表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

736/1332

第128話「過去の約束」

「ラルラーヴァーはお前だったんだな。……ワルト」



 心の奥にあった封印を抉じ開け、思い出した記憶の終盤。

 そこにいたのは、白い髪の小さな女の子だった。


 ぶかぶかな服に付いていたフードを深く被り、いつも俺達の後ろを付いてくる。

 自己主張をする事は少なく、俺やあの子にされるがまま、一緒に起きて、一緒に飯を食い、一緒に遊んで、一緒に寝た。


 あの子を救う旅の終盤を共に過ごし、そして、別れの時。

 涙を目にいっぱい溜めながら、真っ直ぐに俺を見上げたその顔は――、幼いワルトだった。



 **********



「おい、大丈夫か?怪我は……してねぇみたいだな」

「ぅ、ぁ……」


「ビックリし過ぎて声も出ないってか?よし、あっちで一緒に飯を食おうぜ。話はそれからだ!!」



 蟲量大数の痕跡を探す為に入った森の中で、小さな女の子が統率蟲に襲われていた。

 蟲自体は珍しいが、奴らが人を襲うのは特別な事じゃない。

 いつものように助け、そして、当たり前に事情を聴こうとして速攻で失敗した。



『なぁ、お前はどっから来たんだ?こんな森で何してた?』

『……わかんない』



 自分が何処の誰なのか、何の為に森の中にいたのか、いや……言葉を話す事すらおぼつかない。

 俺よりも身体が一周り以上も小さいその子が知っていたのは、自分の名前『ワルトナ』だけだった。



『知らないって事は無いだろ?誰かに連れて来られたのか?』

『……わかんない』


『んー、じゃあさ……、名前はなんて言うんだ?他の人になんて呼ばれてた?』

『わる……とな……』



 これ以外は何を聞いても『わかんない』で、一緒にいたグループの手掛かりすら無かった。


 親父が言うには、白い髪の女の子を『竜皇の遣い』という特別な呼び方をしている地域が複数あるらしい。

 特別な呼び方……、なんて遠回しな言い方をしているのは、『竜皇の遣い』を姫の様に扱う地域もあれば、不老長寿の薬として消費する地域もあるからだ。

 恐らく、この子は盗賊の様なグループを転々とし、通貨の様に扱われていたのではないか?というのが、親父の最終的な見解だった。



『よし。髪さえ隠しちまえば普通の女の子だしな。これで心配いらないぞ、ワルト』



 どんどんと迫る刻限タイムリミットを前にした俺達は、ワルトを旅に同伴させる事にした。

 不安定機構に預けに戻る時間が惜しかった、というのもある。

 ただ、本当の理由がハッキリ思い出せないから、あの子が一緒に連れて行きたいと言ったのかもしれない。


 こうして、俺達の旅にフードを深く被った少女ワルトが加わった。



『ほら~ワルト~、お前の好きなうどんだぞー。口開けろ~』

『……あーん。ちゅるちゅる』


『うまいか?』

『もぐもぐ……、しゅき』


 *


『ほら、俺の寝袋は親父のお下がりだから大きいんだ。一緒に寝るぞ』

『……いっしょ?』


『しょうがねぇだろ、予備なんてねぇし。俺じゃ嫌か?』

『……あったかい、しゅき』


 *


『あーマジ、親父のやろう訓練なのに容赦ねぇ……、って、なんで俺の寝袋の中に居るんだ、ワルト?お前のを買っただろ』

『……一緒がしゅき』


『しょうがねぇなぁ……、ただ、おねしょは勘弁してくれ』

『がんばる』


 *


『えっぐ、えっぐ、タヌキ怖ぃ、怖いょ……』

『俺だって怖ぇぇよ、あんな機神。親父は信じてくんないし……。だがな、風呂にまでついてくんな』


『茂みにいた……。タヌキいた……。ひっく』

『あー、また出やがったのかクソタヌキィ。で、頑張って逃げて来たのはいいものの、つまずいて転んで落っこちて来たと』


『ぐすっ、ぐすん……。タヌキぃ、きらぃぃ……』

『ずぶ濡れじゃしょうがねぇ。とりあえず服脱いで風呂に入るぞ。あーもー、親父達に笑われるんだろうなー』


 *


『今日はお祭りでさ、こういう仮面を被って遊び倒す日だ!ほら、買ってやるぞ、どれがいい?』

『……ん』


『いやこれ大人の女性がつける舞踏会用の奴……。もっと他にあるだろ?ネコとかどうだ?可愛いぞー』

『タヌキっぽぃ、やだぁ……』


『ネコがダメなら、ほぼ全滅じゃねぇか』


 *


『ほらワルト、今日からお前の友達になるラグナガルムだ。仲良くな?』

『ひぅっ。たぬ……き……?』

『タヌキでは無い。我が名はラグナガルム、気高き狼の皇種だ』


『たぬきじゃない……?じゃあ、わんこ……?』

『ワンコでも無い。我が名はラグナガルム、気高き狼の皇種だ』


『……?わんこと何がちがうの?』

『えっ。』


『じゃあ一緒?よろしくね、わんこー!』


 ***********



「……じっくりと思い出してみたが……、うん、なんだこれ、可愛い過ぎか」



 記憶を取り戻した後遺症なのか、当時の光景を鮮明に思い出せた。

 そして、垣間見てしまったのだ、純粋無垢な天使の頬笑みを。


 ……。

 …………。

 ………………この純粋無垢で天使な頬笑みが、純粋精錬に魔王な暗黒微笑に変わるのか。

 どう育てたらこうなるんだよ、ノウィンさん?

