報告会の衝撃
俺たちが村に戻ると、魔人の処理が済んでいた。
「つまり攫われた村人はその腕輪の原料ですか。」
魔人を訊問して判ったこと、それは攫われたほかの村の村人は生きていると言う事、そして魂だけを抜き取られて、それを腕輪に付いた宝石に封じ込めて、魔人たちが身につければ巫女たちの結界をなんとか通り抜けれること、ちなみに魔王ともなると結界を通り抜けるだけの人間を攫うより人類を滅亡させた方が早いので、下っ端君が人間攫いつつ工作行為に励んでいたらしい。
「そしてこれも大切なことだからぜひ二人には覚えていてほしいのだが、この宝石を無理に破壊すると、魂の宿主である人間が死んでしまう。」
だから傷つけてはいけない破壊してはいけないと嫌にくどくどと言ってくるティナさんに、なんでそんなにしつこくと、思っていれば三人同時に。
「「「自嘲と言う言葉を知らないからでしょう!」」」
と嫌にきっぱり言われた、この三人にだけは言われたくない。
「じゃあ、さっきの魔人の持ってた腕輪はどうするんです?」
「村の方々に預かっていただく事になりましたわ。」
まあ、俺たちが持ち歩くよりは安全だろう。
腕輪は教会に置かれることになったとかで、ルルさんが教会全体と腕輪を入れた箱とに二重に結界を張って、後は在住の神官さんが毎日祈ることで強化される形にしてあるらしい、まあなら安心だろうと、
俺たちは大元である魔王退治の旅に戻ることになった。
「それで、お師匠様のご乱心の理由は何なんですの?」
明日も早いから早く寝たかったな、と思っても、三人だって心配だったろうからスルーはできないのは判ってたけど…。
「お三人さん!夜の夜中に男の部屋に来る恰好じゃないでしょ!」
すっけすけ一歩手前の下着姿の三人を前に俺は絶叫した。
「隆二さんだって同じような恰好じゃないですか。」
「俺はたとえ師匠の部屋でもこの恰好じゃ行ったりしません!」
パンイチの俺の絶叫に。
「確かにお師匠様の部屋には行けぬな。」
「こんなはしたない姿をお師匠様にお見せするわけありませんわ!」
苦笑するティナさんに顔を真っ赤にして怒るルルさん。
「隆二さん、何を破廉恥な事を言ってるんです。」
蔑んだ目で見るサシャさん、しかし俺は声を大にして言いたい。
「俺だって男ですよ!?なんで俺なら大丈夫的な扱いになってるんです!!」
「何故って、なあ、隆二は間違っても私たちに欲情などしないだろ?」
っ!!いや、まあ、しませんよ、しませんけど!
「し…親しき仲にも礼儀ありって言葉があるでしょう!」
「隆二さんとならこのまま寝ても大丈夫だから…?」
疑問形!間違ってる、そういう問題ではないです!確かに間違っても手は出しませんが!せいぜい三人にベット譲って師匠の部屋の床で寝る程度しかできないヘタレですが…!
「目のやり場に困ります!!」
「まあ隆二さん、そんな事では困りますわ、きちんと慣れていただなくては、四人でお嫁に行った時は同じ部屋で暮らすのですから。」
まさかの!まだそのネタ引きずってたの!?同じ部屋で暮らすって、この国で嫁は一部屋で共同生活なの?…でなくて!
「いい加減そのネタで遊ぶのやめてください!お三人さんが仲良く嫁に行くのはいいとして俺を混ぜないでください!」
「うん?冗談ではないぞ?姉上には魔王討伐を成した暁には、私が公爵家を興し、我々四人で婿を貰う許可は頂いている。」
はああああああ!?知らないうちに何やってんの!?
「だから言っているではありませんか、私たちは、隆二さんを手放したくはありませんの、これからもずっと一緒に居たいのです。」
「だからと言って、お互い男女の仲になりたいわけではないからなあ。」
「なら、一緒に嫁ぐのが一番確実じゃないですか。」
幸いこの国にも性別の壁を越えて愛を語る方は居ますから。
サシャさんの笑顔が痛い…だから俺が越えられないと何度…(泣)
「「「それに、お師匠様と共にこんなに格好良く、紳士的で、強く育て上げた隆二さんを他の者にとられるなど業腹です。」」」
…これも一種の愛なのか、本人の意思を無視しないでくれとあれほど(泣)
その後しばらくもめた、当然だよね、一緒に嫁に行きたい三人VSそもそも嫁に行きたくない俺、結論なんて出る筈もなく、平行線のまま、俺が切れた。
「じゃあ俺は、嫁に行きたくないって願うからいいです!」
ついでに元の世界に返してもらって今後一切係わりません!
