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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第200話「心無き亡国の統括者②」

「これは……、歌か?」



 何処かの国の騒がしい冒険者支部の受付前、もしくは、日常が繰り返される街中、はたまた……、静かな森の中。

 ブルファム国内外のあらゆる場面に溶け込む熟練冒険者、その腕に巻かれたペンダント付きの革紐(ミサンガ)が声を発した。


 それは、美しい声色で奏でられた、歌。

 幼いながらも荘厳で、しなやかでありながらも強い意志を感じさせる。

 その音色が届いた者が聞き惚れるそれは、魔王の歌声。

 神の声を等しきそれを掻き消せるものなど、この大陸には存在しない。



「このミサンガは回復アイテムだったよな?なんで歌が流れてくるんだ……?」

「でもよ、なんかこの歌……、いいよな」



 魔王・無尽灰塵がブチ転がした9万人の冒険者に配られたミサンガ。

 回復アイテムであると言われ、事実、そのミサンガを付けてからは体の調子が良い気がする。

 例えそれが、極度の緊張状態から解放された事による安らぎであろうとも、そう信じてしまえば、ミサンガの効果として成立するのだ。



「何の曲かしらねぇが、温かみがあるな。そろそろ日も暮れるってのに」



 現在の時刻は、16時30分。

 フィートフィルシア領での闘いから一夜が明けた、翌日の夕刻だ。


 この時間帯の冒険者の多くは、依頼から帰る途中や、野営の準備、もしくは酒場や自宅で団欒をする等に分かれる。

 だからこそ、ミサンガから流れてきた歌声に耳を傾ける余裕があり……、それこそが、この大陸を支配すせんとする大魔王達が行った世界戦争、その最後の策謀となる。



「今日の収穫はいまいち、昨日から散々だ。さっきまでやるせなかったが、なんか、どうでも良くなった」



 このミサンガはフィートフィルシアに参集した9万人の冒険者へ配られたものだ。


 彼らは、各地の冒険者支部でトップクラスの実力を持つ熟練冒険者。

 卓越した技術を持つが故に、人の限界を悟りし者。


 だが、たった1時間余りで冒険者を全滅させた無尽灰塵の理不尽を心に刻み、新たな矜持へと踏み込んでいる。


 ミサンガを腕に巻く冒険者達は仲間に、友に、家族に伝えた。

 フィートフィルシアにあったのは絶望と希望だったと。


 遥か頂きに立つ魔王・無尽灰塵の戦闘力、その後で出会った聖女の優しさ。

 そして、運命掌握レジェリクエが語った……、言葉。


『人民よ、選びなさい。無数に広がる未来から、自分の人生を勝ち取りなさい』


 自分の人生を勝ち取るという、至極、当たり前な『希望』。

 それを知った冒険者たちは、戒めと期待を隠すべくミサンガを腕に巻いている。



「俺はこの歌を知ってるぞ。ブルファム王国の国歌だ」



 ミサンガへ視線を落とし、男が呟く。

 その男はブルファム王国に属する寒村出身。

 国に思い入れが無くとも、国歌くらいは知っている。



「ブルファムの国歌が、なんでミサンガから流れてくるんだよ?」

「そこまでは知らねぇよ」



 その歌声を聞いた者、全てが聞き惚れて耳を傾けている。

 戦いを職業としている彼らは、どんな時でも警戒を怠る事が無い。

 だが、不思議と戦意が削がれ、意識を平和へと向けて行く。



「この歌を聞いてたらさ、なんか昔を思い出しちまったよ。始めて依頼を受けて、獲物を取りに行ったあの日。やっとの思いで蛇を倒して、そんで……、手を取り合って喜んだよな」



 静かに繰り返される夜想曲ノクターンが、音楽に興味が無い屈強な冒険者に感嘆を覚えさせている。

 レジェリクエが歌うブルファム王国の国歌は、初代国王ディアナ・ライセリア・ブルファムが平和を想いながら綴ったものだ。



 戦争も、愛の告白も、どちらも手を差し向ける。

 相手に翳すは、剣か、花か。

 奪い取るは、命か、心か。


 命ある限り、人は奪い合う。

 それに抗えぬというのなら、この手が掴むのは、温もりを宿す人でありたい。


 民よ、永劫の時を人であれ。

 どれだけ時代が経とうとも。



 最後の一節が終わると、そこに残されたのは静寂だ。


 永劫に続くかと思われたアニマ連合の紛争を沈める為、ディアナは国歌に魔法を込めていた。

 それは、この歌詞を聞いた者へ、一時の安寧を与えるというもの。


 取り戻した安らぎにて人生を振り返って償い、幸せな未来を描く為の布石とする。

 そして、レジェリクエの支配声域が、その効果を相手の心へ直接的に伝えた。

 一切の抵抗を許さないまま、その人々が行える最大級の安寧を強制させたのだ。



「……。」



 静まり返った冒険者は余韻に浸り、打ち震えた心を鎮めようとする。

 それらがブルファム王国を中心とした、数万にも及ぶ地域で同時に起こった。


 フィートフィルシアに集まった9万人の冒険者は帰路に付いて国を渡り、こうして、魔王の声の伝達者となった。

 そして、次に発せられた声によって――、世界中の人々が魔王に支配される。



「厳粛に聴取なさぁい。これより、ブルファム王国、並びに、レジェンダリア王国より、世界核戦争終結の意を発する」


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