第14話「ホウライ伝説 始まりの奉納祭⑦」
「何だ、お前は……?なんだよ……、レベルマキシマムって……?」
空に君臨するは、鍛え抜かれた黒夜の肢体、黄金色の筋繊維。
節々から発せられる赤と青の発光は、正と負、全てのエネルギーを内包するように力強く。
まるで人とは思えない異形。
理解の範疇を超えた四腕二足の、化物。あるいは――。
「もしかしてお前が、神ってやつ……、なのか?」
『奉納祭に来る神様って、どんな姿をしてるんだろうね。ホーライちゃん』
『めちゃくちゃ綺麗で世界一可愛い、……んじゃないか?』
『……。じゃあ、かみさまとけっこんすれば』
『えっっ、あっっ』
教えて貰った『恋人への常套句』の失敗。
そんな他愛ない思い出を懐かしみながら、ホウライは頬を伝う汗を拭った。
目の前に居る存在が神ならば、まだいい。
村の言い伝えでは、村に訪れる神は人間に好意的であり、様々な知恵を授けるとされているからだ。
言葉が交わせる相手なら、交渉も可能。
だが、絶望を味わってきたホウライには、目の前の存在がそうだとは思えなかった。
「我が輩が神だと?様々な意味で一緒にして欲しくないものだな」
鋭い歯をギシリと鳴らし、左右が繋がっている複眼を細める。
まるで苦虫を噛み潰したかのような表情、あからさまな不愉快という態度に、ホウライの全身が危機感を発した。
「妙な勘違いをするな。我が輩は神などでは無い」
「じゃあ、そのレベルはなんなんだ?6桁すら初めて見たのに、今度は文字なんて……」
ホウライにとってのレベルとは、1~99999までの5桁で示される経験値の総評だ。
その数字に戦闘力も比例しており、後半の生物を相手にするなら真面目に戦う必要がある、程度の認識だった。
そして今日、上限であるはずの99999を大きく超える存在を知った。
絶望の底へ叩き落とされるような感覚、だがそれでも、どのくらい強いのかの当たりを付ける事は可能だった。
― レベル”MAXIMUM” ―
桁数どころか、数字ですらない異常。
これは何なんだと、ホウライが叫ぶ。
「ほほぅ、レベルが気になるか?これは褒章の代わりに奪ったものだが……、これほど、分かり易くカッコイイ表記など他に有るまい。なにせ、我が輩こそが世界最強なのだ」
「世界最強、だと……?」
「あぁ、そうだ。我が輩に勝てる者など、この世界に存在しない。例えそれが、唯一神であろうとも」
『世界最強』
それは、ホウライにとっての琴線だ。
ホウライが『ホーライ』になる為の条件、他者には絶対に譲れない矜持。
「お前が世界最強……、ホーライだってのか?」
か細い呟きは、ホウライの心から漏れ出た声だった。
ホウライにとっての世界最強は『ホーライ』だ。
それは覆し様がない決定事項、だが、自分がそうであるかは確定されていない。
俺は、世界最強じゃない……?
こんなに酷い目に遭っても、頑張ってきたのに?
