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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第12章「無色の篝火狐鳴」

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第12章プロローグ「神が失した悪意」

 

「随分と大がかりな仕掛けをしてるね。ついに尻尾を出した今は……、『金鳳花きんぽうげ』と呼んだ方が良いかな?」



 時が巻き戻されていく闘技場を見やる、熱狂した人々の群れ。

 温泉郷の幼女将の手により物質が再生していく光景は、今までの戦いを軽々と凌駕する奇跡。

 涙すら溢しながら傍観する彼らは、壊れてしまったものを取り返す難しさを知っている冒険者だ。


 そして……、その光景、今まで繰り広げられていた戦い、そこに至るまでのエピソード、それら全てを記憶した女へ、軽率な声が掛けられた。

 その声の持ち主こそ、この世界そのものへ野次を飛ばす――、唯一神・ヤジリ。



「ふぅ……、神か。丁度いいタイミングで現れたものだ」

「丁度いい?」


「物語を奏上しようと思っていてね。たった今、準備を終えた所だよ」



 事もなさげに呟かれた言葉の意味を理解できる者は少ない。

 指導聖母以上の者でなければ、作家か何かと勘違いするだろう。


 これは、不安定機構の由来――、世界存続を掛けた混乱の予兆。



「そうなん?その割には、先の戦いで仕掛けて来なかったけど」

「アレはいわば前哨戦。本命はこっちさ」



 女が向けた視線の先には、涙目で友達に抱きついた温泉郷の若女将・サチナ。

 幼い年齢で巨大なビジネスを背負う小さな姫へ、ほのかな称賛を贈る。



「ほぅ、ここまで完璧に復元するとはな」

「あぁ、すごいね。グラムに破壊された物質に干渉するなんて、白銀比以外じゃお前しかできないと思っていたよ」



 唯一神がサチナを闘技場に連れて行ったのは、秘めている才能へ好奇心を抱いたから。

 10にも満たない年齢でありながら、その実力は既にレベル999999(ミリオン)を軽々と凌駕。

 並みの皇種や眷皇種では相手にならず、時の権能を使い始めた今となっては、神が定めし階級を持つソドムや希望を頂く白天竜にすら土を付けかねない。


 正真正銘、世界の頂点に立つ那由他にすら一目置かれるサチナ、その実力は如何ほどか。

 そんな好奇心を抱いた唯一神は、失敗するという予測を外し失笑を溢している。



「あーあ。今日は随分と読みが外れるなぁー」

「神の予測すら超える事態だったか。まったく、確認の手間が増えて仕方が無いことだ」


「確認が増える?あぁ……、ユニクルフィンの無色の悪意(カラレスハート)が、なぜ消滅したのか。それを見に来たのか」



 何かを吟味するように、唯一神が呟いた。

 その言葉の中には、明らかな興味がある。



「普通にしてれば消滅するような物じゃないしね。で、分かったん?」

「タヌキの仕業だった」


「くっくっく、ホント相性悪いよね、お前達」



 心の底から愉快そうに笑う唯一神。

 だが、笑みを溢しているのは女も一緒だ。



「ありゃ?……で、そんなことを確かめる為に、こんな大がかりな事を?」

「そうだとも。彼の状態も確認対象だからね」


「でも、それっておかしくない?直接、声を掛けてたじゃん」



 明確な目的が無い唯一神は暇を持て余し、たまたま偶然、わんぱく触れ合いコーナーに目を付けた。

 そして、ノウィンから貰った小遣いを握りしめて日参。

 B級グルメとジュースに舌鼓を打ちつつ、冒険者の戦いに野次を飛ばす毎日を送っていた。


 そんな経緯から、ユニクルフィン達がどんな行動を取っていたのかを、唯一神は把握している。

 そして、飛びきりに強大な悪意に接触した事も。



「声を掛けて確認したからこその、この状況だ」

「ふうん?」


「あまりにも急成長が過ぎるのでね、彼を利用して確認したのさ」



 サチナを見る女の目つきには、優しい姉の慈しみを含んでいる。

 だが、そこに宿っているものが悪意だと知っている唯一神は、ぞくりと背筋を振るわせ――、女に興味を抱く。



「ユニクルフィンから論理感を消去し、戦闘を過激化させたか。ベアトリクスやラグナガルムもだろ?」

「彼にもう一度、心を植え付けられるか試した。結果、無色の悪意は根付かず、僅かに感情を揺るがせたのみ。いくつかの加護が邪魔をしているようだ」



 皇種にとって大衆に手の内を晒す行いは、種族絶滅へ繋がる自暴自棄だ。

 直接的に見られていなくとも、いずれは情報が敵対する皇種へ伝わり、致命的なアドバンテージを与えてしまうからだ。


 そして、ラグナガルムやベアトリクス、ユニクルフィンはそれぞれが持つ実力の全てを出し切って戦わされた(・・・・・)

