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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第135話「理の超越者⑥」

「都合の悪い事象は『歪曲』し、都合の良い事象は『判例』に則って変化させない。これまた天使に相応しい傲慢さねぇ」

「ぼくは聖母で裁く側。神への贖罪も気分次第ってね」



 第四の天使シリーズ『天使の星冠』、その能力に当たりを付けたレジェリクエは呟き、メルテッサの反応を以て肯定とした。

 それは隙のあった防御を埋める性能であり、たったの一撃を通す事さえ難しいことを意味している。



 自動で防御する天使の十星磔と違い、天使の星冠はメルテッサ自身が知覚する必要があるようね。

 その代わり、知覚さえしてしまえば『歪曲』によって回避が確定し、『判定』によって事後ケアも万全。

 これら四つの魔道具を合わせた能力は、


 天使の星凱布……、『貫通無効』『反動強化』 近接攻撃無効

 天使の十星磔……、『拘束』『風化』 遠距離攻撃無効

 天使の十赦槍……、『処断』『確定』 自動反撃

 天使の星冠 ……、『歪曲』『判例』 完全回避


 ざっとこんな感じぃ。

 一見して防御寄りの能力に見えるけど……。



「盤石な絶対防御。これは困ったわねぇ。余が勝てる可能性はあるのかしらぁ?」

「さぁね。ただ、神様の素振りを見る限り、絶望的なんじゃないかな?」


「そう。じゃぁ、その神様に聞いてみましょうねぇ《確定確率確立》」



 メルテッサが攻勢に転じた時、成す術もなく敗北する可能性がある。

 それを理解しているレジェリクエは、持っている手札の中でも最大の一枚を切った。



『―000.000%―』



 レジェリクエは見せびらかすように、目の前に薄緑色の文字を浮かび上がらせた。

 それを見たメルテッサは僅かに眉をひそめ、訝しげに見つめている。



「貴女が嫌悪している世絶の神の因子だけれどぉ、余が持っているのは、とても便利な能力なのよ」

「支配声域だけじゃないのか。へぇ、あんなものを二つも持っているなんて、正気の沙汰じゃないね」


「お陰さまでぇ、12歳で女王様になれたのぉ。《審問を発するわぁ。余が持つあらゆる手段を使用した場合、24時間以内にメルテッサ・トゥミルクロウを殺害できる確率は?》」



 これは賭けだ。


 レジェリクエの勝率をメルテッサに見せることで、どちらが有利に立っているのかが明確になる。

 極論、レジェリクエの勝率『0%』などと表示されてしまえば、メルテッサはなんの憂いもなく即座に戦闘を終わらせるだろう。


 この賭けに勝つには、メルテッサが思っているよりもレジェリクエが勝つ確率が高くなければならない。

『急いで勝敗を付けに行くと敗北する』と思わせなければならないのだ。

 そして……、レジェリクエは賭けに勝った。



『―9.106%―』



「……へぇ、ぼくが負ける可能性が10%近くもあるんだね」

「あはぁ、英雄に至る道が10%もあるなんて、余はついてるわねぇ……!」



 問うた内容自体は、『レジェリクエの指示に従う者が、メルテッサを殺害するという意思を持った場合、24時間以内に達成できるのか』というものだ。

 支配声域を用いて感情を操る事できるレジェリクエは、リリンサやユニクルフィン、ワルトナやセフィナでさえも殺害の意思を持たせることが可能。

 そんな大前提の上に成り立つ審問は、『心無き魔人達の統括者』や『帝王枢機』、『ラグナガルム』や『ホロビノ』、『キングフェニクス』『冥王竜』などを使った総力戦を仕掛けた場合の勝率となる。


