第8話「捜索と調査」
俺は本日の計画を始めるべく、ウリカウ総合商会に向かった。
見えた店の前で昨日案内してくれたファーベルさんが掃除をしている。
これは幸先がいいかもしれない。
「おはようございます。すみません、ちょっといいですか?」
「あら?これは、ユニクルフィン様。いらっしゃいませ」
今日の予定は、鳶色鳥を探しながら安くて良い商品の売っている店を見つけ、リリンに贈るプレゼントを購入する事だ。
そして、その両方の手がかりになるのがこのウリカウ総合商館。
ここは鳶色鳥の目撃情報も多く、何より様々な物が売っている。プレゼントを探す場所としてもちょうど良いと思っていたのだ。
さっそく鳶色鳥について知っているかと聞いてみる。
ファーベルさんは特に考えることもなく答えてくれた。
「鳶色鳥ですか……確かによく見かけます。が、最近は見ていませんね」
「そうですか……。ちなみに鳶色鳥に詳しい人とかご存じないですよね?」
「あ、それなら……。ダイ!マリー!ちょっとこっちに来なさい!」
「「はーい!」」
え?もしかして心当たりがあるのか?
鳶色鳥の捜索を始めてから、まだ5分も経っていないのに、もう核心に迫っちゃうの?
俺の期待に答えるべく、店の奥から二人の子供が飛び出してきた。
ファーベルさんが言うには、この子等が鳶色鳥に詳しいのだとか。
「あなた達、鳶色鳥についてお話をしてあげなさい」
「え?ゲロ鳥の?いいけど……」
「ゲロ鳥はよくその路地から来るんだよー!」
……ゲロ鳥。
聞き返すまでもなく一瞬で理解した。
どうやら、鳶色鳥は子供達からゲロ鳥と愛称をつけられ、可愛がられ?ているらしい。
おそらく鳴き声から発展したと思われる、なんともド直球なネーミング。
子供とは残酷である。ぐるぐるげっげ―。
「俺は鳶色鳥を探しているんだけど、どこにいるか知らないかな?」
「んー僕らはあんまり探しにいかないからなぁ」
「たぶん、サファなら知ってるよ!おーいサファーー!!」
そして現れた三人の子供。
男の子二人に女の子に一人だ。
「なんだよ?今、商品出ししてたんだけど?」
「ゲロ鳥について聞きたいんだってー」
「ゲロ鳥なら公園にいるんじゃなかったか?」
「たぶんそう」
「そんなきがする」
「俺らじゃ確証がないな。アマリアに聞くのが確実だ」
「「「アマリアーーー!!」」」
そしてさらに、子供が三人現れた。
今度は女の子二人に男の子一人。
ちょっと待て、合計8人もいるんだけど?
何ここ、託児所?
「ゲロ鳥探してるんだってさ」
サファと呼ばれていた子供が、今来た子供たちに聞いている。
その中で一番髪の長い子が目をキラキラさせながら答えてくれた。
「ゲロ太を探しているですの?ゲロ太ならセカンダル中央公園の垣根の中にいると思いますわ」
……ゲロ太。ついに鳥要素すら消えてしまった。なんと残酷なことだろう。
だが、鳶色鳥の有力情報を手に入れた。
しかも、その垣根の中は巣になっているというのだ。
「え、巣?そこにあるの?」
「朝方は大体そこにいますの。パン屑を食べる姿が可愛いですの!」
なんと!居場所のほか、好物の情報まで手に入れてしまった。
こんなに幸先がいいなんて、後が怖い。
公園にタヌキとか出没しないよな?
