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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第127話「目標の破壊③」

「それを成す為に何をするのかって話だよ。俺はグラムと自分自身の『神壊因子』を使って白銀比の権能(アプリコットの魔法)を破壊し、記憶を取り戻す。そして、レラさんを倒して答え合わせだ」



 この戦いにおける最終目標を口にし、燻っていた雑念を破壊した。

 目の前にいるのは、尊敬するべき姉のレラさんでは無い。

 俺が超えるべき目標・英雄ローレライであり、そして、きっと、これこそが今の俺に必要な目標だと思った。


 ローレライは情報を出し渋りながらも、様々なヒントを俺にくれた。


『リリンの物語の黒幕はダウナフィアであり、意図的にセフィナを別陣営に分け、それぞれのサポーターとして英雄見習いである俺とラルラーヴァーを配置した』

『戦争ごっこと揶揄されるほどに作為的だった状況が変化し、ラルラーヴァーとは違う本物の悪意が出現した』

『さっきまでの俺の実力では、その敵に殺される』


 そして恐らく……、この戦争に勝つには、俺の神壊因子が必要不可欠だ。

 ローレライが隠していた正体や切り札の第四魔法次元層を使うまでしたのは、俺の覚醒を促す為だろ?

 まったく、ここまでお膳立てされて「超えられませんでした」じゃ、『見習い』にすらなれねぇよ。



「超えさせて貰うぜ、英雄・ローレライ」

「にゃはは!英雄とは超越者であり、超え越す者と書く。やってごらんよ、ま、おねーさんはそんなに低い壁じゃないけどね」



 あぁ、確かにそうだよな。

 俺は幾度となく英雄――、親父の戦いをこの目で見て憧れ、それを模倣したはずだ。


 それは、あの子とは直接的に関係が無い、肉体に刻まれた感覚由来の記憶。

 なら、まずは、この戦いを切っ掛けにして記憶の断片を取り戻す。

 そして、そこに神壊因子を流し込み、俺の中にある記憶の封印のみをブチ壊す。



「《破壊への恩寵(デストロトン)》」



 グラムから能動的に流れ込んでいた破壊値数へ意識を向けて活性化し、周囲一帯とローレライの強度を把握する。

 そして、脳の奥で理解したのは、この空間を埋め尽くすように仕掛けられた異常性だった。



「マジかよ、すげぇな」

「言ったじゃん。ここはカツボウゼイを殺す為に作った狩場だって。故に全方位に魔法陣が敷き詰められている」



 そう言ってローレライは走り出す。

 青い光を灯すレーヴァテインに、新たな魔法陣を輝やかせて。


 この空間には、数えるのが不可能なほどの魔法陣が存在している。

 360度、隙間なく敷き詰められている……だけではない。

 まるでガラスに書いた魔法陣が重ねてあるかの様に、床と天井、いや、空間の中にすら羅列されているのだ。



「魔法陣の破壊値数から大体の効果は読み取れるが……、後でリリンに詳しく教えて貰うか」



 破壊値数を把握するという事は、その魔法陣がどんな属性の魔法なのかを把握するに等しい。

 例えば炎の魔法陣ならば、自分の炎によって自壊しないように耐えられるだけの炎熱破壊値数を持っているからだ。



「刀身に宿している魔法は……、風?しかも大規模殲滅魔法じゃないな」

「魔法で導くと書いて魔導師、攻撃するだけが魔法じゃないってね」



 この空間での戦闘は、ローレライの魔法の中で戦う事を意味する。

 本人も言っている通り、下手に動いて魔法で出来た罠を踏み抜きましたなんて洒落にならない。


 俺に接近して来たローレライは、再び、3mの距離を取ってレーヴァテインを振るった。

 今度は空間を斬った訳ではなく、素振りで管楽器の様な音を響かせたのみ。

