第167話「天穹の破壊者②」
「ぐるぐる……きんぐぅー!」
キングフェニクスは声高らかな咆哮を飛ばし、小さくなった光の翼を瞬たかせた。
雷霆回路針の衝突エネルギーによりプラスの電荷が周囲の大気中へ伝道。
フェニクスの巨大な翼の半分ほどが消滅してしまっている。
だが、プラスの電荷は周囲に散らばっただけ。
声高らかに鳴いて魔力を活性化させれば、何度でも縮退させる事ができる。
「ぐるぐるぅ……」
ふむ、雷霆回路針で付けた傷にも回復の兆候が見られない。
物質主上の復元で過去の性能を無理やりに行使させ、代替えとしているだけだな。
鋭い観察眼で状況を検分し終えたキングフェニクスは、想定した決着への道のりを考え始めた。
「ぐるぐるぅぅ……、きんぐぅ!」
雷霆回路針を放った時に拾っていた鉄の塊を宙に放り出し、ラケットで打つように雷光の翼を叩きつける。
そうして放ったのは、擬似的な超電導弾。
超超高電圧によって打ち出された金属は燃え尽きながら進み……、天穹空母の外装に着弾。その表層を吹き飛ばした。
「ぐるっぐ!」
狙い通りの結果を見て、決定打の威力は十分だと判断した。
だが、望んだ結果を出すには、10秒以上の足止めが必要となる。
磁力を駆使した拘束が必要、その為には……。
戦略の方向性を定めたキングフェニクスは、白煙を噴き出しながらも全く揺らいでいない天穹空母を見据えた。
バチバチバチと羽根と闘志をはばたかせ挑発し、相手の出方を窺っている。
「ぐる、ぐる……、きんぐっ!」
僅かな停滞が過ぎ、膠着していた戦況に変化が訪れた。
今まで消極的な動きしかしていなかった天穹空母が、息を吹き返したかのように武装の展開を始めたのだ。
天穹空母の形態は、大きく分けて二つ。
一つは熱気球の原理を応用した通常運行モード。
もう一つは、両翼の横断幕に取り付けられた金属プレートを展開する音響兵器モードだ。
そして、現在の天穹空母はその両方の特性を持ち合わせている。
……いや、本来ならば音響兵器モードに可変しなければ発揮できない性能を、通常運行モードで行使しているのだ。
通常運行モードの丸いシルエットはそのままに、主武装である魔法プレートを展開。
パイプオルガンの様な壮大な音色を響かせながら、それら一枚一枚に魔法陣を描いていく。
「ぐるぐるっ、きんぐぅー!」
そうして創られたのは、千にも及ぶ魔法の羅列。
生活魔法から大規模殲滅魔法までの、レジェリクエとテトラフィーアが選んだ魔法の乱舞は理知を全く感じさせない暴虐。
魔法同士の属性相性や相乗効果などを無視した純粋な暴力が、キングフェニクスを飲み込んだ。
光、風、炎、水、防御。
虚無、回復、土、星、バッファ。
十系統の魔法が渦巻く漆黒のドーム、そして、それを切り裂く雷光の翼。
両者それぞれの攻撃が炸裂し合い、均衡し、やがて――。
「きん、ぐぅッ!?」
キングフェニクスの両翼に装備した光りの翼、その片方が折れた。
迫ってきた虚無魔法と防御魔法を同時に処理しようとして失敗したのだ。
上下左右前後、360度を埋め尽くす天穹空母の魔法に対し、キングフェニクスの対抗手段は右羽根一本。
余りにも多勢に無勢な状況に……、キングフェニクスはニヤリと笑った。
「ぐるぐるきんぐぅぅぅうううう!!」
もしもキングフェニクスが人間だったのなら、主人の様に唇を歪めただろう。
目指した戦略と一致する状況が、嬉しくて堪らないのだ。
「《電磁路回避!!》」
キングフェニクスに集中していた魔法の殆どが効果を発揮する事なく、自動で避けた。
まるで意思を持って素通りしているかのような動き、それは、キングフェニクスが使用した電磁路回避によるものだ。
電磁回避は、自身に纏ったプラスの電荷に沿うように、マイナスの電荷を高速で渦巻かせる魔法。
そうして作った大気の対流に阻まれ、ランク7以下の魔法がキングフェニクスに到達する事は無い。
直接対応しなければならない魔法が少なくなった以上、迎撃が間に合わないはずがない。
いくつかの大規模殲滅魔法を光りの翼でいなし、キングフェニクスは天を見上げた。
「ぐるる!ぐるきん!!」
天穹空母の全性能を理解しているキングフェニクスは、繰り出される魔法の大半が防ぐ必要のないものだと知っていた。
ではなぜ、不必要だと知りながら両腕の光の翼で迎撃していたのか。
それは、天穹空母の自動操縦を欺き、罠に掛ける為だ。
自動操縦である天穹空母の行動パターンは、今回の戦争と運航試験のみであり、非常にバリエーションが少ない。
故に、『放った攻撃を迎撃された場合、さらに濃い密度で同様の攻撃を行う』筈だと判断したのだ。
そうして作った決定的な隙。
それを確固たるものにするべく、真の切り札を天空から呼び寄せた。
「《雷塊鉄集巨鳥!!》」
遥か天空、高度6000mより降臨するは、鈍銀色の巨鳥。
戦場で集めた武器や防具で象ったそれは、崩壊鳥・アヴァートジグザーが皇種・ヴァジュラコックの側近足りえた理由。
光魔法・雷系統の魔法を得意とするヴァジュラコックの主な攻撃手段は、有り余る魔力による大規模落雷だ。
人間の町などに向かって撃てば甚大な被害を出す攻撃である一方、超越者クラスには通用しない威力でしかない。
だからこそ、ヴァジュラコックは岩に雷撃を集約し打ちだす事で、凄まじいまでの貫通力を発揮させていた。
そして……、キングフェニクスは媒体にする物質を岩から人間の武器に変える事で、その威力が数倍に引き上がると提案した。
先端の尖った剣を飛ばす事で、空気抵抗などの威力減退の要因を削ぐ事ができるからだ。
「《超電磁球着!》」
キングフェニクスが知る、最も苛烈な雷撃。
それを確実に当てる為の段取りは既に構築済みだ。
莫大な電磁場を形成し、天穹空母の金属部に干渉。
前後左右から引力を発生させる事で、見えない拘束を創り出す。
グゥルゥ、グゥルゥ……という、雷鳴が収束していく音。
それは、雷塊鉄集巨鳥の先端のくちばしから響いている。
「《陽極子鳴光……》」
眩い光を携えた銀色のくちばしが天穹空母へ照準を合わせた。
バチバチと弾け飛ぶ、紫電。
くちばしの内部に覗くは、数千本の剣の群れ。
「……《建御雷!》」
戦場から接収した剣の数、おおよそ1300本。
破損し複数の刃と化したそれは、数万に届く超電磁刃砲を生み出す。




