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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第138話「バルワン・ホースの絶望」

「コイツが天穹空母を落としたつぅ、カツテナイ機神……。ははっ、どーすんだこれ?」



 天空に立つ真紅の魔導巨人を見上げながら、サンジェルマが瞠目した。

 人生最大級に瞳孔を開き、出現してしまった絶対脅威を見つめるしかできない。


 『バルワン・ホース』

 『サンジェルマ・キュビリア』

 『トウトデン・ボールド』


 この三人はフランベルジュに仕えた国軍総長であり、テトラフィーアが連れてきた心無き魔人達の統括者に一方的にブチ転がされた過去を持つ。

 彼らは、自信たっぷりに紹介された少女達を13~17歳の女児の集まりだと侮ったのだ。


 そんな油断から始まった戦いによって、この三人は心身ともに深い傷を負った。

 そして、『どんな外見をしていようとも油断すること無かれ』と信条にして鍛錬を積み――、やっとの思いで自信を取り戻した先で垣間見た、大陸戦争(魔王共の本気)

 目標にしていた『当時の魔王(トラウマ)』に遊ばれていただけだったなど、性質の悪い冗談にもならない。


 サンジェルマは思う。

 魔王の尻尾にすら度肝を抜かれたのに、この仕打ちはなんなんだと。



「おねーちゃんを洗脳した悪い人!覚悟は良いですか!!」

「良くないって言ったら待ってくれるのか?」


「待ちません!!」

「だよな。間違いなく、おめーの姉もそう答える」



 苦々しい記憶の中のリリンサとセフィナを重ね合わせた3人は、戦う以外の選択肢が無い事を悟った。

 誰もが口にしていないが、これは最悪の展開。

 テトラフィーアから下された命令は『帝王枢機・アップルルーン=ゴモラを使わせるな』だからだ。



「出ちまったもんはしょうがないが……、バルワン、『使わせるな』の定義は聞いているか?」

「テトラフィーア様は召喚された時点で手遅れだと言っていた。既に能力を把握されてしまっただろう」


「じゃあ、アレと戦っても悪化はしない訳か」



 サンジェルマが抱いたのは、アップルルーンの戦闘データをメルテッサに利用されるのではないか?という懸念だ。

 だが、既にアップルルーンの性能を把握されている現状、どれだけ激しく戦おうと問題ない。

 そんな結論を三人で共有し、それぞれが武器を構えた。



「戦うのは問題ないが、リリンサ様に魔王シリーズを出されると更に不味いことになる。ちぃ、面倒だが……、俺らでやるぞ」



 この中で一番頭が回るサンジェルマは、戦わずに投降し、戦闘を強制終了する価値を考えた。


 ラルラーヴァーの正体はワルトナであり、投降しても命の危険は無いのは知っている。

 ……だが、投降する意味がないのだ。


 リリンサがラルラーヴァーの正体を知らない以上、必ず力ずくで取り戻そうとし、セフィナは抵抗するだろう。

 そうなれば戦闘は必至。

 そして、自分達が捕まってしまえば、それを止める者が居なくなってしまう。


 最善はセフィナを奪還し、ここに向かって来ているだろうリリンサに返すこと。

 最悪はセフィナに敗北し、ここに来てしまったリリンサが魔王シリーズを使うこと。


 サンジェルマは自分の武器である認識阻害ナイフを握り、その頼りなさに眉をしかめた。

 何で俺の武器は30cmしか無いんだ?と、現状を省みて溜め息を吐く。



「トウトデン、魔導師であるお前がアタッカーだ」

「我にどうしろというのだ。あれは天穹空母を叩き落した機神なのだぞ?」


「お前は魔導師だろ、魔法を撃てや。それが嫌なら俺っちのナイフを貸してやる」



 頼り無いナイフを見せびらかしながら、サンジェルマが歩み出た。

 同様にバルワンも前に出る。

 二人はゴキゴキと肩を鳴らし、地上に降りてきたアップルルーンに乗り込んだセフィナへ鋭い眼光を向けた。



「どうあるにせよ、攻略しなければなるまい」



