師匠と俺とお嬢さん方
「えー…。」
思わず漏れた、何とも残念な声は許してほしい、だってさ、これから兄ちゃんのおごりで焼き肉だったんだ、初任給出たからと、家族全員で焼き肉だったのだ、なのになんでこんなとこに居るんだ。
「よくぞ来た、勇者よ。」
テンプレだ、僧侶のおじいさんのセリフがテンプレだ。
「王が待っておられる、すぐにでも謁見の間に行くぞ。」
そう言って有無を言わせずてくてくと…俺に拒否権はないらしい。
「よくぞ来た勇者よ、魔王を倒すための装備と仲間は揃えた、今すぐ旅立つがよい。」
…ちょっと待とうか、王様。
「王様、申し訳ありませんが俺は、ナイフ一本握ったことのない最弱の一般人なんですが…。」
俺が口答えした瞬間兵士が殴りかかってきた、…が、隣の上司らしきおじさんに逆にぶん殴れてた。
暴力良くない…。
「大丈夫じゃ、貴殿にはわが国…いや世界最強の武人を付けた、他にも優秀なものを付けてある、何の問題もない。」
だからさっさと行けと、王様は一ミリの動かない表情でそれだけ言うと去って行った。…えー。
結局、さっさと行け攻撃を城の面々から受けた俺は、旅に出た、事前情報一切なしで。
さっきから、襲ってくるモンスターを小枝一本で倒してる、筋肉もりもりのおじさんと、一生懸命呪文を唱えては、おじさんの討伐スピードに追いつけず、魔法を暴発させてる魔法使いさんと、剣を構えているものの、一体も倒せず、おろおろしている女騎士さんと、弓を構える暇もなく、ポカーンとしている弓使い?さん、(後で聞いたら神官さんで、浄化とヒーリング担当だった)そして、ただただ胃の中の物をげえげえやってる俺。
なんて言うか俺たち要らなくね?
戦闘が終わった後、素直に死んだ目で。
「俺たち要りますか?」
と聞いてみたところ、やはり死んだ目のお嬢さん3人に。
「魔王は勇者の振るう剣でしか倒せないので勇者様は要ります。」
「これほどお強いですがライトハルン様は、勇者に選ばれなかったので。」
「むしろ我々が要らない…。」
とのお言葉を頂いた、どうやら俺の存在意義は魔王の止め役らしい。
「私では勇者の剣が砕ける。」
…ご本人からとどめ頂きました、さっさと魔王やっちゃって、焼き肉食いに行きたいです。
その夜ぐったりと眠る俺に、剣の精っぽいのが必死に語りかけてきた。
「あの人強すぎ!怖い!このままじゃ近くにいるだけで砕けちゃう!貴方が強くなればその分わたしも強化されるからお願いだから頑張って!!」
砕けたくないっ!!
切実な叫びは、俺が目を覚ますまで続いた、寝た気がしないんだが…。
強くなれと言われてもライトハルンさんがいる限り俺に出番はないんだけどなあ。
そんなこと思いながら、小休憩の時ほんの少し皆から離れただけでスライムに食われかけました。
ドラ〇エのスライム並みに間抜けな顔のくせに肉食とかふざけんな(泣)
さくっと、神官さんに助けられさすがにこれはいかんと、悟った俺は潔くライトハルンさんに頭を下げた。
「俺を鍛えてください!死にたくありません!」
「いいだろう。」
ラインハルトさん改め師匠は、あっさりとしかし重々しく頷いた。
そうして俺は自ら地獄に飛び込んだ、ひたすらおもりを持って歩き走り、時にふいに飛んでくる、師匠の攻撃を死ぬ気でよけ、なれてくるとさらにおもりを倍にされ、強化魔法の修行と言って重力魔法を何重もかけられ、師匠の攻撃をひたすらよけ続けた、反撃?何それおいしいの?
吐いても体の半分が吹っ飛んでも、師匠のヒールで一瞬で元に戻され、モンスターの群れにぽいっと放りこまれた、素手で、せめて剣をください師匠!
「魔法の訓練なのに、剣なぞ持ってどうする。」
デスヨネー、わかっています、精進します…。
だから師匠!素振り中の木刀に倍化の術かけんでください!お…重…ぎゃあああああ、骨!骨折れる!
