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第4章続・プロローグ「神が愛した聖剣」

「ヴジュラコックッッ!皇種!ヴジュラコックッッッ!!ヴヴヴヴウウ、ヴァジュラコックゥゥゥゥ!!!!」

「あーうるせぇ。一度言えば分かるっつうんだよ!」



 ユルドルード達の真上、高高度の空に留まりながら、ヴァジュラコックは名乗りをあげ続けている。

 繰り返し繰り返し、その声をあげることにより、絶望を示威するごとく、遥か遠くの山々にまで轟いていた。



「の、ユルドよ。ちゃんと原形をとどめるように屠殺するのじゃぞ。引き肉は嫌じゃからの」

「へいへい。それじゃ空からたたき落とすとしますかね。一応聞くけど、お前の安全は大丈夫だよな?」


「くくく、わっしの心配とは、でかく出たもんじゃの。なんだったらお前が撃ち落としたこ奴を、空へ打ち返して見せようかの?」

「面倒だからやめろ。つーかそんなことしてみろ、吹き飛んで行ったコイツを俺は回収しにいかねぇ。お前の腹は満たされないからな」


「それは困る、の。ほれユルド、あ奴が攻撃を仕掛けてくるようじゃぞ!」

「あーまったく。先手を譲っちまったじゃねぇか。どれどれ、お手並み拝見といくとするか」


「屠殺ッ!屠殺ダトッッ!!!!!!!ユユユ、ユルサンッ!殺ス、滅ボスゥゥゥ、粉ミジィィィィィン!!!」



 事の成り行きを見ていたヴァジュラコックの怒りは絶頂に達していた。

 あろう事か自身よりも弱い人間風情が、皇種たる自身の事を、よりにもよって、屠殺するとほざく。

 それは数千万の鳥目を統べる鳥の皇種として許されざる事だったのだ。


 ヴァジュラコックは停滞していた天空にて、強く三度はばたくと、自身の両脚に備わっている魔法紋を起動させた。

 一つ辺りが20mはあろう巨大なカギ爪の上、丸く象られた足の脛に脈動が走り、突如、地面の岩々が吸い上げられていく。


 そして、その岩々はバジュラコックのカギ爪の中に集約された。

 大地をワシ掴みしたかのようなその光景の中で、事態はさらに進んでいく。



「《空気抵抗無視ッ!付与ッ!!》」

「《極限魔法耐性ッ!付与ッッ!!》」

「《極限雷電磁界ッ!付与ッォォォォ!!》」


「喰ラエ!コレガ、神ニ愛サレタァ、ワレノ一撃ッ!《電磁有爆放岩弾レールボムゥゥゥ!!》」



 ヴァジュラコックの爪先を囲むように浮かび上がった、6つ3対の魔法陣。

 その魔法陣を潜り抜けるようにして、集められていた岩々が大地に立つユルドルード達に向け放出された。


 そして最早、その攻撃を視認する事は不可能だった。

 閃光が走ると同時に、いや、閃光となった岩々が走り抜けた箇所に存在した何もかもが融解し、崩壊してしまったのだ。

 余波を受けた大地でさえガラス状に変貌し、光沢を放つ結晶となっている。

 生命の生存など絶望的。


 それを体現するように、爆心地から5kmの範囲の地上に立っていたのは、たった一つの生命のみだった。



「ふむ、この程度で神に愛されているなど、笑わせてくれるの。レベル99万9999ミリオンにも達していない若造が」



 ナユと呼ばれた人間の少女(・・・・・)のような何か(・・・・・・)は、目を見開き固まっているヴァジュラコックを見据え、笑いかける。



「もう少し、破壊力を研ぎ澄ますべきじゃったな。こんな広範囲を壊すのではなく、儂らだけを狙うべきじゃの。この『那由他なゆた』からのアドバイスを受け取るがよい」

「ナナナナ、ナユタッッ!?!?那由他なゆた様だとっ!!くけぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


