第72話「本当のお宝」
「………………。はっ!ここはどこ、おねーさんは誰!?」
「あっ、タヌキの理不尽さに打ちのめされてたレラさんが復活した」
大魔王陛下と一緒に合流して以降、動きが固まってたレラさんが正気を取り戻した。
楽園タヌキに敗北した上で、カツテナイ機神軍団+タヌキ帝王てんこ盛り+神タヌキとくれば、そりゃ絶句するってもんだよな。
「ロゥ姉様、とりあえず、お水でも飲むぅ?」
「……うん。ねー、レジィさ……。なんかみんな平然としてるけど、あのタヌキもヤバくない?」
レラさんが指差したのは、タヌキ帝王・ムー。
褐色少女な風貌で可愛らしくメロンパンを咥えているが、その正体はカツテナイ機神の製作者という、タヌキ共の中でも断トツにヤベー奴だ。
「それはぁ、特盛りタヌキとかぁ、機神集団リンチとかぁ、空に浮かんでる魔道空母以外の話かしらぁ?」
「それもヤバいけどさ。魔力がね、渦巻いてるんだ」
「生物は多かれ少なかれ魔力を渦巻かせているって、ロゥ姉様は言っていたわ。規模が違うって事で良いの?」
「規模って言うかさ……、世界の魔力が、あのムーを中心に渦巻いてる」
「……はい?」
「おねーさんの目は、ランク3『神聖幾何学魔導』に進化、より精密な魔力視認ができるようになったってのは話したでしょ」
「余はまだ一個も覚醒させてないのにぃ、その先に行っちゃうなんてズルイわぁ」
「おねーさんとしても死に掛けた甲斐は有ったぜ!って思ってたんだけど。うはっ、笑っちゃうね」
レラさんはエデンとの戦いで神聖幾何学機構を進化させ、その効果が世界規模となったらしい。
その全容はまだ掴めていないものの、とりあえず、視認した魔力の質や同時に視認できる規模が格段に上昇。
手に入れた目で観察した結果、どうやら、この世界の魔力はムーを中心に回っているらしい。
どんだけインフレさせれば気が済むんだよ、戦犯メカタヌキィ。
「そりゃー、僕もランク3の神の因子を持ってるからね!」
「神の因子って人間だけに与えられた特典だった気がするんだけど、そこんとこどーなってんの?」
レラさん的には大魔王陛下から事情聴取をしたかったんだろうが、ここでメカタヌキが参戦。
ワルトからメロンソーダを貰って機嫌が良いっぽい。
「あけすけに言うなら、僕は人間から生まれ変わった存在。那由他様の手によってね」
「さらっとレーヴァテインの上位互換みたいな事されてる」
「で、僕は魔導感知って神の因子を受け継いでるわけ。あぁ、言っとくけど、普通は神の因子を受け継ぐとかできないよ。魔導感知が特別なのさ」
再びタヌキの理不尽を垣間見ているレラさんの横で、大魔王陛下と大魔王牧師が目を輝かせた。
そして、一歩遅れてリリンが気付いた模様。
ムーが所持していたという魔導感知、俺達はそれに心当たりがある、であります!!
「そうなんだ。ちぇっ、ランク3の神の因子はタヌキには無いアドバンテージだと思ったのになぁ」
「ロゥ姉様、タヌキに有効なアドバンテージは料理だけよ」
「そうそう、餌付けが一番効くんだ。効果覿面だねぇ、得意満面だねぇ」
魔王共がタヌキの扱いを心得ていらっしゃる。
妙に手慣れているのは、基本的にリリンと同じだからだな。
「料理か。イチゴタルトならさっき作ったけど、食べる?」
「もちろん。ただ、僕に媚を売りたいのならメロンタルトを用意する事だね」
おう、堂々とリクエストしやがったぞ、このメカタヌキ。
流石、タヌキ帝王第三席次。
ソドム以上のふてぶてしさ。
「ところで、ユニくん……?いや、やっぱいいや」
「なんだよ唐突に。気になるだろ?」
「あー。なんていうかなー、おねーさんはまだまだ井の中の蛙だったよ。にゃははははー」
なんか、レラさんが俺を引いた目で見ている気がする?
楽園タヌキに負けつつも神の因子を覚醒させたレラさんからしてみれば、普通に負けただけの俺に思う事があるのかもしれない。
俺も、根本的な所から戦い方を見つめ直さないとな。
「さて……、悪かったな、宝探しを中断させちまって。勝負に戻ろうぜ」
この場にいるのは、俺、リリン、ワルト、大魔王陛下、サチナ。
当然、それぞれのパートナーもいる訳だが、なぜかキングフェニクスがサチナに寝返っているっぽい。
学生の時も思ったが、サーティーズさんって実はかなりの不幸属性だな。
「どうする?一旦別々の方向に別れてから再開……」
「ユニクユニク、はい」
平均を軽々と凌駕しているドヤ顔なリリンが、7枚のカードを差し出してきた。
えー、どれどれ?
