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第3話「ユニクの鎧」

 俺はリリンの手を引きながら、しばらくの間歩いた。

 セカンダルフォートの街並みは立派な城壁のある荘厳な外見からはほど遠く、活気溢れる店が立ち並んでいて、その目新しさは俺の心を奪っていく。

 好奇心に刈られ街を大分進んでしまった頃、俺はふと、とんでもないことに気付き、足を止めた。



「………すまん。よく考えたらどの店に入ればいいのか、さっぱり分からん!」

「くす。それもそうだね。こっちに私行きつけのお店があるから、まずはそこに行こう」



 そう言って俺の手を引き、来た道を引き返すリリン。

 完全にエスコート失敗である。

 だけど、ちらりと見えたリリンの表情はいつもの三割増しに微笑んで見えたし、機嫌も回復したようだ。

 きっと、久しぶりの買い物で気分が高陽しているんだな。


 そして、来た道を少し戻った所で、デカい7階建ての店が見えてきた。

 この街を歩きだしてから見た中では一番の大きさの店。

 リリンが贔屓にしていると言っていたのは、この店の事らしい。



「いらしゃいませ!ウリカウ総合商館へようこそ!本日はーーーって、あら?」

「ファーベル、久しぶり」


「あらあらあら!本当に久しぶりですね!リリンサちゃん!元気にしていましたか?」

「うん。私はいつも健康」



 店内に入ると、受付案内所に座る朱色の髪の女性に出迎えられた。

 最初の挨拶からして、訪れた客には必ず挨拶を行っているようだ。

 しかし、店の出入り口に受付案内所がある商店なんて、聞いたことや本で読んだ事が無い。

 もしかしなくても、高級店なんだろうな。


 受付のファーベルさんがリリンと挨拶を交わし終わると、さっそく主人をお呼びしますと何処かに電話をかけている。

 そのタイミングを見計らいリリンに話を聞いておこう。



「リリン、この店とは付き合い長いのか?」

「とっても長く、付き合いは私が10歳の時から。ユニクにも打ち明けた家族の話しの時、不安定機構の依頼で私が赴いた先が、この店の前身『ウリカウ商店』だった。心優しい店主や従業員達の最高のお店」



 リリンは自信たっぷりな表情で微笑みむと、奥の方へ視線を向けた。

 俺もつられて視線を向けると、大仰そうな体型の男が走り寄って来ている。

 一言で言うなら、『楕円』という感じだ。



「おお!!これはこれはリリンサ様!お久しゅうございます。息災でしたかな?」

「うん。ウリカウも商売繁盛みたいでなにより」


「ははっ!それもこれもリリンサ様のおかげというものです!さて、本日はどのようなご入り用でいらっしゃいますか?」

「この人、ユニクの冒険者用装備一式を揃えに来た」


「ほう?」

「ユニクと私は一緒にパーティを組むようになった。言うならば、パートナーと言ってもいい」

「ユニクルフィンです。よろしくお願いします」


「ワタクシの名はウリカウと申します。こちらこそよろしくお願いします、ユニクルフィン様!」



 とりあえずリリンの紹介に合わせて自己紹介をしてみた。


 してみたのは良いんだが、リリンのパートナーという紹介で、誤解を招いてしまったようだ。

 受付のファーベルさんは驚きのあまり口元を押さえているし、目の前のウリカウさんも平静を装っているが、ほんの少し口元が綻んでいる。

 10歳から親しくしている少女にこんな事をいきなり言われたら、驚くのも無理ないか。


 だけど、俺としてもとても残念なことに、誤解です。



「それではさっそく鎧フロアへ行きましょうか。3階が男性用の鎧フロアとなっております」

「ユニク、いこう」

「おう。楽しみだな!」

「えぇ、お任せ下さい!私と店主の二人掛かりで完璧にご要望にお応えさせていただきます」



 え?ファーベルさんも来るの?受付は良いんだろうか?

 そう思い振り返ったら、もう既に人員が補充されていた。仕事が早い!

 この人、出来る人だ!!



 **********



「すっげぇ……カッコイイ鎧がいっぱいある!」



 まさに、目がくらむとはこの事だろう。

 3階に着いて俺の目に飛び込んできたのは、きらびやかな銀色の、大きな装飾。

 レンガ風な壁に大々的に飾られた銀の紋章は、まさに俺の中の男心をくすぐる、素晴らしき芸術品。


 その紋章の見事さはこの階の商品の品質を見事に表現していた。

 見渡す限り全ての商品が光り輝き、ホコリ一つ付いていない。磨き上げられた宝石のようだ。



「どうやら、第一印象は御眼鏡にかなったご様子で何よりでございます。ささ、どうぞごゆっくりご覧ください」



 うわぁ、すごい! 様々な系統の鎧があるし、どれもメチャクチャカッコイイ!!

 どれからじっくり見ようか。いや、せっかくだ、全部見よう!

 ならば一番手前、革主体のこの鎧から!!



 レザーメイル・ベアトリス

 3,200,000エドロ(税抜き)



「なんじゃこりゃぁぁぁ!!!!」



 なにこれッ!?高えぇぇぇぇッ!?! さ、320万エドロだとッ!!

 つーかこれ、よく見たら三頭熊クマの皮じゃねえかッ! 



「リリンッ! 三頭熊(クマ)の皮の鎧が320万エドロもするんだけど!?」

「そりゃそう。だってクマの皮はとても強靭で対衝撃性能が他のレザー生地とは段違い。320万ならとても安い」

「はい、大変お買い得の商品となっております」



 な、なんだこれ!? 空気感が違いすぎるんだけど!

