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第42話「暴虐の魔法」

「いいよね?みお

「あぁ、いいぞ。無残に殺すも綺麗に殺すも同じ、死だ。三頭熊くまだって分かっているさ」



 そういって澪騎士はリリンの頭を優しくなでた。嫌がるそぶりもなくされるがままになっているリリン。

 それこそ、緩やかな空気が漂っていて。


 ……え、えええー。なんなんだよ、この空気!

 さっきまで決死の決戦に挑むみたいな感じだったんだぞ?

 どうしてこうなった!?

 うん、原因は分かっている。この澪騎士・ゼットゼロなのは間違いない。

 だってほら、レベルがさ。



 ―レベル94910―



 ほら、おかしい。意味不明すぎる。

 理不尽な強さを持つ雷撃系少女のレベルが48471。

 そして、俺の前に居る白銀甲冑のレベルが94910。ちょうど倍くらいである。

 ははは。それじゃ、この人はリリンの倍くらい強いってことか?

 ちょっと想像できないし、想像したくもない。

 ……なにせ、リリンは国を滅ぼしているらしい。その倍の強さとはどれ程のものだというのか……?


 緊急事態すぎてついていけないけれど、一応突っ込みだけはさせて貰おうか。



「なぁ、リリン。さっきまで絶体絶命のピンチみたいな雰囲気だったよな?それを、三頭熊ベアトリスを血祭りに上げるって……」

「だって、澪が現れた以上、ピンチなんて起こるはずもない。そもそも、あんなのに私は負けるつもりもない」


「ちょっとまて、三頭熊に勝てないから逃げろって言っていたんじゃないのか?」

「違う。万が一、私がミスをしてユニク達に危険が及ぶのが嫌だった」

「そうそう、リリンがランク5の軍勢なんかに負けるはずがないな。ちょっと三頭熊くまにはトラウマが有るけれど」


「ん?リリンにトラウマ?」

「あ、ちょ、澪!」

「ん。修行時代に、三頭熊の強さを勘違いして戦いを挑んでな。結果は半べそ掻きながらの辛勝。それ以来、苦手意識が芽生えてトラウマになっちまった」


「……澪、ひどい。これ以上、私を辱めないで欲しい」

「はは、ごめんごめん。ほら、三頭熊アレに八つ当たりしてきていいぞ」


「そうする。そして、その後はユニクやロイ達にも八つ当たりしたい」



 いやぁぁぁぁ。八つ当たりなんて嫌すぎるッ!!

 今のリリンは情緒不安定な感じだ。何されるか分かったもんじゃない。

 マジで連鎖猪の群れに放り込まれそうな勢いだ。



「まてまて、リリン。今は先の事はいいいから、目の前の敵に集中しような?その後はホロビノも探さなくちゃならないし!」

「あぁ、ホロビノなら私が保護しているぞ?怪我していたから治療した後、肉を大量に置いてきている。今頃ドラゴン仲間と楽しくしているだろう」



 お、ホロビノの生存も確定っと。


 澪騎士が言うには、そもそも、俺達に出会う事が出来た理由がホロビノなのだそう。

 空でよろよろしていたのを見つけ不時着した所を保護、その際に黒土竜が周りで警護していたらしいが、リリンの新しいペットかと思って手出しはしてないらしい。

 黒土竜達はホロビノを守ろうとしたのか。美しきドラゴン愛だと思う。人類にとって脅威となりそうだが。

 そして治療中、ホロビノは同じ方向をずっと見つめていたらしく、そちらにリリンがいると推測し見事に正解だったと。



「ホロビノも無事……!よかった。本当に、よかった!!」

「あぁ、よかったな、リリン」


「うん。ありがとう。後はあの三頭熊(畜生ども)を狩るだけ」

「おい、嬢ちゃんよ。ちっとゆるみ過ぎじゃねぇのか?相手はあの三頭熊の群れだぞ?」


「大丈夫。防御役の澪がいるなら、私も周囲を気にせず本気の魔法をぶちこめる。今からはもう、戦闘とは呼べない代物になるから」

「はぁ、やれやれ、こりゃそっくりだな……」



 え、戦闘と呼べない代物……?ヤバそうな気配が漂っている。リリンも微笑んでいるし。

 そして、おっさんも諦めたのか、肩をすくみながら溜息をつく始末。

 しかし、さっき言った「そっくり」とは誰に似ているというのだろうか?

