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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第198話「亡国姫の運命掌握⑥」

「そうよ。余は貴方と遊びたい。ねぇ、一緒に人生を楽しまないかしら?」



 優しげな頬笑みと共に向けられた、レジェリクエの小さな手。

 それを見つめたメルテッサは、思わず手を取ってしまいそうになる自分を嗜めた。


 ほんの小さな、勇気が無い。


 騙されているのではないか。

 手に触れた瞬間に泡沫となって消えてしまうのではないか。

 そんな考えばかりが巡り、震える手を動かす事ができない。



「えっと、その……、あ。」

「はい、時間切れぇ。こんなに隙だらけなんだもの、簡単に捕まえられたわぁ」



 メルテッサが気付いた時には既に、手の震えは収まっていた。

 絡めたれた指から伝わる、暖かな想い。

 ギュッと強く握りしめられ、身動き一つする事ができない。



「……キミと一緒に居たらさ、美味しいものが食べられるかい?」

「くすくすくす、余は魔王ぉ。貴方の頬を膨らませて、元に戻らなくしてあげるわぁ」



 メルテッサの脳裏に浮かんだ、無邪気なセフィナ笑顔。

 つまらなそうに食事をしていたメルテッサにも、元気いっぱいに料理を薦めていた。



「……キミと一緒に居たらさ、色んな遊びができるのかい?」

「くすくすくす、余は女王ぉ。遊郭生まれの余に知らない遊びがあるかしらぁ?」



 遊び。

 それは『メルテッサ・トゥミルクロウ』の性能にない、新たな『向上』。

 欲してやまない、幸せ。



「……ひっく、キミと一緒に居たらさ、寂しい思いをしなくて良いのかい?」

「くすくすくす、余は聖女ぉ。寂しいと泣く子供は放っておけないのぉ」


「じゃあ……、一緒に遊びたい。ひっく、ぼくも、仲間に入れて……」

「いいわよぉ。これからたくさん遊びましょうね」



 レジェリクエが一方に握っていた手、遠慮しがちに力が籠っていなかった手。

 絡み合った手は、互いの思いを確かめ合うように強く握られていて。

 塞がっている両手の代わりに頬を擦り寄せ、レジェリクエはメルテッサの涙を拭う。



「よしよし、良い子ね」

「うん、う”ん、よろしく、おねが、ひぃ、ひっく、しま……」


「じゃ、早速、遊びに出掛けましょぉ!時間もないしぃ」



 大粒の涙を流すメルテッサと、乾いた瞳で未来を見据えるレジェリクエ。

 一片の曇りがない朗らかな友人愛も、片方が魔王である以上、たっぷりと策謀が含まれている。


 言質を取って心をへし折ったレジェリクエは、速攻で声色を切り替えて立ち上がった。

 当然、手が絡まっているメルテッサも引っ張り上げられ、二人揃って何もない空間に向かって歩き出す。



「え、ちょ、出掛けるってどこに!?」

「もちろん遊びに行くのよぉ。お友達も待ってるわぁ」


「友達……。はっ、まさか魔王」

「もちろんそうよぉ。魔王の友達、略して『まおとも』よぉ!」



 ツッコミ役の英雄見習いが聞いたら頭を抱えそうな事を平然と言いながら、レジェリクエは前に進む。

 向かう先は白い壁。

 だが、レジェリクエが呪文を唱えると波紋が広がり、そこにドアが出現する。



「《魔法次元乗ディメニスマジック4番目の世界へ(ワールド・フォース)》」

「ドア?じゃなくって、そもそも、ここってどこなの!?」


「見た方が早いわぁ。リリン、ワルトナ、お待たせぇ」



 ガチャリ。と軽快な音と共に拓かれた先にあるのは、メルテッサに取って見慣れた光景。

 室内には飾り気が無く、無機質な机とベッドが並んでいる。

 窓に掛けられているカーテンも上質な物であるが、こだわりが無い平凡な柄だ。


 総じて、普通。

 強いて個性を上げるとしたら、本棚が多い程度。

 そんな、年頃の女の子のものとは思えない部屋を見たメルテッサは、引きつった叫び声を上げた。



「ぼくの部屋じゃねぇええええかッッ!!」



 **********



「あ。出てきた。もぐもぐ」

「お出ましだねぇ、おめでたいねぇ」



 魔法次元から出てくるなり絶叫したメルテッサに気付いたリリンが、平均的に膨らんでいた口を開いた。

 ついでとばかりにワルトが野次を飛ばし、混沌とする空気に火と油を注いでいく。

 うん、メルテッサは病み上がりって事を忘れてないよな?



