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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第11章「恋敵の壊滅竜」

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第78話「晩餐会(深淵)」

 

「このタイミングで呼び出されるとか、やな予感しかしない……」



 とぼとぼという擬音がぴったりな歩調で歩くワルトナが向かう先は、大聖母ノウィンが宿泊している上位室だ。

 高級宿として名を馳せている極鈴の湯、その中でも三室しかないこの部屋は、実質的に大聖母ノウィンの別荘と化している。


 なお、残りの部屋の一つには白銀比が住み付き、最後の部屋はレジェリクエとテトラフィーアが確保。

 他のお客様に提供できないのが気になっているサチナは、宝探しで勝ったら増設をお願いするつもりでいたのだ。



「リリン関係の進捗報告は当然として……、森に新・珍獣(ベアトリクス)が出た件か、それとも、神・害獣(タヌキ)が出た件か。ローレライ敗北も把握されてそうだなぁ」



 ワルトナの『リリンサ和解計画』は、大筋で順調に進んでいる。

 宝探しの敗北も予定通り。

 次の大食い大会というリリンサの領分で勝つ事で一勝一敗に持ち込みつつ、心理的な有利を確保する目論みだ。


 だからこそ、負けに対する言い訳も既に準備済み。

 練習通りに報告すればいいのだと、ワルトナは揺らぐ瞳を取り繕う。



「……で、誰だい、こんな所に来たやつは。この奥には上級室しか無いんだけどねぇ?」



 近づいてくる気配が二つ。

 一瞬、「あっ、レジェか」と納得しかけたワルトナだが、すぐに考えを改めた。

 常にシェキナを『弱覚醒状態』で維持するように躾けられたからこそ、足音がレジェリクエのものではないと気が付いたのだ。



「前と後ろ一人ずつ。レジェやテトラフィーアとは違うか」



 ワルトナが独り言を呟いているのは、敵に戦況を誤認させる破綻会話術を使っているからだ。

 口に出した情報よりも三手先を進んでいる思考は、「過去に出会っている」「一人は警戒しておらず、鼻歌が交じっている」「不測の接敵」「もう一人は何かを捜索中」「僕に対する敵意じゃない」と判断。

