第133話「理の超越者④」
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8月8日17時30分、1300文字ほど加筆修正しました。
「へぇ……、普段の女王は取り繕った姿だった訳だ。それがキミの素なのかな?」
面白そうに呟いたメルテッサの瞳に映っているのは、ニヤニヤと笑みを溢すレジェリクエ。
その姿は女王とは程遠く、軍服を着せられてはしゃいでいる子供にしか見えない。
チャリチャリ……、チャリチャリチャリ……と一切合を染め伏す戒具で大地を引っ掻きながら、レジェリクエは歩き出す。
目を細め、ふて腐れ、感情のままに行動するそれは、ローレライが作り上げた過去のレジェリクエ。
女王というシガラミを背負う前のレジェリクエは、愚王の様な見せ掛ける為の優しさを持ち合わせていない。
『自分の事だけで精いっぱい』になった彼女は、ローレライによってデザインされた王位簒奪の為に手段を選ばない切り札へと戻ったのだ。
「あは。貴方がどれだけの実力を持つのか、そして、それをどうやって攻略して殺すのか。考えるだけでゾクゾクしちゃうぅ」
「高揚を感じているのかい?今までは羨ましい限りだったが……」
「楽しみましょぉ。お互いにねぇ」
「くす……、今のぼくの顔はきっと、キミと同じように緩んでいるんだろうね」
欲しかったおもちゃを贈られた子供の様に、二人は笑ってしまった。
女王としては、指導聖母としても、決して楽観していい状況でないのは分かっている。
それでも、二人は高揚せずにはいられない。
余は孤立し、メルテッサとの戦力差は絶望的。
そもそも、相手は余が持つ武装のほぼ全てに干渉出来るのだから、帝王枢機に丸腰で闘いを挑む様なもの。
まさに四面楚歌、確定確率確立を使うまでもなく、万に一つも勝ち目が無いでしょうね。
……だからこそ、興奮する。
『人化』『レベル99999』そして、最後の条件は『神の因子か神殺しの覚醒』になるだろうと、ロゥ姉様は言っていた。
だけど、それ以外の条件が無い訳じゃないわ。
万に一つの可能性を覆し、『超越者を討った』時、余は英雄の領域に踏み入ることが出来る。
「《大規模個人魔導ぃ・確率過程改変》」
緩やかだった接近を切り替え、レジェリクエが走り出す。
相手に聞き取れないように声を抑えて唱えたのは、レジェリクエ専用の大規模個人魔法。
『確率過程改変』は、起こりうる未来の選択肢の中から確率の低い事象を誘発させる。
『たまたま』『不測の』『突然に』、そんな助動詞が付くアクシデントの誘発を願ったのは、メルテッサが戦闘に不慣れだと気が付いているからだ。
物質主上は、余やロゥ姉様の神の因子よりも強力。
そして、メルテッサは使用法を既に完全に理解し、付け入る隙も存在しないわ。
でも、それを扱う肉体が育っていないわねぇ。
見た所ぉ、肉体的な性能はランク5の冒険者ほどしか無く、能力無しの格闘戦なら5秒で組み敷けるほどの優位性が余にあるわ。
この差と戦闘経験の有無は、勝敗を分ける分岐点。
確かに、性能の良い魔道具に頼れば、肉体性能の差を埋める事が出来るでしょう。
だけど、その魔道具が『偶然』にも機能不全を起こしてしまったら。
戦闘経験のない貴方に対応ができるかしら?
「いくわね」
強く発せられたレジェリクエの声が、メルテッサの心を汚染する。
支配声域に対し身構える事は許されず、言葉の意味を強制的に理解させられるのだ。
故に、今の言葉は戦闘開始の合図となり、来るであろうレジェリクエの攻撃をメルテッサは防御しなければならない。
そして、卓越した戦闘経験を持つレジェリクエは、その防御を見てから攻勢に入る事が出来る。
作為的に仕組まれた後出し、それは、事実上の防御不能だ。
「《永遠琥珀》」
「《木枠》」
メルテッサが使用したのは、触れた物体を捉えて結晶化し保存する大規模殲滅魔法『永遠琥珀』。
接触さえしてしまえば自動で対象を覆い、出来あがった結晶は鋼鉄並みの強度を誇るという二段構えの防御だ。
一方、レジェリクエが使用したのは、ランク2の魔法『木枠』。
そんな、任意の寸法で作った木枠を出現させるだけという魔法は呆気なく飲み込まれ、そして、望んだ結果を生み出した。
「木をくぐっ……!」
『木枠』はランクが低いからこそ発動が速い。
そして、一片が1m程もあれば、体の小さいレジェリクエが通り抜けるには十分な広さの窓となる。
そうして作り出された邂逅は、一瞬の内に終わった。
レジェリクエが刹那にすれ違い、短剣に可変させていた一切合を染め伏す戒具で、十五回にも及ぶ滅多刺しを繰り出したのだ。
その結果……、レジェリクエの腕に痺れが奔った。
「あはぁ、さっそくお出ましねぇ」
「魔王様を相手にするんだ。もちろん、相応の準備はしているとも」
