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第45話「結果の集大成」

 三頭熊ベアトリス出没事件から、10日が経った。


 そして俺は現在、草原で仰向けに倒れている。傍らにはロイとシフィー。さらに信じられない事にリリンまでもが、草原に突っ伏し、空を見上げていた。

 この場で立っているのは唯一人、澪騎士・ゼットゼロこと、みおさんだけ。


 ……あぁ、頭がくらくらする。

 どうなってんだ?防御魔法越しに木剣を打ち込まれたはずなのに、あり得ないほどの衝撃が頭に響いている。


 あ、何か見えてきた。これはもしや、走馬灯という奴じゃないだろうか。

 俺の中に、この一週間の記憶が蘇ってくる――――。



 **********



 三頭熊と遭遇した翌日、澪騎士さんを含めた俺達5人と壊滅竜1匹は、正式に不安定機構アンバランスからの依頼を受け、三頭熊狩りを行う事になった。

 前日に考案した索敵陣形で山々をくまなく探索し、三頭熊を見つけ次第、始末をつけていくという。

 近隣の村の避難活動は不安定機構の職員総出で昨夜のうちに完了したので、もうこの地域に住民は誰も残っていない。

 フリーになったリリンは全員のフォローに回るそうだ。


 そんな状況で俺達5人と1匹のみがこの山に入山。

 つまり、どれだけ騒いだとしても、誰からも苦情が来る事はない。

 そんな事をリリンが言い出した時、俺達の運命は決まってしまったといってもいい。



「ユニク、ロイ、シフィー。せっかくだから、三頭熊くまを探すついでに訓練もしよう。今はチャンス」

「ん、チャンス?」


「そう、この山には私達しかいない以上、どんな魔法を使ったとしても、他人を巻き込む恐れがない。それに、多少森林を破壊しても、三頭熊のせいにできる」

「……おう」



 リリンのトンデモ理論。どうやら、リリンの中では森林を破壊してもバレなければいいらしい。

 ずっと、森林を眺めながら育ってきた俺的には、ちょっとどうかと思うが、残念なことに俺に賛同する意見は得られなかった。



「そうですね!多少森が剥げたり丘が無くなった所で、全部三頭熊の仕業です。なにせ、ランク5ですから!」

「僕もその意見に賛成だ。僕は未熟、魔法を誤射する可能性が減るというのなら、大歓迎だな」

「……なんだ君ら、魔法もろくに使えないのか?それでは良質な冒険者にはなれないだろう?私も協力するとしよう」



 最初に先陣を切ったのはシフィー。前々から思っていたんだが、普段は大人しいのに魔法の習得関連になると、凄く積極的になるよな。

 そしてロイも賛同。もう少ししたら迎えが来てしまうロイは、すぐにでもフィートフィルシア領に帰らなければならない。その為、なり振り構っていられないといった様子。

 さらに意外な事に澪騎士さんも、乗り気なようだ。

 陣形の先陣を切りながらも、積極的に会話に混ざってくる。

 イメージ的には無口な騎士を想像していただけに、意外性が半端ではない。



「いや、巻き込む可能性が無くてやりやすいというのは分かるが、三頭熊の討伐はどうするんだよ?ほっとくのか?」

「それはもちろん続けるぞ、ユニクルフィン。私達が師匠から習ったやり方なら、索敵を続けながら、いやむしろ訓練自体が索敵活動として機能する。問題はない」



 なんだそれ?どういう事だろうか……。嫌な予感しかしない。



「まぁ、みんな聞いて。とりあえずユニク、ロイ。目の前100m先に獲物がいるよね?」

「「は?」」



 は? 獲物がどうしたって?目の前って言ったって、大きな木が有って良く見えない。

 俺とロイはそれぞれ左右に回り込み木をかわし視線を先に向けた。そこには、あんまり良い思い出の無い奴が悠々と歩いていた。



「……リリンさん。連鎖猪を俺達にどうしろと?」