 アパッチナックルダスターを武器とするバルワンの戦闘スタイルは、バッファを行使しての近接格闘だ。

 第九守護天使弾で敵の防御魔法を破壊し、高めた身体能力に物を言わせ、敵を破壊する。

 レジェンダリア軍・対個人戦最強の異名は、確かな実力の上に付けられた異名だ。



「アレを倒せば、少なくとも俺達は天穹空母以上ってこった。テトラフィーア姫の鼻を明かすのも悪くねぇ」



 認識阻害ナイフが主武装のサンジェルマは、近接戦闘のスペシャリスト。

 だが、その戦闘スタイルはバルワンと異なり、敵と攻防する事は無い。

 レジェンダリア軍・裏工作部隊最強の名の通り、全てを一撃で葬る。



「やるだけやってみるか。あれだけ大きいのだから、数を撃てば当たるだろう」



 修練杖―アルバトロン。フランベルジュ国の国宝であるその杖を所持するには、厳しい試練をクリアする必要がある。

 古の時代から受け継がれてきたアルバトロンは、消費する魔力が桁違いに多い。

 並みの魔導師が使えば瞬く間に魔力を使い果たし、命の危機に陥ってしまうのだ。


 そして、トウトデンは魔力の回復が異常に速いという神の因子を持っている。

 レジェンダリア軍・魔導部隊最強の誉れは、湯水のように湧く魔力を持つからこそ名乗れる。



「えっと、こうして、あーして。ゴモラ。このボタンなに?」

「ヴィ、ヴィギルン!」


「えっ?タヌキ変形(トランス・ラクーン)は超危ないからダメって、そんなの使わないよッ!!」



 どうやら、セフィナは不慣れだ。

 一日の長は俺らにあるらしい。

 可愛らしい声を聞いた軍団将達は動きだし、バルワンが先陣を切った。



「私が防御を破る。その後は好きなようにやれ」

「わかってら。刃が届く位置に動力ケーブルがあると良いんだがね」

「《――祈りなど意味を成さぬ。我が手にある撃つ火は差別などしないのだ。息吹く火炎魔(イグニス・イフリフ)》」



「よっし、覚えた!行くよ、ゴモラ!!」



 **********



「くっ……、こいつはぁ、やべぇってもんじゃねぇぞッ!?」



 バルワンはアパッチナックルダスターを装備した拳を、サンジェルマは認識阻害が掛けられたナイフを、トウトデンは伝説の魔導杖を前に突き出し、己の運の無さを呪う。

 そして、どうしてこうなった?と思いながら、振り下ろされた真紅の戦刃斧の衝撃を全力で裁き切った。



「お前ら、なんか手はねぇのか!!」

「ダメである!どれだけ魔力を溜めて魔法を放てど、盾に吸収されては意味が無いのだ!!」

「くっ、無念だ。第九守護天使弾ですら、僅かにも跡が付かぬとは……」



 第九守護天使弾を使った銃撃、ランク9の魔法、認識を擦り抜けるナイフの奇襲。

 殴打、爆薬、封印魔法、力勝負、煙幕、水攻め、感電、転移魔法……。


 軍団将達は思い付いたあらゆる攻撃を試し、そして、その全てがアップルルーンの盾によって跳ね返された。

 そうして、万策尽きても突破口が見つからず、戦闘は膠着。

 アップルルーンに傷を付けるどころか、本体に触れられぬまま、既に1時間が経過しようとしている。



「大体よぉ、世界観が違うだろ、世界観がッ!!」

「同意である。我は何と戦っておるのだ?」

「リリンサ様の妹だッ!!」


「「ほら、やっぱり世界観が違うじゃねぇかッ!!」」



 戦線は膠着状態だ。

 軍団将の攻撃は通じず、そして、アップルルーンの攻撃も彼らに届いていない。



「わわっ、ちょこまかと……。ゴモラ、怪我をさせないように出力を調整してね!」

「ヴィギルン!」


「いっくよ!《ゴモラミサイルッ!!》」



 アップルルーンは腰部の格納を開き、内部に装填されていた自動追尾弾GOMORAを射出。

 目標に向かって2発ずつのミサイルが飛び、そして、それらは使命を果たすこと無く空気中で爆発した。


 バルワンはミサイルの弾頭をアパッチナックルダスターで打ち抜き、


 トウトデンはミサイルの進路に設置した結界魔法で絡め取って有爆させ、


 サンジェルマはミサイルの隙間に認識錯誤のナイフを差し込んで誤動作を起こさせる。


