属性は『風』だった。
「あーくッそ...全然ダメージ入ってないじゃんか。」
かれこれこのスライムと戦い始めて50分が経過しようとしているだろう。
僕が親から渡された斧の武器属性は『土』風属性のスライムとは相性最悪の武器だ。
どれだけこのクソみたいに重い斧を振るえばこの戦いは終わるのだろうか。
属性の相性は最悪。スライム自体はLv.02と低レベルだが、スライム固有スキル『自己回復』で僕の与えたダメージは無かったことになっている。
倒せない1番の原因を言おう。
僕はLv.03の最弱村人だからだ。
僕は今まで、村の戦力育成訓練に一切参加してこなかった。理由は簡単 めんどくさい
戦力育成訓練は10日間にわたって行われる。
筋力トレーニングをしたり、走らされたり、スライムに関する知識をただひたすらに学ばされたり、沼の中を歩かされたり、スライムと戦わされたり。
めんどくさい!疲れる!勉強したくない!沼臭い!スライム怖い!
そんな理由で僕は今までずっと「あ〜、頭がイタイ」
「体がウゴカナーイ」「熱がアルヨー」と迫真の演技で回避してきた。村の人の視線はいつも怖かったけど。
おかげで僕は村1番の最弱村人に、村1番の無能になりました。ありがとうございます(?)
さて話は戻って、なんでそんな僕がLv.02のスライムと戦っていたか。
今日の朝、僕の親は言いました。
「いい加減低レベルのスライムくらい倒せるようになれ、無能村人が。」
口が悪いのはいつものことなので気にせずに。
「今日の日没までにスライム1体倒してこい。もし倒せなかったらお前はもうこの家の人間じゃない。」
それはまずいと思った。仮に家を追い出されたりなんかしたら無能村人の僕は生きていく事なんて不可能だ。体力もない、学力もない。村を出て、他の村に行こうとしてもスライムに殺される。今まで通りの生活をするにはスライムを1体倒すしかない。低レベルのスライムを倒そう。
その結果、50分の決死の戦いが行われている。
一向に状況は変わらない。むしろ僕の体力が限界だよ。
「やばぃぃよ。いや真面目に死ぬって僕!斧重すぎ!スライム強すぎだろ!クソが!」
大声で叫んだが、誰も助けには来てくれなかった。『天使の巨木』の領域に入っているから領域内で発せられた言葉は響かない。
腕が痛い、手が痺れてきた、力が抜けてきた
「あ...」
手から斧が落ちた。
ズゴォンと大きな音を立てて土の地面に落下した。落下した斧は斧の重みで土に少し埋もれていた。
─死んだ。絶対死んだ。
そう、思った。