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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第147話「カタストロフ・アップル④」

「防御力は試した。次は攻撃力を調べておく!」



 平均的に落ち着いた声で状況を整理し、ちょっとだけ余裕ぶって、妹に姉の偉大さを見せつける。

 そんなリリンサの目論みは成功し、セフィナは目を輝かせた。


 だが、魔法十典範である原初に生れし雷人王で傷付ける事が出来なかったのは、楽観できる状況では無い。

 その原因を調べなければ、リリンサに勝利は訪れないのだ。



「私が調べている間、セフィナも悪喰=イーターの説明書をよく読んでおいて。ゴモラに言えば出してくれるはず」

「わかった。ゴモラ、出して!」

「ヴィギルーン!」



 違う。そうじゃない。

 悪喰=イーターの中に入って読めば時間を必要としないのに、なぜ本の方を取り出す?


 ……と、ツッコミを入れる人間は此処にはおらず、リリンサは天然ボケをかましたセフィナに微笑ましい笑顔を向けるのみ。

 無事に取り戻したという高揚感により、行動を全肯定してしまっているのだ。


「ゴモラ。アップルルーンの本を貸して欲しい」

「はいどーぞ」



 そして、リリンサは颯爽と悪喰=イーターの中に入り、手渡された本を開いてアップルカットシールドの項目を探した。

 そこに記述が増えていることを確認し、小さく頷いて熟読する。



「ふむふむ、私の知識が増えると、自動で内容が更新されるみたい。やっぱりすごく便利」


「さてと……、アップルカットシールドは複数個を繋げると、その数で攻撃力を等分する能力が有る、と」


「さっきは6枚の盾を全て使ったから、原初に生れし雷人王の攻撃力は6分の1」


「流石の魔法十典範も、6等分されてしまっては防がれてしまうんだね」



 リリンサはしっかりと声に出して朗読し、アップルルーンの防御力を理解した。


 悪喰=イーターを持つ者が戦闘で知識を仕入れた場合、即座に関連情報を調べる頃ができる。

 この能力の本懐とも言える利便性をしっかりと使いこなし、リリンサは抱いていた決定打に揺らぎが無いことを確認した。



「これなら大丈夫のはず。なら……予定通り攻撃力を調べておく!」



 尻尾を虹色に唸らせながら、リリンサは突撃を仕掛けた。

 損傷を負っているアップルルーンは積極的に攻撃して来ないとはいえ、目の前5mまで接近されれば反応せざるを得ない。


 両腕に装備した三対のアップルカットシールド、その先端には半月状のブレードが付いている。

 それらを薄紅色に染めた巨大爪は、大陸滅亡カタストロフモードの最大兵装。

 万物を噛み砕き消化する『タヌキ裂界爪』が振るわれようとしている。



「ん!」



 魔神の脊椎尾の回転速度を調整しながら、リリンサはアップルルーンの双爪撃を真正面から受けた。

 一撃ごとに激しく散る火花と金属音が、周囲一帯を震わせている。



「対策をしているのにもかかわらず、ダメージが流れ込んでくる!これがアップルルーンの本気っ……!」



 魔力と感情とエネルギーを乗せた、渾身のド突き合い。

 お互いに手加減をする必要性は無く、持ちうるかぎりの力を尽くす。

 そんな両者の攻撃は拮抗し、いつしか、暴風雨のような激しさとなっていた。



 流石に一撃が重い。

 もし悪喰=イーターで魔神の脊椎尾を強化していなかったら、二撃目の時点で引き千切られていたね。


