第146話「カタストロフ・アップル③」
「最初っから派手に行くっ!セフィナ、眩しいから注意して!!」
「分かった!」
唸りをあげている魔神の脊椎尾の回転速度は、セフィナと戦っていた時の三倍にも上ろうとしている。
リリンサがアップルルーンに勝つ為に悪喰=イーターに願った複数の本、その一つに魔王シリーズの取扱説明書がある。
感覚で使用していた性能の解説を読むことで、その性能をより深く理解したのだ。
「《第一脊椎から第七脊椎、回転数調整。残像魔法陣展開、」
「わわっ、尻尾が虹色になっちゃった!!」
『魔神の脊椎尾』
その最大の特性はドリル状の先端部……、ではなく、それに繋がっている『節』の方にある。
脊椎のように連結されているそれらは、決められた数値で回転させると残像効果による模様が出現する。
複数の発色と回転数を組み合わせることで幾何学模様となり、『節』一つを魔法陣として世界に示す事ができるようになるのだ。
それは、詠唱すらも必要としない、魔神の脊椎尾の強化。
エネルギー強化、装甲強度強化、稼働速度上昇などのバッファ、そして……、通常では発動困難な魔法を砲身に装填する事が出来るようになる。
「第七脊椎から第二脊椎まで連結、回転数調整、88%、92%、96%……」
「光りがどんどん繋がって、魔法陣に……!」
「98%……!いくよ、《原初に生まれし雷人王!》」
それぞれがバラバラに回転していた脊椎、それらの動きが渾然一体となった瞬間、第一脊椎へと連結された。
収束回転する全長5mの砲身に宿りしは、原初にして終焉の雷。
魔法十典範……、『原初に生れし雷人王』。
魔神の脊椎尾を調べ終えたリリンサが次に手に取った本は、お気に入りの魔法『雷人王の掌』の解説書だった。
そして、根源たる魔法十典範にまで遡り、今度はそれそのものを調べ尽くし……、ついには自分のものとしたのだ。
「やっちゃえぇぇ!」
直視すれば失明は避けられない、一条の光。
魔神の脊椎尾の砲門の直径150cmを軽々と越える極大の閃光を遮れる物など、自然界には存在しない。
えんぴつ画に消しゴムを掛けたかのように、進路上にあった風景が消滅した。
大地も、岩も、空も消され、数秒の間は純白のみがそこに残る。
「おねーちゃん、すご……」
「セフィナ、喜ぶのはまだ早い」
「え?」
リリンサからまっすぐに伸びた白、その先にあるのは、真っ赤な真っ赤な、アップルルーン。
マジックペンで描いた絵のように色鮮やかに残っているそれが蒸気を発しながら亀裂を走らせ、再び、六つに分かれて両腕に装備された。
「今の防げるのっ!?どうしようおねーちゃん、アップルルーンすごく強くなってるよ!?」
魔法十典範である原初に生れし雷人王を関知したアップルルーンは、即座に防御形態をとった。
巨大爪と化していたアップルカットシールドで全身を覆い、婉曲部を使ってエネルギーを周囲へ拡散させたのだ。
「大丈夫、慌てなくて良い。今のは、防がれることを想定して撃ったもの」
アップルルーンの周囲には底が見えないほどの大穴が無数に開くも、本体は無傷。
明確な攻撃を受けた事により、リリンサを敵性と認めた。
それは、リリンサの狙い通りの結果。
悪喰=イーターで調べたアップルルーン・ゴモラ・大陸滅亡形態は、数千機から数万機に増殖した機体を使っての軍隊行動が基本理念となっている。
王蟲兵が率いる軍勢を始めとした危険動物の飽和に対応する為に最適化されたものであり、最速での勝利よりも、永続的な敵性の殲滅を目的にしているからだ。
そして、リリンサが立てた戦略は2対2の戦いでは無く、各個撃破。
確実に勝利する方法として、二体いるアップルルーンの一体のみを交戦状態へと誘ったのだ。
「セフィナ、後ろにいる奴には絶対に攻撃しないで。5m以上近づくのもダメ。分かった?」
「うん、まずは手前のに集中だね!」
「お利口で、大変よろしい!」
永続的な継戦をするためには、如何に戦力を減らさないかが重要となる。
その為にアップルルーンには分裂機能が備わっているが、どれだけ増えた所で、簡単に破壊されては意味が無い。
故に、傷ついた機体は前線から下がって自己修復するようにプログラムされている。
リリンサ達の前にいる二体のアップルルーンは、共に半身を魔法で代替しており、傷ついている状態だ。
この場合、より軽微な損傷の機体が優先して戦闘を行う事になる。
それを調べて知ったリリンサは、2体目が戦闘に参加する条件『自己修復・不全』の状況に陥らないように、一体目だけに狙いを絞って原初に生れし雷人王を撃った。
弾かれた余波すらも『移動』と『循環支配』を使用してコントロールし、自分自身を囮にして、二体目から離れるように誘導する。
「距離15m、これだけ離れれば大丈夫」
「それで、どうやって倒すの?おねーちゃん?」
「壊すだけなら一瞬で出来る。でも、後学の為、ちょっと性能を試しておきたい」
「一瞬で壊せるの?おねーちゃん、すっごい!!」
尊敬する姉の言葉を鵜呑みにしているセフィナだが、一瞬たりともアップルルーンから目を離さず、隙を作るという愚策も犯していない。
第九識天使で共有した第三者視点が有用であることを知っているからだ。
「それで、何で性能を試すの?」
「帝王枢機は強大な力を持つけど、悪喰=イーターに知識が有るから勝つのは簡単。でも、世界には帝王枢機に比肩する能力を持つ存在がいる。それらに出会った時に初見で殺されないように、どの程度の戦闘力が有るか確かめておくということ」
「うん?うーん。どれだけ強いか調べておくってこと?」
「正解!」
大変に仕事が忙しく、就業中の妄想が捗らないのです。(爆
なので、暫くは文章量が少なくなると思いますので、気になる方はまとめ読みをお薦めします!




