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チートな師匠と普通な俺  作者: azusa.yukari
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会えてうれしいです

「っ!?」

「気が付いたぞ!」

「動くな!まだ腹の穴がふさがっていない!」

 強烈な痛みに目を覚ませば見知らに場所で、見知らぬ人たちに囲まれていた。

「…ご、こ、は?」

 俺が目だけをキョロキョロさせて不安げに会取りを見まわしているのに気が付いた、一人が、笑いながら。

「安心しろ、ここは結界の巫女の塔だ、ここならばたとえ魔王であろうとも気づかれない。」

 結界の巫女の塔?なんでそんな所に?

訳が分からず困った表情の俺に、ヒールをかけていた男性が。

「結界のそばで倒れていたんだ。」

 と簡潔に教えてくる。

 …そんなに簡単にこれるもんなんだ、魔人たちが場所が判らなかったって言ってたしもっと厳重な場所かと思ってた。

「目が覚めたの?」

「よかった、大丈夫?」

 おとなしく治療を受けてたら、今度は女の人たちがわらわらとやってきた。

「こんなに小さい子が勇者なんてねえ。」

「ここなら魔人もモンスターも来ないから大丈夫よ。」

 ワイワイガヤガヤ、俺の周りは一気に華やかでにぎやかになった。

「…こら、あまり触るな。」

「なあに、ゼオったらこんな小さな子にやきもち?」

 俺を見ててくれた男の人に女の人がクスクス笑いながらぎゅうっと抱きつく、なるほどご夫婦ですか。

 しかし、小さい小さいって俺は幾つに見られてるんだ。

「俺は15歳ですよ。」

 俺の言葉に女性陣が目を丸くする、男性陣がボソッと、下が生えてるからそんなもんだよな、とか言ってる、判断基準そこ!?

「こんなに小さいのに。」

「ご飯が足りてないのでは?」

 心配していただくのはありがたいけど俺は平均身長だから!

「…俺の国はみんな小柄なんでこんなものです。」

 俺の言葉に、そうなの?と言いながらまだ納得いってない顔の女性陣にうんうんと頷いておく。

「助けていただいてありがとうございます、あの、結界のそばにいたのは俺だけですか?」

 師匠たちはどうしたんだろう。

「ああ、君だけだったよ、他に何人仲間がいた?」

「四人です、女性三人と男性一人、俺たち五人で旅をしてたんです。」

 たった5人!?と声が上がる、まあそうだろうな、今迄の魔王退治って聞いてると結構大人数だったのに、俺たちは五人だけのパーティーだ。

「…二百年前の勇者の話を真に受けてたみたいで。」

 全員それで納得した、皆がっくりと肩を落とし、頭を抱えてる、やっぱり知ってるんだ。

「この塔に入ったらまず聞かされる話だ。」

 もしもの時はお前たちが立てと言う事らしい、…ごくろうさまです。

 それにしても、俺なんでこんなとこに来たんだろう、いつも通り師匠の修行を受けながら、モンスターだの魔人だの相手に戦って、…えーと、それから…あれ?どうしたんだっけ?おかしい思い出せない。

「どうした?」

「…俺がなんで怪我して此処に来たのか思い出せないんです。」

 焦った表情でそう告げれば、無理もないと慰められる。

「ひどい怪我だったんだ、ショックで記憶がたぎれたんだろう。」

 そう言われても納得できない、ひどい怪我?

「そんなものはしなれてます、腹の傷程度で記憶が飛ぶようなことはありません。」

 上半身と下半身がサヨナラしてもしっかり覚えてたんだ、穴開けられた程度で飛ぶほど弱い神経は持ち合わせちゃいない、それを言ったらドン引きされた。

「何故生きてる。」

「神様の加護と、無茶苦茶だけど優秀な師匠のおかげ…ですかね。」

 師匠の無茶っぷり慣れてる俺が記憶を飛ばしたことの方がむしろ怖い、本当に何があった。

「…その師匠は何者だ。」

「ここに奥さんがいるライトハルンって言う人です。」

 そうだそうだ、ここに師匠の奥さん居るじゃん、一度きちんと挨拶しとかなきゃ。

 俺が師匠の名前を口にした瞬間ザワっと空気が乱れる。

「あいつが来てるのか!?」

「え?はい、俺の付添って形で一緒に旅に出て今は弟子として鍛えてもらってます。」

「じゃあ、やつは自分の巫女を捨てたわけじゃないんだな!?」

 はい!?

「なんですかそれ!?師匠今でも奥さんにメロメロですよ!?隙あらば惚気られますよ!?」

 なんでそんな話に?師匠奥さんに会いたくて必死に頑張ってるのに。

「なら、何故奴は来ない、20年だぞ、その間彼女がどれ程心細い思いをしていたと思っている。」

 怒りに溢れた顔、悲しげな顔、疑心暗鬼な顔、ああそっか、奥さんも必死に戦ってたんだ、そしてこの人たちは奥さんの戦友なんだ。

 俺はベットを出て、きちんと立ち、そうして彼らに頭を下げる。

「改めまして、助けていただいてありがとうございます、ライトハルン師匠の弟子で当代勇者の神野隆二と申します、俺は師匠と出会ってまだ半年程です、でも師匠がどんな気持ちで魔王討伐に参加したかは知っています、だから俺の話を聞いてください。」

 彼らの顔をじっと見つめ俺は師匠の言葉を一つ一つ思いだしながら、どうか信じてほしいと思いを込めて彼らに話した、俺たちの今までの事と師匠の現状を。


 周りがシン…と、静まり返っている、最初は疑い気味だった彼らも、教会の守護騎士の資格はく奪の話でものすごく納得された、曰く教会だったらそれぐらいやる、とのことだ、散々いろいろやらかし過ぎた教会は、本当に信頼と言うものがないのが良くわかる。

