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三日目-3 気になる視線

 続いて俺は、街の南側にある冒険者組合にやってきた。

 不本意ながら。

 実に不本意ながら。

 魔将軍を倒した報酬を受取るために登録が必須とのことだった。

 報酬なんていらないと言ったのだが、そうなるとシャールが困るらしい。

 どう困るのかよく分からなかったが、政治的な問題らしい。

 登録するだけで良いから、本当に申し訳ないと思っている、とシャールがめちゃくちゃ申し訳なさそうにしていたので、やむなく登録することになった。

 冒険者組合の建物は三階建てで、商人組合のものと比べるとさすがにスケールダウンする。

 だが中の賑やかさは断然こちらだ。

 筋肉もりもりマッチョウーマンな女戦士、落ち窪んだ瞳の不気味な魔術師、不敵に笑う盗賊……らしき人間たちが日も高いうちから酒を飲んでいる。

 どうも入ってすぐは酒場に、奥に依頼の掲示板と受付があるようだ。


「おん?」


 まさに荒くれ者の集まりと言った雰囲気に気圧された俺を見て、近くの女戦士が睨んでくる。

 なんで睨むんだよ。不良か。

 俺は気づかなかったフリをして奥の受付へと向かう。

 そこには筋肉!

 タンクトップ!

 スキンヘッド!

 マッスル!

 な中年男性がフンフンと鼻歌を歌いつつナイフを研いでいた。

 あ、なんか見た目は怖そうだけど癒し系っぽい雰囲気。


「あの、すみません、教会から話が来ていると思うのですが」

「おう、神器持ちの兄さんだな? 名前はトウヤ。間違いないかい」

「あっ、はい」


 おっさんはナイフを目の高さにまで持ち上げて、刃の具合を確かめるとニヤニヤと笑いながら俺を一瞥する。


「聞いてるぜぇ? なんでもあの聖騎士シャールと互角に戦う魔将軍を一撃で消し飛ばしたそうじゃないか」

「はあ、まあ」


 曖昧に頷いておく。

 その瞬間、シン……と場が静まり返った。

 さっきまでうるさいぐらいだった冒険者たちが、全員黙って俺を見つめていた。

 中には飲もうと持ち上げたジョッキから酒をこぼしているやつまでいる。

 思わず仰け反ってしまい、椅子がガタタッと音を立てる。

 その音がきっかけ、というわけでもないだろうが、冒険者たちはハッとすると俺から視線を逸した。

 ……え、なにその反応。


「クックック……いや悪いな、ちょいとあんたの噂話が持ち込まれた直後で、みんな興味津津ってワケよ。ほれ」


 ひゅっ、とおっさんがアンダースローで何かを放ってくる。

 慌てて受け取ると、一枚のカードだった。


「そいつが冒険者証だ。実績によってランクが変わるんだが、AAAランクってことになってる。法術も利用した作るにもお高いカードだ、なくすなよ?」

「AAAランク……ちなみに、最高ランクは?」

「AAランクだな」

「ん?」


 俺が首を傾げると、楽しくてたまらないと言った様子で膝を打つ。


「カッカッカッ! つまり最上位ですらない、特級、特別扱いってヤツよ。世界で五人しかいない珍獣の仲間入りだ、酒場の姉ちゃんにモテるぜ羨ましいなぁオイ!」


 バンバンと肩を叩かれる。

 いや、いやいやいや、なんでそんなことになってるの。

 こちとら小学校以来喧嘩したことだってないんだぞ!?


「そんな顔なさんな。特別扱いだからな、組合側や聖皇神国側からの依頼はあっても命令はねぇからよ。まっ、気が向いたらいつでも歓迎するからよ」

「えっと、それで詳しい説明は」

「あン? やる気ねぇんだろ? ならメンドクセェ、なしだよなし、そんなもん。やりたくなったらそん時改めて聞いてくれや」


 なるほど、本当に俺に何かをさせようというつもりはないみたいだ。


「んで、魔将軍の討伐報酬は共通記念金貨120枚だ。情報は冒険者証に記録されてるから、必要になったら冒険者組合で下ろしてくれ。どんなにタイミングが悪くても記念金貨10枚なら渡せるはずだ」

「分かりました」

「さっそく下ろすかい?」

「じゃあ、せっかくなので一枚いいですか?」

「記念金貨か?」

「記念なので」

「なるほど。ほいよ」


 コトン、と一枚の金貨がカウンターに乗せられる。

 五百円玉より二回りほど大きい金貨で、なにかの鳥らしき刻印がされている。貨幣というよりメダルに近い印象だ。


「確かに。それでは失礼します」

「おう。冒険者組合はいつでも未来明るき新人を待っているからな、いつでもこいよ」


 二本めのナイフを取り出し研ぎ始めたおっさんに苦笑を返して、俺は出口へと向かう。

 ……なんとなく見られている気がして、一度立ち止まる。

 すると周囲の冒険者たちが一斉に俺から顔を背けた……ような気がした。

 なんだろう、魔将軍を倒したってことで恐れられてるんだろうか。

 いやでも俺見た目全然強そうじゃないはずなんだけど。

 ……ま、いっか。

 俺は組合の外に出る。

 そこにはクラウンの周りでスゲースゲー言っている子供が、アギ以外に十人くらい増えていた。

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