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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第159話「戦軍の”無敵殲滅”」

「……目標ターゲットクリア」

「流石に上手いもんだな。『魔弾のセブン』は伊達じゃねぇってか」



 赤い髪の女とチャライ顔の男が、寂れた場所で二人きり。

 状況だけならば逢瀬に見えるであろう光景も、背後から狙撃された男が鮮血に塗れていく姿を見ていれば台無しだ。


 ここは戦場にある建造物の中で最も高い、対空監視塔。

 魔導師が空を闊歩するのが当たり前だった時代に造られた古代の遺産だ。


 そんな戦況が一望できる場所に潜入を果たしたメナファスとセブンジードは、与えられた任務を果たす為に銃を手に取った。

 僅かな緊張が見て取れるセブンジードは特に念入りに準備を終え、長距離用狙撃銃『ベルゼの針撃』の照準器を覗いている。



「今更、外すかよ。どんだけ俺が苦労したと思ってんだ」

「くくく、頼りにしてんぜ」



 ベルゼの針撃の性能を100%発揮させるには、しっかりとした足場を組んで固定し、寝そべる様な姿勢で狙撃する必要がある。

 唯でさえ威力が強いスナイパーライフルを魔力で強化している以上、付随する反動を身体で受け続けることはできない。

 連続精密射撃をする為には、体に負担を掛けない事が必須条件だ。



「……。なぁ、なんで肩甲骨に狙いを限定したんだ?」



 セブンジードは僅かに眉をしかめ、それを隠す様に別の疑問を口にした。

 横にいるメナファスは地面の上に座りこみ、今も、掌にすっぽりと収まってしまう小さな銃を磨いている。


「メナファス様とセブンジードには敗走し反した敵兵の狙撃をお願いしますわ」


 そんな指示により二人で行動を起こしたものの、メナファスが一向に働こうとしない。

 ずっと玩具みたいな魔導銃を磨いているだけで、銃口を敵兵に向けようとすらしていないのだ。


 正直に言ってしまえば、セブンジードはそれを咎めたかった。

 だが、魔王に口答えすれば、待っているのは自身の破滅。

 常に冷静な状況判断ができる事が、一流の狙撃手たる資格だ。



「んあぁ、後々の処理をしやすくする為だよ」

「処理?」



 処理という抽象的な言葉に、セブンジードは更に眉をしかめる。

 その『処理』に込められた意味が何なのか分からないのだ。


 そんなセブンジードとは対照的に、メナファスは平然と銃を磨く。

 その白いハンカチの間からは、薄らと硝煙が漏れ出ている。



「腕は身体のバランサーであり、肩甲骨が動きを司っている。いくらゴム弾と言えど、ライフルで撃ちこまれちゃ皮膚を突き破って骨折させるくらいの威力は出るぜ」

「痛みによってのた打ち回れば、より酷ぇ激痛に苛まれるか。結果、転移先で大人しくするしかないと」



 具体的な手法はメナファス様に任せますわ。セブンジード、このようなチャンスは滅多にない事ですの。よく勉強して来て下さいまし。

 こんな命令を出されてしまえば、セブンジードは従うしかない。

 そして、メナファスが出した指示は、『左右のどちらかの肩甲骨に、この『次元転送弾(ウロボロスバレット)』を撃ち込め』だった。



「転送先で一網打尽にするって話だったよな?なら、戦闘不能になる傷の方がいいんじゃないのか?」

「手当てしにくくなるだろ」


「……手当てってのは、患部を拳で殴って悶絶させるって意味じゃねぇよな?」

「お前、よくそんな非道な発想が出てきたな」


「親愛なる大魔王陛下の御教育の賜物だぞ。せっかく傷を負わせた敵兵を治すってのは納得がいかねぇ、その場で反旗を翻されたらどうすんだ?」



 会話を続けながらも、セブンジードは照準器から視線を外していない。

 連続でトリガーも引いており、数十人が戦場から忽然と消えている。



「反旗を翻されなきゃいんだろ?オレ達の中で一番真っ黒な思考回路を持つカミナが下手を打つとは思えねぇな」

「……えっ?一番真っ黒だと?カミナって、あのカミナ先生だよな?」



 あまりの驚きに顔を上げたセブンジードは、変わらず銃を磨いているメナファスに視線を向けた。

 そして、「なにしてんだ、ちゃんと仕事しろ」と言われ、ぐぬぬ……と視線を戻す。


 そこにあったのは、様変わりした照準器の光景。

 ついさっきまで捉えていた目標を見失い、僅かに疑問を抱く。



「あいつ、人間の体のみならず、心理学にも手を出してっからな」

「……?心理学くらい、医者なら誰でも勉強するんじゃねぇのか?」


「レジェの人心掌握術を磨いたのってカミナだぞ。ついでにワルトナのもな」

「ふぁぁ!?……マジか。マジかぁぁ。ちょっと良いなって思ってたのに……」


「カミナを女として見るのは止めとけ。アイツに『自分に無い臓器を持つ(成人男性)存在』として見られたら終わるぞ」

「なにその怖い表現……」



 シフィーの主治医であるカミナがフィートフィルシアを訪れる際の護衛をしたセブンジードは、普通に好感を抱いていた。

 その優しげな声と豊富な医療知識は人として尊敬できるものであり、豊満な胸はチャラ男として放っておけない。

 強引な手段に出てはいないものの、仲良くなれるなら是非!と思っていたのだ。



「同様の傷を負わせる事で平等感を与え、意図的な共感を抱かせるんだとさ。ほんと医者が思い付いて良い作戦じゃねぇ」

「確かに……。同じシンボルを持つ者同士が抱く集団心理を利用して、全員を支配下に置くのか?」


「ついでに治験もするって言ってたぜ」

「何の治験だよ。……はは、聖母を騙る魔王様のお言葉を聞いて、感動の涙が流れそうだぜ」



 さらに5人の敵兵に弾丸を撃ち込み、文字通りの意味で病院送りにする。

 一人に掛けている時間はだいたい15秒程度。

 射撃訓練場の的を射抜くのと変わらない、簡単なお仕事だ。


 そして、順調すぎる結果に、セブンジードは違和感を抱いた。



「……いや、おかしいだろ」

「なんだ唐突に?」


「俺のターゲットは、手前側に進んでくる集団から離反した者だ。大多数は背中を見せる事になる」

「狙いやすくて良いじゃねぇか」


「あぁ、狙いやすいな。……だが、狙いやすい(背中を見せている)ターゲット以外が存在してねぇのは、流石におかしい」

「くくく、なんでだろうなぁ?」



 セブンジードは照準器を覗いていない左目を横にずらし、メナファスの姿を覗き見た。

 