 彼らこそ、レジェンダリア軍を率いる者。

 その対応力は、この大陸でも屈指。

 相手がカツテナキ機神であろうとも、容易にはやられる事は無い。



「今んとこどうにかなってるが、このままじゃジリ貧だぞ?」

「いっそのこと逃げるか?」


「逃げれたとしても、後でテトラフィーア様に処刑されるだろ!」

「国を捨てるというのは?」


「この大陸の全てを手中に収めようとしてんだぞ!?何処に逃げるんだよ!?」



 三対一の闘いである上に、セフィナは相手を殺してしまわないように、攻撃力の高い武装を使用していない。

 せいぜい使うのは捕獲用のミサイルと、ランクの低い魔法を纏わせたルインズワイズでの殴打。

 その結果、戦況は硬直し、時間ばかりが流れていく。



「あーもー、ワルトナさんが言ってた『悪い人は世にはばかる』ってホントなんだね。むー」

「ヴィギルー」


「えっ、ちょっとくらいの怪我なら治せるから大丈夫?そうなの?」

「ヴィッギルヴィッギル!」


「よっし、アップルカットシールド連結っ!花弁形展開、吸収魔力同調……」



 あの盾をどうにかしないことには、絶対に勝てない。という三人の認識は正しい。


 様々な拡張兵装を使い分けながら戦うエゼキエルと違い、アップルルーンは数千年以上も研鑽され続けた機体だ。

 そんなアップルルーンの装備は、アップルカットシールドとルインズワイズに集約されている。


 三枚のアップルカットシールドは蕾の様に重なり合い、その先端を軍団将に向けた。

 建造された二門の巨大砲、それは戦闘中に溜めた魔力を悪喰=イーターで増幅し打ちだす――、広域殲滅破壊砲だ。



「おいおいおいおい、やべぇ!!トウトデンッ!!」

「《二十重奏魔法連ヴィゲテットマジック・第九守護天使!!》」



 砲身から漏れる眩い光の奔流を見た三人は、計り知れない攻撃が来ると予想。

 直撃すれば死にぞこなうと判断し、最大の防御手段を行使する。


 サンジェルマは、相手の認識を歪め強制的に攻撃対象にさせる囮のナイフを前に投擲。

 大地に突き刺した数は10本。

 正三角になるように配置し、トウトデンがそれらに第九守護天使を二重で掛けた。


 ナイフと第九守護天使の耐久値は、おおよそランク9の魔法一発分。

 それが20回と10本、合計30発分の攻撃が来ようとも耐えられる計算だ。



「行きます!一発目ッ!!《天撃つ星の瞬き(メギド・スターっ!!)》」



 二門ある巨大砲の片方が膨張展開し、内部に秘められていた悪喰=イーターから光輝が放たれた。

 そして、目の前の防御陣の先端で炸裂し――、



「耐え……てねぇ!!逃げろッ!!」

「二発目、いっきまっす!!」



 10本あったナイフの内、9本が蒸発。

 残った一本も炭化していることから、第九守護天使が突破されているのは確実だ。


『天撃つ星の瞬き』、想定威力はランク9の魔法29発分。

 どう考えても殺意があるとしか思えない攻撃を前に、軍団将は「これがカツテナイ機神か」と戦慄した。

 そして、間に合わないと思いながらも防御陣を再構築しようとし……、漆黒の尾に絡め取られた。



「セフィナ。火遊びをしてはダメだと、ちゃんと教えたはず」



 軍団将を回収し終わった漆黒の尾が鞭のように振り回り、アップルカットシールドを弾き飛ばした。

 その衝撃で光輝が暴発し、天空で大輪を咲かせている。


 眩い光を背に立つは、レジェンダリア軍・総指揮官。

 心無き魔人達の統括者・リーダー、リリンサだ。



「……あ。おねーちゃんだ!」

「久しぶり。セフィナは元気な様で安心した」



 漆黒の尾を揺らめかせ立つリリンサと、嬉しさを前面に押し出して飛び跳ねたアップルルーン。

 ……これが絶望か。と軍団将は思った。



「バルワン、足止め御苦労さま」

「リリンサ様、魔王シリーズを使用してはダメです。メルテッサが強化されてしまいます」


「……どういうこと?」



 既に魔王の尻尾が召喚されてしまっている以上、残りが出てくるのも時間の問題だ。