あっ、お宝、揃ってる。
「揃ってんのかよ!?」
「私はお宝を集め終わってユニクを探していた。そして光に導かれて此処に来たということ!」
そうだったのか。
くっ、俺がタヌキと戯れている間に揃えちまうとはな。
「ユニク、私は何番目?」
「リリンが一番だぞ!やったな!!」
「ん、そうなの!?よし、ワルトナに勝った!!」
一番だと告げた瞬間、リリンが思いっきりホロビノに抱きついた。
その平均を超えた笑顔が愛らしい。
だからな、ホロビノ。
尻尾で締めあげられるのは苦しいだろうが、貴重なリリンの笑顔の為に頑張って耐えてくれ。
「ねぇ、ねぇ、ユニ」
「なんだ?ワルト」
「はい!僕もお宝を揃えてあるよ!!」
「おっ、ホントだ!!」
ワルトの手の中にも7枚のカードが揃っている。
いつもの含みがあるものとは違う笑顔、これも大変に珍しい。
そして、それと同時に、とても懐かしい笑顔だ。
「最後のユニ探しではリリンに負けちゃったけどね。僕が2番って事で良いかい?」
「おう、2番でも凄いと思うぜ。手掛かりの暗号も難しかったしな」
「あえて言うまでもないけれど、指導聖母って賢くないとなれないからね?」
「そうだよな、凄いぞワルト!」
なんとなく頭を差し出しているように見えたので、思いっきり撫でつけてみる。
帽子越しだから表情は見えないが、俺的には満足だ。
「他にカードを揃えた人は居ないか?」
「はい!なのです!!」
お、サチナもか。
どうやら、俺の記憶にあったカードを合わせて七枚になったらしい。
その手口は魔王共に準ずる酷さだが……、可愛らしい笑顔で誤魔化される事にする。
「ケースにカードが残っていたから、たぶん、サチナが一番に集め終わったのです。でも、帝主様探しに手こずったのです」
「この森はサチナの庭みたいなもんだろ?迷ったのか?」
「……、姉様にしてやられたです」
いつも笑顔なサチナだが、今は目を伏せて口元を引き絞っている。
これは、かなり悔しがってるな?
アヴァロンとキングフェニクスが三歩引いているのが、何よりの証拠だ。
「はぁ……はぁ……、はわわ、間に合いませんでしたか」
どうやって慰めようかと考えていると、原因さんが現れた。
なんていうか、本当にタイミングが悪い。
「姉様のせいで三番だったのです」
「勝負の世界は厳しいんですよ。思い知りましたか?サチナ」
バチバチと火花を散らす狐っ娘姉妹。
なんか、リリンとセフィナがおやつを巡って喧嘩した時を思い出すな。
「リリン、ワルト。サーティーズさんが何かの妨害を仕掛けたって事で良いのか?」
「そう。ユニクがいっぱいいた」
「森に大量のユニが出現しててねぇ。原生生物をユニだと誤認させたんだろうね」
「なにその混沌」
リリンとワルトの話によると、いっぱいの俺が森をウロウロしていたらしい。
なお、適当な生物を俺だと誤認させたせいで、木の上で日向ぼっこしている俺や、地面に穴を掘っている俺、2匹の俺が1匹の俺を巡って戦うという空前絶後も発生したらしい。
ホント、狐っ娘シスターズ、ロクなことしねぇ。
「私も7枚のカードを集め終えましたが……、はわわ、4番目ですか」
現在の順位は
① リリン
② ワルト
③ サチナ
④ サーティーズ
⑤ 大魔王陛下
⑥ 俺
俺が所持しているカードは、バビロンが守っていたあったカードを回収した事により5枚。
ただ、大魔王陛下もそこのカードを回収し、6枚となっている。
「賞品が出るのは2位まででしたよね?」
「そうよぉ」
「私はライフカードを三枚とも集めたのですが……、特別賞とかないですよね?」
「あらそうなのぉ?見せて貰えるかしらぁ?」
「はわ?いいですよ」
あっ、大魔王陛下が何かを企んだ顔してる。
どうやらお宝を発見したようだ。
「あら残念。偽物が混じっているわねぇ」
「はわわわわ!?」
そういえば、カードに細工をするのはルール違反だが、偽物については触れられていなかったな。
なるほど、偽物のお宝を用意する為にライフカードをわざわざ用意した訳だ。
「偽物ですか!?だってそのカードはセブンジードさんが隠し持っていたものですよ!?」
「そりゃ、自分の命を守るカードですものぉ、偽物くらい用意するでしょぉ」
「彼は本当に焦っていました!記憶でも本物のように扱って!!」
「本物よぉ、最低でも一枚はねぇ」
「はわわ!?」
最低でも一枚ってなんだ?
ライフカードの偽物を用意してすり替えたんなら、そんな不確定な言い回しにはならないだろ?
