足止めくらいました
そうして意気込んで、魔王城を目指したものの、今現在力いっぱい足止めを食らってます。
なんでか?師匠のせいだ、いや、違ってるか?でも原因の大元は師匠なので、やっぱり師匠のせいだ。
「ライトハルン様、お久しぶりです!」
「ライトハルン様、こちらの料理をどうぞお食べください。」
「ライトハルン様、あの時助けていただいた子がこの子です、おかげさまに健やかに成長いたしました。」
「ライトハルン様、この度はどれほど滞在していただけますか!?」
「ライトハルン様にご教授頂いた剣技、さらに鍛錬したしましたゆえ、ぜひとも見ていただきたく!」
あ、兄弟子発見、と言うか。
「…これ、いつまで続くんでしょう。」
とある村の村長宅の人だかりを眺めて俺が呟けば、三人も深い溜息を付く。
「かれこれ半日ですわね。」
「小さな村だと言うのに引きも切らず。」
「この村の恩人のようですからまだ続くのでは?」
あー、デスヨネ、師匠無表情だけど無理に抜け出そうって気配はない。
「師匠も人がいいからなぁ。」
歓迎してくれてる人たち払いのけて、我を突き通す様な事するタイプの人じゃないもんね。
「仕方ない、皆が落ち着くまで我々はギルトにでも行って来よう。」
ティナさんがため息交じりに提案して、二人が頷いたけど、俺は首をかしげた。
「…ギルト…?って何のギルトですか?」
俺のセリフに今度は三人が首を傾げハッとした顔をする。
「そうでしたわ、隆二さんはこちらに来て何の予備知識もなく私たちと旅をしていましたものね。」
「そうか、ギルトと言っても通じないな。」
「今まで師匠が私たちが宿で休んでいるうちに済ませてくださってましたからね。」
三者三様に納得されたけど俺はさっぱりわかりません。
「ギルトとはこの場合冒険ギルトの事ですわ。」
おお、冒険ギルト!!
「あるんですか!?」
「知っていたか、それはもちろんあるぞ、最新の安全な道や野宿の場所を教えてくれる旅人にとっては重要な施設だ。」
ん?
「お金を下ろしたり、預けたり、時には旅の最中の怪我や物損の保障もしてくださる、なくてはならない組織ですものね。」
んん?
「遠方を旅していても、自分用の伝言を預かってくださったり、伝えてくださったり、本当にありがたいです。」
あれ?俺の思ってる冒険ギルトと違う…。
冒険ギルトじゃなくて、旅ギルトじゃないかな…。
思わずこの国って冒険者居ないの?と聞いたら、それはよろず屋ギルトの何でも屋の事だろうと笑われました、ここでは冒険者は何でも屋らしいです。
まあ、確かにそういう言い方も小説とかではされる事あるけど、まんま何でも屋って、ロマンがなさすぎる。
え?現実にロマンを求めるな?勇者なんて非日常に放り込んでおいてその言い様…納得できない。
とにもかくにもギルト初体験をすべく、4人で建物に入ると、…誰も居ませんでした。
旅人どころか職員らしき人もいない、街道の情報の紙だけが風でパタパタしてる。
「ここって、こういう所なんですか。」
「そんなわけないじゃないですか、いついかなるときにも旅人を迎える、を信条に一日中必ず職員が待機しているのが普通です。」
「誰も居ないって事は…。」
「お師匠様の人気ぶりはよく伝わりましたわ。」
信条を破ってまで師匠を見たかったのか、そうなのか、でも一人くらい残って交代で行ってほしかった、現に師匠の弟子が困ってんだぞ!いや、まあそこまで困ってはいないけどさ。
「これ、どうすればいいんですかね。」
「街道の情報ぐらいなら、そこで見られるが、魔王城に至る情報となるとさすがに職員がいなくてはどうしようもない。」
ティナさんがどっぷりとため息をつく、もういいや、椅子もあるしここで休憩してません?