 目に映ったそれは、日常で見るような、何気ない所作。

 好きな人に話しかける時に頬が緩む、気分が良い時に歌を口ずさむ、そんな日常に溶け込む自然体。

 それ程までに、メナファスの射撃は精錬されている。



「……今、何しやがった?」

「お前にも分かり易いように銃を構えて、弾を撃ち出した。照準だねぇ、狙撃だねぇ、ってやつさ」


「銃を扱う者は遅かれ早かれ赤髪の魔弾(バレッタ)……お前を目標にする。当然、俺も目標にしている時期があった」

「くく、今は魔弾のセブン(お前)の方が有名だもんな」



 冷静な物言いに中に隠した、僅かなトゲ。

 それで様子を見たセブンジードは、もっと踏み込こめると判断した。

 そうして、湧いた激情のまま口を開く。



「闘技場での戦いを見て、俺は驚愕と共に落胆したんだ。総指揮官を銃で追い詰めた驚き、そして、赤髪の魔弾の戦闘技術を自分と比べる事が出来た落胆だ」



 遥か格上だと思っていた存在が、自分と遜色ない技術レベルで戦っている。

 持っている武器の性能があまりにも違うから、戦えばセブンジードが負けるのは必然だろう。

 だが、同じ武器を持つ状況ならば、赤髪の魔弾(バレッタ)の額に弾丸を撃ち込む事すら可能だと思ったのだ。



「正直、この程度かって思ったよ。総指揮官の戦いを見て心が麻痺していたのもあるが……、俺が漠然と抱いていた銃の限界を超えるようなものじゃなかった」

「グリップを握り、引き金に指を掛け、照準を相手に合わせる……、どれだけ自動化しようとも、省略出来ねぇ所作は存在する。お前が言いたいのはそれだろ?」


「何百・何千とトリガーを引いて来ても、決して無くならない銃の限界。大魔王陛下がくすくすと笑いながら野次ってくる俺の欠点。……今のお前の狙撃には、それが無かった」



 銃という武器は、精錬された剣士よりも強い殺気を発してしまう。

 科学的な根拠は何もない。

 だが、遠距離から照準器で捉えた女王に見つめ返された経験は、一度や二度では無いのだ。



「狙いづらい標的が間引きされていた、か。震えが止まらねぇよ。お前は闘技場で見た人物と同一人物なのか?戦闘スタイルが違い過ぎるぞ」

「あー、一つ訂正というか、謝罪な。闘技場に出てたオレは気分的に落ち込んでてよ。正直、雑に戦ってた。すまん」


「……あれでか」

「雑すぎて笑いが止まらねぇよ。あんな無駄弾を撃った日にゃ、寝ている間に仲間からヘッドショット決められるぞ」


「だよな。俺の中の常識でもそうなる」



 セブンジードの家系はフランベルジュ国の裏稼業の元締めだ。

 近年出回るようになった銃は高級品であり、弾丸一つが貧民の月収にも匹敵する。

 価値を知っているからこそ、セブンジードの戦闘スタイルは、弾丸を無駄にしない狙撃を中心としたものとなったのだ。



「すげぇ……、一体何をしたら、そんな事が出来るようになるんだよ……。」

「単純に足りてねぇんだろうよ、桁が」


「桁……?」

「人に銃を向けた数と、そのまま殺した数の桁が足りてねぇ。お前は研ぎ澄まされちゃいねぇってこった」



 セブンジードは、メナファスが口にした例えの前者と後者の数に大きな開きがあると思った。

 狙撃手であるセブンジードは、誰にも悟られずにトリガーを引く事が多い。

 それでも、威嚇の為に銃を見せつけた経験は山ほどある。



「まぁ、レジェが温いせいだわな。『まずは警告ぅ、それを否定されて初めて、人を害する権利が得られるのぉ』ってか。そんな事してっから殺されんだよ、馬鹿が」

「いや、それは人間として常識じゃ……」


「戦場では非常識だ。なにせ、そんな常識持ってる奴から死んでいく」



 そう言っている間に、メナファスは25発の弾丸を放った。

 照準を合わせたであろう瞬間には、すでに発砲が済んでいる。


 いや、そもそも、照準を合わせているのかすらセブンジードには分からなかった。



「はは、なんだそれは。戦場ではこれが普通だってのか?」

