第98話「リリンサとセフィナの帝王枢機見学ツアー! ①」
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いろいろと多忙のため、次話(99話)の更新は、10月26日(火)になります。
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「むむぅ!?この帝王枢機もカッコイイ……!」
「ね、ね、カッコイイよね!これはエルさんので、エルヴィティスって言うんだよ!!」
リンサベル姉妹が目を輝かせながら眺めているのは、濃紫色の帝王枢機。
アップルルーン→チェルブクリ―ブ→エゼキエルトワイライトと来て四番目の見学でありながら、その興奮は増すばかりだ。
リリンサにとっての帝王枢機とは、まさに空想夢物語。
日常的に三頭熊を狩り、ドラゴンを屠り、冒険者をブチ転がすという魔王な毎日を送っていようとも、流石に人型巨大ロボとは生きる世界が違う。
「むう、いいな。私も欲しい」
「ねー、ゴモラに作ってってお願いしたら、凄くお金が掛かるって」
読書家であるリリンサはファンタジー小説も嗜んでおり、巨大ロボットという浪漫にも理解がある。
むしろ大好物と言って良い程であり、食べ物を除いた興味の中ではユニクに次いで2位に来るほどだ。
だからこれは、出来る事ならこの目で見てみたいと思いながらも、叶う事が無い夢物語という立ち位置だった。
当然、このようなカツテナイ見学イベントでは、平均を超えて表情が緩んでいる。
「エルヴィティスは他のと違って、とてもスリムな体型をしている。これは……、近接戦闘特化?」
「正解やで!」
「むぅ?あなたは……、闘技場でユニクと戦っていたエル!」
「重ねて正解やでー!!」
整備台の階段から下りて来たのは、褐色肌の美青年『エルドラド』。
親しみやすそうな笑顔で片腕をあげながら、リリンサ達の前まで歩み寄る。
「むぅ……、貴方もタヌキだったんだね」
「そうやで。ソドムやゴモラとは幼馴染でなぁ、人間の世界に用事がある時は、アイツらの代わりに顔を出しとる」
「じゃあ、ユニクにちょっかいを掛けたのも?」
「そっちは素直に好奇心やで。あ、アイツはワイの正体知らんから黙っといてやー」
リリンサの目線では、『エルドラド』は最重要不審人物だ。
そして、いずれは戦う運命かもしれないと、密かに警戒していたのだ。
闘技場で会話した以外に接点は無く、当時のリリンサにとっては『気になる』程度の扱いだった。
だが、ラルラーヴァーという明確な敵が現れ、敵の組織に属しているかもしれない疑惑が浮上。
さらに、覚醒神殺しの力を理解した今、それを所持しているエルを無視できるはずが無い。
「なるほど、全て納得した。貴方の強さは当時のユニクや私の実力を隔絶していると思っていたから」
「ま、タヌキに化かされたちゅう奴やな。で、どうや、ワイのエルヴィティスは?めちゃんこカッコイイやろ?」
「控え目に言って最高だと思う!!」
いつもの平均的な表情など忘れたとばかりに、リリンサは笑顔を咲かせた。
そしてそんな顔で語ったのは、『この帝王枢機が、今まで見た中で一番かっこいい!!』。
リリンサお気に入りのSFロボファンタジー小説の主人公機と同じく剣と盾を主武器にしている所が高評価なのだ。
「ほー、見る目があるやんけ!」
「できれば動いてる所とかも見てみたい。帝王枢機とは何度か戦ったけど、じっくり観戦できていない。きっと凄く感動すると思う!!」
「そこまで言われちゃしゃーないなー。ちょっと見せたろか?」
「いいの!?」
「ちょうど乗ろうと思ってたねん。ついでやし、嬢ちゃんらも乗せたるで。どうや?」
「控える気が湧かない程に最高だと思うっ!!」
思いがけない提案に、リリンサとセフィナは手を取り合って歓喜。
リリンサはもとより、セフィナも他の帝王枢機に乗ってみたいと思っていたのだ。
「ほな、早速いこか」
「ん、行くってどこに?」
「穴掘ってるクソタヌキを冷やかしに行くんや!!」
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「そこの脱法エゼキエル、お前は完全に包囲されている。無駄な抵抗を止め、大人しく投降しなさーい!!」
「どうして、こうなったァァ!?」
ラボラトリー・ムーから遠く離れること、数千km。
外大陸と呼ばれるこの地に、悲壮感が漂う叫びが響いた。