 というか、クマ討伐の際に、仕留めた三頭熊を鏡銀騎士の人がやけに丁寧に梱包して転送しているなーと思って見ていたが、こういう事だったのかよ!!

 つまり三頭熊の皮はお宝だったと。


 誰か、価値を教えてくれよ……。

 リリンに澪さん……剣で斬る練習なんか、やらせないでくれよ……。



「おーいユニク、大丈夫?」

「あ、あぁ。大丈夫だ。無知って怖いなって思ってただけだから」


「ここには品質の悪いものなど一つもない。安心して好きなのを選んでみて」

「この値段見て安心なんか出来ねぇよ!?」


「?たとえ安くても、ここのは品質は保証されていると―――」

「いや違うから!!高すぎてビックリしているんだよ!!」



 おい待てリリン。どうして首をかしげている?

 後ろのウリカウさんやファーベルさんも「高すぎ……?そんなはずは……」と困惑している。

 違う、違うんだ……。俺はそんな意味で言ったんじゃないんだよ……。



「ユニク。いちゃもんをつけてはいけない。この鎧は320万エドロで適性。これ以上は安くはならない」

「話が食い違っている! 商品の価値の話じゃなくて、その高級品を俺が身につけるのが想像できないってことだよ!!」


「そう?良く似合うと思うけど」

「いや、ほら、だって、身につけるもんに300万エドロ? それだけあれば、うまい飯とかいっぱい食えるんだぞ!?」


「あぁ、そういうこと。お金の事なら気にしなくていい。私が全て出すから」

「流石に悪いだろ……」



 リリンはそれこそ当たり前のように自分が支払うと言ってきた。

 ウリカウさん達もそうだと思っていたらしく、リリンがそう言ってからも、何の反応も示していない。


 な、なんだこれ!? 空気感が違いすぎるんだけど!?



「しかしだな、こんな大金を奢ってもらう訳にはいかねえよ」

「ユニク、これは奢るのではない。戦功報酬と先行投資」


「どういうことだ?」

「まずは、この間、私に一撃を入れる事が出来た事へのご褒美」


「「リリンサ様に一撃入れた!!?」」



 ハイそこ後ろ。声をハモらせて驚かないでくれ。

 ロイ・シフィー組とは比べのもにならない完成度。流石、夫婦だ。



「うん。ユニクは訓練中に私に一撃を入れている。非常に将来が有望」

「「それはすごい!すごいですぞ!!」」


「後は未来への投資。こういった装備がないと安心して任務に連れていけない」

「それは冒険者のさがでしょうな。『防具が無ければ撤退する』は常識ですぞ!」



 こうして、ジリジリと俺の立場が削られてゆく。

 唯でさえ未踏の地で不利なのに、3対1で的確に攻め立ててくる。


 なんか黒土竜の連係プレーを、思い出してきた……。



 **********



「わかった。じゃあせっかくだから好きなのを選ばせて貰うとする。高いの選んじゃっても知らないからな!!」

「大丈夫。ユニクに買ってあげるのならば、体感的には100分の1くらいだから」



 結局俺は、リリンに甘えることにしてしまった。

 同い年の少女に衣・食・住の全て依存するなんて、俺はホントにダメなやつだと思う。


 でも、だからこそ最高品質のものを買って貰おうと開き直る事にしたのだ。

 装備を手に入れて、強くなって、ちょっとでもリリンに恩返しをしよう。

 恩を返して返して返し終わったら、今度は売って売って売りまくってやるのだ!!


 そして俺は一層真剣に、鎧選びに向かった。



「リリン、これが良い。この、革と金属を組み合わしたものが一番体にしっくりきた」

「うん。色合いも良いし防御力も中々。特に複数の魔法紋を好きに刻印出来るというのが素晴らしい」



 俺が選んだ鎧。それは胸を守る鎧と、手甲、そしてブーツの靴先や装飾が金属で、それ以外の部分が『クロコダイナソ』というワニの革で出来た鎧だ。

 革としては非常に柔軟性に優れ、体の動きをまったく邪魔しない。

 さらに完全撥水の性能を持ち、雨天時や川の中に入っても重くなったりしないという。


 そして重要な金属の部分は、剛性流動金属アクアミスリルという超貴重な金属であるらしい。

 特殊な条件下で魔法紋を自由に刻み込む事が出来て、リリンが使っているような召喚魔法が呪文無しで出来るようになったり、バッファ魔法を刻み込んで、その効果を発揮させたりできるそう。


 片っぱしから展示されている鎧の説明欄を読み漁り、気になったものを全て試着した。

 その中から選びぬいたのがこの鎧。

 着心地からして高いのが分かる。だけど俺はもう驚かない。

 覚悟を決めたからな!!



「ウリカウ。これ、おいくら?」

「こちらはですね……2380万エドロです。しかし、ワタクシとリリンサ様の間柄に無粋な端数など不要でしょう!2000万エドロでいいですよ」


「これは安い。買った」

「はい。ありがとうございます!」



 俺はもう驚かないし、ツッコミも入れない!

 たとえクマ革鎧の値段以上に値引きされていたとしても、驚いたりしない!!

 突っ込んだら、負けだと思え!

 耐えろ!耐えろ!!耐えるんだ!!!



「ユニク、サイズ感どう?」  

「いいぜ!」


「ユニク、ベルトの具合は?」 

「いいぜ!」


「ユニク、魔法紋1000個追加しよう!」

「えっ?、ちょ……。いいぜ!!」


「それは冗談」



 …………耐えた! 耐えきったぞ!!

 俺は成し遂げたんだ!!



「ユニク、あと、どれがいい? スペアも速く選んで欲しい! このあとインナー(肌着)も買わなくちゃいけないのだから」

「まだ買うのかよッッッッッッッ!!」


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