「お前が知ってる戦場とは違うだろうな。オレが言ってるのは、明確な意思がある戦争じゃなく、意思が消滅した後の紛争だ」



 メナファスが経験した紛争には、指揮官どころか国すら既に存在していなかった。


 『仕事』をして『金銭』を得て、『食料』を買う。

 それに変わる常識として、『仕事』が『殺人』に、『金銭』が『物品』に、『食料』が『命』へと置き換わった歪な世界に居たメナファスは、人生とは、呼吸とは、人を殺す事だと思って生きてきた。


 人へ頬笑みを向ける代わりに銃口を。

『ありがとう』という言葉の代わりに、弾丸を。

 メナファスに取っての狙撃は、最も慣れ親しんだ、日常。



「なぁ、ついでに教えてくれ。その小さい銃の正体をよ」

「レジェに貰ってからはずっと愛用してる。使いやすくて良いぜ」


「……それが4つ目の古の魔導銃か」

「サタンの天撃。可変口径っつう、珍しい機能がある」



 メナファスの手にある小さな銃の形状は、6発の弾丸が装填されているリボルバータイプ。

 だが、そこに込められているのは弾丸では無く、弾丸そのものを生成する装置だ。


 予め記憶させた弾丸を瞬時に創造し、装填する。

 それがサタンの天撃の能力であり、様々な光景の弾丸に対応した……、この大陸で唯一無二の『可変口径型魔道小銃』だ。



「色んな弾を打ち出せる上にコストパフォーマンスも最高な銃だが、いかんせん飽きるのが欠点だな。なぁ、その銃を貸してみろ」



 セブンジードの常識では、自分の銃を他人に貸すなどありえない。

 銃は同モデルであっても僅かな癖が存在する事があり、それが致命的なミスを誘発するからだ。


 だが、セブンジードの胸に燻る好奇心が勝った。

 静かに照準から目を離し、その場から立ち去ろうとする。



「あーいいよ退かなくて。銃だけ寄越せ」

「……そうか」



 軽い感じで手を振るメナファスへ、セブンジードは狙撃銃の使い方を知らないのか?と疑問を抱く。

 だが、先程見た光景が邪魔をし、ワザと銃を回転させながら投げるという妙な結果に終わった。


 そうして投げ渡されたベルゼの針撃は、メナファスの手に触れた瞬間に火を噴いた。


 トリガーに掛けた小指が引かれ、そうして生じた反動によって銃身が回転。

 メナファスの手の中に収まった時には既に、銃は役割を終えている。



「ひゅぅー、かなりの威力だぜ」

「今ので当てた?う、嘘だろ……?ベルゼの針撃は威力重視のロングスナイパーライフルだぞ……。どんな小指、してんだよ……?」


「銃身に走る衝撃の方向性っつうのは決まってる。どう逃がせば無反動になるのかもな」



 地面に設置して使う銃を片手で構えたメナファスは、立て続けに6発の射撃を行った。

 そして、お互いの距離が800mはあったブルファム兵が同時に倒れ、病院送りになる。



「きょ、距離も身体の角度も違うターゲットを同時にだと……」

「弾速は同じだろ。なら、何回か跳弾させて距離を調整してやれば、同時に着弾するのが道理。お前だってできるだろ?」


「出来るから悩んでんだよッ!!俺は絶対必中の魔法を駆使して、やっと2秒以内の同時着弾が限界だッ!!」



 セブンジードはレジェリクエに鼻で笑われていた理由を知り、愕然とするしかできない。

 あぁ、これ大魔王集団の狙撃手の力か。と、心の底から戦慄している。



「2秒ねぇ。そんなもんなのか。オレが10歳の時と大差ねぇじゃねえか」

「じゅ……。ちなみに。いま。何歳?」


「21」



 あまりの光景に錯乱したセブンジードは、気になっていた事を口走るので精一杯だった。


 メナファスは落ち着いた印象を抱かせる美しい女性だ。

 だが、稀に見せる微笑みの中に、年上のような安心感を秘めていて。

 だからこそ、続いて出た言葉に誹謗中傷の意味がある訳ではない。



「よ、よっつも、年下だとォ……。あ、ありえねぇ」

「お前、死にてぇのか?」

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