受け入れがたい事実であっても、ホウライは理解せざるをえなかった。
その身に宿した世絶の神の因子『暗香不動』。
それが感じ取っている情報に偽りはなく、そして、どうしようもないくらいに強大だ。
「ホーライだと?そのような呼ばれ方をされた覚えは無い」
「そうかよ。じゃあ、なんて呼ばれてるんだ?」
「蟲量大数。それが、我が輩を冠する名だ」
最強に憧れていたホウライは、色んな世界最強を調べた時期がある。
そしてそこには、その名が刻まれていた。
『無量大数』
この世に現存する数字単位の中で、最も大きい単位。
10×68乗。
数字で表すのならば、
『100000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000』
という、馬鹿馬鹿しいまでに途方も無い桁数。
それは事実上の――、『無限』。
「ははっ……、ダルダロシア大冥林にはこんなのがいるのかよ。で、その蟲量大数様が、ヴィクトリアに何の用だ?」
目の前に居るのが神で無いのなら、奉納するべき相手ではない。
それが既に変わってしまっている情報だというのは、ホウライにも分かっている。
だが、それでも縋りたかったのだ。
ヴィクトリアと目の前の蟲人が無関係であると。
「ヴィクトリアというのか、この俸物の名は」
腕を組んで興味深そうに、蟲量大数が台車を見る。
その視線の先に有るのは、自慢のスイカを抱いたヴィクトリア。
「ふぅーむ?みずみずしく健康的に成長した個体。少し青いが……、皮を剥けば赤い果肉が詰まっていると見た」
「お前、ヴィクトリアを食い物扱いか?」
「無論だ。妙な思念によると、これらは森に住まう者への捧げものだという。ならば、我が輩が喰っても問題あるまい?」
その軽々しい言葉は、ホウライ自身も覚えがある。
店で食材を選ぶ時の、棚に並んだ肉を見定める行為だ。
「勝利を冠する果実とは、まさに我が輩に相応しき名だ。喰うのが楽しみだな」
「……喰わせる訳ねぇだろ、返せ」
「返せだと?弱者である貴様には、勝利の果実は相応しくなかろう」
「俺とお前がなんだろうが関係ねぇよ。誰が、お前にくれてやるつったんだよ。それは俺のだ、返せッ!」
怒りのままに、恐怖のままに、ホウライが叫ぶ。
乖離した感情と理性が警笛を鳴らすも、止まらない。
「くはっはっはっは!貴様が用意したものではないだろうに。そもそも、我が輩は既に許可を得ている」
「許可、だと……?」
「この少女が言っておったぞ、『私が奉納祭をする相手は、世界で一番強いひと』だと」
「んなっ……」
「故に、それは我が輩で間違いあるまい」
ホウライにとって、その言葉は嬉しく……、そして、深い絶望を内包した言葉だった。
『世界で最も強いひと』
それが示しているのは、間違いなく自分だったはずだ。
少なくとも、昨日まではそうだったんだと、湧き上がる感情に言葉を乗せる。
「違う、お前じゃないッ!!だって抱えているのは……」
一番の俺を見返す為に育てたスイカだろ?
そんな風に続く言葉が、ホウライの喉から発する事は無かった。
俺は、ホーライじゃなかった。
だって、世界で一番強くないから。
目の前の相手どころか、さっき見かけた生物にだって負けるかもしれないから。
もう、一番じゃないから、約束だって――。
「ごちゃごちゃ、うるせぇよ」
零れた本音は誰に向けたものか。
興味深げに静観する蟲量大数か、はたまた、己自身か。
「ヴィクトリアにとっての一番は……、俺だ。村の皆もそう言っていたし、そうなるように努力もした」
「随分と狭い範囲だな。だが、井の中すら知らぬものが、大海を知る術はない、か」
グンローも、エリウィスも、フォルファも、呆れながらに称えてくれた。
頬を膨らませたヴィクトリア自身から、「ホーライちゃん、つよすぎー」って小言を貰ったことすらある。
だから、ヴィクトリアが言う『世界で一番』とは、『ホーライ』だ。
……俺の事なんだッ!!