 バルワンは誠心誠意を込めて状況の説明を行い、リリンサの理解を求めた。

 だが、帰ってきたのは冷え切った声と『否』だ



「それはできない。時間がないから」

「時間が無い?」


「ここに来る途中、セブンジードに会った」

「あいつに……?何か言われたのですか」


「レジェが敗北した」



 酷く平均的な表情で語られた言葉。

 聞いた軍団将も、言ったリリンサも、無意識に拳を握っている。



「陛下が……?ば、馬鹿な……」

「一時間後、テトラが攻勢を仕掛ける。バルワン、サンジェルマ、トウトデン、三名は軍司令部に帰還し、テトラの指揮下に入って」



 どれだけ深い絶望に落されようとも、バルワン達は動かなければならない。

 それが軍団将であり、失策をした者の責務だ。


 どんな事態に陥っても、陛下達がいれば大丈夫だろう。

 そう思っていた自分を殺してやりたいほどに、バルワン達は悔恨の念を抱いた。



「私は三十分以内にセフィナを捕まえないといけない。もう、出し惜しみしていい状況は終わった」

「分かり、ました」



 何も分かっていないのだろうと、バルワンは思った。

 戦況も、状況も、自分と相手の戦力差でさえ、正しく認識できていない。

 悔しさに打ちひしがれながら、三人はリリンサ達に背を向ける。



「セフィナ。速やかに投降して。大人しく捕まるのなら、おしおきは勘弁してあげる」

「……えっ?」


「ワルトナの場所はどこ?ラルラーヴァーはそこにいるの?今すぐ教えて」



 レジェリクエの敗北の報は、リリンサにも深い衝撃を与えた。


 セブンジードから聞かされたのはレジェリクエの敗北と、「準備が整う三十分後に、もう一度会いに来ます。その時までに姉妹の決着が付いていないなら、詳しい事情を話して二人を強制連行するとテトラフィーア様が仰っておりました」の二つのみ。

 そうして、深い事象を知るよりも、セフィナとワルトナの保護を優先したのだ。



「だ、だめだよ!!」

「……なんで?」


「だって、今のおねーちゃんは怖いから、喧嘩になっちゃいそうだもん!」



 セフィナは、ワルトナがリリンサと連絡を取れるのは知っていても、親友であるとは知らない。


 そして、ワルトナとの付き合いは6年にも及ぶ。

 13歳という年齢、その半分をワルトナの世話になってきたのだ。


 大好きなおねーちゃんと、大好きなワルトナさん。

 その二人が争う姿をセフィナは見たくないと思った。



「喧嘩はだめだよ!!仲良くしようよ!!」

「仲良く?出来ない。喧嘩?それで済む訳が無い」


「ひぅ……!」

「セフィナはすっかり聞き訳が無くなってしまった。これもラルラーヴァーのせいか」


「えっと、ちがっ……」

「力づくで捕まえる。話はそれからしよう」



 リリンサは腕に付けていたブレスレットに魔力を流し、召喚陣を起動した。

 七つに分けられていた魔王シリーズ、それら全てへと接続し、そして。



「セフィナ。今の私のおしおきは、とても凄い。覚悟が必要になる」

「え、待ってよ、おねーちゃん」


「待たない!!《来て=私の魔王兵装デモン・オールサムエル》」



 リリンサの背後に漆黒の門が開き、七つの魔王が羅列する。


魔王の首冠デモン・クラウンチョーカー

魔王の右腕(デモン・ライト)

魔王の心臓(デモン・センターコア)

魔王の左腕(デモン・レフト)

魔王の下肢骨格(デモン・ロアボーン)

魔王の脊椎尾(デモン・テール)

魔王の靭帯翼(デモン・リグメント)



 それらは同調し、一つとなりて、暗黒の頬笑みを溢すリリンサを包み込む。

 生まれ出るは、魔王を超越せしもの。

 遥か昔、神により齎された機神の力を受け継ぎし――、『魔神』だ。








挿絵(By みてみん)



こんばんわ!青色の鮫です!!


お盆休みをいっぱい使って、魔神リリンサを描きました!!

控え目に言って、超頑張りました★


イラストリメイク 2021.2.23

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