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第1話「新人冒険者ユニク」

「冒険者試験、合格おめでとう。ユニク。これで一緒に冒険が出来るね」

「あぁ、そうなんだが、いまいち実感が湧かないんだよなー。なにせ最後がアレじゃなー」


 俺達は今、不安定機構の建屋から屋外に出て、道路に戻った所だ。

 俺に『おめでとう』と声をかけるタイミングを見計らっていたらしいリリンは、道路に出るなり祝福の言葉を掛けてくれている。


 だけども、俺としてはまったくの実感が湧いていない。

 なにせ、冒険者試験に合格していないと気付いたのは今朝のこと。

 朝食を取りながらしていた雑談の最中に、登録証を貰ってないという話になり確認に来たら、



「そういえば、未だ登録が完了していませんね。面倒だとは思いますがブレイクスネイクを1匹狩猟してきて下さいませんか?」



 とのことだった。

 なんでも、ロイやシフィーは冒険者試験を辞退しているらしく、以前に収めたブレイクスネイクは俺の得点として扱われているという。

 しかも、試験といえども、狩猟したブレイクスネイクの所有権は俺にあるとのことで、一応保管してくれているらしい。



「腐ってしまっているんで、実は、扱いに困っています……。どうします?引き取りますか?」



 いらない。腐ったヘビなんかタヌキも食わないだろう。

 そんなもん貰ってもどうしようもないので、廃棄依頼も出してきた。

 手数料、2500エドロ。世知辛い世の中だと思う。


 そんなこんなでヘビを探しに、山へ向かおうと町の外に出た瞬間。俺の袖をリリンが引っ張った。



「……ユニク」



 リリンが草むらを指差している。なんかモゾモゾと動いているな。

 んん?



「キシャァァァー」



 ……。

 …………。

 ………………。ザシュ。



 こうして俺は、目標のブレイクスネイク2匹の狩猟が完了し、冒険者となった。

 正直、試験らしい事をした気がしていない。森の中を探索し、イノシシやクマなんかと死闘を演じさせられていたけども。


 まぁ、いいか。

 合格は合格だし、これで俺も冒険者を名乗れる訳だな。

 俺は受付で貰った冒険者カードを、まじまじと見つめ、少ない実感を奮い立たせた。



「これが俺の冒険者カードか。鉄に直接名前を刻むんだな―。他は空欄が多いけど、何を書かれるんだ?」

「その空欄は、上から、所持階級、所属パーティー名、戦歴称号、名声の順で埋まっていく」


「ん?ちょっと詳しく頼む」

「それじゃ、私のを見て」



『リリンサ・リンサベル』


 所持階級  第7号・魔導師

 所属P名  鏡銀騎士団 中央大隊・副師団長

       ―――――――――――


 戦歴称号  蛇峰戦役 総指揮官補佐

       ―――――――――――

       ―――――――――――

       ―――――――――――


 名  声  鈴令の魔導師

       白蒼の竜魔道師

       ―――――――

       ―――――――

       ―――――――



「と、このようになっている」

「ふむ。この棒線はなんだ?俺のには引いてないけど?」


「これは、秘匿したい情報が有る場合、伏字にする事が出来る。ほら、指でなぞりながら念じると伏字が解かれて読めるようになる」



 リリンが自分のカードの所属Pの部分を指でなぞった。すると文字が切り替わり読めるようになる。




『リリンサ・リンサベル』


 所持階級  第7号魔導師

 所属P名  鏡銀騎士団 中央大隊・副師団長

       心無き魔人達の統括者アンハートデヴィル 総帥


 戦歴称号  蛇峰戦役 総指揮官補佐

       ―――――――――――

       ―――――――――――

       ―――――――――――


 名  声  鈴令の魔導師

       白蒼の竜魔道師

       ―――――――

       ―――――――

       ―――――――



 おう。一瞬で理解したぜ。これは他人には見せられないよな。

 なにせ、唯でさえ悪名高そうなパーティー名なのに、総帥と来たもんだ。



「なぁ、リリン。この総帥って文字がすごく気になるんだけど……?もしかして、何万人もパーティーに所属しているのか?」

「ううん。所属は私含めて五人だけ。こういうのは自分で好きに決められるから、ワルトナが、私は総帥にしようって」


「ちなみに、他の人は?」

「ん、創始者・統治者・策謀者とか、後、メナフは……破壊者だった気がする。要は何でもアリ。つけたもん勝ち」


「なんだろう。その言葉聞いて背筋がゾクッとした。意味分かってつけてるよな?」

「博識なワルトナが意味を知らないはずがない。分かっててやってる」



 そっか……。分かっててやってるのか。

 俺としては、カッコイイからとか、その場のノリだったと言って欲しかったな。

 ははは、関わり合いになりたくないと、本気で思う。



「そうだ、ユニクのカードを私に貸して」

「ん?いいけど?」



 何するんだ?俺の見たって何にも書いてないはずだが?

