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あの娘を探す勇者と7人の魔女

作者: 伊沢幸子

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・地名・団体とは一切関係ありません。現実社会のどこかで見かけたような気がしても、気にしないで下さい。

誤字脱字を修正しました。

 今年も数人の若い冒険者が狭い大陸のカイーシャ王国にやって来た。夢と希望に溢れ、それぞれに優れた能力を持つ勇気ある冒険者だ。

 冒険者の一人、主人公A男が、カイーシャの街『ソーム』を物珍し気に見回している間に、仲間の女の子が攫われてしまった。

 

「こういった感じの女の子を見かけなかったか?」

「ああ?人探しなら、まずは冒険者ギルドにでも行ってみるんだな。いろいろな情報が集まるぜ」


 そこら辺にいた親切そうなおじさんに尋ねたら、カイーシャ西にあるギルドを教えてくれた。冒険者がまず一番に訪問するギルド。この『ソーム』の街のギルドは親切そうな職員のお姉さんがいた。

 

「ええ?仲間の女の子がいない?……ひょっとしたら、魔女に連れていかれたのかも知れないわね」

「ま、魔女がいるんですか?」

「我がカイーシャ王国には、7人の恐ろしいほど強力な魔女がいて、皆、これはと思う女の子を見つけると、攫ってしまうのよ。どうしようもないの」

「どうしようもないって、そんなのない!俺は助けに行く!お願いです、魔女の居場所を教えて下さい!」

「普通に乗り込んでは追い返されてしまうわ。ちょうど、Sの魔女の城から依頼が来ているから、この依頼を受けなさい。人の出入りの激しい城だから、あなたが紛れ込んでも怪しまれないわ。……決して魔女達を怒らせては駄目よ、気を付けてね」


 親切なギルドのお姉さんの言うままにSの魔女の依頼を受け、城に行ってみた。ここは多くの様々なランクの冒険者が集っては出かけていく、賑やかな城だった。昼間人がいない所が、冒険者の宿に似ているが、決して安らぎのお宿ではない。

 

 魔法によってジャンジャン入る問い合わせに応対しつつも、もの凄いスピードで書類を見ては捌き、更には次なる書類を山の様に作成している強力な魔女がいた。口調も態度もきびきびしていて頼もしい。Sの魔女は威厳に満ちており、会っただけで冒険者A男を圧倒する。

 

「今月の攻撃魔法『キャンペーン』はこれよ!頑張って獲物をたくさん狩りとって来なさい!」


 依頼内容は攻撃魔法『キャンペーン』でより多くの獲物を集めることだった。どうしたらいいのか?未熟な冒険者が安易に挑んだ挙句に失敗しては、Sの魔女に睨まれ怒られてしまう。そうなっては隠れた目的を果たすことができない。

 

 A男は隣にいた先輩冒険者に相談してみると、冒険道具・装備をまず集めろとあっさり言われた。だが、気を付けろ、道具作りの城には、地獄耳のMの魔女がいるぞ!と脅された。

 

 早速A男は冒険道具を探し求めつつ、こっそり人探しをすることにする。少し不安であったが、道具作りの城に出かけた。

 辿り着く前に、とある冒険者の溜まり場『キツエンジョ』で、新しい魔法も出るらしいとの裏情報もA男は掴んだ。

 これをいち早く身に着ければ、冒険者ギルドでのランクが上がるかもしれない!仲間探しも大切だが、レベルアップのチャンスは見逃せない。

 

「ちは!新魔法の剣『チラシ』、無いっスか?」

「来て早々、その言葉遣いは何?これだから今どきの新人冒険者は!城内できちんとした挨拶技も使えないなら、外でも技が通用する訳ないでしょう!やり直しなさい!」


 うおお!早速Mの魔女が登場だ!

 別にこの魔女に話しかけた訳でもないのに、A男の気配に反応して城の奥から飛び出して来た!

 

 昔の躾けに厳しい教師のように、Mの魔女はA男の前に立ちはだかり、冒険者の装備を確認している。

 謝らされて、挨拶技からやり直しさせられ、更には後ろからシャツも出ていると冒険者用の服装にまで、A男は厳しく注意されてしまった。

 このMの魔女の城では、魔女や魔法使いは様々な色合いの魔法陣を描いており、見かけやデザインにうるさいようだった。それ故、城内はカラフルだった。非常に多くの色が城内を走り、目に眩い。

 ここでA男はダメージを受けた。

 