 まぁ、おっさんも冒険者歴が長いし、何処かで理不尽に出くわしているのかもしれないな。そっとしておこう。



「さぁ、安心して好きなだけ暴れてこい。たとえリリンがこいつらを殺そうとしても、かすり傷ひとつ負わせはしないから」

「うん。お願い、澪!!」



 元気よく返事をするとリリンは三頭熊に向け走り出した。

 踏みしめる土の音はせず、土ぼこりも経たない。

 バッファの魔法で強化されたリリンの疾走は、空を駆けるといった表現が一番正しいのだ。



 **********



「《崩壊。迫りくる終焉の音を前に、なせる事など唯の祈りだけ。割れ出ずる熱雷の翁よ、私のモノとなるがいい。―雷霆の戦軍(インドラ)―」



 たった100mの距離の走破など、その少女の前では自宅の庭を出る事のように簡単な事だった。

 憎き敵を見据え走り出したリリンサは、たったの数秒の時間をうまく使い、自身が持ちうる最高クラスの攻撃魔法を唱える。

 それは、とてつもない魔法の才能を持つリリンサでさえ、詠唱破棄が出来ないほどの高位の魔法。


 ランク8、『雷霆の戦軍(インドラ)


 自身の怒りと、不甲斐無さのどちらも消費してしまおうとリリンサはこの魔法を唱え、そして、正面に居た2匹の三頭熊が炭化した事により、開始の合図となった。


 焼滅する仲間の姿を見て、反応を見せた三頭熊は、直ぐに行動に移す。

 危険を察知し、地を駆け突撃してきたのは3匹、空中から圧し掛かるように飛んできたのが2匹。

 合計10本の魔法を打ち消す鋭き斬撃は、か弱い少女が受ければ、姿形さえ判別する事が難しくなる事だろう。


 しかし、それは、『か弱き少女』の話だ。

 今まさに暴爪の嵐に飛び込んだのは、理不尽極まる冒険者で魔導師の少女。対抗手段など、いくらでも持ち合わせている。



「《失楽園を覆う(ディスピアガーデン)》」



 そして、当り前のようにその暴爪の嵐は届かない。

 リリンの放った魔法、失楽園を覆う(ディスピアガーデン)はリリンサを取り囲むように出現し、その身に迫っていた巨体を弾き飛ばした。

 当然、魔法の打ち消し効果を持つ三頭熊の爪もまた効果を発揮し、双方相打ちとなる。

 しかし、これで十分なのである。

 たった一秒の、魔法名を唱えるだけの時間さえあれば、この攻防の勝者は決まってしまうのだから。



「《五奏魔法連フィフテットマジック雷霆の鏃(ヴァジュラ)》」



 少女の放つ雷の魔法、雷霆の鏃(ヴァジュラ)