「余はナインアリアを含むスタッフに偽物を渡し、セブンジードにババ抜きをさせたのぉ」
「ババ抜き、ですか?」
「ライフカード一枚と偽物一枚をシャッフルし、セブンジードに引かせたわ。本物が手元に残る可能性は二分の一」
「それに何の意味が?」
「記憶を読める貴女対策ぅ。余は一枚でもライフカードを死守すれば咎める事はないと伝えた。でも、何処に隠そうとも記憶を読まれてしまったら、回収されてしまうでしょぉ?」
「しますね」
「で、ここからは余の予想ぉ。セブンジードが偽物のカードを忍ばせても、それが偽物だと知っていたら記憶の表層に出て来てしまうのではないかしら?」
「……。」
「でも、本物かどうか分からなければ?そして、カードを引いた後で意図的に確認しなかったとしたら?」
「知らない情報は、記憶の表層に出て来ない……!」
「だから、セブンジードは手元にあるカードを本物だと思って行動していた」
「そんな運任せな方法で、時の権能を打ち破るなんて……、」
手元にあるカードが本物かどうか分からない、か。
確かにそれなら、本物として扱うしかないな。
シャッフルするカードの選択権はセブンジードが持っている。
3枚ある内の1枚を交換に出さなければ、手元には最低一枚の本物が残ることになるからだ。
「という事でぇ、サーティーズが集めたカードは5枚と偽物2枚。暫定ビリねぇ」
「はわっ……。はわわ、オフィスデスク……」
「そうは言っても、セブンジードを探し出したのは大したもんでしょ。レジェ」
「はわっ……?」
「そうねぇ、セブンジードって余の奥の手だしぃ、それを探し出せちゃう索敵能力は高く評価するべきよねぇ?」
「はわわ?」
「当然だよねぇ。所でサーティーズ、事務用品が欲しいんだっけ?」
「はわわ!?はい!!」
「じゃ、僕が出資してやるよ。机と椅子でいいのかい?」
おい、お宝を共有すんな魔王ども。
手に入れた傀儡社長に何をさせる気だ?
「えっ、いいんですか!?」
「もちろんだとも。温泉郷全体のイメージアップにも必要な事だろう?」
「はい!私の温泉宿は大人の雰囲気を前面に押し出し、リピーターである裕福層を狙おうと思っておりますので!」
それ、いつの間にか『大人のお店』になる気がするんだが?
サーティーズさんは、大魔王陛下の実家でアルバイトしていた前科があるしなぁ。
「あらぁ、じゃあ余は何処に出資しようかしら?んー、あっ、制服をエリュシュオン工房に頼みましょう」
「デザインコンペティションに出るような高級品ですよ!?いいんですか!!」
いいんですか?は俺が聞きたい。
癒し系の和服か、はたまた、仕事のできるおねーさん系のオフィス・スーツか。
コスプレなんてのも捨てがた……タヌキパジャマだけは、絶対にやめてくれ。
「うわー、魔王共が生き生きしてやがる」
「お前だって、まんざらでもなさそうな顔してるぞ」
「えっ、居たのか、メナファス!?」
「くっくっく悪いな、存在感が無くて。背後には気を付けろよ」
俺だって男だぞ、たまには魔王やタヌキじゃない女の子を見たいんだッ!!
そんな本音をぶっちゃけたいが、闇に葬られそうなので心にしまっておこう。
「一位リリン、二位ワルト、三位がサチナで、四位が大魔王陛下、五位が俺とサーティー……あれ?セフィナは?」
此処まで順位が決まったなら、ゲームを続ける意味もないか。
そう思って締めに入ろうと思ったんだが、セフィナが居ない。
「リリン、セフィナが何処にいるか知ってるか?一回も見かけていないんだけど」
「私も知らない。そして、電話にも出ない」
「なに?」
「ゴモラが付いているとはいえ、ちょっと心配。すぐに探しにいこう!!」
セフィナは開始早々、機神に乗って爆走していた。
そして、それ以降、セフィナを見かけた人がいないらしい。
あんなに目立つのに見かけなかったんなら、お宝捜索範囲外で迷子になってるな。
「レラさんの絶対視束にも反応はないか?」
「ないねー、おねーさんタヌキにやられてから殆ど移動してないからなー」
レラさんの絶対視束は非常に便利だが、24時間以内に見た光景という制限がある。
残っている視野はこの森一帯、やっぱり近くには居ないのか。
「ふむ、ここから東に15kmの所に居るじゃの」
「そうなのか?」
「ゴモラが一緒にいるなら探るのは容易じゃからの」
随分と遠くに行ってるが、まぁ、機神は空を飛ぶし予想の範囲内ではある。
さて、居場所が分かったなら移動する前に捕まえないとな。
そう思った矢先、サチナが首をかしげながら口を開いた。
「そんな所にいるですか?そこはベアトリクスの縄張りなのです」
……。
…………。
………………アホの子妹とニセタヌキが、クマの縄張りに侵入しているんだが?
あっ、怒り狂うアホの子姉の尻尾が、大地を消し飛ばした。
俺達のお宝探しは、これからだッ!!