 残念なことにMの魔女曰く、新魔法は開発されたばかりで、まだその魔法を使うための展開魔法『カカク』も、魔法剣『チラシ』も準備出来ていないと言われた。

 コッソリ城内を見回しても仲間の女の子もおらず、A男は無駄足を踏み、わざわざ怒られに来たようなものだった。


「こんにちは!この新展開魔法『カカク』、発動できます?」


 今度は怒られないように、にこやかにきちんと挨拶してDの魔女の城に出向いた。

 Dの魔女は静かな林の中の池のように穏やかに、まだ展開情報も魔力情報も無いと告げる。ここまで穏やかに言われると、反論や急かしも出来ない。

 ただ待つしかないのか?空しい風が体を吹き抜けたかのようなダメージをA男は受けた。


 この城にはカイーシャ王国のあらゆる情報が集まっており、多くの魔女や魔導士が一般人には分からない複雑で緻密な魔法陣をいくつもいくつも描いては、発動させている。その人々は多くが穏やかな魔女だったが、その中に仲間の女の子はいない。ここも無駄足だったか、とA男はがっくりする。

 

「失礼します!開発されたばかりの新魔法の情報はありますか?他国に先駆けて使ってみたいんですが」

 

 魔法の調査と情報を管理しているIの城へ今度は行ってみた。

 この城の一番の腕利きのIの魔女は、小川がさらさら流れる音のような不思議な魔法の詠唱を行っていた。他の魔導士たちも魔法詠唱をそれぞれに呟いている。

 

 魔法の知識はA男にはあまりないため、傍で聞いていても、何の呪文なのかさっぱり分からない。もう少しゆっくり詠唱してくれれば、簡単な魔法なら分かるのかもしれない。この魔法詠唱の技を身に着けられれば、A男の冒険者レベルは格段にアップするのも分かっているが、苦手は苦手。A男は、将来も戦闘陣の後衛ではなく、最前衛で戦う戦士を目指すことにした。

 

 ありがたいことに、じきに魔法を発動させる準備が整うと言われた。A男の胸に希望の明かりが灯った。だが、術の発動条件が揃ったか、確認が必要と言われた。

 

 まず魔法が正しく発動するかを確認するCの魔女の城、術用の魔力が溜まったかを確認するためにWの魔女の城、最後に先程訪問したDの城で術を発動してもらわねばならないという。

 新魔法発動までの複雑さに、A男は頭を掻きむしる。

 

 不思議な魔法詠唱を繰り返すIの魔女の城にも、多くの魔女や魔導士がいる。仲間の女の子は魔法が得意だったから、ここなら!と期待していたのに、残念ながらこの城にもいない。

 まだ、このカイーシャ王国に彼女はいるのだろうか?A男の焦りと不安が募る。

 

「だから、魔法が正しく発動するかを確認するのが目的なのよ。呪文情報をこっちに回すように伝えなさい。それから、危険なので、上のランクの冒険者の正式承認を得てきなさい。それぞれ、順番に発動確認しているのよ」


 Cの魔女の城は、無駄な動きなく踊るように滑らかに手を動かし、魔法を次々繰り出している。まるで腕の数が増えているように見えるほど素早い腕の動き。熟練の魔女とはこんなにも短時間で魔法を発動させられるのか、とA男は感動した。


 Cの魔女の城では、多くの術の確認を依頼されて、非常に忙しいようだ。

 A男がご機嫌取りに気さくに話しかけても、効果はない。あくまでもビジネスライクだ。魔法の確認が目的のためか、慎重にそれぞれの魔法の情報が必要だと言う。

 このCの魔女の城にも、彼女はいない……。一緒にランクアップを目指すはずだった彼女は、もう、いないのか?


 やっと最後にたどり着いたWの魔女の城。魔力蓄積用のタンク設置のためか、カイーシャ王国の王都から少し離れた所にあった。


「失礼します。開発されたばかりの新魔法の……」

「ああ、噂の新人冒険者君ね。あれは、あと数日かかるかな。でも、君が王都に戻ってしばらくたった頃なら、大丈夫なんじゃないかしら?」


 たくさんの魔力タンクを管理しているWの魔女は、タンクのメモリを確認して、親切にそう教えてくれた。

 だが、A男の目には、タンクの総量の7割を越えて魔力は蓄積されているように見える。

 もう発動には問題無いんじゃないか?新魔法は真似される前に、他国に先駆けて使わねば獲物を多く狩り集められない。


「君、変な事を考えてない?大きな魔法は発動・展開後のエネルギー制御が大変なんだから、最初の使用時には、注意が必要なのよ。うかつな事をすると、命に関わるわ」

「分かってます」


 要は、いち早く多くの獲物を狩るのが大切なはずだ。そうしなければ、他国の冒険者に抜け駆けされる可能性がある。早く大きな戦果を挙げて、冒険者から戦士へとレベルアップしたい!