「お前が何かなんて関係ない。俺はホーライだ」
勝てる見込みなど何もない。けれど、譲れない。
この想いだけは絶対に負けないと、強く強く、魔法を宿した二つの掌を握りしめる。
「我が輩に拳を向けるか。あまりにも無謀だと思うが、ふぅむ、腕から妙な気配がする上に……、」
その蟲人は、余裕綽々といった態度で思案する。
4本の腕の2本を組み、残りは顎と腰に添えた。
余りにも無防備な態度、だが、ホウライの嗅覚ですら隙を見つけられない。
「では、こういうのはどうだ。俸物を狙う不届き者は、お前以外にもいる。それを我が輩より多く倒せたら、潔く身を引いてやろう」
「なに……?」
「なぁに、心配するな。仕掛けてくるのは我が輩の『力』を理解できぬ雑魚ばかりだ。お前と大差あるまいよ」
素晴らしい解決策が浮かんだとばかりに、蟲量大数が手を鳴らした。
ぽん。っとでも表現するべき、小さな音。
だが、空気中を伝う衝撃波は、ホウライが人生で経験した音の中で最も大きいもので。
「……つっッ!?」
「周囲に我が輩の波動を当てた。無視できる豪胆な奴は、それほど多くはあるまい」
「何だっ!?何かが一斉にこっちへ……っ!!」
「さぁ来るぞ。一番乗りは……、兎の皇か」
まるで認識できない速度で飛来した何かが、爆散した。
ホウライは飛び散る肉片を見て、始めてそれが生物であったと知り、続いて、それが家ほどもある巨大な兎だったと認識。
そして最後に、蟲量大数によって殴り殺されたのだと理解した。
「《世界最強の質量》」
遅れて声が聞こえたのは、その攻防が音速を超えているから。
それを理解した所で、すべてが遅い。
既に死亡した生物のレベルを確認する方法は無いのだ。
「一撃……だってのか。あんな化物を……?」
だが、ホウライは理解した。
飛び散った肉片が放つ匂いが、マーラディオとは比べ物にならない強さだったから。
「今度はなん……、月が隠れ……て……」
月光が遮られる。
そんなよくある現象も、それが、空を埋め尽くした蛇によるものとなれば話は別だ。
「さっきの、蛇……!」
「ふむ、そいつはくれてやろう」
そんな言葉を聞いている余裕は、ホウライには無かった。
匂いが届かない天空から振り下ろされんとする一撃、その防御に失敗すれば待つのはーー、死。
「《雷人王のて――》」
「《澪火或炭》」
直感に従って突き出したホウライの腕が捕らえたのは、計り知れない衝撃。
通常の肉体だったら確実に崩壊したであろう一撃を苦悶しながら受け止め、そして――。
「がはっ、がっ、ちっくしょう……」
ひしゃげて曲がった腕と共に、ホウライは大地に投げ出された。
幾度か地面に叩きつけられ、やっとの思いで来た道を転がり戻る。
「デケぇ蛇だとは思ったけどさ、てめぇ、そんな顔してたのか」
紅く深く光る、相貌。
チロチロと舌を出す姿は蛇として真っ当、だが、人生で初めて蛇に見下されるという光景に、ホウライの背筋が凍る。
**********
「ふむ?何処に行ったのだ、あの少年は?」
超合金で出来たサイの皮から腕を引き抜き、蟲量大数が呟く。
ゲームの対戦相手がすぐに死んでしまっては面白くない。
そんな想いから周囲を索敵し――、満身創痍での善戦に笑みを溢す。
「ほう、先程の獅子と違い、その蛇は皇では無い。だが、戦闘経験はそちらの方が格段に上だ」
誰に向けたのか分からない解説の合間に、サイから奪った臓器を握りつぶす。
屈強な肉体を持ち、高い再生能力を持つ個体が多い皇種の、最も簡単な殺し方。
治癒を行う意思を発する魂を、直接破壊すればいい。
「二十二匹の皇とその眷族が百数十。狙いは、勝利の果実を抱く少女か」
ちらりと勝利の果実に視線向け、その甘い匂いを堪能。
これなら緑色の皮まで美味かろうなどと思いつつ、四本ある腕の二本に『力』を込めた。
「《世界最強の熱蓄積》、《世界最強の熱放射》」
この星が生まれて以降に観測された『最も高い温度』と『最も低い温度』が、翳された両腕に宿る。
同時に発生した絶対焦熱と絶対零度。
その間にある空間は歪み、光りすら通さない。
『力の権能』
有史以来、現象として観測された全ての『力』を己がモノとする。
それが、蟲量大数が神に願い、奪い取った権能だ。
「まずは二本でやるか。これ以上は、せっかくの果実が痛みかねん」
降ってきた黒豹の皇の頭を焼き潰しながら、蟲量大数が笑う。
掘り湧いた土鼠の皇の腹を氷り割りながら、蟲量大数が笑う。
「くはははは、久しぶりの戦いだ、楽しませて欲しいものだな。そう思うだろう――?」
周囲へ漏れ出る余波など無い。
熱と冷気、それらを完全に支配下に置いている蟲量大数が、そんなミスをするはずが無い。
爽やかな初夏の夜に、リィン……と、虫の鳴き声が響く。
静まり返った蟲量大数の周囲で生き残っているのは、守られた勝利の果実と、無関係な鈴虫だけ。
**********
「ちくしょう、腕が、動かねぇ……」
ホウライは、幾度となく振り下ろされた蛇鱗を両手で受け止めた。
時には弾いて威力を殺しもした。
戦いの最中に、一回のミスも無い。
全て最善手であり、完璧な対応だった。
そうしてなお、指は動かなくなった。
腕自体も、肩よりも高く上がらない。
それはもう、辛うじて原形を留めているだけの飾りでしか無いからだ。
「しゅろろ……」
舌で空気を舐めながら、水蛇が瞳を険しくする。
それは、目の前の”暇つぶし”に向けたものではない。
「……虚茫棲」
「つっ!?おい、お前、なにをするつもり……」
期待していたチャンスが潰えたことによる苛立ち。
これ以上ここに居る意味は無いと判断した水蛇は被っていた皮を脱ぎ、本性を露わす。
「空間転移の魔法だって……。まさか、逃げるつもりじゃ……」
蛇が狙っていたのは、漁夫の利だった。
上手く行けば仕返しが出来るかも?