 良く分からないまま事の成り行きを見ていると、突然俺のカードが光り出した。



「《我こそは、『心無き魔人達の統括者アンハートデヴィル 』。この者を一員と認め、『総帥伴者』の称号とともに仲間であると、ここに証明す!!》」

「ちょ、ま、えぇ!?!?」


「はい。これでユニクも、『心無き魔人達の統括者アンハートデヴィル』 。私とお揃いだね」

「……。おう」



 関わりたくないと思っていたのに、関わり……持ってしまった。

 しかも、ドストライクに真っ黒。これからは、仲間です!


 それに、この『心無き魔人達の統括者アンハートデヴィル  総帥伴者』 とはどういう事だろうか?

 総帥はリリンの事だから、その伴者、つまり……召使い的な意味か?

 はぁ、というかこんなこと勝手にして大丈夫なんだろうか?他のパーティーメンバーに闇打ちとかされないよな?



「リリン、いいのか?俺なんかを同じパーティーなんて」

「いい。ちゃんと了承は取ってある。ユニクを見つけたら連絡がわりに、パーティーに参加して貰うと」



 ……あ、はい。ちゃんと許可を取っていたのね。

 どうせだったら、俺の許可も取って欲しかった気がするが、それよりも、連絡がわりという事はメンバーの確認が出来るってことだろうな。

 リリンに聞いてみたところ、所属P名を長押しすると、カードの裏に詳細が記載されるとのこと。


 試しにやってみたら、俺の名前もしっかり記載されていた。くそう。




 **********



「ユニク。冒険者になった今こそ、契約の履行を求めたい」

「へ?契約……?」



 俺達の宿に戻る途中、リリンが突然、こんなことを言い出した。

 契約の履行ってなんだ?

 俺はそんな悪魔契約的な事を結んだ記憶がないんだが。

 心当たりはあるっちゃあるけど。そう、心無き魔人達の統括者アンハートデヴィルだ。


 俺が必死に他の要因が無いか記憶の奥底をガサ入れしていると、リリンが焦ったように言葉を捲し立ててくる。

 沈黙してしまったのがいけなかったらしい。



「ユニクは約束した!いつでもどこでも、私と、で、でぇと……してくれると!ユニクにとっては面倒かもしれないけれど、私にとってはとても大事な事!そ、そうユニクの装備を揃えなくてはいけない!!鞄や靴も買い揃えたいし、私の装備もユニクに合わせ―――」

「ちょ、落ち着けリリン!忘れてないから!一瞬、勘違いしただけだから!!」


「勘、違い?」

「あぁ、一瞬、パーティーに参加したから、登録料的な物を取られるのかと思っただけだ」


「そんなものない。もしあったとしても、私が払うから問題ない」



 あら頼もしい。まぁ、リリンはお金持ちっぽいもんな。

 ロイにあげた魔導書はもちろん、シフィーにあげた魔法杖も高そうだったし、そういや、俺のグラムも高価だって言っていたっけ……?



「ユニク!!」

「は、はい!」


「ユニクには私の買い物に付き合って貰う!いっぱい買うから荷物も少し持って欲しい!」

「お、おう。いいぜ、約束だしな!これから行くか?」


「ううん。実はこの町よりも、隣の町、セカンダルフォートの方が品揃えが良い。なので明日向かうとして、今日はプランを考えたい」

「何のプラン?」


「それは、……。言わせないでほしい!」



 **********



「やったぁ!ついにこの時がきたの!これで、おねーちゃんの所に行っても良いってことだよね!?」



 す巻きにされた盗賊団を、無造作に荷台に載せた荷馬車の御者台の上、真っ黒な封書を握りしめ、少女は嬉しそうに笑っていた。


 傍らにいる修道服を着た女は、妖艶な笑みを浮かべると、少女の問いを返す。



「えぇ。不安定機構・黒アンバランスノワールからの敕令書。それをシスターファントムが手にされた以上、舞台の準備は整ったということでしょう」

「うん!これで、ユニクルフィンさんをおねーちゃんから引き剥がせば、もう、隠れてなくて良いんだよね?会いに行っても良いんだよね!!?」


「そうでございます。逆に言えば、ユニクルフィン様がいる限り、シスターファントムは姉御様とご再会することは叶いません。速やかに、事を成すとしましょう」

「早くしないと、だね!だっておねーちゃん可哀想だもん!好きでもない人と、ずーと、一緒に居なくちゃならないなんて、神様は間違ってるよ!」


「ふふ、そうですね。『善は急げ』と昔から言います。ユニクルフィン様にはリリンサ様を拘束した罰を与え、偽られた人生を正史に戻すとしましょう」

「うん!!よっし、頑張るぞっ!」



 ただでさえ揺れる荷馬車の上で、黒銀の髪を揺らしながら少女は嬉しそうに、小さく跳ねた。


 待ち焦がれていた時間がやって来る。


 嬉しさを全面に出したその表情は、何時までも何時までも、絶えることは無い。

 そして、その横の従者も、絶えることの無い笑みを浮かべていた。



「―まずは、セカンダルフォートに向かいます。この盗賊共を使って、前哨戦としましょう」




前回のナユタの台詞を一部変更いたしました。

正しくは、


×レベル100万(ミリオン)にも、達していない若造が。


レベル99万9999(ミリオン)にも、達していない若造が。


となります。

アマタノや白銀比もちゃんと、ミリオンですので作中の強さは最高クラスとなります。


訂正、失礼しました!

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