「二人で協力して倒して。これはとてもリアリティの高い練習」


「いや、本番だからッ!実際に戦闘するんだったら、それはもう本番だからッ!!」



 待て待て、いきなりスパルタすぎるだろ。

 一昨日の夜、俺達二人で戦って惨敗だったんだぞ? 俺が勝てたのもリリンのバッファのおかげだしな。



「大丈夫。ロイ、私が貸した雷光槍サンダースピア主雷撃プラズマコールの読了は済んでいるよね?」

「もちろんだ。可能な限り覚えてしまおうと、時間が有る時はずっと読んでいた」


「向上心が有るのはとてもいいこと。ユニクも見習って早く読了を済まして欲しい」



 いや、そうは言っても、俺の手元にあるのは「英雄ホーライ伝説」なんだけど。

 読んだ事には読んだが、魔法はとても覚えられそうに無い。



「二人とも、これはあくまで練習。それに、今の第九識天使ケルヴィム中ならば、裏技に近い方法で簡単に魔法を習得できる」

「「え?」」



 どういう事だろうか?そもそも、通常の習得方法、一冊の原典書を解読している時間は、最初からなかった。

 それなのにリリンは、ロイとシフィーに1カ月で基本的な魔法を複数習得させると宣言している。

 具体的な方法は聞いていなかったが、何か仕掛けが有るのは間違いなさそうだ。



「魔法の呪文というものは、正解の呪文を唱えると魔力が高まり、はずれの呪文を唱えると、魔力が下がる。これを繰り返す事で魔力を高めていき、一定値を越えたら発動される。魔導師で有るシフィーには理解できると思う」

「そうですね。どんな教本にも一度は出てくる知識です」


「そして、第九識天使ケルヴィム中であるならば、その感覚も共有する事が出来る。つまり、どうすれば魔法を発動する事が出来るか知っている私は、ユニクやロイが無作為に唱えた呪文が正解かどうかも判別する事が出来る」

「なるほど、それは凄い。大幅に時間を短縮できそうだ」


「うん。この方法を用いて、それぞれ個人用の魔法呪文を作成すれば、後はもう、練習あるのみ。みお、ロイの方の介助役をお願いしてもいい?」

「あぁ、いいぞ。専用回線を繋ぐとしよう。それぞれ、ロイと私、ユニクルフィンとリリンだな」



 澪騎士さんは、何事もなかったかのようにそれだけ確認すると直ぐに、出来たぞと、宣言した。

 その時間わずか1秒。それこそ一呼吸できるかどうかといった時間だ。

 何となくだけど、この専用回線という技術はかなり高等なもののような気がする。特に確証はないけれど。



「それじゃ。ロイは澪の指示に従いながら、まずは雷光槍サンダースピアからやってみよう。ユニクは私と一緒に、基礎的なバッファ魔法、瞬界加速スピーディー から」

「あ、あのう。私は、何をしたらいいんでしょうか?」


「シフィーは、もうすでに第九守護天使セラフィムの呪文は出来上がっているので、ホロビノと遊んでいて欲しい。シフィーが石に第九守護天使セラフィムを掛け、ホロビノが打撃で壊す。壊せなくなったら、次のステップに進みたい」



 なんと、シフィーはあの短時間で第九守護天使セラフィムを発動できるようになっていたらしい。

 そう、俺達がイノシシに弄ばれている間にだ。

 これにはロイも面食らったようで、「こうしてはいられない。僕も一刻も早く魔法を覚えなければッ!!」と張り切っていた。



「ユニク。では私の言葉に続いて詠唱してみて。《ひとときの静寂に――――》」



 そう言ってリリンが詠唱を開始した。俺も一字一句同じように続けて言葉を重ねていく。

 なるほど、ランク1の魔法と違って、呪文を唱えるたびに体の中に何かが動くのが分かる。これが魔力という奴だろう。

 リリンの言葉を復唱していくと、体の中心、心臓のあたりに魔力が集まってくる感覚。やがて魔力は大きくなり俺の体の中で急激に膨張、そして、俺の体がほんの一瞬輝き、以前リリンから瞬界加速スピーディーを受けた時と同じような状態となった。



