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第44話「事の顛末」

 三頭熊ベアトリスの大量発生。もっと言うなら、リリンが行った大量殺り……。大量駆除の後、俺達は三頭熊の脅威から住人達を守るため、行動を開始した。


 あれから村の住人達を避難させながら、澪騎士れいきしさんが保護したホロビノを迎えに、洞窟に向かう。

 そこで俺達は洞窟でくつろぐ、謎のドラゴン集団と出会う事となってしまったのだ。


 いやまぁ、実の所、謎でも何でもないんだがな。

 ホロビノと愉快な仲間達こと黒土竜が6匹。そいつらが洞窟でダラケきっていただけの話だ。

 その光景に顔を引きつらせつつ、そもそも、洞窟に入る前に既に嫌な予感がしていた。


 洞窟の入口に居座る、一匹の黒土竜。たぶん見張り役だろう。

 だが、コイツのしている事がもう既に意味が分からない。

 そこそこの大きさの肉を地面に突き刺し、口から火を吐いて肉を炙っていたのだ。


 ……うん。料理してますね……。

 この気持ち。なんと言ったらいいのだろう。

 賢いというか、野生はどうした?と聞きたい。


 入口の黒土竜は、しっかり俺達の事を覚えているようで、リリンに対し頭を下げ敬意を表し、俺には執拗に炙り肉を勧めてきた。うん、いらないよ?


 そう言えばタヌキにも焼きヘビは好評だったなぁ……と思いつつ、俺達は洞窟に潜っていく。


 ちなみにロイとシフィーは、黒土竜にビビりまくり近づこうとすらしていない。

 まぁ、予め魔法竜マジックドラゴンと聞かされていて、しかも料理なんぞしてるとなれば、恐怖を感じるのも無理ないだろう。


 そして洞窟内を進んだ俺達の前に現れたのは、洞窟内部の少し開けたところで横たわっていた、ホロビノと5匹の黒土竜。

 ん?なんか様子がおかしい。これって……。


 一様に横たわりピクリともしない光景と、規則的に聞こえる鳴き声。

 考えるまでもない。



「グヲォォォォオ……。グヲォォォォォ……。」



 こいつら!イビキかいて寝てやがる!!


 というか、こんな感じの光景見たこと有るぞ! 懐かしきナユタ村恒例の、月一収穫祭の翌日の朝だ!!