 それから、神仕えと守護騎士の村の事とか、無理やり貴族に取り立てられたこととか、神様の神託で、俺を待つしかなかった事を話せば周りはすっかり静まりかえっていた。

「その話が本当なら、奴は今でも彼女を取り戻したいと思っているんだろうな。」

 さっき、きつい表情で俺に詰め寄った人が悲しそうに言う、だから俺は極力明るく。

「もちろんです!魔人殲滅させて師匠と奥さんの結婚式で付添人やらしてもらうって約束しましたから!」

  無駄に明るい俺の言葉に、巫女さん達がクスクス笑う。

「付添人…君は孤児なのか?」

 と唐突な質問に首をかしげる。

「いいえ?無理やり勇者になる為に連れてこられただけで、故郷には両親と兄が待ってますよ?」

 帰れるかどうかわからなかったけど、師匠がちゃんと送ってくれるって約束してくれてるし。

「…結婚式の付添人は幼い子供がする場合は親代わりの後見人を公的に宣言するものだぞ?」

「え…?後見人…?」

 親代わり…?え?付添人って親友とかがする物ですよね?

「その場合は兄弟と同然の身内であると言う宣言だな。」

 そっちがいい!

「年が離れすぎているから親代わりの方だな。」

 うちは両親健在です、兄ちゃんも居ます!師匠なにやってんの?

「息子みたいに可愛がっては貰ってますけど…。」

 思わず力なく呟けば、苦笑しながらそれだな、と言われた。

「離れてしまうからこそ、何かかかわりが欲しかったんだろう。」

 だから公式文書として残る自分の戸籍に俺の名前を残したかったんだろうと言われぎょっとした。

「そこまで大ごと!?」

 唖然としている俺に、やおらギュッと後ろから抱きしめてくる人が一人、何事?

「そうあなたがうちの長男ちゃんね。」

 はい!?え?何?どなたですか!?

「マリサテレス、隆二が驚いているぞ。」

 彼女がライトハルンの巫女のマリサテレスだと、正面に居る男性が教えてくれる。

「マリサ…え?師匠の奥さん?」

 後ろをむけば俺とそんなに背の変わらない、師匠と同じ青い目の女性がいた。

 華奢…と言うより、やせている、他の巫女さん達が幸せそうにキラキラしてるのに、この人はなんてか細いんだろう、それでも優しげに微笑むのが痛ましい、無理して笑わなくていいよって言いたくなる。

「初めまして、ラインハルトのお弟子さん、私が彼の妻のマリサテレスよ。」

 まあ、妻にしてくれてたって今初めて知ったのだけどねと、ほんの少し幸福そうに笑う。

「初めまして、師匠の弟子の神野隆二です、おもに師匠の惚気の聞き手役です。」

 15になった瞬間浮かれながら教会と役所に婚姻届持って言ったって言ってましたよ、俺がまだ言ってなかった、師匠のちょっと恥ずかしい過去をぶっちゃけると、またクスクスと笑いながら。

「あの子ったら変わってないわね。」

 と言う、彼女の中で師匠はまだ小さな男の子なんだ、恋に浮かれて好きな子にいいところを見せたい、男の子。

「いやぁ、今の師匠からは想像できません。」

 今の師匠は完璧超人だし、無駄にでかい。

 そして無駄に思い出す、そう言えば俺の荷物どこだ?

「荷物?そこにあるぞ。」

 おお、良かった無くしてないし破れてない、それじゃあ、えーと、ああ、あった。

 わけの判ってない、皆の前で俺はごそごそ荷物を開ける、じゃーん!

「師匠特製、栄養補給用クッキーです!」

 全員がハテナマーク。

 うん、その反応は予想できてた、でもくじけない。

「マリサテレスさんどうぞ、師匠の手作りのクッキーすごくおいしいですよ!」

 干し葡萄作った俺に感化され、なぜかクッキーを作る師匠、野宿中によくできるなとか思うけど、まあ、師匠だしで終わってまた師匠に叱られた、良くものを考えろと。

 マリサテレスさんは少し戸惑いながらも一口食べ、硬直した。

「え…?これ、クッキー…?うそ!?すごくおいしい!なにこれ!?」

 おお、驚いてる驚いてる、まだありますよって別の種類のクッキーも出したら、そっちも凄い勢いで食べていく。

「おいしい!これ本当にライトハルンが作ったの!?」

 驚く彼女に、にっこりと笑って。

「師匠はものすごく料理が上手なんですよ、クソまずいモンスターの肉だって師匠が料理すれば一級品の味になりますもん。」

 だから今度一緒に師匠の料理も食べましょう。

 そう言って笑う俺の方を見ながら彼女がボロボロと涙をこぼす。

「私彼に会えるのかしら。」

「会えます、っていうか師匠は迎えに来て一緒に暮らす気満々です。」

 あなたが不安に思ってた時間全部、師匠はあなたに恋い焦がれ続けてたんです。

「もう忘れられたと思ってた。」

「それだけはありません、師匠あなたに会うためだけにクズ貴族共に頭たれ続けたくらい執着されてますよ。」

 だからするなら、一歩も師匠の腕の中から抜け出せない生活が待っている覚悟じゃないかな?俺だって、貴女のこと聞いてからしょっちゅう惚気られてます。

「だからすみません、俺の言う事じゃないですけどもうちょっとだけ師匠の事信じて待ってて上げてくれませんか。」

 俺の言葉に、彼女はこくこくと頷きながら俺をギュッと抱きしめ、ありがとうと小さく呟いた。

 こちらこそ、会えてうれしいです。




 

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