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第38話「ランク5」

「ユニク、ロイ、シフィー。ここが昨晩発見したホロビノと三頭熊ベアトリスが戦った場所。苛烈な戦いの痕跡が残っている」

「ちょっと待ってくれ、リリン。この荒れ野の全てがホロビノ達の仕業だっていうのか?どうすればこんな事になるんだ?」



 俺達は昨夜の打ち合わせの後、直ぐに体を休め今日に備えた。

 一人ずつ順番に睡眠を取りながら、日の出とともにリリンが見つけていたこの場所を目指し、行動を開始。

 幸いにしてこれといった障害もなく、この場所小高い丘の上に辿り着いた俺達は、その戦場となった草原を見下ろした。


 眼前に広がる光景は、凄惨の一言だ。

 視界の先がぼやけ見えないくらいの範囲の木々が薙ぎ倒され、踏み砕かれた幹が散乱している。

 そして、至る所に存在する直径5mくらいのクレーターは、明らかに何者かの攻撃の痕跡だろう。土が抉り飛ばされた、魔法の爆心地のような大穴はその秘めた威力を賢明に表していた。



「あの中心の、真っ黒に焼け焦げ炭化した部分は、ホロビノの必殺技『竜滅咆哮ドラゴカタスフィー』の痕跡。辺りが暗くなった後に放たれたのならば、その閃光に気がつくはず。恐らく戦闘は昼間の内に行われている」



 ここからでもはっきりと分かる黒い模様。そこに至るまでには様々な色、森林の緑や土の茶色、果実の赤などが見えた。

 しかし、その模様に入ってからは、たった一色。異常なまでに黒いそこは、何も存在しない唯の平面となっていた。



「この有様は、ホロビノが全力戦闘を行うとこうなる。叩きつけられる爆風と衝撃に、木々が耐えられない」



 リリンの簡単な説明では、その情景のほとんどを想像する事が出来ない。

 しかし、この有様を普通の人間が行うのならば、相当の時間が必要だろう。

 流石にリリンに耐性がある俺ですら、この惨状には驚いている。

 そして、ロイもシフィーも同上であるようだ。



「リリンちゃん。この有様は魔法でやったのか?」

「こんな規模の魔法となると、ランク5とか6とかじゃ済まないと思うんですけれど……?」

「そう、ホロビノは魔法竜マジックドラゴンだからできるし、魔法ランクなど野生の動物には関係がない、使えるのだから使うという事。通常、こんなこと(広域殲滅魔法)をすれば敵は生きてはいられないけど、三頭熊ベアトリスは魔法を打ち消し、致命傷を回避している。みんな、下に降りて詳しく調べるよ」



 リリンが下に降りると提案し、俺達もそれに続く。

 なぎ倒された木々の上を歩くと、みしりみしりと木の幹が鳴る。見ただけでは分からなかったが、気の水分が蒸発してだいぶ脆くなっているようだ。



「コイツが、そうなのか……?この馬鹿みたいにでかい奴が、三頭熊ベアトリス……?」

「そう。三頭、つまり頭が一匹で三つある。この左右の頭は、効率よく獲物を捕食するために備えた経口器官としての役割で、脳は入っていないけれど殺傷能力は十分といえる」



 目の前に横たわる、巨体。一目では大きさの全てを把握することが出来なかった。近くにいたのでは体の全部が見えないのだ。

 俺達はリリンの説明を聞きながら、コイツの周りをぐるりと一周する。そして、異常な事が二つ。

 一つは、頭が三つある事。通常の頭の他に前足の後ろ、胴体の側面にも頭が存在していたのだ。一同、眉をひそめながら、その牙の鋭さに背筋を強張らせた。

 そしてもう一つ、その体には怪我らしい怪我が見受けられなかった。唯一つ、その下半身が消し飛んでいる以外は。



三頭熊ベアトリスの上半身が無傷なのは、その前足で魔法を打ち消しているという事で、効果が及ばず暴威にさらされた下半身のみが消し飛んでいる。つまり肉球が届く範囲、半径2mの空間では魔法が意味を成さない」

「そんな……それだと魔道師じゃ絶対に勝てないじゃないですか!」


「シフィー。基本的に、ランクが5を超えるような化け物は一定の魔法耐性が有ると言ってもよい。腕に自信がないならば、近寄ってはならない」

「待ってくれッ!今ランクが5を超えると言ったか?」


「うん?言った。三頭熊ベアトリスはランク5~6ぐらいが最も多い」



 つかさずロイが突っ込みを入れた。そして、俺も同じ疑問を抱いている。

 その質問に対してリリンは、常識でも語るように、ランクが5を超えると言い出す。



三頭熊ベアトリスは、人間であれ野生動物であれ、群れを狙って狩りをする。殺生の回数が多いほどレベルが上がりやすく、必然的にランク5~6に落ち着く。これ以上レベルが上がらないのは、周囲の動物を全て狩りつくしてしまい、初体験ボーナスが無くなるから」

