父との約束
『タッ、タッ、タタタタ……。』
俺はもときた道を走って家に帰った。家に着くと
『カーンッ、カーンッ。』
と、ザイガスの鉄を打つ音が聞こえてきた。レンはそーっと作業場のドアを開けて中を覗いた。
この真剣な顔の父ちゃんを見るのがいつもの俺の楽しみだった。
こうやって鉄を運びいれたりするときしか、この作業場にははいれないから、これは俺にとって幸せのひとときだ。
ザイガスは、叩いた赤くひかる剣の先をもって最後の過程へと移った。
『ジューーッ……。ジューッ………。』
赤かった剣は、次第に温度が低くなっていき、キラキラとひかる銀色の剣になった。
ザイガスは手を止め、やっとレンがいることに気づいた。
「おぉ…。レン。もう帰ってきていたか。気づかなかったよ。ロンダークから、鉄10キロ買ってきたかい?」
レンは外に置いていたダンボールを中に持ってきて、ザイガスに渡した。
「はい。5000Gだった。それにおまけに1キロ無料でいただいたー。レシアがいつも贔屓してくれてありがとうございますーだってさ。」
「またあいつは…。いつも追加して…。別にいいのに…。」
ザイガスが一人でボソボソとつぶやいていると、レンは両手を広げて、ザイガスの前に差し出した。
「いつものちょうだい、お駄賃。」
「おぉ、そうだな。」
あぁっとでも言うかのように、ザイガスは相槌を打って奥に走って行った。
数十秒後財布を持ってきたザイガスは、レンに5000G手渡した。
「え!?いいの、こんなに?」
いつも100Gずつしかもらえないのに、突然大金を貰って、レンはおどろいた。ザイガスは笑顔でこういった。
「明日はお祭りだろう?毎日働いてくれているしな。明日は仕事、お休みにするから、楽しんでこいよ。」
不覚にも、ウルッときてしまった。こういうところがあるから、俺は父ちゃんが大好きなんだ…。
「もちろん!ありがとっ、父ちゃん!」
レンは階段を登って自分の部屋に入った。財布にお金を入れ、また階段を降りていった。
降りた先にはザイガスがもう次の鉄を取り出していた。
「今日は多いね。何か依頼が入ったの?」
レンは疑問に思って聞いてみた。ザイガスは顔を上げて、言った。
「あぁ、アドランス騎士団からな。早急に10本、剣が必要なんだそうだ。」
「うわぁ!!すげえ!さすが父ちゃん!」
俺がいるこの王国は、アドランス王国という。俺はこの国しか知らないが、大きな5つの国の1つらしい。
だからこの国の騎士団はとても大きい。下級団員が約1000人、中級団員が約300人、そして上級団員が20人で、構成されている。
上級団員は別名“ペガサス隊”と呼ばれ、この国のヒーロー的存在だ。もちろんこれになりたいと思って騎士団に入った人はたくさんいる。
しかし、ほとんどの人が下級止まりだ。中級でさえ、大変な世界なんだ。
そして使っている武器にも違いがある。
下級団員は、槍のみ。
中級団員は、槍、剣のみ。
上級団員は、自由
と、きまっている。
だから、父ちゃんに依頼したのは、中級団員以上ってことになる。
「はは。俺も嬉しいよ。そんな人達に使ってもらえて…。」
父ちゃんは本当に嬉しそうに続けて言った。
「おまえも良い鍛冶屋になるんだぞ。この仕事は楽しいからな。もう少ししたら、おまえに基礎を教えてやる。それまで待っててくれ。」
「本当に!?やった!約束だよ!?」
やっとできる、という感動が、レンを駆け巡った。
「もちろんだ。男に二言はない。その代わりちょっと買い物に行ってきてくれ。剣に埋め込むためのルビーを切らしててな。すまんが…。」
「いいよ。いくつ?」
「10個ほど欲しい。はい、これお金。余ったら何か好きなものを買ってきなさい。」
と、ザイガスは20000Gをレンに手渡した。
「ありがとっ。」
と言って玄関に向かった。レンは靴を履きながら、
「約束だからねーーー!?」
と、作業場のドアに向かって叫んで出て行った。
レンは見えなかったが、ザイガスはそのとき微笑んでいた。