此処の神様の趣味がわからない
「疲れた。」
師匠の説教は長かった、ほぼ被害者側の俺の説教すら、丸二時間はかかっていた、ちなみに三人はまだ説教中だ、果たして夕食時までに終わるんだろうか。
三人が倒したモンスターたちは村の奥さまたちが引き取っていった、今夜はどの家もごちそうだろう、いいなあ、俺も母さんの飯食べたいなあ、豚汁、生姜焼き、餃子…この際猫まんまでもいいから喰いたい、米、醤油、味噌…どっかに落ちてないかな。
そう言えば昔友達に味噌汁掛けただけのご飯は猫まんまじゃねえってキレられたなぁ、各家のこだわりだろうからそこは黙認してほしい、友達は鰹節掛けてどうのと力説してたけど、俺にとっての猫まんまは味噌汁ぶっかけただけのご飯だったからどうしても頭に入ってこなかったっけ。
その話をしたら親も不思議そうにしてたから、我が家では満場一致で味噌汁掛けご飯が猫まんまだった、猫まんま食いてええええええ。
そんな思い出に浸って腹をぐうぐう言わしてたらようやく四人が帰ってきた、多少ぐったりしている三人は自業自得なので放置、俺は師匠に無言でモンスターの肉を渡した。
「簡単な物しかできんぞ。」
十分ですとも!薪木は拾ってあります。
そうして師匠の焼いてくれて飯をうまうまと食切ると、俺は本題に入った。
「師匠、俺魔人殲滅してもいいですか?いいですよね?」
「「「ぶっ!!!」」」
もぐもぐしてた肉を危うく噴き出しそうな三人に苦笑しながら、俺は師匠をじっと見つめた。
「出来るか?」
「出来ませんか?」
少なくとも、昨日のがそこそこ強いって言うんなら俺たちだけでも十分勝算はあると思いますが。
俺が真剣なのが判ったのか、師匠がほんの少し笑った。
「やれるだろうが、そこまでする理由は?」
「師匠の為に。」
「理由にもならんな。」
師匠が笑う、でもそうじゃない。
「師匠、俺にとってはそれで十分です、だってここは俺の世界じゃない、ぶっちゃけ召喚なんてされなければ滅んでも痛くもかゆくもない世界です、いざとなれば知らん顔して逃げ出しても良心だって傷まない、その程度のかかわりしかない世界です。」
三人が息をのんでこちらを見つめる、今となっては見捨てれないけど、見捨てれないのなんて精々師匠とこの三人だけだ、他の連中なんてまともに言葉を交わしたのは此処の村の住民くらいだ、まだほんのちょっと良心が痛む程度で済む。
「じゃあ、なんで必死になるかっていたったらやっぱり師匠の為です、だってこの世界で俺とのかかわりが一番深い人で俺の師匠なんです、手助けできることはしたい。」
三人だって大事だけどやっぱり俺の一番は師匠だ、だから師匠が幸せになる為なら魔人なんて一匹残らず殲滅させればいい。
「そこまで覚悟があれば何も言わん、だが、また元の世界に帰るのが遅くなるぞ?」
師匠の言葉にうなずき俺はちらりとティナさんを見てから、改めて師匠に尋ねる。
「それでですね、この世界に俺が召喚されたのは本当に俺を勇者としてよんだ結果でしょうか?」
これも常々不思議だったなんで俺なのかって、そして前の魔王退治の話を聞いて思った、ぶっちゃけ誰でも良かって偶々俺が引っ掛かっただけなんじゃないかって。
「まあ、そうだろうな、まったく運のない奴だ。」
ああ、やっぱり。
「じゃあ、俺は本当に元の世界に帰れますか?」
俺の言葉に三人が息をのむ、師匠はじっと俺を見つめ、言い放つ。
「王宮の魔法使い連中には逆立ちしても無理だろうな。」
あれは召喚と言うよりも異世界に落とし穴を開けただけのものだ、偶然上に居たやつが運悪く落ちるだけだ、とウソ偽りなく言い切った。
「そんな!」
おれよりも早くサシャさんが悲鳴のような声を上げる。
「何だ、知らなかったんですね、あんまり嫁嫁言うからお三人さんはてっきり知ってるもんだと思ってました。」
茫然とした表情の三人に、笑って言えば、ティナさんが弾かれたように叫ぶ。
「私たちはそんな事の為にあんなことを言ったんじゃない!ただ帰れるのなら残るという選択肢だってしてくれてもいいんじゃないかと思っただけだ!」
考えてみれば三人にとって、まともに会話できる初めての男が俺と師匠だったから、そう思ったのかもしれないけど、事実を知るとなかなか残酷な言葉だ。
「いつ気が付いた?」
「師匠の空間移動魔法にサシャさんが驚いて、王宮の魔法使いたちも全く使えないって知った時点ですかね。」
多分だけど転移に必要な大前提が全く分かってない連中が異世界からピンポイントで誰かを召喚して、問題なくその場所に返すとかできないだろうなって、だけどまあ、今の所やれることが魔王退治だけだったんで、そう言って笑えばルルさんが泣きそうな顔をしてぎゅうぎゅ抱きついてくる。
ごめんなさいって、ルルさんが謝る事じゃ、ああ、サシャさんが本気で泣きし出した!ティナさん土下座なんて文化ありませんでしたよね!?
俺が三人に囲まれてワタワタしていると、師匠にぐりぐり頭を撫でられたと思ったら、四人まとめてギュッとされました、え?え?