 飲んだくれて雑魚寝するじじぃ達にそっくり。もはや、野生動物とは呼べない、どうしようもなさ。

 これには澪騎士さんも面食らったらしく、


「なぁ、リリン。こいつらは本当に野生の黒土竜なのか?」

「……たぶん」



 というやり取りをしていたくらいだ。

 本当ならリリンとホロビノの感動の再会になるはずなんだけどな。

 肝心のホロビノが一際大きいイビキをかいて寝ているんじゃあ、どうにもならない。

 リリンは無言でそっと近づいて、ホロビノの顔を杖でつついた。



「ホロビノ……起きて、ホロビノ」

「グガァァァ……。グフォ…………?……。」



 目を覚ましたホロビノは、まず目の前のリリンを見つけ固まった。

 そして、辺りにキョロキョロと視線を這わす。



「…………。」

「…………。」


「キュイィィィッッ!!」

「ホロビノ!!」



 そして、リリンの顔に頭を擦り寄せ、盛大に甘えている。


 ……ホロビノの奴、誤魔化しに入ったな。正直、こんな姿を見られたら誤魔化したくなるのも頷けるけど。

 そろいもそろって、ドラゴンを辞めておっさんに転職した方がいいとすら思えたし。


 でもまぁ、



「ホロビノ、本当に良かった……! もしかしたら死んでしまったのでは無いかと心配した。ホロビノ…ホロビノッ!!」



 リリンが嬉しそうだから、いいとするか。



 *********



「なぁ、ユニフ。世界は不条理に満ち溢れているとは思わないか?」

「ん?まぁそう思うけど、急にどうした?」


「いや、僕も、乗ってみたかった……」

「あぁ……」



 感動?の再会を果たした俺たち一行は、避難民達とアルテロの町を目指していた。

 一応三頭熊に遭遇した場合に備えて、陣形を整えている。

 中央に位置するのは澪騎士さん。先頭を切り、進路の確保も行っている。

 そして、右肩には俺とロイ、左側にはシフィーとホロビノが設置された。


 これは進路上で三頭熊を発見しやすくする為の索敵陣形だ。

 それぞれの視覚を第九識天使ケルヴィムで繋ぎ、発見次第、澪騎士さんが赴き討伐。

 リリンは避難民と一緒に行動し、万が一の場合に備えている。


 その右肩を任された俺達だったが、どうやらロイは不服だったらしい。



「いいな……シフィーの奴」

「そんな事言ったってしょうがないだろ?それこそ本当に、ロイ子ちゃんになるしかないんだから」


「ぐうの音も出ない」



 そう言ってシフィーの方を眺めるロイ。澪騎士さんを通して視覚や聴覚がつながっている為か、シフィーの楽しそうな声が聞こえてくる。



「わぁ、ホロビノちゃんって、結構やわらかいんですね!乗り心地、抜群ですっ!」



「もう諦めろって。リリンも言ってただろ?ホロビノは男を乗せるのを嫌がるってさ」

「く!しかし、君は乗せて飛んだんだろう?ずるいじゃないか」


「うーん。そうだけど、リリンと一緒だったからなぁ。そんなに乗りたいんなら自分でドラゴン買ってこいよ」

「調教されたドラゴンなんて、買える訳ないだろ……うちの領は結構、金策厳しいんだからな」



 そう言ってロイはもう一度だけシフィーを見た後、視線を前に向けた。

 一応、自分の職務に戻る気になったらしい。

 ここは、気分転換に違う話題でも振ってやるとするか。



「そういえばさ、何で澪騎士さんに、あんなに敬意を示したんだ?」

「それが当然だからだろう?君くらいなもんだぞ?あんな態度を取れるのは」


「ん、そうなのか?もしかして結構有名人?」

「有名人どころではない。……ユニク、伝説上の生物、ペガサスは知っているか?」


「あぁ、羽の生えた馬だろ?」

「じゃあ、グリフォンはどうだ?」


「鷹のような頭の、空飛ぶ四足獣だったか?」

「うむ。知っているか。なら、ペガサス→グリフォンときたら、澪騎士、だろう?」


「いや、意味が分からねぇッ!?」



 ホントどういう事だよ!?

 一応、人だぞ?幻獣と一緒にするのは流石に失礼じゃないか?

 あ、というか、やばい。この会話は一字一句、ダダもれだ。

 誰にって、もちろん、



「なぁ、君ら。ずいぶん楽しそうな話してるじゃないか。私を珍獣扱いか」



 澪騎士さんに、だ。

 距離は離れていても、俺達は今、第九識天使ケルヴィム中。もちろん会話なんてダダもれだ。

 むしろ、会話をするために発動しているくらいだからな。



「あッ!!ししし、失礼しました!!」

「くすっ、冗談だ。それほど怒ってはいない。フィートフィルシア家の当主には面識も有るし、からかっただけだ」


「え、僕の両親と……?」

「あぁ、私はこれでも、騎士階級の最高位と呼ばれているからね。ブルファム王国の貴賓会などにもよく呼ばれるし、ご両親とは、少しだけ話した事が有る」



 へぇ、意外だな。ロイってば本当に良い所の息子だったのか。

 王国の貴賓会に呼ばれるって想像できないけど、凄そうだもんな。

 俺も、一度でいいから経験してみたい。



「そうでしたか、僕の両親も捨てたもんじゃありませんね」

「ん?ご両親に向かってその言葉は辛辣すぎないか?」


「いえ、正直、僕はあまり愛されていないようでして。澪騎士様にこのような愚痴をこぼすのは心苦しいのですが……」

「ははは、それはないだろう。第一、行方不明の君を捜索するのに、二千規模の捜索大隊が組まれているからな」


「……。ふぇ?」

「ふぇ?じゃなくて。私腹心の小隊長の娘も、「領主様の息子くんが行方不明になってしまったようです。澪様、私の兵を出兵させてもよろしいでしょうか?」と懇願に来たくらいだ」


「今すぐ帰った方がよさそうじゃないか?ロイ」

「僕は……なんてことを……。」


「まぁ、訳ありだと思ったが、もう連絡は済ましている。暫くしたらその娘が迎えに来るからな、帰る気が有るのなら、むしろ、ここに居て欲しい」



 チラリと、ロイの顔を見てみた。

 うわぁ、顔面蒼白とは、まさにこのこと。ロイってば、この数日間で一生分の冷や汗をかいたんじゃないだろうか?



「それは、その、なんと謝罪すればよいか……」

「家出したいというその気持ちは分かるからな。そうだ、勝手に連絡した罪滅ぼしとして、少し稽古をつけてやろう。君もどうかな?ユニクルフィン」



 澪騎士さんは、どうやら義理堅い人らしく、三頭熊の討伐がてら剣術の指導をしてくれると申し出てくれた。

 これにはロイも大喜びなようで、青かった顔色がみるみる内に赤くなっている。現金な奴だ。


 しかし、ちょとだけ俺もそそられる。

 リリンよりも強いとされる人、しかも剣を主体として戦う人の指導とは、いかがなものか。


 せっかくだし、俺も指導して貰おうかな。そう思って返事をしようとした時、突然、リリンが会話に乱入してきた。



みお、ダメ。ユニクは私に剣術を教えて欲しいと言っている。ユニクは私の。だから、ダメ。ロイは良いけど」

「ふむ、確かに同じ人から習っているのだし、やる事は一緒だろうからな。手分けした方が効率がいいか」


 ちょ、え、リリン!?! 

 確かに俺は、リリンに剣術を教えて欲しいとお願いしている。約束だから文句はないんだけどな。

 だけど、リリンよりも強い人の剣術にも興味が有るわけで、後で見せて貰う事だけはリリンにお願いしてみよう。


 それよりもだ、リリンの言い回しが非常に気になった。

 リリンが言った「ユニクは私の。」という言葉。どうしてもこの言葉には続きが有るように思えてしまうのだ。

 なんかこう、しっくりくるようなのは……。


 ユニクは私の、おもちゃ。


 ……あ、これだな。非常にしっくりくる上に、意味合いもバッチリだろう。……はぁ。


 こうして、この三頭熊事件は幕を閉じた。

 一時はどうなるかと思ったが、無事に乗り切れて本当に良かったと思う。


 あとはリリンの八つ当たりをどうやって回避するか、それだけだな。


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