「そんな……事実上、外敵がいないというのか」


三頭熊ベアトリスを狩る動物なんて聞いた事がない。嬉々として屠る、師匠へんたいなら見た事あるけれど」



 リリンはそれだけ言うと、三頭熊ベアトリスの体を調べ始めた。近づいておもむろに魔法を打ち込んでいる。まるで八つ当たりでもしているかのようだ。

 ロイとシフィーは状況を各々整理しているらしい。

 それぞれ手帳やノートを取り出してしっかりとメモを取っている。

 おもむろに手帳を閉じたロイは、ふむと喉を鳴らし、俺に向かい問いかけてきた。


「なぁユニフ。こんな化け物がどうして人里に下りて来たんだろうか?有名じゃないという事は、それこそ秘境と呼ばれるような山深い場所に生息しているはずだろう?」

「わっかんねぇけど、こういうのは食糧難とか、外敵が現れたとかが一般的なんじゃないか?」

「そうでしょうか?三頭熊ベアトリスはさっき外敵がいないとリリンちゃんが言っていました。食糧難だってまったく獲物がいないなんてあり得るんでしょうか?」



 ロイの問いに俺が答え、それをシフィーが否定する。

 確かに外敵がいないのならば、獲物は取り放題だろう。不自然といえば不自然か。

 だがしかし、もし仮に三頭熊ベアトリスを狩れるような奴が現れたのだとしたらどうだろうか?

 それこそ、生態系など度外視で大規模な引っ越しが行われるかもしれない。



「ユニク。私の確認作業は終わった。本格的に索敵に入りたい。事態は一刻を争う」

「あぁ、そうだな。この近くに村が有るかもしれないし、出来るだけ急いだ方がいいだろう」



 そう言って、何の気なしに三頭熊ベアトリスの方へ視線を向けた。

 するとそこには、まるでボロ雑巾のようになった三頭熊ベアトリスの姿が。

 いや、分かってはいた。リリンが近づいてから凄まじい音と閃光が吹き荒れていたのは分かっていたんだ。誰も見ようとしなかっただけで。



「リリン?一応聞くけど、何してたんだ?」

「何って、三頭熊ベアトリスの耐久値テスト。厳密には生体と死体では違うけれど、やらないよりはマシ。ユニクもロイもシフィーもアレに攻撃を仕掛けてみればいい」



 ボロボロの肉塊に攻撃を仕掛けろと言われてもな……。

 まぁ、やっておくか。俺はグラムを振りかぶり、渾身の力で叩きつけた。狙うのは毛皮も禿げた、赤身の部分だ。


 ガキィィィン!!



「「「は?」」」

「分かった?見ただけでは判断できない事もあるという事。こういう地道な事を疎かにすると、簡単に死ぬ。覚えておいた方がいい」



 分かったのなら直ぐに索敵に入る。そう言ってリリンは何かの魔法を発動させた。

 リィンと鈴の音が響き、その場で何度か反響する。

 リリンは目をつむり、その音を聞き分けている。


 幾度か感覚をあけて響いた音を静かに聞いていたリリンは、ゆっくりと目を開け、見つけた。とつぶやいた。



「見つけたのか?どうやってだ?」

「今、私は空間を把握する魔法『戦線の見取り図(マッピング)』を連続で発動させた。通常、地形を把握するためのこの魔法も、連続で発動させ変化を比較すれば、移動する生物の動きを捕らえる事が出来る」



 俺にはよく分からなかったが、シフィーにだけは伝わったようだ。

 そんな使い方、師匠にだって教えて貰ったことがないと、眼を見開いている。

 リリンは、そんなシフィーにお構いなく、東の方向を見て、あっちにいると告げた。



「かかったのは一匹で、近くには広い草原が有る。そこで討伐してしまおう」



 俺達は急いでその現場に向かった。

 近づくにつれて、張りつめた空気が漂ってくる気がする。


「静かに。」


 そう言って立ち止ったリリンの視界の先、30mほど先には無数の連鎖猪達が地に伏しているのが見えた。さらにその上では茶色の巨体が連鎖猪の肉を貪り喰っている。


 体長5m。短く堅そうな毛皮の下には、見るからに分かる隆々な筋肉が備わっている。

 ゴリゴリと音を立て、骨すらも粉砕しながらの捕食。


 もしあれが人間だったなら……?

 可能性として起こりうる未来を想像し、聞こえてくる連載猪の断末魔が、恐怖を加速させていく。

 俺は、自分の気持ちを押し殺しながらも、現状の確認に務めるべくレベル目視を起動させた。


 レベル30,000台という連鎖猪のレベル表記が乱立する中、三頭熊ベアトリスのレベル表記、51,109がひと際、目立つ。


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