「本当に、お前たちはいい子達だな。」
どうしたらいいか判らない俺たちに師匠は笑いながらまた、頭を撫ぜた。
自慢の弟子だと言う師匠にとりあえず、三人が泣きやむまで俺もおとなしく師匠にくっついていることにした。
「それでですね、実はここからが本題なんですが、師匠俺の事帰せます?」
「お前が空間移動を覚えたからな、問題ない。」
俺の質問にあっさり答える師匠、三人が真っ赤な目を点にしてる、俺が笑いながら。
「さすが師匠!」
と言えば、師匠も呆れたように三人を見て。
「何だ気付いていなかったのか?」
と笑ってる、そうしてハッとした三人は顔を真っ赤にして。
「私の涙を返せ!」
「隆二さん騙しましたね!?」
「……お二人とも嫌いですわ!!」
三人の言葉に笑いながら謝り。
「いや俺も半信半疑だったんで今確認したんですよ?」
まあ多少確信はあった、でもホント五分五分だった、駄目だったら冗談にして笑って、後でこっそり泣く覚悟だってしてた、だからこのくらいの事は許してほしい。
とりあえず俺の秘蔵の干し葡萄を献上させていただいた、いつの間にこんな隠し財産をって?薪木拾いとかの時に、コツコツ見つけて魔法の練習がてらためてたんですよ、って言ったら今度自分達も作ろうとキャッキャしている、どうやら機嫌は治ったらしいよかったよかった。
「そう言えば、師匠はなんで勇者を待ってたんです?誰でもいいなら師匠が単身で乗り込んでひとまず魔王と側近何とかするだけでもできたんじゃないですか?」
なんとなく、この辺の村の人たちを人質にされてるっぽいのは判るけど、それだって魔王退治をさっさと終わらせれば文句が出なかったはずだ。
「勇者の武器は何でもいいが勇者はある程度の条件があると言っていたろう。」
師匠の言葉に、確かにと頷いたものの、師匠ぐらい強いなら問題なさそうなのに、と思ってると。
「魔王は神の祝福が唯一の弱点ですの、なので祝福を受けた勇者でない限りたとえ師匠が細切れにしても再生しますわ。」
とルルさんがとんでもない事をおっしゃる、細切れで再生とは、どこのボスキャラだと思ったけど、間違いなくラスボスだった。
「…俺祝福なんて受けてませんけど。」
基本的な案件が今さら発覚した!
「何を言っている、お前の背中にきちんと祝福の聖痕があるだろう。」
焦る俺にあきれたように言うティナさんの言葉に目を丸くしていると、べろりと服を剝かれた。
「ちょっと何するんです!?」
抗議する俺をがん無視して、なんかが俺の前後に現れる。
「それでよく見てください、ものすごく立派な聖痕がありますよ。」
そう言って合わせ鏡を出現させたサシャさんの言葉に従って、身体をよじって背中を確認して…、後悔した。
「ちょっ!こんなでっかいのあったらプール入れないじゃん!温泉好きなのに!」
背中一面に広がるそれに、俺は思わず場違いな事を叫んだ、感動?そんなものあるわけない!
「まあ、なんてことでしょう!また増えていますわ!」
ルルさんの叫びに俺はぎょっとした、増減するのこれ!?
「ほう、今度はアイオルンの星々か。」
星?
「よく見たらエブラーシャの花も数が増えてるわ。」
…花、増えたんだ。
「ガルヘリアの大樹はいつ見ても見事ですわ。」
…木ですか、ってルルさん背中に頬ずりしないで!!
ちなみに俺自身には鳥と花しかまともに見えない、なぜならみんなが寄ってたかって、人の背中の聖痕見てわちゃわちゃやってるから。
「と言うかなんでフルカラーなんですか!聖痕とかって傷跡みたいな感じか痣みたいなもんじゃないんですか!?」
これこのまま!?そんなことないよね!?魔王倒せば消えるよね!?消えると言ってくれ!
「だいたい、いつからこんなもんあったんですか!」
俺の絶叫に師匠は冷静でした。
「旅の当初からあったぞ。」
…一緒に水浴びしてたんで当然の事のように知ってたそうです、三人も修行中によく服をぼろ屑にしてたんで、だんだん増えていく事に気付いていたそうな。
「シャレにならん…。」
もし消えなかったらどうしよう。
「ギャー!!!」
衝撃の一夜から数日、俺は起きるたびに絶叫する羽目になっていた。
「何だ、隆二またか。」
「まあまあ、今度は何処に増えましたの?」
呆れた表情で目をこするティナさんとウキウキと俺の服を剝こうとするルルさん。
「ダメです!止めてください!天下の往来で何男ひん剝こうとしてるんですか!」
必死に止める俺と、なお脱がせようとするルルさん、大概は俺が負けるが今日は今日だけは!負けられん!
「ほらほら、恥ずかしがらずに、そうやっている方が時間がかかるだけですわ、脱いでしまえば一瞬ですのに。」
「医者嫌いの子供みたいに言わないでください!俺の、尊厳が、重症になります!」
必死の抵抗に、ようやくあとの二人が止めに入ってくれた、…セーフ、さすがにここは見せられない、と言うか見せたらいろいろ終わる、見られでもしたらちょっと立ち直れる気がしない、それでもしつこく尋ねてくるルルさんに俺は黙秘を貫いた。
言えるか!俺の大事なところに可愛らしい花の冠が出来ましたなんて!!
なんでここの神様は絶妙に俺の嫌がるポイントにとんでもない聖痕を入れるんだ…。
数日後、さらにハートマークまで増えてて、思わずその場で泣き崩れた。