 だが……、遠近に存在している20を超える魔法陣が一斉に起動した。



「なるほど、風魔法で音を出して発動のトリガーにしてるのか」

「魔導師って名乗ったからね、ここからは魔法もガンガン使って行くよ」



 予め仕掛けておいた魔法陣を剣を振るだけで発動させる、か。

 一見して魔法の詠唱と同じに見えるが……、こちらは魔法名を言っておらず、効果どころか、発動するのかどうかすら分からない。

 ただ音を鳴らしただけという偽装すらあるからだ。



「神をも騙す疑心の剣か。厄介だが、俺には通用しないぜ」



 魔法陣の破壊値数が示した予測通りに、右側からは『溶岩の津波』、左からは『大豪雪』が発生した。

 相反する自然の猛威が音を立て、俺の生を終わらそうと迫る。

 だが、肝心の速度が遅すぎるぜ。



「《温度破壊セルシウス・ブレイク》」



 左右に向けて飛ばした斬撃は、着弾と共にそれぞれを破壊した。

 溶岩も吹雪も、要するに驚異的な温度を有しているだけ。

『温度』という神の因子を破壊してしまえば、後はただの土砂と雨になる。



「にゃは!」

「あぁ、もちろん分かってるさ。まだ仕込みがあるんだろ?」



 派手なだけで遅い魔法を使う理由、そんなものは目隠しに決まっている。

 活性化させた感覚で周囲を探ると、土砂と雨の後ろで光を発する魔法陣が複数展開していた。

 だが、それすらも偽装、本命は……、下だ。



「《超重力軌道ガルシステム》」



 俺の足元に仕掛けられた、特大の重力発生魔法陣。

 それを超重力軌道で相殺し、グラムを突き刺して破壊の波動を流し込む。


 ここで、小さな記憶の断片が浮かび上がった。

 確かこれは……、親父と捕まえに行った皇種『月導兎・アルミラティ』が使ってきた罠だ。

 あの時も今と同様、罠を発動される前にブチ壊し、兎を唖然とさせていた。



「ちぇ、バレちった」

「かなり分かり易かったぞ、英雄ってのはそんなもんか?」


「言うじゃん!」



 ローレライの狙いは俺の動きを止めること。

 その上で遠距離から光魔法で狙撃してもいいし、レーヴァテインで斬り伏せても良い。


 重力魔法を潰されたローレライは狙撃用の光魔法を乱射し、俺の移動を制限しようとしてきた。

 そして、俺の目の前に、突如、格子状に結合した光の檻が出現する。


 これは、魔法を普通に打ち出したんじゃないな。

 転移魔法を使いながら、その中で組み合わせたのか。



「《光度破壊カンデラアウト》」



 瞬きの間に俺の体を透過した光、それが意味もなく消えていく。

 突き刺したグラムが光の神の因子を破壊し、人体に影響が出ないように無害化した。


 そして、スポットライトを当てられた程度の眩しさの先、漆黒の剣先が舞っている。

 ほら、やっぱり剣士じゃねぇか。



「《疑心暗技ワンサイド・ダウト》」

「《速度破壊ベクトルコントロール》」



 光の神の因子を壊して移動するのは、流石にやり過ぎだった。

 なら、速度という神の因子を破壊し、その制限を取り払えばいい。


 最短最速最善で繰り出されるローレライの剣戟に、俺もグラムで答えていく。

 一撃ごとに空間が爆ぜ、そこにあった魔法空間の残滓が地面に突き刺さる。


 この凄まじく重く速い連撃、覚えがあるぜ。

 ただでさえ筋骨隆々な熊、その皇。

 親父がノリで下僕にした『観光熊・ベアトリクス』と、じゃれ合って死を覚悟した時の奴だ。



「にゃっは!!おねーさんの速度に対応できるとはね!!」

「純粋な速さじゃ俺の方が負けてるさ。ただ、そっちは一撃の重さで負けてる。最高のパフォーマンスが出てないなら問題ない」


「生っ意気ぃ!」