 だけど、知識を得ている今の私の方が有利。

 着実にダメージを与えて……、ほら、限界が来た。



「あっ、爪が折れたよ!」

「分かってる!セフィナ、ちゃんと読んだ!?」


「大丈夫っ!!」



 リリンサは魔神の脊椎尾の先端に『凝結せし古生怪魚(ダンクルオステウス)』を纏わせていた。

 それは、万物を噛み砕き昇華する『タヌキ裂界爪』への完璧なる対処。

 魔神の脊椎尾とは異なる分子の緩衝材を挟むことで、ダメージの浸透を軽減していたのだ。



「攻めるっ!」

「やっちゃぇえ!!おねーちゃん!!」



 二本の爪を折った事により、タヌキ裂界爪の攻撃力が30%ダウン。

 浸透していたダメージがゼロになり、リリンサは攻める隙を手に入れた。


 大振りに尻尾を唸らせて、大地へ叩きつける。

 そうして巻きあがらせた煙幕に隠れながら、リリンサはいつの間にか持っていた認識阻害の仮面を被った。


 ゴモラの悪喰=イーターの主軸となっている能力は『万物創造』。

 知識()を物質に変換する様にして行われるが故に量産は出来ないが、人間社会に流通している程度の魔道具ならば対価なしで作り出せる。

 そして、悪喰=イーターの中で創造した物質は、外に持ち出す事ができるのだ。



「えっ、おねーちゃんどこ!?」



 リリンサの姿は見えないが、視点では繋がっている。

 この戦場のどこかにいると理解したセフィナは、慣れた様子で視線に意識を集中させた。


 ワルトナと酷似した戦法をリリンサがとった事を疑問に思ったが、後で聞けばいいやと思考停止。

 そうしてリリンサの居場所に当たりを付け、姉の指示を待っている。



「そい!《原初に生れし雷人王(オムニバス・ゼウス)!》」



 認識阻害の仮面で視野情報を遮断したリリンサは、再び原初に生れし雷人王を撃ち放った。

 この魔法が光の速さである以上、目視による認識をした時には既に着弾している。

 認識の外から撃ちこまれた不可視の一撃、それは、対応される事のない必中の攻撃となる――、はずだった。



「ん!」



 だが、アップルルーンはその攻撃に対応した。

 まるで来ると分かっていた様に爪を突き出し、原初に生れし雷人王を切り裂いて消滅させる。

 そして、その爪の勢いは止まらず、放熱処理をしていた砲身へ先端を突き立てた。



「セフィナっ!!」

「うん!」



 両腕で魔神の脊椎尾を捕らえたアップルルーンは、獣状の頭部を開口させた。

 そこにあるのは、巨大なエネルギー射出装置。

 既に臨界に達しているであろう咆哮は、かつて、大陸全土を焦土と化したタヌキ帝王・ゴモラの……、怒り。



「《天滅ル硫黄ノ火(メギドフレイム)》」



 放たれた咆哮は、えんぴつ画を塗り潰す様に、世界そのものを黒色へと置き換えた。

 それは、空間が破壊されたことによる、魔法次元の露出。

 原子が崩壊した物質は世界に存在したという根源すら保てず、生まれる前の魔法物質へと置き換えられたのだ。


 そして、そんな破壊の咆哮は、魔神の脊椎尾に触れていない。

 セフィナはリリンサに指示された通りに悪喰=イーターをアップルルーンの眼前に出現させ、天滅ル硫黄ノ火を吸収して受け止めたのだ。



「いぃぃいいいい!やぁああああ!!」



 力一杯のセフィナの咆哮と共に、天滅ル硫黄ノ火と悪喰=イーター、そのどちらともが力尽きる。

 両者相打ちとなったが……、当初の目的であった魔神の脊椎尾の破壊には至っていない。



「ふふ、その呆けた口を閉じた方がいい。さもないと……」



 饅頭でも詰め込むよ、このお馬鹿!