「お前ら、ぼくの部屋で何してんだよッ!?」

「くつろいでる?普通に疲れたし」


「魔導機神を二回もブッ壊しといて、『普通に疲れた』で済ますんじゃないッ!!」

「ん、貴方の方も元気な様で何より。カミナがニコニコし始めた時はもうダメかと思った」


「治療したんだよね!?」

「……どちらかというと、実験の方が近いと思う!」


「ぼくの体に何をしやがったぁああああッ!!」



 平均的なハムスター姉妹はベッドの上に仲良く座り、おやつの時間を満喫している。

 その傍らにはカツテナイ害獣・ゴモラ。

 リンサベルタヌキ連合軍の領地には、死屍累々となったお菓子の袋が散らばっている。



「つーか、ベッドで飲食すんなッ!!マナーを弁えろッ!!」

「堅い事を言うなよ、悪性ぃ。僕らの仲じゃないか」


「……お前とは特に仲が良くないだろ、悪辣。ん?」

「それはそれとして、可愛らしいの読むじゃないか。指導聖母が恋愛小説とはねぇ」


「おまっ!?返せッ!!」

「あぁ、麗しの騎士様ぁ。貴方様の愛しのフィアンセは預かりましたわ。返して欲しければ明日までに……って、恋愛小説か?これ?」


「音読すんなッ!!悪辣ぅッッ!!」



 蒸発した涙の代わりに青筋を立てたメルテッサが駆け出し、ワルトが座っていた椅子に飛び込んだ。

 だが、ワルトは大聖母の戦闘訓練(カツテナイ絶望)を辛うじて生き延びたという、百戦錬磨な英雄見習い。

 軽々と身を翻して回避し、持っていた本をメルテッサに返している。



「はぁ、はぁ……。ちっ」

「くすくすくす、出会って一秒で打ち解けたわねぇ。ちょっと嫉妬しちゃうかもぉ」


「出会って一秒で撃ち殺したい。何で、ぼくの手の中に魔導銃が無いんだ」

「あら物騒ぉ。それにしても、ワルトもリリンも少しは加減をしないとだめよぉ。メルテッサには友達がいないのよぉ」


「確かにそうだが、そんなにきっぱり言わないで。涙が出てくるから」



 メルテッサが第四次元層から出て来て、おおよそ20秒。

 大魔王共から集団いじめを受けたメルテッサの瞳は潤み、ぷるぷると震えている。

 ついさっきまで、頂上決戦をしていたとは思えない。


 俺がチェルブクリーヴに『神すら知らぬ(グランドエンド)幕引き(ゴッデス)』を叩き込んだ事で勝敗が決した。

 粉々に吹き飛ばした機体、そこに含まれる神性金属に集中するように破壊の力を流し、その役割を強制的に終わらせる。

 機体を維持する為の核を破壊した以上、チェルブクリーヴが再生する事は無い。


 そして、空に飛び出したメルテッサを抱き寄せた俺が見たのは、生気を失った青白い顔だった。



「とりあえず、無事な様で何よりだぜ。メルテッサ」

「ユニクルフィン……!」


「致命傷を与える気は無かったんだが……、すまん、加減が出来てなかったみたいだ」



『神性破壊・神すら知らぬ(グランドエンド)幕引き(ゴッデス)

 これは、取り戻した記憶の中でも使用頻度が少ない、取っておきの技。

 直撃すれば存在そのものが消滅する、グラムの奥義だ。


 向けた相手は蟲量大数と王蟲兵だけで、加減をしたことはない。

 それでも、メルテッサがいるコクピットは避けたし、怪我をさせるつもりは無かった。


 だが、カミナさんの話によると、チェルブクリーヴを壊した事によるショック症状により命の危機に陥ったらしい。

 謝罪して済む問題じゃないかもしれないが、俺の誠意は示すべきだ。



「別にいい。殺し合いをしていたんだ。死ぬのは当然といえる」

「俺はそんなつもりじゃなかったんだよ。それにお前もだろ?」


「はて?」

「お前が殺意を向けてきたのは、チェルブクリーヴに乗った後だ。それも、戦ってる最中にどんどん弱くなっていった」


「どうかな?意識してなかったけどね」

「どっちかっていうと楽しんでいるようだったぜ。ともかく、俺が気になるから謝るんだ。すまん」



 特に変な意味とかなく、普通に悪い事をした思っている。

 死ぬほど痛い思いをしたってカミナさんが言っていたしな。

 もし目が覚めても動けない様だったら、お見舞いの品をもって看病に行ったかもしれない。



「……うん、キミが謝るって事は、ぼくはキミの攻撃で負けたってことになるよね?」

「そうだな」


「じゃあ、賭けもぼくの負けだね。さぁ、この身体を好きにしてくれたま……ごふぅっ!」



 俺が弁明をするよりも速く、大魔王尻尾が獲物を捉えた。

 光の速さで蠢いた尻尾がメルテッサを絡め取り、弓に矢を番えているワルトナの前に引きずり倒す。


 ……流石は大魔王親友。

 喧嘩しているのに、息ぴったり。



「寝ぼけた事を言う。あ、なるほど。もう一度眠りたいの?永遠に」

「終わらない悪夢を見せてあげるよ。どんなのがお好みなのかな?」

「はい、ストップ。そろそろ15分経つわよぉ」



 一触触発な雰囲気を叩き切った大魔王陛下は、壁に掛っている時計へ視線を向けた。

 現在の時刻は16時15分。



「ほらリリン、離してあげて。着替えられないでしょぉ」

「むぅ。ユニクを狙う奴は全員ブチ転がしたいのに」


「後でね」



 平均的な渋い顔で尻尾を緩めると、メルテッサは大魔王陛下の後ろに隠れた。

 うん。俺が悪かったのは認めるから、その捕食者の眼差しは止めろ。魔王ども。



「メルテッサ、貴方が持つ礼服で一番仕立てが良いものを見せて貰えるかしら?」

「礼服……?それなら、その収納に入ってるけど」


「魔法次元を貴方の部屋に作ったのは、着替えを直ぐに済ませる為なのぉ」

「着替える必要があるってこと?」


「そう。今からするのは、ブルファム王国史の幕を下ろし、新たな国の建国を祝う……、新王ロイの王位継承式典なのぉ」

「……なんだってッ!?」

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