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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第11章「恋敵の壊滅竜」

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第146話「わんぱく触れ合いコーナー!(意地)②」

 

「……お師匠さぁ、どう思う?」

「不味かろう」



 湧き上がる観客席の中心、特等席が設けられているその場所で二人の英雄が呟いた。

 さっきまでの余裕は何処にもなく、どちらとも利き手に剣を握っている。



「あれ、ユニくんの記憶にあった決戦の時のだね」

「蟲量大数と対峙し生き残った力、俗世で使うには過ぎた力だわい」


「最悪、第四魔法次元ワールドフォースに放り込む。けど、今のおねーさんじゃ受け止める自信ないなぁ」



 その呟きに、老齢の英雄・ホーライは答えなかった。

 険しい瞳の奥に見据えているのは、ローレライすら持ち得ぬ手段か、それとも、握った手に持つ『切り札』の行使か。


 そんな張りつめた空気を知覚できているのは、発生源である英雄を除いて二人。

 全身の臓器が痙攣し意識を失う直前のナインアリアと、世界が軋む音で聴覚が塗り潰されたテトラフィーアだ。



「……! いやはや、本当にまずい状況だわい」

「上質な酒宴の後の夢心地に水を差す。よほど、わっちを舐めているでありんすなぁ?」



 カロンカロン……と下駄を鳴らし、妖艶な銀色が姿を現す。

 豊満な胸に肌蹴た和服、熟れた果実のような赤い唇が、ふぅ。っと吐息を撒き散らした。



「のう、ホーライ。久方ぶりの挨拶にしては、ずいぶんと洒落が効いているなんしな?」

「ほっほっほ、まずは一杯。米酒で良ければいかがですかな?」



 とん、っと机に召喚された瓶。

 その価値を知るローレライは、『うっわそれ、お師匠が大事にしてる奴じゃん!』っと目を見開いた。



「タヌキにちょっかいを掛けられた小娘、注ぐでありんす」

「あん……?って言いたい所だけど、勝ち目無いしね。にゃははははー」



 桐で出来た升に酒を注ぎながら、ローレライは思う。

 なるほど、エデンと同類か、と。



「白銀比様がいらしたのでしたら、儂のような老いぼれが手を出す必要もありますまい。安心いたしました」

「神殺し、それもグラムでありんすか。まったく、忌々しいなんし」



 美しい所作で升に口を付けた白銀比、だが、その瞳には安心などありはしない。

 鋭く細めた目には、確かな苛立ちと恐れが宿っている。



 **********



「最終局面だ、ラグナガルム」

「うむ、やろうぞ。英雄よ」



 光を纏う、いや、光と同化したラグナガルムがゆらりと瞬き、消えた。

 その姿を見て、コイツの権能『死と滅亡の月光(ラグナレイ)』の本質を悟る。


 ベアトリクスが言った「光そのもの」という説明の通り、この権能は肉体の大部分を光へと置き換えるものだ。

 肉体を構成する皮膚、筋肉、臓器……、それらは光が持つ、『不可視』『不変』の特性を得て、擬似的な月光と化している。



「見えてはいるが……、速いな」



 ラグナガルム自体は不可視であっても、周囲の空間と混じり合っている訳ではない。

 故に、空間全体の破壊値数を把握する事で、ラグナガルムの現在位置が判別できる。


 コイツの移動速度は、ほぼ光速(・・・・)