そんな機会を待っていただけ。
だから、目の前の暇つぶしを処分するなど造作も無い。
それこそ、1秒も掛らないだろう。
だが、その時間が惜しい。
蟲量大数をから逃げるというのはそういう事だと、知っているからだ。
「待てよ、待ってくれ……。お前に逃げられたら、俺は――ッ!!」
必死になって腕を突き出すも、掴む指が動かない。
そして、弾けた空間の跡には何も残っていなかった。
戦っていたのにも拘らず、水蛇の鱗の一枚すら落ちていない。
「結論が出たな。百数十の不届き者が存在し、お前はその中のたった一匹すら取り逃がした」
「……っ!」
「一方、我が輩は残りの全てを殺害し終えている。これでは勝負にならん」
つまらない戦いだったとでも言うように、蟲量大数が歩んでいる。
そんな、普通に、まっすぐ、ただ歩いている姿が、ホウライには途方も無い者に思えて。
だからこそ一歩だけ、後ろに身を引いてしまった。
それが、絶望に触れる行いだと知らずに。
「まずっ……」
とぷん……という感覚。
それは、隔絶結界に身を沈めた印。
「あ、あぁ、あああ……」
再びホウライの心を絶望が侵食する。
そして、その様相はさっきとはまるで違っていた。
真っ白な空間、何もない世界に存在するのは、ふたりきり。
ホウライと、蟲量大数。
この世界に残っているのは、1を取り逃がしたホウライと、世界のあまねく全てを殺して抹消した蟲量大数のみ。
「こんなの、勝てるわけが……」
ホウライは理解してしまった。
自分は一以下だったと。
そして、目の前の存在こそが、無量大数なのだと。
「去るがいい。我が輩のディナーの邪魔だ」
「い、いやだ……。だって俺はヴィクトリアと」
それでも、ホウライは願った。
ヴィクトリアだけは譲れないと、彼女を失う事こそが、真の絶望なのだと叫び、そして――。
「勝利の果実を敗北者が望む。それは驕りだ」
「分かってる、それでも……ッ!!」
『ヴィクトリアは我が輩のものだ。欠片も残さず喰らい、零れた汁すら啜ってやろう。敗者にくれてやる物など無い。……去れ』
それだけいうと、蟲量大数は右手を上げた。
そこに握られているのは、真っ白くて美しい――、勝利者の果実。
「や、、め、ろぉぉおおおおおおおッッ!!」
しゃぐり……。という音が聞こえた。
何度も何度も、絶望したホウライが隔絶結界を抜けるまで、永遠に。
**********
「はぁっ……、はぁっ……、は……」
走って走って走って、ひたすら走って、逃げ惑って。
周囲からは音がしない。
人どころか、生物の営みの音すら無い。
永久の闇の中、ホウライは走り続けた。
命の気配がない、死んだ森を。
「はっ、はっ……ぁ……」
そして、ホウライは立ち止った。
彼を出迎えたのは、眩い光。
新しい一日を告げる、朝日。
「あ、あぁ……、あぁ、あぁぁああ”あぁああぁぁああ……っ」
それが示すのは、全ての終わり。
日没とともに初めて、日の出と共に終える。
それが、『奉納祭』のルールだ。
「お、終わっちまった……、ほうの"うざい、が……」
『ホーライちゃん、ホーライちゃん、見て見てぇーー!』
『じゃじゃーん!!どうだ、凄いでしょーー!!』
『明日のね、奉納祭って、どういう意味か知ってる?』
『本当の奉納祭はね……、成人した女の子が相手に身体を捧げてね』
『えへへ、は、恥ずかしいね』
