衝撃の事実(二度目)
翌朝、当たり前のように三人が師匠の部屋になだれ込んできた。
「隆二さんだけずるいですわ!」
「皆さんが俺のベットを占拠しなきゃ俺は自分のベットで寝てました。」
ルルさんの文句にそっちが悪いと返せば、何で誘ってくれなかったとそんな事を言い出す始末、このお嬢さん方は俺を何だと思ってるんだか。
「そしたら師匠が俺の部屋に来る羽目になるだけですよ。」
師匠はとっても紳士だから三人にベットを譲って、俺の部屋で寝てるさ、間違いなく。
「お前たち、いい加減にしろ。」
…ほーら、師匠もお怒りですよ、俺は知りません、三人仲良くみっちりお説教喰らってください。
俺は固まる三人を無視して、師匠に礼を言うとさっさと自分の部屋に戻った、…着替えて素振りでもしてこよう。
「せいが出るな、勇者殿。」
「おはようございます、。警備隊長さん」
素振りをしてたら、警備隊長さんが来た。
「しかし、その細い体で良くそれだけのものを振り回せるものだな。」
警備隊長さんは、俺が降っている物体をしげしげとな眺めながら、感心したような、あきれたような声で言ってくるのに、俺も苦笑しながら。
「あー、まあ慣れです、師匠がいないんで負荷の魔法がかかってないだけましです。」
と返す、実際今のこれはただただ鉄の数倍は重いと言う鉱石で出来た丸太大の素振り用の棒だ。
「ふむ?ライトハルン様はいずこに?」
「ちょっと連れが羽目を外しまして現在お説教中です。」
まさか貴婦人が男の部屋に下着姿で乱入した挙句寝落ちしたなんて思ってはいないだろうが、首を傾げ。
はて、昨日宴会ではあったが何も危険なことはなかったはずだが…。
と呟いている、まあ、そういう物騒な事ではないので安心していただきたい。
さすがに三人の名誉の為に真実は伏せて、仲間内でちょっとはしゃぎ過ぎて、婦女子としての立ち振る舞いを説かれていると返せば、警備隊長さんが苦笑しながら。
「まあ、羽目も外したくなるだろうな、つい先頃までの貴婦人方への扱いを鑑みれば、ようやくあのいわれなき呪縛から解き放たれたのだ、無理もない。」
と言うので、今度は俺が首をかしげる番になった。
「いわれなき呪縛?」
俺のきょとん顔に、警備隊長さんも一瞬、ん?と言う顔をしたものの、すぐにああ、と言う顔をして。
「そう言えば、勇者殿は異なる場から来られた方であったな、いわゆる古き言い伝えを言うものだ、過去の魔王討伐の際、魔王が死に際に勇者一行に力あるものが生まれぬようにと女子ばかり生まれる呪いをかけたと、だから貴族には女子ばかり生まれるのだと、時折生まれる男子は神の加護を受けし尊き存在だと、だから罪深き女は償いの為に生涯を持って男に仕えねばならぬといわれている。」
そんな馬鹿な、だったら王族の男どもの事はどう説明する気なんだ。
「それこそ、神に祝福されし気高き血筋と言う事のようだな。」
後ろから、急に声を掛けられびっくりして振り向いたら旅ギr…ではなく、冒険ギルトのギルトマスターが皮肉たっぷりに笑っていた。
「気高き血ですか。」
王族だからか?
「ええ、なにせ王族は先代勇者の末裔だから。」
ギルトマスターの言葉に俺は苦い物でも噛んだようなしかめっ面になり。
「うわあ、じゃあ魔王の呪いとか絶対にウソですね。」
思わず断言して、二人に笑われた、あ、もしかして不敬罪?でも笑ってるし、うん?
「何を持ってそう思われる?」
笑いをかみ殺しながら訪ねてくる隊長さんに、俺はこれまで見た貴族と王族を思い出しつつ。
「あれらにそんな誇りも力もありませんでしたから、有るのはただ単にそういう家に生まれたって事実で飯食ってる家畜か獣でしたから。」
貴族の誇り?文字違いの埃ならたんまりあったな、気高き精神?貴婦人方はまさにその鑑だったよ?
「だいたい、貴族だって勇者一行の血が入ってるって言いたいんだろうけどそれにしても、人数が多すぎでしょう、前の勇者の時はそんな大人数で討伐に向かったんですか?」
「いや、貴殿らと同じく5人組だと伝えられている。」
「ちなみにどれくらい前ですか?」
「200年程前だな。」
「…早くありません?」
魔王復活ってもっとこう、500年とか場合によっては千年単位ではないのかな?