 だが、メルテッサは確定確率確立の条件設定の詳細を知らない。

『レジェリクエが持つあらゆる手段』が、『レジェリクエがこの状況で行使できる手段』の可能性がある以上、この『―9.106%―』という数字を無視する事はできない。



「ところで、さっきから英雄、英雄言ってるけどさ。ぼくを倒すと英雄になれるってのはどういうことだい?」

「あらぁ?本当に自分の成長が分からないのねぇ。貴女は既に超越者、自分のレベルを確認してご覧なさいな、お馬鹿さぁん」



 言葉に乗せた純粋な挑発、それを聞かされたメルテッサは苛立ちつつ提案に乗った。

 自分のレベルは6万代後半。

 指導聖母としては高い方だが、冒険者の最高峰とされるレベル7万の壁は突破できていない。


 そんなメルテッサは自分自身のレベルを確認し――、



『―レベル100000―』



 目を見開いた。



「くふ、くは、はーはははは!……おい、これはどういう事だ?なぜ、ぼくのレベルに6桁目が存在している?」

「どうもこうもないわよぉ。英雄の別名である超越者は、レベルの限界値を超えているからそう呼ばれるの」


「……そうかい。さしずめこれも、物質主上が引き起こした現象なんだろうが」

「余ですら辿りつけていない領域にいるのにもかかわらず、成長できないとほざく。あぁ、本当にぃ、忌々しいほどのお馬鹿さぁん」


「そうだね。確かにぼくは愚かだったようだ。はぁ、なるほどなるほど、これはいい……」



 レジェリクエが狙っているのは、メルテッサを慎重にさせる事と同時に、自惚れを抱かせることだ。

 確かに、メルテッサが即座に決着を望んだ場合、レジェリクエの敗北で終わるだろう。

 だが、時間を稼いだところで、勝率が上昇する訳ではないのだ。


 英雄の領域に到達したと知らしめることで自惚れを抱かせ、隙を作る。

 そしてそれを突く形でのみ勝利を得られるのだと、レジェリクエは試算した。



「何が”いい”のかしらぁ?」

「キミを倒せば、ぼくの成長はそこで終わりだと思っていたんだ。キミの仲間や部下がいかに優れていようとも、レベル99999になったキミには劣るってね」


「そういうことぉ。これは屈辱的だから言いたくなかったんだけどぉ……、余は同胞の中で最弱ぅ。もっとも超越者から遠い、心無き魔人達の統括者の面汚しよぉ」

「くくっ。自分で言うのかよ」


「言うわよぉ。自分の立場すら理解できない馬鹿は、夢も理想も抱けないわ」

「確かにね。キミからは教わる事がいっぱいあって嬉しいよ。あぁ、これも成長なのか」



 感情を聞き取る事が出来ないレジェリクエにも、ただの傍観者になっているロイにすら、メルテッサが歓喜に満ちているのが分かった。


 今にも腕を広げて踊り出しそうな程に満面の笑みを浮かべ、頬を赤らめ、唇を釣り上げる。

 互いに武器を向けあっているとは思わせない、優しい光景。

 失意の底にいたメルテッサは、この瞬間、救われたのだ。



「ぼくは成長していた。そして、まだ成長できるっ!こんなに嬉しい事は無い!!」

「それは余も同じ、貴女を倒せば成り変われるの。負けるつもりは無いわぁ」


「逃亡を画策している癖に、隙あらば殺そうとしてくる。なるほど、ぼくは害敵であると同時に獲物だった訳だ」



 メルテッサはニヤリと笑い、そして、その瞳の中に理知を宿した。

「現状では有利、ならば、この局面を覆せないように慎重に行動しよう」

 そんな思考はレジェリクエの思惑通り。

 そして、思惑通りに進んだ所で、勝率は10%を切っている。



「キミの思惑に乗って、ここは慎重に行こう。《エヴァグリフォス宝物殿》」



 輝かしい光を発し、メルテッサの左手が輝いた。

 その中指に嵌められているのは、エメラルドが輝く純金の指輪。



「……!大罪を戒めとして認定した聖者エヴァグリフォス。そう言えば、ブルファム王国出身だったわねぇ」

「歴史書では聖者なんて言われているけど、実際は金の亡者さ。そして、その強欲さでブルファム王国を覇国まで押し上げた彼の宝物殿は、レジェンダリアに劣るものではないよ」