 いたたまれない気持ちしかねぇぞ。



「はぁ……、マジでどうすっかな。つーか、こんなん知っちまったら雑に扱えねぇぞ」



 将来的に大魔王に進化を果たすワルトだが、当時はただの小さい女の子だった。

 そして、俺に一定以上の好意を向けていたのは考えなくても分かる。

 それに……だ。


 どうやら俺は、とんでもない過ちを犯しているらしい。



『ぼくも一緒に行く。ユニと、いっしょに行く』

『だめだ。蟲量大数はお前を守りながら戦える相手じゃない。無理なんだ』


『やだ。ぼくも、ユニといっしょにいくっ……!!ぐすっ、いっしょに居たい……!!』

『ワルト、お前は留守番だ。でも、必ず迎えに行くから、ちょっとだけ待ってろ』



 そう約束しながら、俺はワルトの頭を撫でた。

 そのままノウィンに預け、俺達は蟲量大数との戦いに赴くことになる。

 そして……、必ず迎えに行くって約束したのに、俺はそれを果たせなかった。



「……はぁ。やっぱり全部、俺のせいじゃねぇか。つーか、ワルトがリリンの邪魔をしていたのって――」

「ワルトナが私の邪魔をした?どういうこと?」



 あ、断罪のお時間がやってきたようです。

 優柔不断な俺を、魔王な尻尾で貫いてくれ。



「いや、飯を食うのを邪魔してたなって思ってさ」

「それはいつもの事。でも、粘っていれば根負けするのはワルトナの方。私が食べている間にケーキとか注文してくれる!!」


「なんとなくそうなる気はしてたぜ。ちなみに、ワルトナの好物って何だ?」

「……うどん?初めてのお店のメニューに麺類があると、大体はそれを頼むし」



 うどん、しゅきーって言ってたもんな。

 ある時を境に、タヌキうどんだけは絶対に喰わなくなったけど。



「それで、ローレライの方はどうなった?」

「知ってるのか。ミオさんから話を聞いたってことだよな?」


「そう。レラさんがローレライだったなんてびっくり。でも納得」

「納得?」


「あのイチゴタルトの味は英雄じゃないと出せないと思うっ!!」



 ……うん、そうだな。確かに英雄クラスの実力が無いと作れないかもしれない。

 今にして思えば、レラさんの包丁裁きがやばすぎる。

 なんで包丁でジャガイモを切ったら虹色に煌めくんだよ。おかしいだろ。

 つーか気付けよ、過去の俺。



「それで訓練はどうだった?」

「かなり有意義だったぞ。新しいグラムの覚醒体も覚えたしな」


「それはすごい。さっさとラルラーヴァーを倒して見せて欲しい!!」



 リリンと会話をして探りを入れた結果、俺とレラさんは穏やかな再会を果たし、訓練を行った事になっているらしい。


 今は色んな意味で混沌としているから訂正しないが……、心の中でだけは言わせてくれ。

 訓練というか、臨死体験に近い何かだったぞ。

 腕とか普通にぶっ飛んだ。



「って、そう言えば、怪我が治ってるな」

「えっ、怪我したの?」


「まぁ、怪我といってもレーヴァテインに付けられた傷だ。能力を発動すれば治るんだし、ギンの権能の中みたいなもんだぞ」

「なるほど……、むぅ、実戦に近い訓練だったとか、私も訓練を付けて貰いたかった」



 むぅむぅと鳴きだしたリリンを横目で見ながら、俺は記憶を取り戻した事を告げないと決めた。

 ほんの少しだけ……、少なくともこの戦争が終わるまでは、俺の中に留めておく。


 これは決して、リリンを捨ててワルトに乗り換えようとか、そういう話じゃない。


 俺が約束を果たせなかったから、自分から会いに来る為にワルトは英雄の道へと進んだ。

 リリンを導いて心無き魔人達の統括者を結成し、同時に指導聖母としての仕事を覚え、さらにセフィナの教育まで行い、そして、自分も英雄見習いにまで辿りつき――。

 今度は指導聖母を統べる立場として、俺達との対立を演じている。


 ワルトは、俺には想像する事すらできない、生半可では無い努力をしてきた。

 だから、その感情を無下に扱う事は出来ない。



「さて……、じゃ、セフィナを探すか」

「了解。直ぐに捕獲したいと思う!!」



 俺達をこの戦場に呼び出したのはワルトで、リリンとセフィナを戦わせるように仕向けている。

 この流れに沿って動けば、無事に再会できるはずだ。


 それに、セフィナと再会した時にラルラーヴァー(ワルト)は『この襲撃は想定外だ』と言っていた。


 もしかしたら、姉妹で対立させること無く再会させる計画をしていたのかもしれない。

 だから俺は……、ちょっとの間だけ不義理を働くぞ、リリン。



「……悪いな、リリン」

「ん、急に謝ってどうしたの?」


「俺の不甲斐なさとか、色々と思う所が有ってな。……あぁ、まったく、俺が謝らなくて良いのはお前だけだぜ、クソタヌキィ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ワルトナがやっと報われ始めた! [気になる点] さすがにもう増えないよね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