 雷霆の戦軍(インドラ)発動時に使用可能になるこの攻撃魔法は、指向性をもった超高圧の高周波雷電。

 分子を震わせる高周波を、高圧の雷撃に纏わせ放つ。

 この二つの性質により、直撃を受けたものは一切の抵抗が許されない。

 高圧の雷撃により生物の根幹の筋繊維が急激に委縮し、さらに分子を震わせる高周波によって瞬時に炭化するほどの高熱が身体を襲うからだ。


 そしてそれは、魔法を無効化する三頭熊とて例外ではない。

 撃ちぬかれた体を魔法が伝わるのと同時に体細胞が炭化していく。如何に魔法を無効化する器官を備えようと、それ以外の部位全てが炭化してしまっては何の意味もないのだ。


 こうして、少女の周りには、魔法の打ち消し効果のせいで残った10本のクマの手が空中に舞う。

 そんなものに露ほども興味を示さず、リリンサは次の獲物を見据え、たぎるる。



「逃がさない!《空気圧縮エアロプレス》」



 魔法を唱え、空中に向けたリリンサの手の先に、空気の爆縮が起こった。

 爆縮とは、爆発の間逆。空間を丸ごと握りつぶしたかのように近くにあるもの全てを吸い寄せる事象。

 リリンサが空中に向け放たれた空気圧縮エアロプレスは地表5mほどで爆縮を起こし、近隣の全て草花や砂礫はもちろん、地中深くに根を張る植物を強引に吸い上げ、逃亡を図かろうとした三頭熊全てを強制的に引き寄せていく。


 そして、抵抗する三頭熊を迎えるのは、雷光の槍。



「《 五十重奏魔法連クィンクァゲテットマジック雷光槍サンダースピアッ!!》」



 叫ぶようなリリンサの詠唱。


 それを以て顕現するのは、リリンサを包むような、50の雷光槍の群れ。

 栗の外皮のように不規則かつ円形に象られ、その形が出来上がった瞬間に全方位に向け射出された。

 空中に引き寄せられ、ろくに身動きの取れない三頭熊の群れ。その土手っ腹に雷光槍が突き刺さり、そのいくらかは打ち消されてしまったものの、不十分な体制ではろくに防御も出来るはずもなく。

 あえなく7匹の三頭熊が絶命し、空気圧縮エアロプレスに吸い込まれていった。



「あと、9匹。《瞬界加速スピーディー!》」



 リリンサは自分のバッファの効果に満足いかなかったのか、再び速度上昇の魔法、瞬界加速を唱え、三頭熊に向かい突撃を仕掛けた。

 上空に引き寄せられながらも地表で耐えていた三頭熊は、リリンサの接近に気付いていながらも、迎撃をするのが出遅れる。

 当然、暴虐の雷を纏うリリンサがその隙を見逃すはずもなく、その杖と共に、再び、雷霆の鏃(ヴァジュラ)が振われた。


 そして、次々と三頭熊は葬られていったのだ。

 爆発の閃光が尾を引くようにして駆け抜け、一番近くにいた三頭熊の懐にリリンサは潜り込み、再び魔法を放つ。

 順次、同じ作業の繰り返し。しかし、確実に三頭熊はその数を減らしていって。

 絶命する三頭熊は、何が起こったのかも分からない事だろう。


 人間の英知を集め研鑽された魔法は、野生の動物には理解しようもないのだから。



「……最後。もう見飽きたから、死んで欲しい。《主雷撃プラズマコール!》」



 戦場を駆けていた少女は、最後に、怯えの表情すら見せていた三頭熊に決別の言葉を掛けると、ゆっくりと丁寧に魔法名を唱え、その蹂躙に幕を引いた。

 転がる23の遺骸は、暴虐に触れてしまったが為の結末。

 生物として、何一つ間違ったことをしていない三頭熊の群れは、これまた生存闘争と言う自然の摂理に従い、滅びただけの話。


 この殺戮を一人でやってのけたリリンサは、今一度、三頭熊を見据え、その動かなくなった体に蹴りを入れると、満足したように自分の仲間の元へと足早に戻った。



「……ただいま。ん?どうしてみんな、震えている?」



 この、理不尽系雷撃少女の目を通して、一部始終を見ていたユニクルフィンにロイやシフィー。

 三人ともガタガタと震えだし、その恐怖たるや、彼らの人生経験の中で、最も鮮烈だったという。


皆様、僕の小説をご愛読くださり有難うございます!

初めて始めた執筆活動が続けられたのも、ブクマや評価を入れてくださった心暖かい皆様や、継続的に読みに来てくださっている皆様のおかげです!!


来年も自他ともに楽しめるような小説を書いていきたいと思いますので、応援のほどよろしくお願い致します!

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