「くくく、吃驚しすぎて、声が裏返っておる!ま、お主は此処で終いじゃがの。知識として次代のおうに引き継ぐがよい」

「くけっ!?」




 **********



 その男、英雄・ユルドルードは、皇種・ヴァジュラコックが呆然とする天空のさらに上空、宇宙そらとも呼べる位置で、地上に向けて逆さまに立っていた。

 空中に生成した転移陣に両の足で立ち、薄くなっている空気を震わせ、言葉を発する。



「ナユの奴、足止めとは気が効くじゃねえか。そんなに鳥が喰いたいのか?」

「―少しは手を貸さないと、タダ食いになってしまうからの!―」



 ユルドの中に響いた声は、地上で鳥と喋っている少女のもの。

 離れた位置から声を届かせるなど、この、ナユタには雑作もないことだ。



「もう行く。寒いしな。《我こそはと、神を名乗る。この剣こそが証明であり、生命不可侵の領域として隔絶されし、新たな―――。顕現せよ。―神愛聖剣・黒煌くろめき―》」



 ユルドルードが手にしていた大剣。

 どこにでもあるような形状だったそれは、もう、数瞬前の過去の話となった。

 起動式と呼ばれる特別な呪文。その呪文こそ、世界に存在する、神に由来した11の神器を起動するためのものだ。


 この剣は、この星に存在する全生命(・・・)の絶望の象徴。


 神を消滅させんと精製された10の神器と対を成す、神が直接創造した11本目の武器。『神愛聖剣・黒煌くろめき』。

 今ユルドルードの手の中に存在するこの剣こそ、神が世界を消滅させんと創造した剣なのだ。


 英雄・ユルドルードの卓越した力と技術を以てしても、この、『黒煌くろめき』は、ほんの数秒しか起動できない。

 しかし、それだけの時間が有れば、ほぼ全ての事象にケリがつく。

 ”黒”としか表現できない、かろうじて剣の形を保っているこの黒煌くろめきは、少なくとも、目の前の皇種ヴァジュラコックを殺すには十分すぎるのだから。



「《臨界星加速(スターファイナリ)》」



 地上に存在する獲物を知覚し、ユルドルードはバッファの魔法を自分と世界に(・・・)掛けた。

 通常とはあまりにも違う規模のバッファ魔法。

 世界はこれを受け入れ、空間に光の紋様が広がっていく。


 生物の頂点に立たんとするモノ共のみが扱う事を許された、この『創世魔法』は世界の理を簡単に超越する。

 今回発動されたこの、臨界星加速(スターファイナリ)も例外ではない。


 唯の移動速度上昇として、ユルドルードはこの魔法を使用した。

 そして、彼の速さは、光速と等しいものとなる。



「《重力場暴走(グラヴィスコントロール)》」

「グゲェェェェェェェェェェェェェェェエェェッッッッ!?」



 地上に向け放たれたユルドルードという閃光は、次の魔法を唱える。

 対象として選ばれたヴァジュラコックの一切を掌握し、自身に向け無理やり上昇させた。

 光速と音速の衝突。それは、この地域を大地ごと消滅させんほどのエネルギー。


 この大陸中を蹂躙するような法外なエネルギーが漏出する事を、英雄・ユルドルードは望んでいない。

 衝突の数瞬前、第三の魔法が解き放たれていた。



「《縮退超越(プラネット・アウト)》」



 自身とヴァジュラコックを包むように発動された、虚無魔法の最上位・縮退超越(プラネット・アウト)

