第115話「わんぱく触れ合いコーナー!(死地)④」
「我が前に立つのか、人間よ。喉笛を食いちぎられる覚悟はあるのだろうな?」
「うっせぇ。お前こそ全身をモフられまくる覚悟は出来てんだろうな?今夜は2人と2匹がかりで仕留めに掛るぞ?ん?」
飼い主たるワルトと俺、その他タヌキのコスプレをした魔王2匹でモフりまくってやろうか?
特に魔王2匹のモフりは強力だ。
加減ってもんを知らない。
「……威勢がよいな、人間よ。気に入ったぞ、我と言葉を交わそうではないか」
そう言って、縄張りの隅っこに向かって歩いていくワンコ。
最早、皇たる威厳の欠片も無い。
「ロイ、ちょっと行ってきていいか?」
「構わないが……、僕らだけで満月狼と戦うのは無謀だぞ」
「ほねっこクッキーでも食わせてればいいんじゃないか?ほら」
俺の読みが正しければ、ほねっこクッキーで大人しくなるはず。
だってコイツらは狼の癖に犬ぞくせ……あ、一列に並んで『待て』してる。賢い。
「で、何でこんな所に居るんだよ、ラグナ」
「ぐぬぅ……、森に住む同胞に会いに行ったら、露骨にガッカリされたのだ」
「マジで皇の威厳が無さ過ぎるだろ……」
「違う!我が満月狼の掟で、群れのボスは威厳を示さなければならぬのだ」
「それで?」
「その方法は千差万別だが……、率いる群れ全員にご馳走を用意するのがセオリーなのだ。要は、群れ全体を養う力を示す訳だ」
「ほうほう?」
「そして、白銀比の娘に狩りを禁止された最近は、ここでご馳走を確保して配っているらしいのだ。……群れ全員が目を輝かせて我を見つめるのだ。皇様がご馳走してくれる肉はどれだけ美味なのだろうと期待しているのだっっ!!」
……。
…………。
………………つまり、お土産を持って行かなかったら駄犬扱いされたと。
で、悔しいから此処で荒稼ぎをして、皇の威厳を見せつけようとしていると。
うん、理解はしたし、同情も禁じ得ないが……、普通の満月狼の中に皇種が混じってるのは酷過ぎんだよッッ!!
せめて特殊個別脅威として区別しろッッ!!
そんなんだから配下に舐められんだよッ!!
「事情は分かった。だが、このままって訳にもいかねぇぞ」
「それは困る。我にも威厳というものがあってだな」
「ワルトに連絡すれば一発で解決するんだが……、デートコースを作りに行った俺が、ロイやじいちゃんとデートしてるのがバレるとなぁ」
ロイやじいちゃんだけなら何とかなりそうだが……、テトラフィーアやアルファフォート姫が絡んでくるとヤバい。
そこにリリンが参戦し、愉快犯たる大魔王陛下がちょっかいを掛け、メルテッサが――、あ、目眩がしてきた。
「んー、あ、そうだ。良い方法があるぞ」
このままラグナガルムを放っておくと、タヌキ奉行に通報される。
だが、コイツは駄犬扱いされていても皇種、タヌキ奉行程度に負ける訳がない。
そうなると、タヌキ奉行の名代としてバビロンが出てくるはず。
そうして繰り広げられる、狼の皇VS裏タヌキ帝王。
冒険者たち、ぐるぐるげっげー待ったなし。
「お前、ベアトリクスと顔見知りだよな?」
「うむ。アルティが皇種になる前から知っているぞ」
「アル……、ティ?」
「クマの皇は代々、ベアトリクスと名乗っているのだ。そして、アイツの真名は『アルティ』、だから、ベアトリクス=アルティが正式な名前だぞ」
「そうなのか」
「先代や先々代のベアトリクスを知っている我からすれば、ベアトリクスと呼ぶのは紛らわしい事この上ない。故にアルティと呼んでおる」
アルティ……、か。
あの、クマのおぉう……。って感じのベアトリクスが、『アルティ』かー。
……。
…………。
………………この温泉卿を熱狂させる超新星アイドル!
キツネ娘・サチナとクマ娘・アルティィィィ!!
うぉぉぉぉぉ!パトロンにテトラフィーアを添えますわーッ!!
「ラグナ、ベアトリクスの匂いを辿って会いに行てこい。で、ちゃんと許可を貰え」
「うぬぅ、順調に肉を手に入れているのだ、このままで良いではないか」
「知らぬ間に皇種と戦わされたら溜まったもんじゃねぇ。お前だって嫌だろ?人間を待ち構えてたのにソドムが出てくるとか」
「嫌過ぎる冗談を言うでない」
「冗談じゃねぇんだな、これが。いいか、あそこに居るクマみてぇにデカイタヌキはな――。」
アルカディアさん経由で聞いた話によると、バビロンはソドムと仲が良いらしい。
というか、一緒に歴史に名だたるクソタヌキムーブを繰り広げた伝説級の害獣なんだとか?
つーか、肉弾戦で帝王枢機と同じポテンシャルとか、戦う前に知りたかった。マジで。
「ぐぬぅ……、只ならぬとは思っていたが、それほどとは」
「で、闘技場を荒らすとアイツがやってくる可能性があるわけだ。面倒な事になる前に許可取っとけって」
「分かった」
「あ、そうだ。テトラフィーアにも声を掛けてみろ。美味い肉を用意してるの彼女だし、融通してくれるかもしれないぜ?」
「そうなのか?うむ、群れに配るのが同じ肉では威厳が足りないと思っていたのだ。より上等な肉を用意して貰うとしよう」
よし行け、忠犬ラグナワンコ!
毎日ワルトと一緒に風呂に入っているお前なら、女子風呂に突撃するのも抵抗ないだろ!
……あと、泥やら砂埃やら食べカスやらでやっべぇ事になってるから、ついでに洗われて来い。
このままだと、毎日ブラッシングしているワルトが悲鳴を上げる。




