復讐遊戯 6
いまさらですが、拷問要素が強めです。
血とかグロ表現が苦手な人はバックしてください。
回収した肉片を手に、ロックが穴から戻る。
誰も何も言わない。
ただ、恐ろしいモノを見る目で、ロック以外の三人が彼を見つめている。
ひょっとしたら、それは差別の目なのかもしれない。
ふつうだったらやらない。
死者を冒涜した者にむける、白い目。
それを受けて、ロックはしかし何も言わない。
言わない代わりに、まだ順番が来ていないジークとギルを見て笑った。
にっこり、と笑った。
手は肉片を掴んでいるので血塗れだ。
ロックはその手を見る。
死者を冒涜した、もう戻れなくなってしまった手を見る。
「……たった一言言ってくれれば、撤回しなくもないんだけどなぁ、指示」
あの女もロックも、その一言が頭から抜け落ちているのか欠片すら口から出て来ない。
まぁ、その一言を口にしたからといって許す気はないのだが。
期待をさせて、さらに落とすだけだ。
その方が盛り上がるのに、二人は言わない。
言えないのか、言う気がないのか。そもそも考えにも及ばないのか。
たぶん、三つ目だ。
自分は悪くない。その頭が、考えがあるのだ。
だから、指摘されるまで気付かないのだろうし、口にしないのだ。
『ごめんなさい』と、その一言が出て来ない。
もちろん、心からの謝罪があったからといって許す気はないのだが。
私は携帯電話に表示されている時計を見た。もうすぐ日付が変わる。
残りのジークとギル。
もちろん、どうするか決めている。
二人のための道具も用意した。
あの女とロックよりはぬるいだろうが、まぁいい。
その不公平さも、憎しみの糧になることを願うだけだ。
それになにより、賞金を手にできるのは、一人。
そう、たった一人。
あの四人のうちいったい何人が気付いているのか。
ひょっとしたら全員気付いているかもしれない。
一人が優勝する。他の人が負ける。
一人だけが勝ち組になり、新しい人生を手にいれる。
残りの者は、帰る家もなく金も無い惨めな生活が待っている。
【自分以外の誰かが幸せを掴む】それはつまり、【他の誰かを犠牲にして幸せになる】ということだ。
優勝した時、ほかの目撃者が、生き残りがいる可能性はゼロではない。
私はあえて指示に逆らえば死、ということを擦りこませた。
しかし、ゲームに負けたから殺すとは一言も言っていない。
もしかしたら勘違いしている可能性もあるので、このあたりで説明をいれた方が良いかもしれない。
『そうそう、言い忘れていましたが。
ゲーム終了時、負けた方に関してですが、そのままお帰りください』
この一言に、画面の向こうの空気が変わった。
私を糾弾しようという空気、なにがなんでも優勝してやるという空気。
この二つに包まれた。
そして、なによりも負けたとしてもこの屋敷でのことを脅しの種に使おうと考えた者もいたようだ。
あとは、ライバルを蹴落として自分だけ助かろうという考えだろうか。
『約束は守ります。貴方方が指示さえ守れば、ですが』
「どうして、こんなことができるの?」
『貴女がそれを言いますか』
「こんな、こんなことやらせるなんて人じゃない。化け物じゃない」
『貴女が、それを言っちゃいますか』
私は呆れて物が言えない。
『自分の望むシナリオどおりにしたい、ただそれだけの為に一人の人間を破滅させ、関係者を狂わせたのは貴女ですよ?