 備えとしてシェキナを握りしめつつ、言葉での接触を選ぶ。



「おい」

「あれ?悪辣じゃん」


「何で居るんだよ、悪性ぅ。つーか、こんな所に何の用だ?」



 後ろから来たメルテッサに鋭い視線を送ったワルトナだが、解答が来る前に「レジェリクエ案件」だと判断した。

 もともと、ラボラトリー・ムーに連れて行くため呼ぶ予定ではあった。

 だが、まだ迎えに行っていない以上、レジェリクエかテトラフィーアの犯行なのは確定している。



「レジェリクエに呼ばれてね。それよりも、キミには失望を抱いているとも」

「あん?」


「こんなに美味しい料理があるのなら、もっと早く呼んで欲しかったね。これは明日の協力に響くよ?」

「はんっ、随分と余裕があるようだ。タヌキ相手にそれが続けられるのか、僕は楽しみで仕方が無いねぇ」



 うわー、飯で釣られるチョロインが増えた。と思っているワルトナだが、表面上は苦々しい表情をしている。

 負け惜しみを言って悔しがっている風を装っているのだ。


 なお、ワルトナはタヌキのボスが悪喰であると、メルテッサに伝えていない。

 特大のタヌキ爆弾で自爆しな。僕みたいに!と思っての犯行である。



「レジェの部屋は奥から二番目だ。早く行けよ、しっし」

「はぁ?一番奥だって聞いたけど」



 唯でさえ気が重い報告、それに指導聖母・悪性(メルテッサ)が絡んでくるとかやってらんない。

 そう判断したワルトナは素直に目的地を教えてやるも……、眉をしかめたメルテッサを見て凍りついた。



「あのね、確かにぼくはキミらの敵だった。けど、明日一緒に見学に行くんでしょ。嘘なんか吐かないで欲しいんだよねぇ」

「……嘘であって欲しい物だねぇ」


「はぁ?」

「キミは間違いなく、レジェから一番奥の部屋だと聞いた。勘違いでも、妄想でもなく、事実だね?」


「まだボケてないっつーの。ルイ陛下じゃあるまいし」



 指導聖母・悪性の名に誓って嘘じゃないと誓おうとも、大牧師どのー。

 そう言いながら行ったメルテッサの礼は、見目麗しいテトラフィーアと遜色ない完璧なもので。

 一方、ワルトナは窮地に立たされ、ぎこちなく唾を飲んでいる。



「で、一番奥の部屋に何があるんだ?その様子じゃ、レジェリクエの部屋って感じじゃなさそうだし」

「上位室は三つあってねぇ、それぞれ専用の顧客がいる訳だが、使用頻度が少ない者ほど奥に行く」


「じゃあ、レジェリクエは二番目なのか。女王で忙しいだろうに、頻繁に来てるんだね」

「問題は、一番奥の部屋を確保しているのが誰なのかって事なんだが……」



 大聖母とレジェリクエが既に組んでいる。

 そうとしか考えられない状況に、ワルトナの危機感が有爆しそうなくらいに鳴り響く。


 だが、発生した問題は一つでは無い。

 殆ど覚えが無い足跡の接近。

 だが、「はわわわわ」という間抜けな鳴き声には聞き覚えがあった。



「はわ?ワルトナさんと……、ブルファム王国のお姫様ですよね?こんにちは」

「これはこれは、有名なシルバーフォックス社の社長ではありませんか。これからもどうぞ、御贔屓に」


「あれ?失礼を承知で尋ねたいのですが、弊社と面識がございましたか?」



 サーティーズ及び、シルバーフォックス社は、名前ばかり有名な中小企業だ。

 当然、国や姫という超一流の上位階級者との面識は、レジェリクエ以外では絶無である。


 そして、レジェリクエに札束で殴られて殺され掛けた結果、『姫=お金持ち』という図式が完成。

 そんな人物を忘れる訳がないと会話を誘導し、確かめる為に記憶を読んだのだ。



「はわっ、メルテッサさんって、指導聖母・悪性ヴィシャス様なんですか!?」

「そうだとも。シルバーフォックス社に依頼を出したのは悪才アンジニアス……、あぁ、『ゴルディニアス』って言った方が分かり易いかな?ともかく、奴の元締めはぼくでね」


「そうだったんですか。……私を騙していた件には関与していないっぽいですし、これからも仲良くして頂けると嬉しく思います」

「いいよ。それで、早速だけど調査依頼があるんだ」