 メルテッサが左手の中指に嵌めている指輪の上に小さな召喚陣が出現し、エヴァグリフォスが管理しているブルファム王国の宝物殿に繋がった。


 この宝物殿には、特殊な魔法が掛けられている。

 中に存在する宝物を持ち出す場合、それよりも価値が高い宝物を捧げなければならないのだ。


 故に、ブルファム王国の宝物殿は価値を高め続け、そして、国が傾こうとも消費される事は無かった。

 間者を送り込んでいたレジェリクエや、ブルファム王城に忍び込んだワルトナが事前に宝具を持ち出せなかったのも、この特殊な魔法のせいだ。

 管理者たるエヴァグリフォス……、その指輪を持つ者だけが、自由に宝具を取り出す事が出来る。



「ぼくは骨董品が好きだ。とくに、役目を終える事が出来た道具には、憧れすら抱いている」

「あはぁ、ワルトナと仲良くなれそうぉ」


「ぼくのお気に入りの宝具達は壊れているからこそ、二度と動く事は無い。そんな彼らに、もう一度、命を吹き込もう《物質自動製造マクロ・マニュピレート》」



 メルテッサが指輪から取り出したのは、かつて、魔道具を生み出す為に使われた工具達。

 魔法陣を刻む為の彫刻刀、鉄を練成する為の槌、刃を研ぎ澄ます為のヤスリ……、これらによって、歴史に名だたる宝具達は製造されたのだ。



「製造工具の性能を再び発揮させる事が出来るぼくは、それによって生み出された魔道具を無限に作り出せる。もちろん、材料を用意する必要は有るけどね」



 メルテッサが空に投げた鉄の塊が、工具達によって凄まじい速さで加工されていく。

 全てが自動化された製造には人間の肉体性能という縛りが無く、複数の工具が行う工程は常に最適化された状態だ。


 一本の魔剣が出来あがるまで、おおよそ1分。

 それを手に取ったメルテッサは、その美しい刀身に満足な笑みを映らせた。



「天使シリーズはいかんせん攻撃に向かなくてねぇ。こうして武器を作らせて貰った次第だよ」

「……そう、貴女が試していたのは、物質主上の力そのものではない。強化した武器を自分(素人)がどれだけ使いこなせるかだったのね。それに……」


「ご明察。新しく作り出された武器には過去が無い。故に、ぼくが意図した他の武器の性能を100%発揮できる」



 ランク3になった物質主上は、効果範囲内に存在している魔道具から能力をダウンロードし、同系統の魔道具にインストールできる。

 ただし、能力をインストールする場合、その魔道具の過去を否定しないことが条件だ。


 食材を切った事がある『包丁』には、『金槌』の能力は付与できない。

 だが、一度も使用された事がない『薄く平たい金属の塊』には、参照するべき過去が無い。

 故に、どんな能力でもインストールする事ができ、そしてそれ以降は、同系統の能力を再びインストールし直す事が可能となる。



「どうやらキミの武器は、魔道具改変の能力を持っているようだ」

「そうねぇ?」


「さっきみたいに防御性能を変えられたら困るんだよねぇ。いちいち直すのが面倒じゃないか」



 メルテッサが作り出せる魔道具は、召喚した工具が製造した物に限る。

 ただし、その工具はこの戦場にある同系統の工具と同期しており、膨大な過去を持っていた。


 自分と同じ背格好の冒険者が持つ剣、それを過去から選び出して製造し、無垢な刀身に能力を付与する。

 そうして、メルテッサに最適化された炎の魔剣が出来あがった。



「今度はぼくから攻めさせて貰うよ。それっ!」

「つっ……!」


「はっは!どうだい?攻撃力他者依存の剣撃は!?」



 交えた剣の衝撃と噴き出した炎熱によって吹き飛ばされたレジェリクエは、忌々しそうに奥歯を噛み鳴らした。

 華奢な体のメルテッサから受けたとは思えない重い一撃……、物質主上の真価を理解したからだ。



 そういうもんだと理解しているだけで、憂いなく剣が振れる。

 発揮されるのは、5kmの範囲内に存在する剣が発揮した過去最高の一撃か。

 神殺しや千海山シリーズが対象から外れている事だけが、唯一の救いねッ!!



 接近してきたメルテッサの剣を受け、力の限り振り抜く。

 そして、バギィィン!と金属が弾け、折れた先端が宙を舞う。

 一度目に剣を交えた時、レジェリクエは一切合を染め伏す戒具の能力で魔剣の耐久力を下げていた。

 それを知らぬメルテッサの追撃に剣の方が耐えられず、真っ二つに折れたのだ。


 そして、メルテッサは剣の柄を離し、完成したばかりの別の魔剣を手に取った。



「はは、残念だが、使い捨てるほど武器はあるんだよねぇ!」

「ちょっとは大事に使いなさぁい。可哀そうでしょぉ」



 再び衝突が起こり、両者の刀身が接触したまま凍りついた。

 レジェリクエは無理やりに力を掛けて引き剥がそうとするも失敗し、僅かな膠着状態が生まれる。

 そして……、そんな敵意を向けた状態を『天使』が見逃すはずが無い。


 『悪意』の心臓を穿とうと、天使の十赦槍の先端が迫る。

 それを視認したレジェリクエは、一切合を染め伏す戒具の能力を発動し凍結を破壊。

 直ぐに剣を引き戻した。


 だが、切っ先は既にレジェリクエの胸に食い込んでいる。

 そして、そのまま突き進み……、



「かふっ……」



 レジェリクエは胸に裂傷を負い、吹き飛ばされた。

 肌の表層(・・・・)を切り裂かれ、僅かに血が滲む。



「……天使の十赦槍の処断が失敗した?」

「それが魔道具である以上、失敗を起こす可能性は絶対に存在するわ」



 予め仕掛けていた大規模個人魔法『確率過程改変パラレルチェイン』。

 それが発動して起こったのは、刀身がレジェリクエの肋骨に沿って滑るという不足の事態。

 そうして、レジェリクエは起死回生を得たのだ。



「そういえば、変な魔法を使っていたね」

「貴女が全ての魔道具を味方に付けるというのなら、余は運命を味方に付けましょう」


「運命掌握・レジェリクエ。まさに名に違わぬしぶとさだ」

「そう簡単に殺されるのなら、余は魔王を名乗っていないわ」



 ボタボタとレジェリクエの血液が地面に落ち、二人の影が重なった。

 互いに手札を隠しながらの、総力戦。

 一手のミスも許されない状況の中、作られては砕かれていく剣が高く積まれていく。

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