『明日の夜には帰って来るよね?』
『お風呂って……、その、待ってます』
『もー、ホーライちゃんは黙ってて、作ったの私だし』
『返してっ!!お礼いらないからサンドイッチ返してっ!!』
『くす、それじゃ私の料理が、人生で一番美味しかったってことだね』
『奉納祭に来る神様って、どんな姿をしてるんだろうね?』
『……。じゃあ、かみさまとけっこんすれば』
『私はホーライちゃんと一緒がいい』
『もっといっぱい褒めて。そうしたら、私もいっぱいホーライちゃんを褒めるから』
『ずっと一緒に、同じ高さの景色を見たいよ』
湧き出しては消えていく、ヴィクトリアとの思い出。
その光景すべてが笑顔では無い。
けれど、すべてが愛しい大切な思い出だ。
『ヴィクトリア、改めて、話があるんだ』
『なに、かな……?』
『俺の……、妻になってくれ』
『どんな奥さんになればいいの?』
『笑っててくれ。いつもみたいに、さ』
『ホーライちゃんも一緒に笑ってくれるなら……。いいよ』
「約束、したのにっ……。一緒に過ごそうって。これからずっと、一緒だって約束を俺は、守れなかっだ……っ」
約束の裏切り。
その代償は、ホウライの全てだった。
親も、親族も、親友も。
家も、村も、食料も。
体も、心も、すべてを投げ捨ててヴィクトリアを欲し、そして、失敗した。
「ごめん、ごめんよ……。不甲斐なくてごめん、ホーライになれなくて、ごめん……」
泣き崩れて力尽き、そのまま地面に伏した。
痛みは感じなかった。
それを感じる身体が既に壊れているから。
「ごめんな、みんな……。ごめん……、ヴィクトリア」
そうして、ホウライは何もかもを失った。
心身ともに喪失。
生きていること自体が奇跡と呼ばれるような状態も、永遠には続かない。
「あぁ……。だれ……だ……」
意識を失う刹那、虚ろになった瞳に映ったのは、少女の細い足。
それが陶磁器の様に美しい白い足だったのなら、ホウライは手を伸ばしただろう。
だが、その足が持つ肌は褐色、ヴィクトリアのものではなくて。
「良く生き残ったと褒めてやるじゃの。お前さんは世界最強には程遠い。……が、世界で三番目である儂を感心させる程には凄いからの」
薄れゆく意識へ向けられた賛辞。
それに何の意味があるのだと、ホウライは思った。
**********
勝利を失いし敗北者……、ホウライ。
彼が『ホーライ』と名乗り始めるのは、これから数年後のこと。
千の害獣を殺し、万の人々の命を繋いだ彼の姿は、まさに人類の救済者。
そして、真の意味での救済が彼に訪れないまま、時代は刻を重ねていく。
皆様こんばんわ、青色の鮫です!
ホウライ伝説、第一章、『始まりの奉納祭』はこれで完結となります。
幾度となく絶望に立ち向かい、それを乗り越えようとしたホウライ、いかがだったでしょうか?
タヌキが出てきたのにコメディにならないとか、蟲量大数は本当にヤバい奴ですね。
そんな世界最強と因縁が出来てしまったホウライは――、というのは第2章のお話となりますので、もう少しお付き合い頂けたらと思います。
(ブルファム初代国王ライセリアと、ラルバのお話です)
次章は少しコメディ感を取り戻しつつ、ラルバが引き起こした世界戦争の様子を描く……、ということで、若かりし頃の冥王竜などが登場予定。
ダークファンタジーでも愛嬌あるキャラクターは必要なのです!




