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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第173話「天穹の破壊者⑧」

「ということで、ワルトナちゃん、ちょっと本気出しまーす」



 年相応よりも幼い雰囲気で、ワルトナが笑みを溢す。

 それは、親しい友人へ可愛らしいイタズラをする時のもの。


 キラリとワルトナの左眼が光り、チェルブクリーヴを見据えた。

 その眼光は、まるで子供には似つかない鋭く冷酷な狩人の目。

 弓兵である事を鑑みても、異常に研ぎ澄まされた視線だ。



Loss of(両腕)both arms(消失)……、Catastrophe(世界規模危機), certified(認定)

「ふんふん?ふふーん?ダメだ。さっぱり分かんないや。カミナー」

「オッケイ、通訳するわねー」



チェルブクリーヴから発せられる言葉のようなもの。

それを理解しょうとしたワルトナは速攻で匙をぶん投げた。

そして、しっかり理解しているぽい友人と第九識天使を繋ぎ、その内容を理解する。



「おや?どうやら僕だけじゃなく、あっちも本気を出すようだ」

「ん、なんでカミナは言葉が分かるの?」


「タヌキに取り憑かれたからじゃない?」

「よく分からない……」



仲間の奇行に慣れているリリンサといえど、何かがおかしいと気づき始めた。

天穹空母や魔神シリーズを作った事も相まって、『カミナなら出来そう』という範囲を越えつつあるのだ。


だが、そんな疑惑はチェルブクリーヴには関係ない。



All safety(常用制限装置) devices() released(解放)……、《来い=全きものの善悪典型オール・ルシフェル・エノク》」



 カミナによって捥ぎ取られた両腕の断面、そこに召喚の魔法陣が灯った。

 それこそが、チェルブクリーヴの核である『天使の星杯』の基本性能。

 本体である機体の命令に従い適した武装を装備する事こそ、外部武装として作られた天使シリーズの本懐だ。



「あら、整備場以外で見られるとは思って無かったわ。やるじゃない、メルテッサ」

「……カミナ。『整備場以外で』ってどういうこと?見たことあるの?」


「うふ、後で教えてあげるわ」

「むぅぅ!また隠しごと。むぅ、むぅぅ……!」



 むぅぅ!と頬が膨れるなど、本来ならあり得ない。

 今まさに起こっている現象は、タヌキ帝王ソドムが持ちうる力の全てを出し尽くして行う最大戦闘形態への移行。

 言葉通りの意味で世界規模危機(カタストロフ)への対処であるそれは、やはり、世界規模危機と同等の力を有している。


 チェルブクリーヴが失った両腕の先にそれぞれ、純黒と純白の腕が召喚された。

 それは、天使と魔王の腕。

 攻勢眷族・サムエル……、世界の理を穿つ五門の砲を指とする、『魔王の攻め手(デモンハンド)』。

 守勢眷族・エステル……、世界の理を作る五本の磔を指とする、『天使の守り手(エンゼルハンド)』。


 善と悪、この両腕は世界の全きものを、時に肯定し、時に否定する。

 薄らと光を放つその表面には……、既に矢が刺さっている。



「クソタヌキ超武装が出てくるって分かってるのに、大人しく待ってる訳ないだろ。ばーん!」



 ばーん!という、ワルトナの軽快な声。

 それを引き金にして、チェルブクリーヴの両腕が爆ぜた。



「vigiruoonn!?」

「鳴き声までクソタヌキそっくりとか……、奇奇怪怪だねぇ、欣喜雀躍だねぇ!」



『欣喜雀躍』

 思わず踊り出してしまうくらいに嬉しいこと。

 そんな感想を述べたワルトナが放っていた先制攻撃により、チェルブクリーヴは出鼻を挫かれたのだ。


 大聖母の後継として勉強を始めたワルトナは、その権力が持つ力の一つである帝王枢機・アップルルーン=ゴモラについても調べた。

 そして、本来ならば古い文献を読み漁るなどの手間の掛る調査も、あらゆる性能を熟知している友人がいるのならば問題になりえない。

 だからこそ、ワルトナは帝王機にまつわる性能とその根源を知っているのだ。



「僕の放った創造の矢の効果は、刺さった対象物に一定以上の魔力が流れると有爆するという魔法を付与するものだ。これが中々に僕の好みな矢でねぇ」

「……。うん、納得した」


「まぁ、せっかくだし語らせておくれよ。魔法の付与を消す為には、通常、魔法で上書きすればいい。だが、僕が付与した魔法は上書きの魔法に流れる魔力にも反応し、有爆する」

「上書きできない。厄介だと思う」


「魔法以外の手段が必要になるわけだ。リリンはそれを持ってるかな?」

「ん、教えな……え、ワルトナ、その目は……!?」



 含みを持たせた言葉、それに対する答えを用意できなければ戦いにすらならない。

 それを理解したリリンサは自分の持ちうる手札の中で対処できると安心し、強い視線を返そうとした。


 だが、ワルトナは既に、その先を想像し終えている。

 振り返ったワルトナの悪辣に笑う表情、その左眼に掛っているのは、指導聖母の(思い出の中で贈られた)仮面をモチーフにした片眼鏡。



「真なる覚醒をした神殺しは、中心にしなかった能力を集めて副武装を作る事ができる」

「ユニクのたぬきガントレット……!」


「なんでタヌキをモチーフにしてんだよ!?じゃなくって、シェキナの能力は創造と想像。この弓が思い描いた魔法を創造する弦を持つのなら、その副武装たるこの片眼鏡(モノクル)は思い描かれようとする未来を想像する」