 パチン。っとローレライは指を弾き、数百にも及ぶ魔法陣を露出させた。

 それら全ては大規模殲滅魔法であり、近くの魔法と干渉して効果が数倍になる様に設置してあるようだ。


 数百発の魔法が連結し、未曾有の天変地異を引き起こす。

 天地創造とでも言うべき暴虐の渦中、俺は空間にグラムを突き刺して叫んだ。



「《魔力破壊カロリーブレイクッ!》」



 魔法を行使する際に消費する魔力は、魔法次元の扉を開いて維持する為に使用される。

 そして、これだけ同時多発的に魔法を発動している以上、それらへの魔力供給は既に済んでいるはずだ。


 魔法陣に蓄えられていた魔力を破壊し、魔法次元の扉を強制的に閉じる。

 物質を伴わないエネルギー系の魔法を消失させ、作り出した隙間を一閃。

 叩き付けた純粋な破壊のエネルギーで残りの魔法を破壊し、姿を消したローレライを探す。



「……右下か!」

「にゃは、マジで良いね、想像以上だ!!」



 飛び出してきたローレライの剣閃をグラムで弾き、互いに距離を取る。

 奇襲を防がれたことに驚きを隠せないローレライは目を丸くし、すぐに嬉しげな笑みを溢した。


 空間に設置された魔法陣の中に破壊値が低い奴がある。

 それは攻撃性を持たない魔法を意味し、戦闘中に使用される用途は限定的だ。


 って、あっ、思い出したぜ。

 これ、黒トカゲが得意な空間転移戦法だ。

『モグラ叩き』と揶揄して、ボッコボコに叩きまくった記憶がある。



「ユニくん、すごい!この一連の流れ、かなり自信あったんだよ。正直、お師匠とユルドさん以外には防がれたこと無かった」

「そうか?」


「自信持って良いよ。これが出来るなら、プロジアさんの取り巻き程度なら瞬殺。皇種とだってやりあえる」

「アイツらか。ちなみに、参考までに聞くんだけど……、」


「なにかな?」

「タヌキ帝王……、セフィナの近くにタヌキがいただろ?俺はアレに勝てると思うか?」


「あんのタヌキはおねーさんの剣を華麗に回避し、ロールケーキを貪り食ったよ」

「どういうことだッッ!?!?ニセタヌキィィィッッ!!!!」



 何してくれてんだよッ!?色んな意味でッッ!!


 どうやら、クソタヌキーズの実力は、まだまだ俺よりも上らしい。

 俺はローレライの剣戟に対応は出来たが、ロールケーキを貪り食う余裕は無い。ちくしょうめ。

 ……と思っていたら、封印したままでいたかった悪夢が蘇ってきた。


 クソタヌキの野郎、俺が初めて覚醒させたグラムの渾身の一撃を、あろうことか食っていたバナナで受け止めやがった。



「くっ、何処まで行ってもタヌキが強すぎる。俺の永遠の目標だな」

「そうだねー、おねーさんもタヌキは倒しておきたいかな」


「さて、タヌキ談義で体も休めたし……、続きをしようぜ」



 体の中に溜まってきた疲労物質へ破壊の波動を流し、分解。

 肉体をリフレッシュさせ、視野と思考も広がった。

 これなら、さっきよりも苛烈に責められるぜ。



「《電荷崩壊刃クーロンブレイカー》」



 空気中に漂う微弱な電気へ破壊の波動を流し、陽極電流のみを残す。

 逆に、グラムに陰極電流のみを残せば、周囲一帯の陽極電流は刀身へと集まることになる。


 雷光を宿す刀身、……そう言えば、これを嫌がる黒モフモフがいたっけな。

 静電気で毛が逆立った姿は威厳など欠片も無く、随分と可愛らしかったのを覚えている。



「いくぞッ!!」

「にゃは!」



 過去の戦闘を思い出す為に後手に回っていたが……、ここからは俺が先手を貰う。

 だいぶ記憶も思い出して来たし、そろそろ神壊因子の使い方を模索しよう。


 それにしても……、逆立った黒モフモフに妙な近視感があった。

 記憶を無くした後、いや、何処かで見た事ある様な……?