既にバッファ魔法を纏っているレジェリクエの攻撃速度は、澪騎士や冥王竜のそれに匹敵する。
ランク5程度の……、それも後衛職であろうメルテッサが防ぐ事など出来るはずもない。
だが、事実として連続刺突を全て受けたメルテッサは、健在。
身に纏っている指導聖母の法衣は傷一つ付くこと無く、レジェリクエの刃を全て弾き返したのだ。
「妙な手応えだったわ。その天使シリーズの名前を教えてくれるかしら?」
「『天使の星凱布』。美しいだろ?」
「素晴らしぃわぁ」
支配声域を纏わせたレジェリクエの問い掛けにメルテッサは答え、その疑惑が解消された。
鷹揚に腕を広げたメルテッサが着ているそれは、純白の指導聖母法衣に擬態させた天使シリーズの一つ。『天使の星凱布』。
防御を主体とする魔天枢機・エステルから建造された7つの武装の一つだ。
「知ってるかい?天使シリーズは魔導枢機・エゼキエルを強化する為に造られた外武装で、その真骨頂は防御にあるんだ」
「アレを強化しようとするなんてぇ、神にでも戦いを挑むつもりだったのかしらぁ?」
「さてね。理由までは知らないよ」
レジェリクエが言葉に策謀を含ませていように、メルテッサもまた言葉で策謀を図っている。
わざとエゼキエルの名を出す事で帝王枢機と心無き魔人達の統括者の関係性を模索し、「どうやら繋がっているようだねぇ」と答えを出した。
「だがね、この天使の星凱布が過去に発揮した性能は理解している。針王蟲・ホウゼンブン、相当に強力な存在だったようだ」
「へぇ、その情報には興味があるわ」
後の世に『星屑を齧る暴食』として語り継がれた大絶滅。
それを引き起こしたのは『針王蟲・ホウゼンブン』の配下である王蟲兵の群れだった。
その中核を担った毒蟲の針は強靭であり、神性金属の塊であるエゼキエルの外装を貫く鋭さを持つ。
そして、それに対抗するべく建造されたのが、この天使の星凱布だ。
「さしずめ、究極の防刃服って所かしらね?」
「少なくとも、キミが着ている服の性能より高いのは確かだ」
メルテッサにダメージは無いが、攻撃を受けた事による体勢の変化は起きた。
故に衝撃は無効化されておらず、帰って来た衝撃の強さが倍に及んだことから、レジェリクエは天使の星凱布が持つ能力は『貫通無効』『反動強化』だと当たりを付けている。
そうして情報を収集していくレジェリクエが求める情報は、『メルテッサが出来ないこと』。
それを手に入れない限り、レジェンダリア軍の勝率は0%だと判断している。
相手がどれだけ凄い性能を秘めていようとも、人間である以上は、致命傷を与えれば勝ちなのは変わらないわ。
メルテッサが持つあらゆる武装を認知した上で弱点を付き、一撃で決着を付ける。
その為の布石はすでに打ってあるから良いとして……、まずは、全ての天使を引きずり出さないとねぇ。
「あは。最近、運動不足を実感しててぇ。エクササイズに付き合ってくれないかしらぁ?」
「今のぼくは好奇心旺盛なんだ。興味はあるね」
チャリ……。っと装飾の音を鳴らし、レジェリクエは右腕を真っ直ぐに振り上げた。
持っていた短剣は姿を変え、全長5mを超える鞭となる。
手作業でナイフを差し込もうとして防がれたのなら、それ以上の速さと鋭さを持つ攻撃をしてみよう。
試行錯誤を繰り返して最適化する武器。
それが、一切合を染め伏す戒具に与えられた能力だ。
「おい、それがエクササイズじゃないのは流石に分かるぞ。女王様プレイってやつだろ」
「これは愛の鞭ではないからぁ、超痛いわよぉ」
「……痛みねぇ」
含みを持たせた返答を両断するように、レジェリクエが振るった一本鞭が炸裂した。
鞭という武器は、人間が扱う武器の中でもトップクラスのスピードを誇る。
長くなればなるほど加速度的に速度が乗算され、腕の10倍ともなれば容易に音速に達する。
ましてや、バッファで強化されたレジェリクエが振るう鞭は常人の比では無く、先端に取り付けられている金属刃を受けた物体は切断ではなく爆砕と化すのだ。
バチィン……と空気を切り裂いて、レジェリクエは一切合を染め伏す戒具を巻き付かせた。
それが捉えているのは、メルテッサの横に出現した巨大な十字架だ。
「天使の十星架。防御の要が十字架なんて洒落てると思わないかい?」
「……二つ目ぇ」
……やばい。超能力バトルとか、執筆が超むずい。
というか、どっちの能力も強すぎ問題で戦闘が複雑化しまくった結果、僕の脳力が追い付かず、逆に短単調な感じに。
それなのに、天穹空母は召喚するわ、天使シリーズ出してくるわ、他にも何か隠してそうだわ、タヌキの3倍は混沌としてます。
土曜日からは長期連休っ……!
じっくり考える時間が取れるはず……!!
追伸、8月8日17時30分、加筆修正しました。
レジェリクエの思惑とか見えて来て、すっきり!!