 物質が発揮できる最高速度。

 ただし……、この世界に設定された最高速度概念では無い。


 世界で最も速い速度を司る神の因子は、『神経速度ニューロン』。

 覚醒・神殺しを持つ者、そして、感覚系の世絶の神の因子を持つ者はこの因子が強化され、超越者に比肩できる様になる。



「見えなかろうが光速だろうが、対処はできる。ヴィクティムに言わせりゃ、これが出来なきゃ児戯にすらなれない」



 小さく弧を描くようにして振るった右手に衝撃が返り、グラムの先端に光の粒子が付着する。

 そして、動揺を隠すような足音が響いた。



「当たったけど背中か。大したダメージじゃねぇな」



 いくら感知できたとしても、肉体が追い付かなければ意味が無い。

 だが、ラグナの速度は、物質の特性を捨てることで手に入る速度、つまり、肉体を持っている俺では辿りつけない領域だ。


 それでも、攻撃する方法はいくらでもある。

 むしろ、光速で固定されているのなら、不規則な性能を発揮するベアトリクスより戦いやすい。



「……まぐれか偶然。そう断じられれば楽なのだがな」

「権能の弱点を分かってるから、小さくなったんだよな?」



 万能に思える光の権能を持つラグナガルムが最強になれない理由、それは、この力の扱いにくさにある。


 光は物質が存在する為に必要な因子であり強力な効果を持つが、同時に、複雑な制約も課せられている。

 その一つが、『不変速』。

『光速で移動する物体は、それ以外の速度を発揮できない』というものだ。


 故に、移動しようと思った瞬間から、移動を止めようと思った瞬間まで、必ず同じ速度で移動する。

 だから、互いの距離さえ分かれば、攻撃のタイミングを逆算できるようになる。



「図体がデカイと攻撃を喰らいやすいのは道理であろう」



 不可視を見破り、光速移動にも対応した。

 だというのに、空中に姿を露わしたラグナガルムが浮かべているのは喜色。

 楽しいとでも言いたげな表情で、俺を睥睨している。



「だが、ただ小さくなった訳ではないのだ」

「……へぇ」


「我は満月狼の”皇”。……種を率いる者ぞ」



 俺の目に映ったのは、夜空に輝く満月に追従する、無数の星光。

 ラグナガルムが君臨する空、そこで幾つもの光が瞬き収束していく。

 やがて、星の集まりが意味を成し――、25匹の星光狼が生み出された。



「我が種族は群れで戦う。卑怯と言ってくれるなよ、英雄」

「その程度の数で良いのか?俺の知ってる魔獣はもっと分裂するぞ」


「……ほざけ!」



 気高き狼の皇の琴線、それは――、タヌキ。

 どうやらゴモラにも思う所があるラグナガルムは咆哮を上げ、作りだした配下と共に大地と空を駆けた。



「《単位系破壊ユニットゼロ圧力パスカル》」



 二振りあるグラムの片方、左手の刀身に圧力概念の破壊を宿す。

 圧力とは、物体が別の物体に接触している面に掛る力の総称。

 空気と接触している面は『気圧』、水と接触している面は『水圧』……というように、外部から掛る力と同等の力を物質は発し、均衡を保っている。


 そして、それらの関係性を破壊した。

 グラムの移動を邪魔するものは無くなり、同時に、均衡を保つ為のエネルギーが剣撃に加算。

 瞬きの間に迫った10匹の星光狼を切り捨て、葬る。



「なーーっ!?」

「一瞬だけなら、俺も同等の速さなようだな?」



 動き出した剣の初速は、光速とは程遠い。

 だが、物質を通り抜ける時の内部圧力の影響を受けない刀身は、力を込めれば込めるだけ加速する。

 応用が効かない光速よりも、任意の速度で固定できるこっちの方が上位互換だ。



「分身とはいえ、同胞を斬られて良い気はせぬぞ」

「俺も同じ気分だが、戦いつうのはこういうもんだろ」



 ぱり……と空気が弾けた次の瞬間には、周囲の星光狼の数が25匹に戻っていた。

 そして、これが上限数ではない。

 ワザとらしく見えるように出しているだけで、不可視化させている星光狼はまだ100匹以上もいる。


 ラグナガルムのこの技は、ニセタヌキのような無尽蔵の分裂ではない。

 魔力で作りだしているものでは無く、先程の咆哮の時に準備した物を隠しているだけ。

 おそらく、声と共に肉体を光に変換し、小分けにしたんだろう。



「《単位系破壊ユニットゼロ物質量モル》」



 今度は右手に持ったグラムに、物質量概念の破壊を付与。

 物質量とは、物体の中に含まれる要素粒子……、つまり、分子と単子の量と重さの総称。

 簡単に言えば、その物質が持つ『重量』、『密度』、『強度』などを司る概念だ。



「なるほどな、こうなるのか」



 軽く振るったグラムの軌跡が凝固し、黒い結晶と化した。

 分子の結合を同時に破壊すると、全ての原子が混ざり合い、とてつもない強度の金属へと変化するらしい。

 破壊値数だけなら、エゼキエルよりも断然堅い。



「さしずめ、ダークマターって所か。この剣でお前を殴ったら、タダじゃすまなそうだな?」



 今度は俺から仕掛けに行く。

 カウンターを続けていても、いずれは勝てるだろう。

 だが、俺の意思でお前の顔に一発ブチ込んでやらなくちゃ、気がすまねぇ。


 四方向から忍び寄っていた星光狼を切り捨て結晶化、それを足場にして跳躍。

 左腕で空気を切り裂いて大気圧を破壊し、一気に本体へ詰め寄る。



「まさか、見えているのかッ!?」

「案外セコイ性格してるよなお前。偉そうに喋るなら出て来てから言えよ」



 先程までしゃべっていた一周り大きいラグナガルムは、能力で作りだした偽物。

 本体はこっち……、不可視の状態で太陽光に重なって隠れているコイツだ。



「やるではないか。……だが、届かぬぞ?」



 思いっきり振るったグラム、その刀身はラグナガルムに触れなかった。

 それはまるで、蜃気楼の如く。

 回避すらされること無く、光と成ったラグナガルムの中を通り過ぎる。



「本体は不可視に加え、不接触まで備えてんのか」

「分かったか。我は無敵なのだ」



 ドヤ顔で語るラグナガルム、だが、何処となく目が泳いでいる気がする。

 つーか、無敵だったらタヌキに負けんなよ。



「確かに普通の剣じゃお前を殺せそうにないな。だが、グラムならそれが出来る」

「……くっ!」


「《単位系破壊(ユニットゼロ)光輝ルクス》」



 物質量の破壊を解除して付与したのは、光輝概念の破壊。

 光輝とは、光の『強さ』『明るさ』『色』『速度』『エネルギー』の総称。

 要するに……、お前特攻だ、ラグナガルムッ!!