「ほらほら、無意味な時間を使わせないで。そうするとお前の余罪もどんどん増えて、大変な事になりますよー」
「罪を犯した覚えがねぇぞッ!!」
「そのエゼキエルが、そもそも違法改造じゃん」
「純正ど真ん中ストレートだっつーの!つーか、そんなこと言うとぶっ殺されるぞ!!」
「誰にだし。つーか、シリアルナンバーが確認できないんですけどー?」
「お前らのとは管理方法が違うから読み込めてねぇだけだッ!!」
ラボラトリー・ムー第三格納庫を大破させたソドムの最重要ミッション。
それは、神製金属の元となる鉱石の収集だ。
神製金属は元々、神が管理している別世界にある金属だ。
だからこそ自然由来では存在せず、幾つもの錬成段階を経た金属を更に特殊な方法で化合する事でのみ鋳造できる。
そして、その原材料となる鉱石の中には、外大陸と呼ばれるこの地にしか埋蔵されていない希少鉱石が含まれているのだ。
「他にも余罪がゴロゴロあるんだが?」
「言ってみろ!!」
「器物破損でしょー」
「現在進行形で殴りかかって来て、それ言う!?」
ガギィィィィンッ!!という凄まじい金属音と共に叩きつけられた、黒金の巨腕。
巨大な棍棒を神製金属性のアームで迎え撃ちながら、操縦者ソドムが吠えた。
その状況を一言で表すのならば『5対1』。
長き時代を生き抜いてきた、ソドムが乗るエゼキエル。
そしてその周囲に存在するのは、高い強度を誇る最新モデルのエゼキエル。
あまり戦闘経験が無いのか、外装が光沢を放っているその5機は、ソドムのエゼキエルとは正反対の存在だ。
「違法入国もしてるでしょー」
「俺の国に俺が入って何が悪いッ!?」
「俺の国ぃ?はっ、職務妨害しておいて訳わかんねーこと言うなし、犯罪者」
「喧嘩を売るのが仕事なのか!?そんな事してんなら、さっさとクビになっちまえ!!」
ソドムが振るう巨腕にある無数の傷跡、それは歴戦の証明。
まるで彼こそが主人公であるような孤軍奮闘は、たった一機で周囲の敵を撃ち下す。
それに相対するは輝かしい巨腕。
握られている新品の武器は不戦の証明であり、この兵士達は本当の意味での戦いを知らない。
故に、戦闘開始から1時間が経過しても、たった一機の旧型機を打ち取れずにいる。
「つーか、飽きたんだが?いい加減どっか行けよ。お前らじゃ俺の相手になんねーから」
「かっちーん。侮辱罪追加しましたー」
「事実は侮辱じゃねーつーの。舐めてんのか!!」
「お前こそ、国境警備隊を舐めてんのか。この仕事に就く為にどんだけ苦労したのか分かってんのかッ!絶対スクラップにしてやるからなァ!!!!」
ソドムを取り囲んでいるエゼキエルは、昨年度配備された汎用型・BANA-7式。
オリジナルエゼキエルの正当後継機であるこの機体シリーズは使いやすさを極めており、それ故に初心者エゼキエルパイロットに宛がわれる。
必然的に、それを操縦する5名の兵士の全てが軍属して間もない新兵だ。
「何処で盗んできたのか知らないけどさぁ、今はごたごたしてて忙しいワケ。ヴァーリン山がぶっ飛んだって話だし」
「……。」
「……あん?何で黙った?」
ソドムがこんな状況に陥っている理由、それはアンガタツェーが住んでいた山が爆裂したからだ。
大規模殲滅魔法を超える魔法を検知した魔導枢機霊王国・国王はその調査を帝王騎士団に命じた。
そして、幾つもの小隊が編成され、近隣の山を包囲調査。
そんな事になっていると思っていないソドムは平然と鉱石集めを続け……、こうして接敵を果たしてしまったのである。
「お前まさか、何か知ってるのか?」
「……。別によくねぇか?アイツは条約違反をしてたんだぞ。そんなん死刑だろ」
「……。あ、これ、もしかしなくても重要参考人って奴?」
「重要参考人ではないな」
「嘘付けぇ!!」
エゼキエルに乗っているソドムの姿は、外側からは見えない。
故に、流暢に会話するどころか、的確に暴言を吐いてくる相手がタヌキだと分かる筈もない。
こうして、5機のエゼキエルは勘違いしたまま、重要参考人へ鋭い眼光を向けた。
「絶対捕まえてやる。そして出世だ、お前ら!!」
「「「「おう!」」」」
「はっ、二階級特進がお望みか?」
光り渦巻く螺旋、大規模戦殲滅魔法の応酬。
そんな凄まじい攻防の結果……、どんなに苛烈に攻めようとも、旧型のエゼキエルの外装に新たな傷を穿つ事は叶わない。
一方、新品同様だったエゼキエルは、その輝かしいステイタスを失った。
