第168話「天穹の破壊者③」
~お知らせ~
10月16日の夜に更新したけど、まだ圧倒的ぐるげぇ!!感が足りてない為、さらに加筆修正しました!(合計1000文字ほど)
「《陽極子鳴光・建御雷!》」
天空より飛来した雷塊鉄集巨鳥が、銀色のくちばしを鷹揚に開いた。
そして、その中に膨大すぎる雷光を蓄え、忌むべき同胞を見据えている。
刹那、天空を縦に切り裂く、万条の光りが放たれた。
雷塊鉄集巨鳥の吐き出したそれは、万物を超高電子によって崩壊させる。
銀色だったくちばしが膨大な電力に濡れて黄金に輝く程の、無数に枝分かれした極大の雷光線が、大気を焼き斬りながら進んでいく。
「ぐるぐるぅ!」
自身に宿る魔力の底を感じながら、キングフェニクスはその光景を見やる。
これこそが、キングフェニクスの最大最強技。
自分自身の魔力の殆ど、そして、雷塊鉄集巨鳥の体そのものを弾丸とした、文字通りの捨て身の必殺技だ。
キングフェニクスが発した強力な磁力によって戦場の武器を集めて作られた雷塊鉄集巨鳥は、剣や盾、槍などの数多の金属によって構成されている。
それらを結合しているのは、毛細血管の様に全身に張り巡らされた超高圧電流。
体内金属の全てが電磁石と化し、強力な磁力によって結合しあっている。
「きんぐぅー!」
それらの金属の斥力と引力はキングフェニクスの意思によって吸着と反発を切り替える事ができる。
そして……、体の構成物質である剣や槍を超電力加速で打ち出す事で、人類の科学技術では作れていない、未曾有の超電磁刃砲と化す。
音速の数乗倍にも匹敵する速度で打ち出された剣はプラズマ化し、僅かにでも触れた物質は成す術なく崩壊するしかない。
『崩界鳥・アヴァートジグザー』
偉大なる皇より賜った、名前の由来たる圧倒的な暴虐。
その向かう先が決壊寸前のガラクタ船ともなれば、結果は想像するまでもない。
「bigi……r……on……」
天穹空母が発した、聞くに堪えない金属の断末魔。
それを掻き消す様に数百数千に枝別れした雷が、天穹空母の外装を微塵に砕き、崩壊させた。
対象物質の原子結合に直接的な破壊をもたらす雷光、それが天穹空母をまるごと飲み込んだのだ。
「ぐるぐるっきんぐぅぅぅー!!!」
キングフェニクスの咆哮に答え、『陽極子鳴光・建御雷』が激しさを増した。
既に天穹空母の姿は雷光で埋め尽くされ、内部のシルエットが段々と小さくなっていく。
やがて、輝く空間の中で、天穹空母の最後の外装が弾け飛んで消滅した。
全ての外装が無くなり、攻撃手段の魔法プレートも全て蒸発している。
この瞬間、キングフェニクスは勝利を確信した。
「きんぐ!」
雷塊鉄集巨鳥が全力での行える攻撃の限界は、後10秒程だ。
内部の武器を撃ち出す事は身を削るに等しく、その時間を使いきった時、体を維持するだけの電力も金属も残されない。
だが、あの鉄の塊を燃やし尽くすのには5秒も有れば十分だ。
そんな目算をしたキングフェニクスは、高らかに勝鬨の雄叫びを放った。
「ぐるぐるっきんぐぅっーー!!」
その声が引き金となったかのように、天穹空母の骨鉄筋が崩れて消える。
これで残すは、中心の動力機構を残すのみ。
あと2秒で全て終わる。
そう思いながら動力機関部を見たキングフェニクスは……、ほんの小さな違和感を抱く。
「きんぐぅ?」
綺麗すぎる。
言葉にして、5文字。
そんな簡素な感想は……、的確だった。
「……system.reboot」
キングフェニクスの目に留まり続けるは、彼が知る動力機関部ではない。
その奥……、雷霆回路針を放った時、動力機関部の奥で見た『人間の上半身の様なもの』だ。
疑心を抱いた瞳の先で、天穹空母を建造する為に使われた工具達が役目を終えたとばかりに崩壊して行く。
粉々に崩壊し、世界に溶け込んでいくそれらの残滓、その中で……、キングフェニクスが見知らぬそれは、いつまで経っても崩壊しようとしない。
「ぐるぅ……?」
冥王竜との戦いによって破損し、その度に天穹空母は修復された。
その酷使によって工具が破損し、船体の修復が一時的に停止しているのだとキングフェニクスは判断していた。
だが、それは違ったのだと、キングフェニクスは考えを改めた。