結局メキメキに折れた骨は神官さんが直してくれました、ヒールの訓練だそうです、
「これはヒールではありません!ハイヒールですぅぅぅ!!」
まだぎりミドルヒールが出来る程度の神官さんにはきついらしいです、俺に付き合って素振りしてやっぱり骨の折れた女騎士さんを前に神官さんはあっさりと、魔力切れでたおれました、なのに師匠のポーションで復活、吐きながらハイヒールを続行してました。
「お師匠様あああああ、無理です無理ー!」
連日師匠の攻撃魔法で、限界まで追い詰められている俺と魔法使いさん、さっき消し炭にされたと思ったんだけど…。
女騎士さんと、神官さんがブルブル震えて抱き合いながら。
「け…消し炭一歩手前で、ライトハルン様の剣の一振りで業火が消し飛んでました。」
とのことである、火竜を一撃で消し炭に出来る業火の術を一振り…、やっぱり師匠人間じゃねえ。
ちなみにこれらの修行は序の口だった、何度も何度も死にかけて俺たちはそこら辺の、地竜なら四人で倒せる程度には成長していた。
ちなみにお嬢様方曰く。
「地竜は普通、一個中隊でギリギリ倒せるかどうかの相手。」
とのことなので、大分強くなったらしい、ただ師匠は地竜程度なら、剣一振りで、100体くらい軽いが…。
付き合わされる羽目になったお嬢様方には恨まれたものの、
「「「これで婚約破棄できる!!」」」
と嬉しそうに言うものだから何事かと思えば、浮気性で怠け者で、そのくせ腕にものを言わせるタイプの乱暴なクズ系婚約者だとかで、婚約解消したくてしょうがなかったらしいが、婚約解消には、国の定めで婚約者同士の一騎打ちで勝利を収めないといけないらしい。
腕力至上主義こわい。
「三人が三人ともそんな人と婚約しなきゃならないなんて、そういう男性が多いんですか?」
素直な感想としてそう尋ねれば、酷く真剣な表情で。
「そんなわけありませんわ。」
「私たち3人は同じ男性と婚約しているんです。」
「基本貴族は女余りなんです、だから多少性格に問題あろうとも、地位が低かろうとも、5人から6人の妻がいます。」
何と答えたらよいんだろう、ハーレム主滅べとだけ言っておこう。…あれ、じゃあ師匠も?
「私に妻はおらん、元々平民だ。」
でも今貴族ですよね?
「成り上がりの貴族に嫁ぐくらいなら首を括るそうだ。」
ちなみに王様の妹さんのセリフらしい、今その妹姫様は?と聞いたら。
「婚約破棄も出来ぬまま、どこぞの離宮暮らしのはずです。」
「素直に師匠と結婚しといたほうが良かったんじゃ…。」
離宮の名も言ってもらえない程、忘れられた存在になるより絶対幸せだったと思うけど。
師匠特製の激ウマ体力増進料理を食べつつぽつりと言えば、三人が目を輝かせ。
「「「私たち、婚約破棄ができたらお師匠様に嫁ぎますわ!」」」
と宣言した、うん、そうなるよね、じゃあ俺もって、あー、俺男でした(笑)
「隆二様も一緒に嫁ぎましょう!」
「いやいや、俺男です。」
「師匠なら性別を越えられる!」
「俺が越えられません。」
「ええ、わたくしてっきり四人で嫁ぐものだと。」
「ルル(神官)さん天然すぎです。」
こんなあほなやり取りしている弟子4人に師匠は一言。
「俺にも選ぶ権利はある。」
ごもっとも。
ちなみに王様には千人ほど奥様がいるらしい。
「そんなにいっぱいどうすんの。」
継承問題とか大変なことになるだけじゃない?
「無論、弱肉強食の殺し合い騙しあいだ、しかし結局漁夫の利的に傍観していた王子が王位に就いてきた。」
ちなみに今の王様、兄弟をけしかけるだけけしかけて、自分は高みの見物で悠々と王位に就いたそうな、その王位継承争いで、50人いた兄弟は全員死亡、貴族も三分の一滅んで、民衆も餓死者戦死者続出で国が滅びかけたらしいが。
最悪、師匠、王位簒奪しませんか?
「お前が残って面倒な政をすると言うなら考えてやる。」
サーセン冗談です。
ただの高校生が、生意気なことをいいましたお詫びして訂正いたします。
「しかしお師匠さま、本当にこの最悪の連鎖を断ち切らなければ遅かれ早かれ我が国は滅びます。」
ティナ(女騎士)さんの言うことは最もだけど、一貴族には色々難しいのではないかと思うのですが、って思ってたら、後の二人も超真剣だった、あれ?もしもしどうしました?
「ならば貴女がすべきであろうさ、ティナ王女殿下」
…なんと、ティナさん王女様でした、え?なのにゲス夫が婚約者なの?こんなポンコツ勇者のパーティーメンバーなの?
「気にするのはそこか。」
あ、何か苦笑された。
「だって大事なことじゃないですか、婚約者は一生の相手だし、師匠がいるとはいえ魔王討伐なんて一歩間違えれば命がないですし。」
自国の王女ぶっこむ所じゃないでしょ。
俺の言葉に3人がまた苦笑する。
「だからと言ったでしよう、貴族は女余りだと。」