 雑念を切り捨てるようにグラムを振り抜き、同じく振り抜かれていたレーヴァテインへ叩き付けた。

 破壊力は俺の方が上、だが、ローレライはそれを経験で埋めて拮抗させる。


 だけどな、俺の狙いはレーヴァテインじゃない。

 その後ろ、ローレライ自身だ。



「《絶縁破壊オームブレイク》」



 刀身に溜めた電流は、切れ味を向上させる為のものではない。

 超至近距離で電撃を放ち喰らわせる、俺流の雷魔法だ。


 レーヴァテインは既にグラムに接触しており、防御には使用できない。

 だからこそ、この雷撃は疑心の能力で無効化されず、勝負を決める要因となる攻撃だ。



「っ!《壁ッ!》」



 ……だが、ギリギリの所で見切られた。

 地面から魔法効果を無効化する壁が湧き上がり、雷撃を遮断。

 この魔法はリリンも使う『無限壁牢獄タルタロス・アバドン』だ。



「おねーさんをドキドキさせるなんて、ユニくんも隅におけないね」



 突きあげられた壁に掴まって空へ退避したローレライが俺の前に降り立った。

 そこには既に壁は無く、何度目かの相対となる。

 で、妙なフラグを立てないでくれ。



「いや、レラさんは姉枠であって親しい存在だが……、これ以上は愛とか恋とか勘弁してくれ」

「あはははは、無い無い。というか、おねーさんまでハーレムに加えようとするとかね。……寝言は寝てるから許されるんだよ。ユニくん」



 あ、やべ。

 俺が洗濯物を回収して誤解された時と同じ、ゴミを見るような目をしていらっしゃる。

 フラグが立ちそうだったから全力で折りに行ったら、地雷を踏み抜いたらしい。

 そういえば、潔癖症な所があったっけな。


 明らかに雰囲気が変わったローレライは虹彩の魔導規律陣を何度も斬り変え、その度に刀身を輝かせた。

 大技の使用、それも、リリンの切り札の魔法十典範と同等以上。

 見えた破壊値数が桁違いに高すぎる。



「《神聖幾何学機構アルカライズ・ジオメトリー》」



 ローレライが行おうとしているのは、たった一つでさえ帝王枢機の尻尾を吹き飛ばすほどの魔法を七重に付与するという神の御技。

 世絶の神の因子名を唱えたのも、魔法次元の力を借りなければならない程に大きな力を使う事の証明だ。


 やがて、七つの魔法十典範を宿したレーヴァテインは虹色に輝き、その刀身に神聖さを纏わせた。


 俺に見せつけるようにして作られた、世絶の神の因子を宿した剣。

「さぁ、超えて見せろ」と言わんばかりのローレライの表情に呼応するように、俺も神壊因子を起動させる。



「……助けなくちゃならねぇんだよ、それ以外の全て、例え全能(お前)を壊してでもッ!《神壊因子コマンドメンツッッ!!》」



 口を突いて出た言葉、それは蟲量大数を前にして言ったものだ。


 ――、その存在は、まさに、神と同等のように思えた。

 ――、小さな小さな塵芥、それが俺だと悟った。

 ――、それでも俺は諦めない。


 どんな存在も超える、それが英雄だから。



「じゃあね、ユニくん。お別れだ。《疑神代名詞・”新たな遊びを(レクリエイション)生み出そう(・ゴッデス)”》」



 遠く、ローレライの声が響く。

 体の中に神壊因子を巡らせているせいで、五感がまともに機能していない。

 だが、俺の中にある封印……、神壊因子に強く反発する箱は見つけた。

 それにグラムを突き立て、無理やりに抉じ開ける。


 溢れ出て来たのは、幼い頃の記憶。

 リリン、テトラフィーア、ミナチル、エル、冥王竜、ラグナガルム、クソタヌキ。

 様々な出会いがフラッシュバックし、断片的に取り戻してきた記憶へ定着して行く。


 そして、箱の中身が少なくなり、最後にあの子に関する記憶だけが残った。

 未だにハッキリしない人影に、まだ取り戻してはいけないのだと理解する。


 それでも、最後に見えた横顔、それは――、リリンの様な優しげな頬笑みだった。



「《神聖破壊・神すら知らぬ(グランドエンド)幕引き(・ゴッデス)》」



 取り戻した記憶に従い、グラムの最終奥義を放つ。

 幾度となく唯一神を葬ってきたこの技は、あらゆる神の因子を破壊する。

『物質』と『魔法』と『神の因子』、それらを等しく平等に無に帰す力だ。



「……頑張ったね、ユニくん。これなら、十分に英雄を名乗れるよ」

「あぁ」


「おねーさんも鍛え直さなくちゃ。先に行って待ってるね、私の可愛い弟」

「ありがとう、レラさん」



 崩れて消えていく世界が示したのは、引き分けだった。

 お互いのエネルギーが干渉し合い、魔法空間そのものが崩壊した事による強制的な終了は、俺と英雄・ローレライの力が拮抗した事を意味している。


 ……それでも、昔みたいに頭を優しく撫でられたから、レラさんは、きっと俺に勝つ方法を持っていたはずで。

 すれ違って離れていく姉の後ろ姿を目に焼き付け、再び目標に設定した。



「ここは……、戦場に戻ってきたのか」



 戦闘の余波で出来た砂礫の中心に立ち尽くし、懐かしい気持ちに整理を付ける。

 遠くから聞こえてくるのはリリンの足音、すぐに此処に来て俺に抱きついてくるだろう。


 だから、リリンに聞かれる前に、気持ちの整理を付けなければならない。



「……ラルラーヴァーの正体はお前だったんだな。ワルト」


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