「お母さん、戻っていい?」
「えぇ、ありがと」
そして子供たちは店の中に消えていった。
リリンから家族が多いと聞いていたけど、実際に見ると吃驚するな。
ちなみに、ファーベルさんによると他に7人いて15人兄弟だとか。
「お役に立てましたか?ユニクルフィン様」
「ありがとうございます!あ、それともう一つ聞きたいことが……」
ゲロど……鳶色鳥の情報は手に入れたことだし、次はプレゼントについてだ。
正直何を選んだらいいのか分からないので、ファーベルさんの意見を参考にしたいと思っていたのだ。
「実は、リリンにプレゼントをしたいと思っているんですけど、どういうのがいいかよく分からなくて」
「まぁ!それは良いですね!もちろん協力いたしますわ」
ファーベルさんは心なしか目を輝かせて、俺の相談に乗ってくれた。
俺は手持ちの金額や、出来れば形に残るものが良いなどを伝え、構想を練っていく。
そして、結果的に服に付けるブローチが良いという事になった。
「ブローチですか?」
「そうです。正直、リリン様は指輪やネックレスなどのアクセサリー類をあまり着用されません。ですが、ブローチだけは見たことがあります」
「へぇ……いいですね。売り場は何階ですか?」
「あ、うちのはダメですよ!普通に高いですから」
そうなんだよな。俺の手持ちじゃ心許ない。
ファーベルさんの話では、このウリカウ総合商会で取り扱っているブローチは冒険者用の魔道具で、お値段が50万エドロ以上のものがほとんどらしい。
流石に手持ち16万エドロだと厳しいか。
どうしたもんかと悩み始めた時、ファーベルさんから提案が有った。
「ここから道なりに進むと、イイモン古道具店というお店があります。そこなら品質の良いものが安く手に入るかもしれません」
「イイモン古道具店?」
「えぇ、そのお店は買い取ったものを手直しして売っているお店なんですが、これが中々掘り出し物が有ると評判なんです」
「たとえばどんな?」
「そうですねぇ……。水を入れておくとずっとぬるいままのコップとか、光を当てるとすごく光るランプとか」
……うーん、ビミョ―。
特に使用方法が思いつかない。
ぬるいままのコップはまぁいいとして、光を当てるとすごく光るランプは本当に要らない。直接照らせよ。
「えっと、そのお店にブローチが売っているんですか?」
「あるはずですよ。主人はこれを買ってきてくれましたから」
そう言ってファーベルさんは胸に付いていた小さなブローチを見せてくれた。
なるほど、このサイズだから安いのか。
だけど、その中心に付いている宝石は透き通るような水色。非常に綺麗に輝いている。
「すごく綺麗ですね……」
「しかもこのブローチは、魔道具なんですよ」
「そうなんですか?効果とかって……?」
「効果は、近づけた物の温度が分かります。この裏側に表示されますわ」
……うん。
なんというか。主婦の人には良いかもしれないな。
料理に使う油の温度とか、大事だって言うし。
「……ありがとうございます。近くに行ったらよってみます」
「えぇ、掘り出し物が見つかるといいですね」
プレゼントの第一候補も決まり、俺の冒険は順調にスタートした。
まずは公園に行って、ゲロど……鳶色鳥を探そう。
リリンの話だと見つけた後は、バッファの魔法でゴリ押しで捕まえると言っていたし、もしかしたら今日中に捕まえられるかも?
安直な考えのまま、俺は公園に辿り着いた。
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俺は公園に入るなり、片っぱしから垣根の中を探して回った。
一口に垣根と言っても結構な量があり、密集している所は見通しが悪い。
奴の方から出てきてもらった方が速そうだ。
俺は自分のプライドを捨て、高らかに、鳴いた。
「ぐるぐるげっげー!!」
「ゲロ鳥なら、もういないよ?」
「……え?」
なん……だと?
たまたま近くを通りがかった子供に、衝撃の事実を聞かされてしまった。
「え?いない?」
「いないよー。この前、町の外に出ていっちゃったから」
……マジか。
簡単に捕まえられると思っていたのに、一気に難易度が跳ね上がったな。
町の中なら探しようがあるが、外に出てしまったのなら話は別だ。俺一人ではどうしようもない。
一気にうなだれてしまった俺に、さらに追い打ちをかけるような事が起こった。
俺は鳶色鳥を探すのに夢中で気がつかなかったが、この公園には結構な人数が遊んでいたのだ。
そして、公園の中にいる人の視線が俺に集まってしまっている。
「あ、いえ、その……」
特に子連れの親の見る目が非常に鋭い。
どう考えても、不審者だと思われているだろう。
周囲の確認を怠るとは、冒険者として俺もまだまだだな。
ぐるぐるげっげー。
皆様こんばんわ青色の鮫です。
ここ数日の間、1章から2章にかけて、文字の体裁を整えるなどの改変を行っております。
内容等はほとんど変えていませんが、1章8話で英雄についての補足を追加しています。
詳しくは活動報告に載せておきますね!