「そうだな、その前となると二千年前だ、一説では魔人を休眠状態に追い込まないうちに討伐を切り上げたせいだと言われている。」
何と迷惑な、最後まできっちりやっとけ。
「仕方ないんだよ、その時の勇者パーティーは実際には魔王を討伐していないどころか、この村にすらたどり着いていない。」
何ですと!?じゃあ誰が魔王倒したの!?
驚愕の真実に目を真ん丸にしている俺に、二人は笑いをかみ殺したままで。
「結界を守っていた守護騎士と巫覡達だ。」
と告げた、巫覡?
「まあ、男の巫女の事をそういう、当時は偶然巫覡と同性の守護騎士ばかりが結界を守っていてな、妻を迎え入れることも許されず切れた巫覡と守護騎士たちによって魔王とその側近は殲滅された。」
…さすが師匠のご先祖様(?)、ぶっ飛んでいらっしゃる。
「じゃあそこで、討伐をやめて結界を張るのに専念したってことですか?」
俺の質問に隊長さんが首を振った、なんでもそのまま討伐をつづける気満々の彼らに、教会からストップがかかったそうな、曰く神より与えられし職務をないがしろにするとは何事だ、すぐに結界の塔に戻り職務を全うせよと。
「また教会ですか。」
俺は思わずげんなりと呟き、それを聞いたギルトマスターが意外そうに。
「何だ、知ってるのかい?」
と聞いてきたので、まあ、ちょっと理不尽なこと言われた人を知ってるだけです、と濁して答えると、えらく納得された。
「まあ、教会なぞ上層部は完全に世俗にまみれた金の亡者か欲望の権現だからな。」
「やっぱりそういう感じなんだ。」
此処は腐った連中しかおらんのか、というか200年前からなのか、根深そうだなぁ。
「要するに教会が金を掴まされて、たどり着けもしなかった勇者一行の功績をでっち上げたのさ、教会所有の神剣で勇者が見事魔王を討伐したってね、そしたらなんか貴族に女の子しか生まれなくなったんで慌てて、魔王の呪いをでっち上げたらしいよ。」
それは呪いではなく神罰ですね、勝手に名前使ってるんじゃねえっとお怒りなんじゃあないですか?
「ちなみに勇者一行は王都からさして離れてもおらぬ森で瀕死になり早々に王都に逃げ帰っていたらしい。」
はあ!?俺は拒否権すらいただけませんでしたけど!?
「ありなんですかそれ!?」
「第二とはいえ一国の王子だ許されたのだろうよ。」
「うちの第二王女様のお立場は!?」
あの人へっぽこ勇者のパーティーに拒否権なしでぶち込まれてたんだぞ!?
「結局、その第二王子が王位を継いだからなあ。」
ギルトマスターが遠い目をして呟く、マジか!
「何で継げるんです!?どう考えたって廃嫡でしょ!?」
俺の絶叫に隊長さんは何処までも冷静だった。
「忘れたか?教会のでっち上げでその王子は勇者の務めを果たした英雄だ。」
「そうだった!というかありえねえ!周りの重鎮止めろよ!」
もう突込みが追い付かなくなりそうだ。
「仕方あるまい、残りの4人も重鎮の子供たちだ、誰も止めはせんよ。」
唯一文句を言う資格のある本物の英雄たちは一生を搭で過ごす羽目になったらしいので、女の子ばかりが生まれる以外は損は何一つなかったと、しかも国民からの求心力もアップ、女たちを良いようにこき使って自分たちは悠々自適…最低だ本当に最っ低だ。
「あれ?じゃあ、なんで王族だけ男余り?」
俺の素朴な疑問に、ギルトマスターはとってもいい顔で言い切った。
「王族なんて、男が多ければ多いほど国を乱すだけだよ。」
はい、良くわかりました、立派に神罰ですね、国乱れまくりですね、むしろそろそろ滅びかけてましたね。
「ティナさんのお姉様がいてよかったですね。」
心からそう思った、じゃなきゃこの前の件でこの国滅んでたな。
そしてこの話総合すると。
「悪いのは教会と国の上層部、魔王も魔人も殲滅一択、そうすれば巫女様方も晴れて自由の身、であってますか?」
俺の言葉に今度こそ、二人は大きな声で笑い出した。
「身も蓋もないがそれで正解だろうよ。」
楽しげに言う、隊長さんに、俺は最後の疑問をぶつける。
「なんでこんなに、裏事情に詳しいんですか?」
結界近くの村とはいえ失伝もせず伝わっている、その時点でおかしい。
「簡単だ、俺たちの村は巫覡と守護騎士の妻たちが起こした村の末裔だ。」
へ?
「口が開きっぱなしではゴミが入るぞ。」
おっと失礼しました、え?本当ですか?