ガチギレの俺のセリフに三人がようやく黙った。
「もうこの話はおしまいで良いですね?」
むっすりと怒ったままの俺の言葉に、三人はこくこくと頷いた、ああ、もう下着姿がどうのとかどうでもいい気がしてきた、どこがどう丸見えでももういい、さっさと話して寝よう。
「お三人さん、息しましょうか。」
俺の言葉にハッとした三人が一斉にorzポーズになった。
「…絶望的ですわ。」
「お師匠様と結婚できないなんて…。」
「何か手はないのか、何か…。」
おおう、さっきまであんなに楽しそうだったのに、今は一気にお通夜状態、ちょっと笑っていいかな?
俺が昼間師匠から聞いた許嫁さんの話をすると、全員が微妙な表情になった、曰く巫女と守護騎士はとにかく仲が良い夫婦が多く、周りがどれほど引き離そうとしても必ず一生を共にする究極の愛を具現化しているような存在らしい。
ただ師匠がまだ正式な守護騎士になっていなかった事と、守護騎士の資格をはく奪されていることに希望を見出したのもつかの間、俺の一言に、三人は撃沈した。
「あ、でも夫婦の届けは出してあるらしいですよ?許嫁さんが村を出る直前に師匠が成人したらって約束して、だから正確には許嫁さんじゃなくて奥さんです。」
師匠も成人(15歳)したら嬉々としてお役所と教会に彼女が残して行ってくれた署名入りの書類を提出したらしくて村ではちゃんと二人の事は夫婦として扱われているから、王妹との結婚話が出た時はお互いの両親が田舎から出て来て、弁解する間もなく一晩中説教されたと言ってきまり悪げに笑っていた。
と此処まで言った瞬間三人が見事に息を止めこのありさまである。
「と言うか、三人とも師匠の事諦めてなかったんだ…。」
「あんな素敵な方が他にいらっしゃるとでも!?」
「初恋の方と結婚したいと言う乙女心を何だと思っている!」
「せめて、せめて、守護騎士でなければ…!」
俺の無神経なセリフに三人が悲痛な叫びをあげた、まあ紳士だよね師匠は、それに初恋…、初恋は実らない物らしいですよ?守護騎士でなかったら何とかなるとでも言いたげだな(笑)
「当たり前だ、守護騎士だぞ!?」
「神仕えの家系の者以外とは滅多な事では結婚せぬと言われる家系なんですのよ!?」
「一説では血筋的に各地の神仕えと守護騎士の家系の者はその両家の者としか愛が芽生えないともいわれているんですよ!」
え?でも同性の時もあるんですよね?
「だから!守護騎士と神仕えの家系で数年ごとに各地で様々な家の者と見合いをするんだ!同性の巫女と守護騎士はそこで伴侶を迎えるんだ、間違っても他家の血筋など入らない!」
時折とんでもなく変わり者が現れて、数十年に一度他家の嫁が入る程度だ!
「その場合でも、神仕えの家系、守護騎士の家系ではあるものの、当代の神仕えでも守護騎士でもない気楽な3番目4番目の子供だとか、当代の守護騎士であるお師匠様にとって私たちはただの弟子以上にはなりえないですわ。」
そこまで言って泣き崩れる三人に俺は、何も言えなかった。
師匠の家系の実情が重い…、要するに師匠にとっては奥さんがオンリーワンだと、まあ、浮気性の男よりいいんじゃないかな?
結局そのまま泣き崩れて眠った三人に布団をかけ、俺は師匠の部屋に移動した。
「三人に乱入されてベット占拠されたんで床貸してください。」
夜中の突然の訪問にも文句を言わず、毛布持参で床に寝ようとした俺を、師匠が無言でベットを半分譲ってくれた。
息子みたいに思ってもらっているらしい俺は、親父よりは若いしカッコイイし逞しい師匠の横に嬉々として入り込み、大人と一緒の布団で寝るなんて小学校以来だな、なんて思いながら、ぐっすりと眠らしてもらった。