 大陸中の有名なお菓子の情報を、片っ端から集めて来て欲しいんだ!という、甘くて緩ーい会話。

 それを聞いている余裕がワルトナには無い。


 サーティーズが歩いてきたのは正面。

 白銀比の私室を既に通り過ぎているワルトナは、その方向には魔王か大聖母の居城しかないと知っている。



「サーティーズ、率直に聞きたいんだけど、誰に呼ばれて此処に来た?」

「母様です。それなのに酷いんですよ、三つの部屋のどれが母様のか、分からないようにされてるんです!」


「……。」

「たぶん、私が見破れるか試してるんです。こういうイタズラ、母様は好きなので」


「イタズラだったら……、嬉しいんだけどねぇ……」



 白銀比と大聖母ノウィンの仲が良いのは、ワルトナも把握している。

 だからこそ、神の会談役である大聖母をイタズラに巻きこむ事はない。

 ……それが、ノウィン側の意図でなければ。


 大聖母と魔王とビッチ狐が組んでいる。

 なるほど、さしずめ僕らは生贄か。


 凄まじい勢いで答えを出したワルトナは、猛烈な勢いで振り返る。

 そして、来た道を引き返そうと視線を向け――、そこに地獄からの使者を垣間見た。



「ヴィギルーン!」



 あっ、詰んだ……。

 大聖母っぽい荘厳な意匠を身に纏ったゴモラを見て、ワルトナは天に祈りを捧げた。

 この窮地を逃れる為に、向かう先に神がいる事を信じて。



 **********



「神様、いなかったねぇ……」



 指導聖母としてあるまじき呟きを心の底から吐きながら、部屋の主たちを仰ぎ見る。

 その瞳に映ったのは想定していた地獄の支配者、『大聖母・ノウィン』『極色万変・白銀比』『魔王・レジェリクエ』のみだ。



「唯一神がこんな所にいる訳ない……、とも言い切れないか。だってヤジリだし」

「はわわ!?唯一神様ですって!?」


「にしても、ノウィン様がいる事にも、そのノウィン様を下座に座らせる存在にも驚きを隠せない。この御方が聖上・白銀比様であらせられるのかな?」



 ある程度の予想をしていたメルテッサは、言葉ほどには驚いていない。

 それを機敏に感じ取ったワルトナは、心の中で呟いた。


 あぁ、そうだとも。

 このお方が、この大陸で最大最強の『性嬢』、白銀比様だよ。



「紹介もほどほどにして、座るなんし」

「はわゅ……、大聖母様ノウィン様……。悪才が絶対に失礼をしてはならないって言っていた、雲の上のお方……」


「わっちの方が格上ありんすから、気負う必要はないでありんすー」



 サーティーズにとって、いや、商売を営む者にとって、『大聖母・ノウィン』の権威は絶大だ。


 商売が冒険者と密接に関わっている以上、その元締めの大聖母の名を知らないはずが無い。

 国に縛られていない冒険者が使う正式証書には、必ず『大聖母ノウィン』の名が刻まれるからだ。



「それで、僕らは何の為に集められたんでしょうか?ノウィン様」



 ワルトナとしては、全ての事情を知ってニヤニヤしている魔王に詰問したかった。

 だが、そんな非礼は赦されない。

 享楽目的で関与している白銀比よりも、主犯に尋ねる方が正しいと意を決する。



「そうですね、楽しくお酒を飲みたい気分でして」

「……はい?」


「私とて、たまには羽目を外したい時があるのです。こうして皆様に集まって頂いたのは、ちょっとした遊戯でもしようかと」



 やばいッッ!!

 僕らをおもちゃにして遊ぶ気だッ!!!!

 これぇッッーーーーーーーー!!!!!!


 ワルトナは、さっきまで冷静だった。

 冷静に周囲を観察し、転がっている酒瓶の数を数え……、度数が高いフォーティーフォイドワインの数が10本を超えた辺りで絶望した。



「あの……、今日はちょっと、お腹の調子が……」

「ゆるゆるなのですね?それは具合が良いかもしれません」


「何されるのッ!?僕ッ!?!?」

「うふふ、それはそうと、今日の勝負はどうなったのかと、三日後の大食い大会についてなのですが」



 大食い大会をやるって知ってんなら、僕が負けたのも分かってますよね!?

 あっ、僕の口から敗北宣言を聞きたいってことか!!