師匠には、なんとなくジェスチャーしといたから判って貰えてると思うし、そのうち職員も戻ってくるだろうから、そう言えば三人さんも頷いてちょっと一休みすることになった、水筒の水を飲みながら、
魔力回復を図る、空間移動連続はやっぱりきついので、ある意味ありがたいともいえる状況に、俺たちはひたすらぼうっとして魔力と体力の回復に努めるのだった。
師匠と職員の人早く来ないかなー。
「来ない…。」
昼過ぎにギルトに来てそろそろ日が傾き出してるのに、師匠も職員も来ない。
「予想外に大騒ぎになっているんでしょうか…。」
「この時間なら宴の準備が始まっていてもおかしくない…。」
「お泊り決定ですわね…。」
幸い旅ギルトには、宿を取れなかったり、宿がない村なんかの旅人用の宿泊施設もあるらしいから寝るところは困らないらしい。
「でもせめて職員の人に断わってからじゃないと、勝手には使えませんよね?」
俺のもっともな言葉にサシャさん仕方がないとばかりに。
「一度戻って村の方に職員の方を呼んでもらいましょう。」
と一番現実的な解決策を上げた、まあそうだよね、っと言う事でまた村長宅にUターンです、何やってるんだか。
そうして戻った村長宅はすでに飲めや歌えやの大宴会中だった、まあ予想はしてた。
「この状況で、誰に声を掛けるべきなんだか。」
思わず四人で周りを見渡していると、少し離れたところに飲み食いしつつもまだ正気そうな三人組の後ろ姿が見たので、これ幸いと、ちょっと声を掛けるべくそちらに近づくと、何やら深刻そうな話をしているものだから思わず反射的に気配と足音を消しました、やだな、無駄にスキルが上がってる気がする。
「…それで、あっちの村の連中は?」
「…駄目だ、一人も見つけてやれなかった。」
「チッ、殺されたか、連れ去られたか、いずれにしても厄介だな。」
「しかし、これでこの付近で無事な村は此処だけだ、どんな化け物が来るかわからないが、何とかしないとこの村も全滅だぞ。」
「判ってる、だからこそライトハルン様には、長逗留していただかなければ…。」
「ちょっとすいません、今いいですか。」
「!!!!?!!?!」
俺が急に言葉をかけたので、おじさん三人は文字道理飛び上がってこちらに武器を構えたものの、弱そうな男女パーティーに驚いて混乱していた。
はい、今迄一言も言ってませんが俺は此処の平均身長より20㎝近く低いチビです、が!俺が小さいんじゃねえ!あんたらがでかすぎるんだ!平均身長190cmの国なんて嫌いだ(泣)
話がそれた、とにかくこのおじさん達に詳しい事聞かないとなんか面倒なことに巻き込まれそうなので、素知らぬ顔で、おじさん達に話しかけた、気配がしなかった?嫌だなあ、おじさん達疲れてるんだよ。
で、ただの旅人装ってギルトの人は何処ですか?って聞いたら一人のおじさんがばつの悪い顔をした。
あんたか!いやそれは逆に好都合、これは弱みに付け込んで根掘り葉掘り聞きましょう、って思ってる矢先、おじさんが真剣な顔で。
「坊主ども、悪いがうちのギルトには泊まらせてやれねえ、ちょっと厄介事がありそうなんでな、今からでも引き返して山越えした所に冒険ギルトがあるからそこに泊まってくれ、今すぐ出れば間に合う、急いで出ろ。」
とおっしゃる、いやいや、うちの師匠足止めしてる方々に言われてもね。
「厄介事ですの?多少の事なら私たちも心得がありますから、助太刀いたしますわ。」
ルルさんナイス、おじさん達の顔がさらに険しくなる。
「気持ちはありがたいが、本当にやっかいな事なんだ、俺たちの村の事だから、俺たちは対処する必要はあるが、あんたたちはただの旅人だ、付き合う義理はない、すぐに逃げろ。」
おお、なかなか男前なご意見、しかもすぐに逃げろとは、物騒極まりないうえに、緊急ですか。
「いったい何があると言うんだ、山賊やドラゴン程度なら我々とて遅れは取らぬぞ?」
ティナさんがちらっと自分たちは実力者だぞと匂わせる、おお、おじさん達勘繰ってるなあと一押しって所かな?