天穹空母はその身を直せなかったのではない。
別の存在を建造する為、直さなかったのだ。
「ぐるっぐるっ…!!」
雷光の中に取り残された、キングフェニクスが知らぬ『人型の動力機関部』。
焦りと後悔を交えたキングフェニクスは、全身全霊を掛けて陽極子鳴光・建御雷の威力を強めるも……効果は無く。
その雷光を誕生の光だとでも言うように、深紫の魔導巨人は産声を上げた。
「Start-up…….”Cherub・kurību”」
僅かなその音声は、途切れ途切れになりながらも、雷光の渦中から世界に示された。
確実に、何らかの意味を持っているであろう言葉。
それがキングフェニクスに届いた刹那、数百数千の雷に変化が訪れる。
何度も何度も冥王竜の攻撃を受けた天穹空母は、いや、それ以前の戦いで既に命脈が尽きていて。
それでも空を飛び、不屈の魂を感じさせんばかりに蘇り続けたのは。
建造用の整備台に座す、巨大な人型の心臓部『天使の星杯』を核とした、新たなる機神の誕生への布石。
「Machinerepaircomplete」
修復完了。
それは、修復とは名ばかりの創世だった。
天穹空母の鋼材、エヴァグリフォス宝物殿に収納されていた伝説の魔道具。
そして、天使シリーズの派生後継機であるアップルルーン=ゴモラの基礎設計。
それらを組み合わし、メルテッサは作りだしていたのだ。
自分専用の帝王枢機を。
「……command prompt”Megiddo・fire・war Lance”」
瞳に光を灯した深紫の魔導巨人が右腕を翳し、その掌の射出口を開いた。
刹那、万条に及んでいた雷光へ、炎の槍が突き立てられる。
瞬時に生み出された炎槍によって爆光が生じ、そのエネルギーが周囲一帯へと吹き飛んでいく。
そうして作られた、均衡。
銀色の羽根マントから深紫の片腕を覗かせ、深紫の魔導巨人は天空に君臨する巨躯を見やった。
「Targetcapture……」
目標認識、設定完了。
緑色の光を灯した瞳で告げた深紫の魔導巨人、それこそが、メルテッサが振りかざしていた絶対の余裕の正体。
遥か彼方、数千年前に存在した、魔導枢機・エゼキエルの眷族機サムエルとエステル。
さらに、世界最高峰の超位魔導具たるアップルルーンの設計を読み説いたメルテッサは、天使の星杯へそれらの情報を注ぎこんだ。
そうして生み出されたこの機体は、正真正銘、機神の名にふさわしい性能を持っている。
「Battle trace "SODOM"」
戦闘技術参照”ソドム”。
それは、サムエルとエステルの中にあった、過去の性能。
偉大なる眷皇種・ソドムが操縦する最大武装状態のエゼキエルの戦闘技術がインストールされたのだ。
命令に従い、深紫の全身を隠していた銀色の羽根マントが翼の様に展開。
折り重なったプレートに浮かび上がったのは、超高速移動を可能にする為の魔法陣。
背中、腰部、脚部、それぞれのブースターが展開され――、火を灯す。
やがて起こったのは、1秒の待機時間。
それを終えた次の瞬間には、雷塊鉄集巨鳥の首と胴が別れを告げていた。
「ぐるきん!?」
雷光の如き速さで空を駆けた魔導巨人は、雷塊鉄集巨鳥の首筋に両腕を添えた。
そして放たれたのは、炎と氷の巨大槍。
掌の射出口から放たれたそれにより、巨大な首が両断されたのだ。
驚きのあまりに声を発したキングフェニクスを無視して、深紫の魔導巨人は自身の腕を天に掲げた。
そこにあるのは、もぎ取っていた頭部。
それを軽々と掴み、後ろに大きく振りかぶって……、頭を失った巨鳥の胴体へ投擲する。
「Itemtrace. Sword railgun」
亜音速で放たれたそれは、キングフェニクスの最大攻撃の模倣。
無数に枝分かれした雷光が雷塊鉄集巨鳥へ炸裂し――、たった一撃で、体の右半分が失われた。
「ぐるぐるっ!?きんぐ!!」
馬鹿な。と目を見開き、起こった事象を検分する。
冷静に思考を巡らせなければならないが、冷静でいられる状況でもない。
右羽根を失った雷塊鉄集巨鳥が、ぐらり傾いて地上へと落ちていく。
そんなあり得ない光景の端で、深紫の魔導巨人は……、既に両掌へ武器を携え終えた。
「Battle Process Select……、clear」