 やっとたどり着いた一番離れたWの城にもやっぱり君はいない。もう、いないんだ。もっと早く見つけ出せていたなら、とAの胸は痛んだ。


 王都に戻ったら、何と!最強の魔法剣『チラシ』、展開魔法の『カカク』、更には発動確認状まで、A男のために揃えられていた!

 怖いだけじゃない!無駄に叱られたんじゃなかった!ありがとう、忙しい魔女さん達(敬称を付けないと呪われそうだ)!

 

 彼女に代わって俺は獲物を狩る!戦士として戦い、勝ってみせる!

 慌てて装備と新魔法剣を身に着け、A男は無謀にも飛び出した。新魔法剣使用の訓練が不十分なまま、一人戦場へと。Wの魔女の注意を忘れて。

 

 結果は散々だった。『チラシ』を振り回し、『カカク』魔法を展開し、最初は順風満帆だったかのようだったが、フィールドは広く、最後の獲物は大きく手強かった。

 

 小ボスクラスに無謀にも一人で挑み、一度は倒し、勝った(狩った)!と油断した隙を突かれ、全身大火傷を負ってしまったのだ。

 事前調査を怠り、訓練不十分な新人冒険者の慢心・油断による、よくある結果だった。新魔法のエネルギーが急に底を突き、己の訓練不足で魔法剣にヒビが入った。その反動までモロに受けてしまったのだ。


「しっかりしろ!傷はまだ浅い!」

「援護隊が来てくれたぞ!Tの魔女の城からだ!」


 たまたま現場近くにいた上ランクの先輩冒険者が、新魔法の魔力切れを敏感にも察知し、フィールドで倒れそうなA男を見つけ出し、護った。そして怪我の状況を把握するや、Tの魔女の部下を急いで呼び出してくれたのだ。

 

「A男!こんなところで何やってるの?相変わらず、突っ走っているのね!」

「ああ、君か……。今まで、どこに……?」

「余計なことはしゃべらないで。まずは火傷の手当てをします。それから魔法剣『チラシ』のサポートに入るわ」


 ずっと探していた彼女だった。急いでA男の火傷の手当てを詠唱魔法で行っている。更には、こちらに近付こうとする獲物達の激しいクレーム魔法の攻撃を彼女の詠唱魔法が一つずつ打ち消していく。

 

 ああ、彼女は賢く強くなっていた。戦闘陣前衛の先輩冒険者に対して後衛の位置に就いている。

 A男の苦手な難しい詠唱魔法も、攻撃魔法も、更には弓矢まで持ち出して攻撃しているではないか。その姿はまるでチームで狩りをする雌ライオンのようである。

 

 土の上に寝かされ守られながら強く逞しい彼女を見て、A男は自分を情けなく思ってしまった。

 

 後日、彼女が魔法で彼の大火傷の手当てをし、獲物からの攻撃を蹴散らし、A男が所属するSの魔女の城にまで連れ帰ってくれたことを知らされた。

 

「誰にでも失敗はあるわ。私も毎日のように魔法で失敗しないか、怒られないかとビクビクしてる。でも私を見込んでくれたTの魔女が、厳しく鍛えてくれているの。離れた所にいてパーティはもう中々組めないけど、お互いにレベルアップを目指そうね!」


 先輩冒険者からの噂に聞くTの魔女は、強力な援護を展開してくれるが、その分なかなか手強いらしい。だが、その厳しい城でも彼女は大丈夫そうだった。

 一度や二度の失敗でめげては、冒険者なんて出来ないよな、俺も負けないぞ!早くレベルアップして最強に!とA男は誓った。



 カイーシャ王国の王城のとある一室で、魔女が数人揃って、仲良くお昼ご飯を食べていた。

 

「聞いた~?あの新人、またWの魔女に魔力蓄積を早く!とか急かして怒りを買ったらしいわよ」

「先輩のSの魔女にも生意気な事を言って、怒らせたらしいし」


 パクパク。あ、これ、美味しいわ、と呟く。


「頼んだ『チラシ』はまだですか?とか毎日言ってくるのよ。あんたの仕事だけしてんじゃないわよ、って言ってやりたい」

「条件が揃わなければ、魔法は発動できないって何度説明させるんだか……」


 モグモグ、ゴックン。


「情報も援護も遅い!とか不満を口にしたらしいし……」

「王国を裏で支える全部の魔女の怒りを買ってるんじゃないの?普通、そこまで出来ないわ。あいつ、勇者すぎるよね~」


 昼食時間終了の鐘が鳴ったので、抱え込む多くの仕事のため、魔女達はそれぞれの城へ戻って行った。

 

 終わり

作者の日常とは関係ありません。深読みしないで下さいね(笑)。

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