わかって、ませんよね。その言い草じゃ』
「また私を犯らせる気?」
『まさか、ひょっとして酷く抱かれる事がクセになりましたか?』
私の言葉に、この女はカメラを睨みつける。
「こんな下手糞どもに抱かれるなんて嫌に決まってるでしょ」
『では、何が言いたいのですか?』
「出て来なさいよ、こんな人をおもちゃみたいに扱って、卑怯よ!!」
『それだけですか?』
私はなんだつまらない、と言い添える。
その反応が意外だったのだろう、この女は更に感情をむき出しにする。
私を怒らせたいのだな、というのは伝わった。
充分過ぎるほど、伝わった。なんて子供染みた挑発だろう。
そんなことで私を怒らせて、彼らが居る部屋に本当にいくと思っているのだろうか。
現実はゲームじゃ無い。
選択肢は確かにあるが、選んだからと言ってシナリオ通りに進むとは限らない。
それが、人生なのだ。
そして、思う様にいかないのが人生なのだ。
『あぁ、他の皆さま。彼女を黙らせないでください。ただの負け犬の遠吠えですから。
ほら、きゃんきゃん吠えてください』
私を怒らせたいのはわかったが、彼女は勘違いしている。
私は最初から怒っている。
妹が死んだ日から、ずっと。
この怒りを忘れた日はない。
しかし、なかなかに疲れるのも事実だった。
「ばかにしてぇぇええ!!」
『馬鹿になんかしていません。食事の時は豚扱い、今は負け犬扱いしているだけです』
あぁ、畜生扱いですね、と淡々と言えば彼女はますます怒った。
しかし、これでは時間ばかりがすぎていく
私は残りの道具の準備を指示を出した。
塩水の用意である。
あらかじめ、空のペットボトルはよういしてある。
厨房に誘導し、全員分の塩水を用意させる。
次に、これもあらかじめ用意しておいた桶に水を溜める。
塩水と水の張った桶を厨房に運ばせ、私はメインイベントのルール説明をした。
そして、指示を出す。
『ではその縫いぐるみに、エディ様の肉片と米をいれてください。
そのまま、開けたままで。ジーク様とギル様、お二人の指を切り落として同じように縫いぐるみの中に入れてください』
私の指示に、非難が飛び、それをあの女とロックが白い目で見ている。
『おや、一人で切り落とす勇気はありませんか。では』
そこで私は、仕掛けを発動させた。
魔法の円陣が、ジークとギルの二人を拘束する。
そして、あの女とロックの前に指を切り落とすための、拷問専用の鋏を出現させた。
ジークとギルは、魔法陣の拘束によりその場に倒れてしまう。
それでも、モゾモゾと動く。
『アクア様、ロック様。お二人に指示を出します。
その二人の指を切り落としてください』
私の指示に、二人は躊躇もなく鋏を手にする。
「指示に従うのは気に喰わないけど、まぁいいわ、見てなさい」
負け犬の遠吠えはどこへやら、あの女は嗤うと自分の想い人であり最愛の人であり、ほんの数時間前強姦をした男に近づいた。
「あ、くあ?」
「どうせなら、ぶら下がってる方をちょん切ってやりたいけれど、指示だしね」
「ま、まってくれ!!
あ、あれは、さっきはあぁしなければ俺達が死んで」
「うん。よくわかってるよ」
無垢な少女ですと言わんばかりに、若干声を高めにしてあの女は続ける。
「ジークは正義感に溢れてるもんね。皆を助けるために私を抱いたんだってわかってる」
そこで、声を低くした。
「みんなのために、指くらい犠牲にしてね」
声は低く、しかし表情は明るく彼女は言った。
『あ、指は人形に詰める分だけあれば良いです。こちらの指定は一本ずつで。
手元がつい狂って他の指を切り落としても、それは事故です。なんの責任も問いません』
わざとらしく【事故】の部分を強調した。
ロックも笑った。
無邪気な子供のような笑顔をギルに向ける。
「不器用だから、うまく切り落とせるかなぁ」
それが余程怖かったのだろう。
ギルが、叫ぶ。
「狂ってる!!
おまえ、おかしいだろ!?」
しかし、そんなこと聞こえていませんとばかりにロックは言った。
「君は、さっき僕を蹴落とした。
他の誰かの、そして自分の為に蹴落とした。本当はその足を斬りたいけれど指示だ。
君の指だけで他の皆が助かるんだ。あはははは。
すばらしい自己犠牲じゃないか」
ロックはすでに死体から肉片を削ぎ落とすという行為を終えている。
だから、良心はすでに痛まなかった。
相手が、生きているか死んでいるかの違いだ。
五月蠅く喚くか否かの違いだ。
きっと、彼にとってそれは些細な違いになってしまったのだろう。
まるで、爪を切るかのようにあっさりと彼は指を落としてしまう。
それは、あの女も同じだった。
狂気的なのはどちらかと問われれば、判断に迷う。
どっちもどっちだ。
しかし、どこか演技をしながら楽しそうに落としていくのは、あの女の方が上だろうか。
「うーん、切り口が汚い」
べちん。
「今度は、短すぎるかな。もうちょっと付け根の方を」
一本の指で、何度もそうやって切り方を練習する。
「やめぇぇええええ!!!あぁあああああぁぁぁああ!!??
いたい、いたいよぉぉぉおおおお!!?」
「うるさい、ちょっと黙って。男の子でしょ。痛いのくらい我慢しなさい」
まるで聞かない子供をやんわり叱りつける母親だ。
「指が、おれのゆびがぁぁあああ!!」
そこで、少しイラッとしたのか、あの女は立ち上がったかと思うとジークの顔に蹴りを入れた。
ゲシゲシ、と数度にわたって蹴りつける。
顔からも血が舞った。
「よし、静かになった」
あの女は作業を再開した。
それを見ていたロックが、
「あ、なるほどああいう手もあるのか」
なんて言って、あの女の真似ごとを始めた。
ギルの叫びも、ジークに負けず劣らずに響く。