 決められた範囲を、世界と隔絶させるこの魔法は、空間内で発生した一切の事象を中心へと縮退させ続けるというもの。

 ユルドルードとヴァジュラコックがぶつかり合う実態の無いエネルギーすらも、その全てを漏らす事はなくなった。


 そして、衝突の瞬間が訪れる。

 ユルドルードは、黒煌くろめきを両手持ちに代え、雄叫びすらないままに軽々と振いながら、神が使うとされた神撃(呪文)を唱えた。



「《物質崩壊・"お前はもう、いらないエンディング・オブ・ゴッデス"」



 **********



 この日、この大陸に住む多くの人々が、二つ目の太陽を見たと、不可思議な証言をする事となった。


 ユルドルードが作った縮退超越プラネットアウトの空間がエネルギーを漏出させたのではない。

 この魔法空間そのものがエネルギーを蓄えすぎて輝き出し、その光を大陸中に届けたのだ。

 時間にして数秒の事だったが、通常の太陽をも凌駕する強い輝きに、誰もが目を伏せるしかなかったという。


 ただ、この不可思議な事象を目にした者の全てが、同じ行動を取った訳ではなかった。


 光から最後まで目を反らす事の無かった、とある人物。

 輝きを見たその”老爺”は、「何やっとるんじゃ、あの馬鹿は……」と呟いていた。




 **********



「んおー、降って来た来た!上出来じゃの、ユルド!」



 縮退超越プラネットアウトが輝きを失ってからすぐ、この魔法は解除された。

 そして、自由落下を始める二つの物体。


 こんがり焼けた鳥の丸焼きと、英雄・ユルドルード。

 その白煙を巻く丸焼き肉は、絶対の強者を約束されていた、皇種・ヴァジュラコックだったもの。


 皇種であったヴァジュラコックは、このナユタに優しく受け止められた。

 なん十トンの重量をモノともしない様子で、あらかじめ創生しておいた皿のようなものに着地させ、同じく地上に帰還していたユルドに向かい笑いかける。



「良い焼き具合!完璧じゃのユルド!!10億タヌキポイント進呈じゃ!!」

「いらねぇ。タヌキ100匹貰ってどうする?使い道ないだろ」


「そうじゃった、お前さんにはこのわっしがいるからの!ほら褒めてやろう。こちらに来るがよい」

「お前もいらねぇよ。まったく……」


「仕方がないのう。ほれ、この肉ならどうじゃ?精がつくぞ?」

「……肉か。それは貰らっとくか」


「そうじゃそうじゃ、食うとくがよい。そして今晩は、わっしの身体で溜まった精を発散じゃな!!」

「ぶふぉ!!」



 ユルドル―ドは頬張っていた肉を吹き出しながら、その少女を見やる。


 その肢体はどう見ても幼い少女のもの。

 外見で言えば8歳を少し超えたくらいだろうかと、ユルドル―ドは溜息をつく。

 この少女から度々もたらされる、過度なまでの提案は一度や二度ではない。


 さらに至って真面目に言っているというのだから、タチが悪い。



「……つれないのう。ユルド」

「ふざけんな!せっかくの肉を吹き出しちまったじゃねえか。ったく、次を寄越せ」


「ほれ。しかし、頑固じゃの。奥さんはとうの昔に死んどるのじゃろ?なら儂を抱いても問題無かろうに……」

「そういう問題じゃねぇ!お前の見た目が問題だからだつーの」


「この外見は神の前に晒しておるのじゃぞ。簡単に変える訳にはいかん。妥協せい!」

「……肉が不味くなるから、この話はここでお終い」


「むー。わがままな奴め!」



 拗ねたような表情を見せながらも、ナユタはユルドルードの表情を確認した。

 ふむ、怒っている訳じゃなさそうだと、気持ちを持ち直したナユタは、息子に会いに行くとユルドルードが言い出してからずっと気になっていた質問をぶつけてみることにした。



「な―ユルドよ。お主はお前さんの子等に何をさせたいのじゃ?何か企んでいるんじゃろう?」

「んー。親が企むことなんて、自分の子供に幸せになって欲しいってことに決まってるだろ?その為に、頑張った訳だからさ。特にアプリコットの奴は」


「ふむ、親が子を想うのは大事じゃな!」

「だけど、その過程でユニクには世界最強になって貰おうって思ってるがな」


「…………世界最強?本気で言ってるのかの、ユルドよ。 その世界には当然、この、”那由他”も含まれているのじゃろうな?でなければ世界最強には程遠い」

「残念ながら、そういうこった。なにせ、”むし”と戦わなくちゃならねぇみたいだからな。出来る事なら勝ちてぇし」


「ハッ!奴と戦うなどと、冗談にすらならん。親馬鹿もいいところじゃの」



 肉を頬張りながら、ユルドルードをじっと眺めるナユタ。

 冗談を言っている風に見えぬと、結論を出したナユタは、心の中で呟いた。



 …………。『始原の皇種』を倒そうとは、トンデモナイことを言うの。

 しかし、ユルドよ。奴につけられた『蟲量大数(むりょうたいすう)』の名は、伊達ではないのだぞ。




 **********




「さっすが、ユルドだ!鳥の皇種を簡単に倒し、しかも食べるなんて、歴代の英雄の中でもこんなバカなことした奴は他に居ねーよ!!」



 神はもう体裁を気にする事もなく、床を爆笑しながら転げまわっていた。



「それに衝撃の新事実!!遥か昔に、ボク()が地上で置き引きされた黒煌くろめきを、ユルドが持ってるなんて!!どこで拾って来たんだよ!まったく!!」



 神は懐かしむように手を開閉させ何かの感触を思い出している。

 そして、何かを思い出したのか、暫く笑い転げた後、空間に視線を戻した。



「さぁて、物語の本筋である、ユニクとリリンにも動きがあるようだ。どれどれ、楽しみだね」



 神は再び座り直すと、空間に向け視線を戻した。

 しかし、どこか不穏な空気が漂う。



「一言だけ言っておくよ、不安定機構アンバランスボクは、ユルドと蟲が出会う所なんて、見てないんだけど?」



 急に動きを止め、真顔に戻りながら神は、何処かに居る誰かに向けて、言葉を発した。

 そこには、空間を歪めかねない雰囲気が時空を支配している。



「歴史が動いた、その瞬間を見逃す。これほど腹が立つ事はない。本当によろしく頼むよ、まったく!!」


……すみません。思いがけず2話になってしまいました。

といいますか、2話合わせて約1万文字。事実上の3話分となっております。

短くするのは無理でした。だって、皇種戦ですもん。


番外編が苦手な方々お待たせして申し訳ありません。

次回からはユニクとリリンの物語に戻ります。

そして、様々な事が動き出すこの4章をお楽しみ頂けたのなら、幸いです!!


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