そうして始まった蹂躙劇は、2機のエゼキエルが行動不能に陥っても終わる気配がない。
「くっ、なんだコイツ……、強いぃ」
「おらおらどうした三下ぁ!!ついさっきまで新品だったのに、俺のよりボロくなっちまってんぞ!!」
声高らかに跳躍し、体重を乗せた飛び蹴りを放つ。
総重量数百トンは下らない巨躯とは思えない軽やかな動きに、エゼキエル部隊は舌を巻くしかできていない。
その中でも、ソドムと舌戦を繰り広げていた小隊長『ミディ』は、血が出るほど唇を強く噛みしめている。
「くぅぅ、なんで!?性能は私達の機体の方が絶対上なのに!!」
「馬鹿言えよ。俺のはムーがカスタマイズしてんだぞ。汎用機なんかに負けるわけねーだろ」
「ムー?誰よ、その人!?」
「コイツはアレだな?小学校からやり直した方がいい奴だな?」
『ソドム』と『ムー』は、現代の魔導枢機霊王国を語る上で絶対に欠かせない存在だ。
国の防衛戦力として配備されているエゼキエル、その基礎はこの2名によって生み出されたもの。
だからこそ、ムーの名を出して理解されないというのは、ソドムにとって驚愕でしか無い。
なお、防衛大学を卒業しているミディは当然、『ムー』を知っている。
軍属している以上『魔導枢機霊王国・防衛軍総長』 兼 『開発技術枢機院・叡代室長』を知らないはずが無い。
……が、悲しい事に、雲の上の御方すぎる偉大なるムー様と、不審者が語るムーが結び付かなかった。
「くっそ、お前ら、もうちょっとだけ持ちこたえるぞ!!そうすれば――!」
『こちら魔導枢機霊王国より通達。応答せよ』
「きたーッ!!」
自由奔放、思うがままの採掘スローライフ中なソドムと違い、ミディは組織で動いている軍人だ。
故に、不審人物発見の報告を欠かすはずが無い。
「これで勝つる!無駄に強い中隊長のお出ましだ!!」
「第二機士団大隊長ルドワールより、小隊長ミディへ通達。接近まで、あと5分。現状報告を」
「 ぇ。」
「報告を」
「えっ、るるる、るドわーるさま!?ヒキガエルじゃないんですか!?」
ルドワールと名乗った男はミディが所属する部隊の大隊長。
十二分隊存在する魔導枢機霊王国軍のトップの一人。
通常の業務として交戦を行う者の中では、五本の指に入る実力者だと言われているエリートだ。
「そのヒキガエルとは『ドゥニーム』の事を指しているのか?」
「はい!じゃなくって、えっと、その……、愛称なんです!!」
「慕われているのだな。なお、彼は今、人生を掛けた任務を行っている。だからこそ、手が空いていた私が来た次第だ」
「あっ、婚活パーティー……。」
「ちなみに、私の見立てでは厳しい戦いになると思っている。が、ミディ小隊長の意見は?」
「タヌキが帝王枢機を操縦するくらいあり得ないですよ」
「空想の産物か。ふっ、面白い話だ。もう少し聞きたいから、すぐに面倒事を片づけるとしよう」
ミディにとっては、ルドワールも十分に雲の上の御方だ。
大隊長の業務は忙しく、下っ端の一兵卒では会話すらままならない。
そして、それも事務的な内容を手短に伝えるだけの、つまらないもの。
そんな相手と冗談を言い合えた喜びに、ミディは踊りだしたい程の歓喜を抱いている。
「さて、貴殿が違法改造のエゼキエルだね?」
「お前のは拡張兵装全部載せか。やっと話ができる奴が来たようだな」
「ほう、分かるのかね?では率直に問おう。貴殿は誰だ?」
「くっくっく聞いて驚け。俺の名はソドムだッ!!」
ドヤァ!という効果音にピッタリな顔で、ソドムが名乗りを上げた。
そしてそれは、用意周到に仕掛けられたカツテナイ仕掛け。
ミディの聴取をはぐらかしていた理由、それは『魔導枢機霊王国・国王ソドム』を相手に喧嘩売ったという大失態を後で野次る為である。
そして、ついにネタばらしの時が来た。
密かにワクワクしながら名乗ったソドムはミディの動きを注視しつつ――、だが、その目論見は外れた。
「ソドム?はて?記憶にないな」
「あぁん!?うっそだろお前!?」
「聞いた事も無いソドムとやら、目的は一体なんなのだ?」
「何で無いんだよッ!?お前ら自国の名前も知らねーの!?」
「我が国『エルムゴモラ』には、旧国名を名乗るふてぶてしい賊徒はいない」
「国名、変わってたぁぁぁぁッッ!?!?」
ソドムは、今日一番のダメージを受けた。
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(本音、帝王枢機 VS 帝王枢機、じっくり描きたい!)