 あろうことか、数十種の種族が見ている、その前で。



「クマや狼と共に、手放すことになったユニクルフィンという駒を弱体化。なるほど、確かに良い一手だ」

「グラムを持つ彼の役割は、那由他の介入を防ぐことだった。その役目は十分に終えている」



 女は語る。

 一刻前、ふらっと現れた那由他がこれから起こる戦いに不干渉を申し出てきたこと。

 そして現在、ユルドルードは別大陸に進出し、不在であること。

 その他、いくつかの有益な情報を話したこと。


 これらは女の仕込みを壊してしまったことへの詫びだと話し、那由他は去った。



「ということは、いよいよ始まるのか……。無色の悪意(カーラレス)、キミの物語が!」



 興奮を隠しもせず、唯一神はぎらついた視線を女に向けた。

 そして、女は、黄金色の尻尾を出す。



「殺し合うのは人間同士だけでは無い。その御旗と成るのは私とサチナ、白銀比の娘」

「人間だけのちっぽけな戦いですら、ボクは十分に楽しめる。だが、キミの物語はその上を行く」


「予想外だったよ。まさかここまで速くサチナが成長し、他種族連合を創り上げるとはね。奇しくも、姉妹で考えた事が同じとは」



 愉快そうに、それでいて、不愉快そうに。

 複雑な顔で笑う女、だが、その心の根底にあるのは”楽しい”という感情だ。



「一方的な戦いは遊戯とは呼ばない。最低限、対等でなければならない」

「そうか、だから君は待っていたのか。自分に匹敵する可能性を持つ相手()を」


「そうだ。だが、ただ待っていた訳じゃない。思い付く限りの準備を終えている」

「……もしかして、キミはボクですら操って見せたのか?一度は世界終焉に王手を掛けた『造物主マスターアーティクル』、それを表舞台に呼び戻す為に!」



 驚愕で目を丸くする神へ、女は笑みを返す。

 否定とも肯定とも取れる曖昧な答え、そして真実を告げないまま、女が口を開く。



「神。私は我慢が出来なくなってしまったんだ。待ち望んでいた白銀比の子(引き金)が、こんなにも完璧な状態に仕上がってしまってね」

ボク()ですら利用した物語か、存分に楽しませてくれるんだろうね?」


「もちろんだとも。物語は三部劇、まずは――、サチナを殺す」



 今度は明確に、されど、宵闇の様に静かな口調で女は語る。

 それが、始まりなのだと。



「サチナを殺す。そうすれば、狂った白銀比が新たな物語を生み出すだろう」


「それがどういう物語であるにせよ、不安定機構は総力を掛けて私を殺しに掛る。これは、貴方が望んだ物語のオマージュだ」


「世界をブランノワルに分けた戦い。だが、今度の私は立場が違う。あらゆる生物を味方に付け、逃げ切ってやろうとも」



 遥か昔、世界終焉を回避する為の代償として行われた、『遊戯』。

 それは、多くの悲劇を生みだした。


 世界を意図的に対立させる組織、『不安定機構アンバランス

 全ての生物の常識を覆した法則、『レベル』

 そして……、七体の頂上の化物、『始原の皇種』


 更に付け加えるのならば、歴史に名を刻んだ者達、もしくはその祖はこの時代に生まれている。

 エデン、インティマヤ、ソドム、ゴモラ、エルドラド。

 不安定機構を統べる『リンサベル家』、白銀比、アマタノ。

 滅亡の大罪期と呼ばれる大災厄を引き起こす蟲の概念も、この時代に生まれたのだ。



「その戦いは本当に楽しませて貰った。世界に飽き飽きし、諦めていたボクを、笑わせ、驚かし、感心させ、不愉快にし、嫌悪させ、後悔させた。そんな、とめどなく押し寄せ震える感情の螺旋が、ボクに生を実感させたんだ」


「戦いの渦中に居たのはノワルとカーラレス(キミ)。そして、サチナの陣営には子孫であるリリンサがいる」


「……ははっ、いいじゃないか!」


「ノウィンの作る物語は楽しい、だが、それはほぼコメディだ。多少の犠牲はあれど、物語全体は必ず良い方向に向かうハッピーエンドでしかない」


「だが、キミが仕込んだ物語は違う。他者を省みず、世界を存続させる為なら、全ての生物が絶滅しても構わないという……、最果ての自己本位。あぁ、ボク()は、それが見たくて見たくて仕方が無い!!」



 それはまるで、映画を楽しみにしている子供のような笑顔。

 屈託なく笑う神へ、無色の悪意は一礼する。



「数百年を使い仕込んだ物語だ。植え付けた悪意は万を超え、今、それら全ては満ち足りている」

「キミが支配下に置いている皇種が、一体どれほどいるのやら? おそらく、ユルドルードに何匹か狩られてると思うけど……、熔嶽熊やヴァジュラコックもそうじゃないのかい?」


「それが彼らの役割だった。水面に小さなさざ波が立てば、途端に水底を覗けなくなるだろう?」

「なるほど、キミが大陸各地で戦争を誘発させていたのも、その為か。ただの余興だと思っていたよ」


「余興ではあったさ。私は狐。金枝玉葉きんしぎょくようが死して定めた呪いに逆らう事はできない」

「永久の遊びを(ボク)に願った始原の皇種。その遺志は娘である白銀比に受け継がれた、そして……、孫であるお前にも」



 ふぁさりと揺れる金色の九尾を認識できる者は、この世界でたったの2名。

 魂を感知できる不可思議竜と、それを喰らう事で知識を得た那由他。


 女――、金鳳花きんぽうげの認識錯誤は、母である白銀比すらも欺く。



「さしずめ、これは鬼ごっこ。あらゆる手段を使ってギンから隠れる遊戯。一年一年を積み重ねた数千年、キミはずっと勝ち続けてきた訳だ」

「だが、母上は遊戯そのものから降りようとしている。幾度となく子を成し、子という存在を希釈し、私達を忘れようとした。それは――、許されないことだろう?」



 唯一神から視線をはずし、金鳳花が振り返る。

 そこに居たのは、小さな二人の男の子。



「私達にくすぶる悪意()が許さない。なぁ、そうだろう?兄上」


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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば一年ほど前に『長女って作中で……』とか感想を書いたような……と思い見返してみたらやっぱり書いていた。 とうとうあの時の話が動き始めるんですね。 いろいろと楽しみにしています。
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