誕生
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
出たくないここから出たくないこの部屋からは出てはいけない
この暗く暖かい部屋から出てはいけない
ここから出たら今見ているような、
人が人を騙し、犯し、殺し、悲しむ世界に行かねばならない
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
絶対に出たくない出てはいけない
人類が繰り返してきたであろうこの悪夢を
私も体験するんだろうか?いや、もしかしたら
自分がそんなことをしてしまうのかもしれないぞ
歴史は繰り返すとは誰が言っていたかー
この夢を見ているだけならいいんだ、見ているだけなら
スプラッタ映画を見ているような感覚でいればいいだけだから
この部屋から出たのなら、この夢は正夢になるのだろうか?
嫌だ目を開けたくない目を瞑っていたい
光などいらない
この部屋から出たくない ああ、誰かが扉を開ける
光が這入ってくる 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
ああ、光が大きくなる
ああ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
ああ、ああーー
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!!」
“オギャーオギャー”
ああ、出てきてしまった。うまれてしまった。
これから僕は体験するんだろう。
あの人類が築き上げてきた歴史を、そのまま。
歴史は繰り返すもの。
なぜ、胎児が生まれた時に目を瞑っているのか?
それはこれから起こる事柄を予期し、
それを見たくないからではないのか?
なぜ、胎児が生まれた時に泣くのか?
一般的には、大きく泣くことで、肺をいっぱいにふくらませて、初めての呼吸を開始するから
とあるが、それはこれから起こる事柄を憂い、泣いているのではないのか?
とにかく、わたしはうまれてしまった。
これからわたしはこの夢を忘れ、
悪夢に対してこう思っていたということさえ忘れるだろう。
しかし、同じ体験をした時にふと思い出すのだ
「ああ、こんな夢を、以前どこかで見た気がする
遠い遠い先祖の血と共に、真っ暗なあの部屋でー」
と。
辛い世の中