「これで触れられるぞ、ラグナ」

「それがどうしたッ!一本限りの剣など、100以上の顎に勝てる道理など無いわッ!!」



 激昂して牙を剥くラグナガルム、隠されていた星光狼が一斉に俺へ視線を向け、僅かな時間差を付けて襲い掛かってくる。

 一匹……、二匹……、あぁ、全体の一割は囮だな。

 今の俺の動きを調べ、完璧な未来予知をする為の布石か。



「良いのかよ。このままだと各個撃破で終わ……!」

「愚かなッ、《天照見皇狼(アマテラスオオカミ)!!》」



 愚かなのはお前だよ。

 こんなあからさまな誘いに乗るなんて、未来予知が聞いて呆れるぜ。


 黒い紙に白いペンで集中線を書いたような、光景。

 太陽光を星光狼が吸い上げた事で夜と化した周囲の中、眩い光が一斉に俺めがけて奔る。


 ひいふうみい……、おぉ、本体を除いて118匹。

 丁度じゃねぇか。



「《単位系破壊ユニットゼロ元素エレメント!》」



 ……簡単な話だ。

 全方向から光速攻撃に対処できないのなら、それをさせなければいい。


 両方のグラムに付与させたのは、元素概念の破壊。

 元素とは物質の構成要素、これを破壊し組み直すことで、任意の物質を創造できる。


 最初に破壊するのは……、銀の概念。

 星光狼と一緒に空気中に漂う微量なそれを破壊し、手が足りない方向へ掻き集める。



「なん、だと……?」



 何が不思議なんだ?ラグナガルム。

 なにせ、迫ってくるお前らは光速だ。

 急停止できる訳がねぇだろ。


 一匹の星光狼が銀の結晶にぶつかり、反射。

 周囲を巻き込んで歪み、軌道が逸れる。

 それと同時に、役目を終えた銀が跡方も無く崩壊。


 この世界の構成因子、その一つが壊れた。



「覚悟は良いか?ラグナガルム」



 10……、20……、30、40、50……、110。

 残すは8体、『窒素』『酸素』『アルゴン』『二酸化炭素』『ネオン』『ヘリウム』『クリプトン』『キセノン』。

 それら空気の成分が、ラグナガルム破壊へのカウントダウン。



「粋がるな、ユニクルフィンッ!!」



 ……8、7。

 キセノンとクリプトンの破壊。



「あぁ、粋がってるつもりはねぇんだ。ただ……」



 ……6、5、4。

 ヘリウム、ネオン、二酸化炭素の破壊。



「我が牙よッ!!《月読命狼噛ツクヨノオオカミッ!!》」



 ……3、2。

 アルゴン、酸素の破壊。



「1、窒素の破壊」

「っ!?」



 訳が分からないって顔してるな?

 お前が突っ込んだ空間には、空気どころか、世界を構成する元素が一つも残っちゃいない。

 どれだけ暴れようが、もう二度と動けねぇ。



「……ッ!?」



 悟ったか?

 いくら光速で動こうとも、踏みしめて進む空間が無いんじゃ、どうしようもない。


 俺は星光狼と共に、世界の構成要素たる118の元素の全てを破壊した。

 そうして創りだした虚無は失った物質を取り戻さんと蠢く、深黒のブラックホール。

 正常な元素を取り込み終わるまで、内部に捕らえた物質を解放する事は無い。



「《単位系破壊(ユニットゼロ)神の因子(コマンドメンツ)》」



 俺は同じ失敗はしない。

 勝利宣言ってのは、勝ちが決まってからやるもんだって教わったからな。



「《星神破壊・"最終節を書き変えようアメンドメント・ゴッデス"》」



 二振りの刀身には、グラムが持つ絶対破壊と、俺が持つ神壊因子が付与されている。

 その効果は類似するものでありながら、それぞれが持たない破壊の要素を補う。



「……っ!!」



 共鳴する刀身、発する音と光でさえ、容易に物質を破壊する波動と化した。

 そして俺は、静かに剣を振り下ろす。


 物質を、空間を、神の因子を。

 あらゆる、二次元、三次元、四次元……、複数に渡る次元、その痕跡すらも残すことなく。


 向けた刀身の先に有ったラグナガルムを捉えた深黒は、もう残っちゃいない。





 ……。

 …………。

 ………………。


 ……………………って、しようと思ったけど、やめた。

 流石にやり過ぎ。

 俺まで魔王になってどうすんだよッ!!

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