 今日のノウィン様は、ドSに覚醒している。

 アホの子姉妹以上の暴走を止める手段を、僕は知らない。と心の底から戦慄した。



「大食い大会?悪辣ぅ、なにその面白そうなの?」

「お願い、黙って僕の代わりに生贄になって。本当に、一生に一度のお願いだから」


「うん?ノウィン様がお酒を嗜まれるのは、指導聖母の常識だろ。まぁ、個人的な酒宴とかは経験ないけどさ」

「覚悟しろ、悪性。常識が壊滅するぞ、今から」


「そんなに?というか、キミってノウィン様の酒宴に招かれるくらい仲が良かったんだね」



 メルテッサに取っての大聖母ノウィンとは、『指導聖母会議で言葉を交わす上司』以上の認識はない。

 的確なアドバイスを貰う事は有っても、直接的に行動を起こした姿や、その成果を見聞きした事が無いからだ。


 だからこそメルテッサは、大聖母ノウィンの知らない一面を見れる事に、内心でワクワクしている。

 それが『男女の区分などを超越した酒池肉林・蹂躙乱舞』である事を知らないからこその、余裕だ。



「レジェ……、たすけてぇ」



 最後に残った希望へ、ワルトナは力無く声を掛けた。

 それは、死刑執行官へ命乞いをするような何か。



「あはぁ、余は誓ったのぉ。この戦争が終わったら、ワルトナを絶対に泣かせるってぇ」

「なんでっ!?」


「戦争でピンチになった理由の95%は貴女の失態でしょぉ」

「セフィナを仕向けたコイツのせいでしょうが!!」


「だからちゃんと呼んだじゃなぁい。今夜は寝かせないわよぉ」

「僕、明日のお日様を拝めるよね!?」


「くすくすくす……、何回、昇天させようかしらぁ?」

「いやだぁあーーーーーー!!」



 ワルトナの本気の拒絶も、メルテッサには仲の良い友達のじゃれ合いに見えた。

 いいなぁ、ぼくも仲間に入れて欲しい。とちょっとだけ身体を近づける。

 なお、無痛無汗症を患っていたメルテッサは性知識が乏しく、会話の内容をまったく理解していない。



「うふふ、メルテッサの指導聖母名は、悪”性”でしたね。言葉に深みが出そうです」

「誰かこの人止めて!誰かー!神でもタヌキでも良いからー!!」


「観念なさい、ワルトナ。母の言う事が聞けないのですか」

「僕は思春期だし、もしかしたら反抗期なのかもしれません!!」


「では、しっかりと情操教育をしないといけませんね。大人になる為の」

「勉強ならいくらでもするからっ!厳しい訓練も頑張るからっ!!ひゃんっ!」



 逃げだそうとしたワルトナを回り込んで前から抱き締め、その耳に吐息と言葉を吹きかける。

 ノウィンの胸に顔を埋めてしまったワルトナは、赤面しながら涙目でへたり込んだ。



「性知識……お勉強……、夜の訓練……花嫁修業……」

「はわわ?なんか雲行きが怪しいようですね?」



 ノウィンの膝の上で成すがままに弄ばれ始めたワルトナを見て、サーティーズが事態の異変に気付いた。

 思考を読もうとしても上手く行かずに出遅れていたが、メルテッサよりかはある知識を総動員して貞操の危機を察知。

 そして、逃げようと振り返り……、忽然と消えた襖を見て、唖然とした。



「経験人数、二人ぽっちでありんすか。それも、酒に呑まれた勢いでとは情けないでありんす」

「母様っ!?なんて事を暴露してるんですか!?」


「子と別れる時は、その幼さゆえに性教育を施せないなんし。……が、今は憂いなく出来るでありんすなぁ」

「はわわわわ!?はわっ、はわわわわわわわっ!?」


「玩具も、ノウィンが持参したのがいっぱいあるなんしなぁー」

「はうわわわわぁぁぁぁっっ!?!?」



 ぺろりと指を舐める妖艶な母、その姿をサーティーズは見た事がある。

 権能の練習で白銀比の記憶を覗く訓練があるからだ。


 目を背けたくても、許されなかった。

 赤面しながらどんな映像を見たのかを語った恥ずかしい記憶。


 その時以上の映像が白銀比の記憶を埋め尽くしているのを見て、今から自分がされるのだと理解して。

 サーティーズは、はわわわわっっーー!!と、良い声で鳴いた。



「さぁ、てぇ、とぉ、余達も遊びましょーね、メルテッサぁ」

「……。五目並べとかでしょ?」


「並べないわよぉ。つまみはするけどぉ」

「何をっ!?!?」


「無痛無汗症を患っていたんだものぉ。生き物の悦びを知らないわよねぇ?くすくすくす……、」

「え?いや、ぼくの始めては、ユニクルフィンって決めてて……」


「大丈夫よぉ。痛くしないわぁ、とっても気持ちぃいいって評判なんだからぁ」

「ご遠慮した……ちょっ、や、……んんっ!」


「やっぱり敏感ちゃんなのねぇ!ナインアリアよりもびくびくして可愛ぃわぁ」

「なにっ、これっっ!?やっ、こんにゃのっ……、ぼく、しらなっ、いっっ!!」


「はぁい、昇天、いっかぁーいめぇー!」




 震える世界を初体験しながらメルテッサは、いろいろな事を覚えて、いく。

 それは、全世界の99.9999%の女性が知らない、この世の深淵。


 指導聖母・悪性。

 ブルファム王国の闇など話にならない悪しき性癖を、メルテッサは知ってしまったのだ。



……闇落ち聖母、メルテッサちゃん、爆誕。

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