約束破り
2人は、一通り市場を回ってもと来た道を戻っていた。
俺はあの後、気に入った短剣があったので、自腹で購入していた。
この王国の人々は、生まれたときからずっと、最悪、何かしらの職に着くまで、剣技か槍術、武道、弓道のいずれかを、練習しなければならないのだ。
しかも、男女関係なく、だ。
俺は剣技のうちの、短剣技を俺は練習している。ちなみに俺は3段。レシアは武道で5段だ。
毎年6月と、12月に昇級試験があり、最初は10級から始まって、9段まである。
初段まで上がるのは簡単で、飛び級することも可能なのだが、それからが物凄く昇段するのは大変になる。俺も昨年、4段の試験を受けたが、落ちてしまった。
レシアは余裕で5段を勝ち取っていたが………。
そしてアドランス騎士団に入るためには、必ず、剣技と槍術を、最低2段以上必要である。
下級団員でも、だいぶ強い人達なのに、中級団員は5段以上、上級団員の、ペガサス隊に至っては、全員9段という、化け物じみている人が集まっているのである。
俺もレシアも最初から、アドランス騎士団に入る予定は無かったので、自分のやりたい戦闘技を練習した。
俺は単純に、軽く、振りやすいという理由で短剣技を選んだが、今でも長剣などを習わなくてよかったとほっとしている。今でも、もたせてもらうと、重すぎて、振ることがまず困難すぎる。
「あー。楽しかったぁー。」
横で雲飴(綿菓子のようなもの)を食べているレシアが、背伸びしながら言った。まぁ、俺も楽しかったので頷き返した。
そんな、なんのたわいもない話をしながら歩いていると市場の中心部にある、大きな広場に出た。
その真ん中あたりで、人だかりができていた。2人はなんだろうと、近付いていくと、あり得ない光景が目に飛び込んで来た。
「父ちゃん!?」
「おじさん!?」
そこには、手を手錠で固定され、兵士に捕まっているザイガスの姿があった。叫んだ2人の声が聞こえなかったのか、ザイガスは静かに下を向き続けていた。
「なんで……?なんでおじさんが捕まっているの!?」
レシアは、右往左往していたが、レンはある一ヶ所に目が吸い込まれた。
「ユノ!?」
兵士の一人と言い合いをしているユノの姿が、そこにはあった。
「だーかーらぁー!理由もないのに連れてっちゃダメだっていってるのぉ!」
「うるさい!早くそこをどけっ!だから何回も上からの命令だと言ってるだろう!?」
「だから!このおじさんは何もやっていないの!僕の大切な友達のお父さんが、悪いことするわけないでしょう!?」
俺はユノの言葉を聞くと、居ても立っても居られなかなって、ユノと兵士の方に走って近付いた。後ろでレシアが叫んでいるが戻るつもりはなかった。
「ユノ!大丈夫か?」
俺が声をかけると、パァと顔が明るくなったが、それもつかの間、兵士の方に目を向けた。
「とにかく帰って!罪のない人々を勝手に捕まえないで!どうしてもというなら……。」
ユノは杖を取り出し戦闘態勢に入った。俺も急いで短剣をとった。兵士ら2人は俺らを舐めているのか、ニヤニヤしながら剣を取り出した。その時だった。
「やめろ!」
兵士の後ろにいたザイガスが一喝した。
そして兵士と俺とユノの間に入ってきた。
「レン、そして隣の女の子、ユノと言ったか?とにかく俺は大丈夫だ。俺は城に行く。だから早くここを立ち去れ!このままだとお前らまで捕まってしまう。最悪、俺がいなくなっても、お前は一人でやっていける。自分を信じろ!」
「父ちゃん!?無理だよ。俺………まだ……。何も教えてもらってないのに!」
「大丈夫だ。お前ならできる。おい、早く俺を連れて行け!」
兵士は急いで手錠につながる紐をもちザイガスを連れて行った。
「父ちゃん!父ちゃん!約束したじゃないか!今度、教えてやるって……。ううぅぅ……。」
レンが何度叫んでも、ザイガスは一度もこちらを振り返ることなく、歩き続けた。
隣ではユノが、俺のシャツの裾を軽く引っ張り、心配そうに見上げていた。
レシアは、自分が何もできなかったことに、肩を落として、泣いていた。
空は、茜色に染まり始めていた。その中を、森へ帰る途中のカラスが、レン達の頭上を飛んで行く。
静まり返ったその場に、虚しく、カラスの鳴き声が、響きわたっていた。