「何かさっき物騒なこと言ってましたけど、それと関係ありですか?」
おじさん達が固まる、はい、聞いてましたよー、だって丸聞こえだもん、油断大敵ってね。
で、話していただきました、この3人この村の冒険ギルトとよろず屋ギルトのギルトマスターと警備隊の隊長さんでした、で3人でこそこそ言ってたのは付近の村々の連続全滅事件に関することだったそうで、最初に気付いたのは旅ギルトの職員だった、山の向こうの村からの連絡が突然無くなったと、最初は通信の魔具の不調かと思ってたら、2日後には別の村が、また次の日にもまた、と通信がぷつりと無くなっていく事態に焦りと恐怖を覚えたこの村のギルトマスターたちと隊長が話し合い、一番荒事込みで対処の出来るよろず屋ギルトのギルトマスターが他の村の様子を見に行き、ここから少し離れた村で、とんでもない物を目撃したんだそうだ、曰く。
「モンスターの大群を引き連れた魔人だ、魔人もただの魔人じゃなかった、無数の腕輪を付けた魔人だ、あれは間違いなく、魔王の側近だ。」
だそうだ、知らなかったな、魔人なんて奴らがいたのか、それに腕輪をたくさんつけてるほど偉いらしい、誰一人そういう常識を俺に教えてくれなかったな、チラッと3人の方を見たら、あからさまに、
あ、言ってなかったっけ?忘れてた、って顔されました、…いいかげんだな。
そんな連中が空を超えて山向こうに消えるのを見て、慌てて村に駆け込んだものの、そこは建物すべてが破壊しつくされ、人っ子一人居ない、廃墟があるだけだったらしい、誰か一人でもと、村中やその周辺をくまなく探したものの、人っ子一人、遺体一つ見つからなかったと言う事だ。
そうして、いくつかの村々を訪ね歩いたものの、全ての村が同じ状況で、この付近で無事なのはこの村だけになっていて、いよいよかと、覚悟を決めて村に帰って村人たちにもこの事を伝えて、避難の準備と、戦う準備を整えている時、師匠がやって来た、まさに光明を見つけた気分だったそうだ。
「まあ、気持ちはわかる。」
俺だって、すがれる藁どころか、不沈船が来たら絶対離さないわ。
「戦うと言ってましたけど、そんなに人数が揃うんですか?」
「多くはないが、それなりに居る、これでもモンスターのランクが高い魔の山岳の裾野の村の一つだ、
今は引退した爺でも、そこらの雑魚には負けはせん。」
よろず屋ギルトのギルトマスターがにやりと笑う、この前も、村に侵入しようとしてきた牛並みのイノシシを杖の一撃で倒してたそうな、マジか、かっこいいなじいさん達。
「と言う事は、そのご老体たちも戦闘要員ですの?」
「ああ、後は俺たちの独断で決めた警備兵の連中と何でも屋の有志の連中だな。」
あ、警備兵も何でも屋さんも強制じゃないんだ。
「村人の護衛も要るからな。」
体力があって、足の速いのはそっちに就かせた、と言えば三人の眉がきゅっと跳ね上がる。
「そうして若い連中を逃がすのか。」
ティナさんがぼそりと言う、ああ、おっさんの花道と言うやつですか、心意気は買いますが、なんか釈然としない、と言うわけで、ぶち壊させていただきます、…息を吸って、はい。
「聞こえていましたか、師匠!」
俺は宴会の中心に居る師匠に思い切り大声で叫んだ。
「準備をするぞ。」
さすが師匠、あんだけ酒飲まされて全く酔ってませんか、どうなってんのあなたの肝臓。
そしてやっぱり聞こえていましたか、うわは、周りの人無茶苦茶おろおろしてる、驚かせました、すみません。
「あとは任せておけ。」
不安げな村人と、茫然とするおじさん達に、師匠ははっきりと言い切った、さすが師匠惚れ惚れするほど男前!
さあて、魔王の側近がどの程度の物か確認させていただきましょう、まあ、最悪死にかけても師匠とルルさんがいるから大丈夫でしょ。