 散々言われた警告のオマージュを口ずさみながら、リリンサは容赦なく攻撃に移った。

 本日三回目の原初に生れし雷人王を装填し、間髪入れず無防備を晒している口に叩きこむ。



「《原初に生れし雷人王!》」

「ギュアィアアアアアッ!!」



 機械特有の悲鳴を上げたアップルルーンの頭部が弾け飛び、そのの三分の一を喪失した。

 そして、抉られた部位から火と煙が噴き出し……、悪喰=イーターの知識に記載がない魔法陣で覆われていく。

 その光景に眉をひそめたリリンサは、それがアップルルーン独自の機能で無い事に気が付く。



「アップルルーンの自己修復機能は、パーツを作り出して組み替えていく方式。魔法で代替はしないはず」

「ヴィギル、ギルギルン!」


「ゴモラも知らない?なら、あれはメルテッサの能力っぽい」



 リリンサは魔神シリーズの解析を使って調べながら離脱し、ここで一区切りつけようと決心した。



 メルテッサの能力が関与しているのなら、悪喰=イーターにない行動をしてくる可能性がある。

 これ以上攻撃すると修復の優先順位が変わってしまうかもしれないし、アレは落としてしまおう。



「セフィナ。基礎的な事は分かった。コイツはここで落とす」

「分かった、でも爪は折ったけど、盾の部分は残ってるよ。さっきと同じことするの?」


「これ以上に壊すと、あっちのアップルルーンと攻守が入れ替わり、その間に回復されてしまう。だから、回復させる間もなく木端微塵に粉砕する」

「えっと、どうやるの?」


「こうする!」



 リリンサは大振りに魔神の尻尾を振りまわし、勢いを付けて叩き付けた。

 先端部を含めた節を回転させて残像魔法陣(ストロボサークレット)も展開し、凄まじい衝撃を発生させる。


 だが、その程度を受け止められないアップルルーンでは無い。

 両腕のアップルカットシールドを連結させて剛腕形態にし、魔神の脊椎尾を衝撃ごと抱きかかえる。



「お、おねーちゃん、地面が崩れちゃったよ!?」

「崩れたのではない。意図的に崩した」



 魔神の脊椎尾が抱きかかえられた瞬間、リリンサは『負荷』『増幅』『移動』を使用し、衝突の衝撃を大地へと伝えた。

 足場を失ったアップルルーンにも『移動』と『飛躍』を使い、あらかじめ用意していた『地獄』へ突き落とす。



「えぇ!?いつ準備したの!?!?」

「最初に撃った原初に生れし雷人王、その真の狙いは私達の足元に空洞を作ること。……これで一機、撃破」



 魔神の脊椎尾の衝撃に耐えきれなくなった地面は崩落し続け全長50mにも及ぶ巨大なクレーターを作り出した。

 膨大な土石に塗れたアップルルーンは成す術もなく落下して行く。



「でも、落したくらいで壊れるの?」

「壊れない」


「え、じゃあ出てきちゃうよね?」

「だから、出て来れないように粉微塵に擦り潰す。私の悪喰=イーターで!」



 アップルルーンのメインカメラが捉えたクレーターの底部で、赤黒い巨球が蠢いた。

 それは、リリンサが作り出した全長50mの巨大すぎる悪喰=イーター。


 神に願いし知識の権能、悪喰=イーター。

 それは、始原の皇種・那由他の経口器官だ。



「ギッ!ギぎギィ、ギヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 無数に突き出した()が乱回転し、アップルルーンの外装に触れた。

 そして立ち昇るは、かつて機神と呼ばれたもの、その残り香。


 鉄とオイルが入り混じった湯気がクレーターから噴き出し終ると、そこに残っていたのは黒く汚れた巨球のみ。

 あまりにもあっけ無く惨たらしい決着、だが、勝利は勝利だ。



「ふぅ、アップルルーンの性能も大体分かってきた。セフィナ、残りの一機はいっしょ――!」



 遠くの景色が、きらりと光った。

 それに危機感を覚えたリリンサはセフィナに抱き付き、魔神の脊椎尾で全身を覆う。



「《 虚空陽光矢ディシーヴ・アローレイン》」



 刹那、無限に等しいと錯覚するほどの光りの天臨降雨が、残りのアップルルーンを襲った。

 散乱して砕けたパーツは、やはり、かつて機神と呼ばれたもの。

 アップルルーンという存在から『ガラクタ』に創造し直されてしまっては、もう二度と、復元する事は出来ない。



「おい、これは一体どういう状況なのかな?」

「……ワルトナ?」



 天空に君臨する漆黒の獣。

 ラグナガルムに騎乗しているワルトナは、強い感情が籠った瞳でリリンサを見下ろしている。



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