「ああ、ここには神仕えと守護騎士の血筋の者しかいない、何年かに一度他の村の神仕えや守護騎士の家の連中が来て見合いをすることもあるがそれ以外はいたって普通の村だが。」
「…全然普通じゃありません。」
物凄く特殊な村じゃないですか、村人全員が神仕えと守護騎士の家系なんて。
「だから、あんまり王族とかに畏敬の念がない?」
「むしろ滅んだ方が世の為だろう。」
頑張ってる人たちも居ましたよ?
「そういう方々にはきちんと敬意をもって接するさ、だが大半はただのゴミだろう。」
「燃えるごみでしたね。」
燃料にもならない分厄介なだけのゴミだが。
「そういう事だ、ティナ王妹殿下には最大限の尊敬の念をもって接するし、女王陛下や新しい領主の方々には敬意をもって接したいが、ゴミクズが多すぎてな、印象が悪すぎる。」
ごもっとも、ところでこの話師匠も知ってますか?
「ここに初めて来られた時はご存じなかったが村長が話したと言っていた。」
「ああ、それでも奥さんを取り戻すためゴミクズどもに頭を垂れ続けたんですね。」
「立派な方だよ。」
俺たち三人がしんみりとしているところに、ようやく説教を終えた師匠とフラフラの三人が現れた。
俺は二人の顔をちらりと見て。
「今の話、三人にしてもかまいませんか?」
「むしろしてやってくれ。」
「長い呪縛を解くには良い面子だろ。」
と快諾を得たので三人の元に、歩こうとして…思い出した。
「そう言えば、勇者が魔王倒してないって言うならこの剣は何ですか?」
なんか我儘な剣の精霊っぽいのが宿ってるみたいですけど、と言ったら二人が思いきり苦笑した。
「一応魔王討伐の為に誂えられて、当時もっとも力のある神官によって洗礼されて一振りだな。」
「実戦はたった一度で惨敗だったわけだが。」
何ですと!?じゃあこれじゃなきゃ魔王倒せないってのは!?
「うん?そんなはずはないぞ?ある程度の条件を満たしたものだけが勇者として魔王を倒せるのは本当だが、武器など何でもいいはずだ。」
マジか、このへっぽこ剣!てめえただの妄想で俺に延々持たせてたってのか!邪魔なだけのこいつのせいで荷物が一個余分だったんだぞ、背中に担いでたから片方の肩だけが凝って仕方なかったんだぞ!ふざけんな!
「叩き折る!」
俺がへっぱこ剣を投げ捨てて、金属製丸太を構えたことにぎょったした三人が慌てて飛びかかってきた。
「やめろ隆二、何をやっている!?」
「気を確かに!どうされましたの!?」
「待って、それは駄目!仮にも神宝よ!?」
神宝?ただのへぼ剣だから大丈夫、今すぐそれを折らせろ!
俺たちがそんな風にわちゃわちゃやってる隙に剣は師匠にキャッチされ。
「…本当に脆いな。」
粉々に砕け散った、ざまあああああああ!
当初から師匠が持ったら砕けるとか言ってたけどマジで砕けた、ああ、すっきりした。
「うそ。神剣が…。」
そうして、茫然としている三人に、俺はいい笑顔で。
「大丈夫です!あんなへぼ剣なくても!」
と言い切り、混乱状態の三人を置き去りに、さっき二人から聞かされた衝撃の事実を嬉々として、語った。
「師匠どうしましょう、皆さんが正気に戻りません。」
暴れまわる三人を前に、俺はとりあえず師匠に助けを求めた。
「気の済むまでやらしてやれ。」
同じ衝撃を味わった仲間として、師匠は見守りの態勢に入っている、師匠も最初聞いた時は同じことをやったのかもしれないな、なんて思いつつ、モンスターたちを細切れにしている三人を眺めた、本当に細切れにしたい奴らは全員墓の下だ、八つ当たり先はこんなものしかない。
辺り一帯のモンスターを粗方倒してようやく三人は動かなくなった。
「隆二さんお相手してくださいな!」
まだやるの!?そして巻き込まれるの?ええー、三人同時はなぁ。
「隆二早くしないか。」
はい、わかりました、頑張らしていただきます。
「全く、今朝も逃げてしまうし、隆二さんの根性なし!」
いわれなき罵り!
「そもそも、三人が下着姿で俺の部屋に来なければよかったんですよ!?」
俺は間違ってません!
「…下着姿?」
師匠の声がオクターブ下がった、あ不味い、そう言えば師匠の部屋に来た時はちゃんと何時もの格好だった。
四人で固まっていると、夜叉のごとき師匠と対面する羽目になりました。
「お前たち、そこになおれ。」
「「「「はい!」」」」
俺たちはその場で一斉に姿勢を正し、頭を下げた。
「「「「申し訳ありませんでした!」」」」
結局俺も説教を受けることになりました、三人に至っては本日二度目です、今日も旅立てそうにありません、村にはもう一泊お世話になりそうです。