「発動出来たのか?」

「一発で成功とは、さすがユニク。えらい」



 リリン先生からお褒めの言葉を頂いた。

 俺も最初っから出来ると思っていなかっただけに、少し誇らしく感じるな。

 さて、バッファも掛けたし、準備はばっちりだ。


 自慢してやろうかとロイの方に眼をやると、片腕を前に出し、連鎖猪に向けて魔法陣を展開させていた。

 リリンが雷光槍を撃つ時は早すぎて良く見えなかったが、魔法陣から放たれていたらしい。

 暫くすると魔法陣は精密性を上げ、光り輝いた後、一本の雷光槍が発射された。



「《―――――行け、雷滅の射矢よ!雷光槍サンダースピア!!》」



 ロイが放った初めての魔法。しっかりと魔法っぽい演出と、紛れもない雷の轟音を響かせ、連鎖猪めがけ飛んでいく。

 そして見事、連鎖猪のわき腹に突き刺さった。



「見ろ、ユニク!!僕の魔法が当たったぞ!!」

「おう、すげぇな。んじゃ俺も、バッファの威力を試してみましょうかね!」



 そして、俺は連鎖猪へ向けて走り出す。

 連鎖猪はわき腹を負傷し、よろめいている。このまま突っ込んでも問題ないだろう。

 そう判断し、森林地帯から連鎖猪がいる開けた山道へ飛び出した。



「ブモウ。」

「ブモウ。」

「ブモウ。」

「ブモウ。」

「ブモウ。」


「…………えっ?」



 **********



 あぁ、鮮明に思い出してきた。

 バッファが成功し調子に乗った俺を出迎えたのは、5匹の連鎖猪。

 見えていたのは一匹で、草むらに隠れていたらしかったんだよな。

 結果はもちろん、惨敗。リリンが助けに来るまで俺とロイは、空中を舞う事となった。



 うん。つらい出来事を思い出していたら、だんだん意識がはっきりしてきたぞ。

 今は剣術の実践訓練中。

 10日間で基本的な魔法を覚えた俺達はリリンも交え、澪さんと戦闘訓練をしている最中だ。

 しかし、全く歯が立たない。今だ午前中だというのに、体を動かすのが苦痛なほどの疲労感。


 俺達の中でいまだ余力が有るのはリリンのみ。

 何度も草原に投げ出されながらも、澪さんに諦めずに挑んでいる。



 そして俺は、投げ出されているロイとシフィーに視線を合わせる。レベル目視を発動させるためだ。

 このロイとシフィーに出会ってからの2週間、俺達は訓練や試練と言った物に数多く挑戦してきた。強制的に。

 その結果の集大成は、レベル表示という、揺るがない物になって表示されている。


 ロイ、レベル15148

 シフィー、レベル15950


 ロイもシフィーも、冒険者登録が完了していないというのに、不安定機構にいた普通の冒険者と同じくらいのレベルとなっていた。

 きっとこの短期間でここまで爆上げ出来たのは、血と汗と努力、あと、イノシシ30頭とクマ2頭のおかげだろう。


 俺は複雑な心境でロイ達から目を離し、ついでだからと、ここ数日何度も確認している自分のレベルを見た。



 ―レベル8810―



 ………………。

 どうして俺だけ、半分しかレベルが上がらないんだろうか。

 自分にだけ訪れた不条理に納得が出来ない。


 俺はレベル表示(現実)から目を背けるように、凄まじい剣撃合戦をしているリリンと澪さんを眺め続けた。


皆様、あけましておめでとうございます!青色の鮫です。


本年も皆様の期待に答えられるよう頑張って更新していきたいと思いますので、応援のほど、よろしくお願い致します!!


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