「未来……?それじゃ!?」


「この片眼鏡は表に映した光景を世界に記録された過去の事象と結びつけ、裏側にその事象が辿った結果を映し返す。世界の記憶を利用した、高い精度での未来予知。それが、シェキナに秘められた想像の力だ」



 僕に力が無かったから。

 いや、例え力を持っていなかったとしても、こんな未来になるって知っていたら抗う事が出来たんだ。


 全てを失い、後悔した。

 だから僕は、僕の気に入らない未来の全てを否定する為に『戦略破綻』と名乗った。

 もう二度と、僕はこの目に後悔を映したくない。



リリン以外の(・・・・・・)僕の同胞よ(・・・・・)、地上にトバッチリが行かないようにサポートよろしく」


「任せとけ」

「戦闘記録はバッチリ取るわ」

「きゅあ!」

「ぐるぐるきんぐぅー!」



 しれっと混じった6番目の声を合図に、チェルブクリーヴが駆動した。

 その両腕に纏うは、尋常ではない濃密な魔力。

 薄紅色の発光する程に凝縮された力を輝かせる指先は、当然のように爆ぜていない。


 物質主上の効果、過去の習得(インストール)

 ワルトナの創造の矢の効果をメルテッサが上書きし、その性能を取り戻したのだ。



「《Har(最終)-Megiddo(決戦)Frame(聖火)》」



 キュィィィンと甲高い音を響かせ、空気中に含まれる可燃物質が凝縮された。

 摂氏数千万度にも及ぶ、太陽の中心に匹敵する核熱の炎。

 それを世界に顕現させる為の予備動作である理想気体を創り出す為、全ての条件を整えたのだ。


 後は、導火線に火を付けるがごとく、指の先端に火種を灯せばいい。

 分子すら燃料とする終焉の炎。だが、いつまで待とうとも、それが起こらない。



Warning(危険)……error(異常動作)!」

「弓とは、時間差を利用する武器だ」


Cause(原因) analysis(解析)……Applicable(該当)

「敵を見る、矢を番える、弓を引き撃つ、矢が飛ぶ、射抜く。幾つもの工程を経て行われる攻撃は、どうしたって剣を振るだけの剣士の攻撃より遅くなるし、魔法の様な多様性もない」


exercise(対策手段) of means(行使)

「だからこそ、神栄虚空・シェキナ……、神をも射抜くこの弓は、その時間差を利用する」



 チェルブクリーヴが指先へ再び輝きを灯す。

 その刹那、天から降り注いだ5本の光がそれぞれの指を貫き破壊した。

 それは、ワルトナが想像し、創造した現実(未来)



「剣のような速さはユニが、魔法の様な多様性はリリンが持っている。なら、僕は弓のように先を見通す存在になろう」

Emergency(緊急) repair(回復)……、completed(完了)


「へぇ、どこが?」

「vigiッ!?」



 閃光により砕かれた指先、その過去を無理やりに呼び起こし攻撃に繋げようとする。

 だが、二の腕に突き刺さった青白い矢が、それを妨害した。


 指先に伝わるはずの魔力が、青白い矢に吸われて霧散する。

 例え世界最強の魔力量を誇っていようとも、伝達できなければ意味がない。



「viッ!」

「手を出すんだねぇ?でも手遅れだよねぇ!」



 手遅れという言葉の通り、矢を取り除こうとした天使の右腕は間に合わなかった。

 本来、指先から発せられる筈だった灯火。

 それが青白い矢の飾り羽に灯り、放出されるはずだった核熱の炎が不意に誘発される。


 轟という閃光と共に、チェルブクリーヴが吹き飛んだ。

 辛うじて出来た天使の守り手による精密防御により、体と左腕は無事。

 それでも、ボロボロになった右腕が風になびき、ギシリ。と軋む。



「おっと、遠距離戦を挑むんだねぇ?弓兵であるこの僕に」



 三十を超える閃光が弾ける。

 それはワルトナが放った創造の矢だ。


 矢が向かう先はチェルブクリーヴが吹き飛ばされた方向だけではない。

 360度、無造作に放たれた閃光は、まるで巨大な大蛇の様に弧を描き、空で踊る。



「僕の矢が神性金属の装甲を貫けている理由が分かるかい?メルテッサ」

「……ちっ」



 チェルブクリーヴのマイクが発した舌打ち、それに気分を良くしたワルトナは饒舌に語りだした。

 それは、敵の思考を誘導する戦略破綻の基本戦術。



「何と驚くべき事に装甲には穴が空いている。装甲が駆動する隙間にはマジックグリースという潤滑油が使われているんだが、その循環機構は帝王枢機に備わった脆弱性の一つなんだってさ」

「Countermeasure(対策) search(検索)


「そう、確かに対抗策はある。だがそれは、卓越した操縦技術を持つクソタヌキだから行えること。所詮は借り物の自動操縦じゃ不可能だと思うけど?」



 マジックグリースの吐出口は任意で閉じる事ができる。

 だが、全て同時に閉じてしまえば駆動機構が凝結し、機体その物が硬直してしまうのだ。


 そして脆弱性を理解しようとも、過去の性能を参照した所でどうしようもない。

 メルテッサが参照した過去と1mmのズレがない攻撃をワルトナがしない限り、完全な防御は出来ないのだ。



「僕はレインが好きだ。だって、雨の後はいつだって晴れるだろう?」

「vigirrrrr……!!」


「断罪の矢に貫かれ、僕の気分を晴らしておくれ。《降臨の雨飛(フォールド・レイン)》」



 天から降り注ぐ、七本の彩色矢。

 それらがチェルブクリーヴの全身を貫き、そして、それぞれの色を混ぜて――、虹色へと昇華する。


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