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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第120話「戦線捜索」

 

「すんすん……、あっちだし!」



 ホロビノの背に乗ってやってきた俺たちは戦場に降り、セフィナとプラムさん捜索を始めた。

 ……が、一時間以上捜索しても、一向に発見できる気配が無い。

 プラムさんはともかく、アップルルーンに乗っている筈のセフィナは速攻で見つかると思っていただけに、捜索の時間がもどかしい。



「ヴィギロア!ギギロギア!」



 というか……、捜索が難航している最たる原因は、ふっくらタヌキが先導しているという混沌超展開のせいだ。

 まさか、戦争地をタヌキに案内されるとは思ってもいなかったぜ。



「むぅ……、セフィナが見当たらない……。直ぐに捕まえてあげられると思っていたのに」

「アップルルーンがレジェンダリア軍を襲ってなかったのは幸いだけどさ、正直に言って色んな意味で混沌としてるよな?」


「むぅむぅ……、ワルトナなら捕まってても何らかの痕跡を残していると思ったのに、それも見つからない。メナフも居ないし」



 セフィナ、ワルトナ、メナファス、それらの痕跡は見つからず、捜索はアルカディアさんとふっくらタヌキ頼りになってしまっている。

 つーか、匂いを辿って捜索しているのがおかしいし、それが出来るのもおかしいだろ。

 此処には5000人以上も居るんだぞ?

 お前ら、どんだけ鋭い嗅覚してんだよ。



「見つからないもんはしょうがないが……、せい!大丈夫か?」

「すまんな、助かったぜ、兄ちゃん、じょうちゃ……総指揮官様ッ!?」



 接戦ながらも不利に立たされていたレジェンダリア兵を助けつつ、周囲を見渡す。

 タヌキを除いたとしても、俺達が思っていた以上に戦場は混沌としている。

 大魔王陛下の想定よりも戦火が広がり、敵味方共に負傷者が出ているようだ。



「リリン、なんか妙な雰囲気だよな?もっと圧倒的な戦いになってるかと思ってたんだけど」

「私も驚いている。此処に出ているレジェンダリア兵は、終末の鈴の音の中から選抜された人。ランク4以下が見当たらないというのは、そういう事」


「なるほどな。胸に付いている銀色のプレートが強さの階級順って所か?」

「たぶんそう。ジルバシラスがNO.23のプレートを付けてた」



 ジルバシラスさんは元・終末の鈴の音の軍団長だった人だ。

 もともとはギョウフ国の国軍総長で、リリンに負けた事で強さに惚れ込み、レジェンダリア軍に入隊。

 現在は退役し、レジェンダリア兵を教育しながら関所の監督業務をしている。


 そんな経歴だからか、ジルバシラスさんの実力はかなり高い。

 個人的な強さは勿論のこと、15名の隊員に見事な指示を出し、100名以上のブルファム兵を圧倒していた。

 その中には鏡銀騎士団も混ざっていたし、油断ならないはずなんだが……、15名の隊員の全員がリリンに見事な敬礼をしてくれた。戦闘中に。



「まぁ、ジルバシラスさんは真っ当な軍人だから良いとして……、盗賊と焼き鳥屋のおっちゃんが無双してたのはどういうことだよ!?」

「流石、私が見込んだ御用達店。素晴らしい働きをしてくれる!」



 セフィナ達を探していた俺の目に止まったのは、完璧な連携をする盗賊と焼き鳥屋のおっちゃんの姿だった。


 苦戦している仲間を見つけた瞬間、盗賊が鉈を構えて特攻。

 屈強な体に物を言わせて戦いに割り込み、ブルファム兵を蹂躙。

 その役割は敵の意識を逸らす事らしく、大振りな戦いを強要して隙を作り、焼き鳥屋のおっちゃんが投げた串が一撃で急所を貫いていた。


 串自体が見にくいのもあるが……、投げるタイミングが絶妙過ぎて、相手からは不可視の一撃になっている。

 刺した串を鉈で叩いて体の中に埋め込んで隠すという連携も見事だし、こいつら、普通に強い。



「盗賊がNO.100で、他に三桁は見当たらない。あの連携の上手さですら最弱って、かなり熟練した兵士じゃないと戦いにならないよな?」

「ブルファム王国の兵士はだいたいランク2か3。本来ならば相手にならない。鏡銀騎士団の部隊長が複数人集まってやっと勝負になる」


「だよな。それに……キングフェニクスがNO.2だったんだが?」

空の(・・)をフェニクが作ったというのなら、普通に納得。アレを落とすのは私でも苦労しそう」



 この戦場で最もデカイ混沌、それは……、雲の中に身を隠している特大のメカゲロ鳥2号だ。


 空に凄まじい気配を感じた俺とリリンは、その正体を確かめる為に特大の炎魔法を打ち込んでみた。

 狙いは気配その物では無く、その姿を覆い隠している雲。

 そして、リリンの狙い通りに雲の中で魔法が炸裂し――、剣や槍で出来た巨大な翼を見て、俺は目を疑った。



「う”ぅーぎぃー。あいつ……、また妙な事しているしー」

「……あいつ?」


「フェニなんちゃらだし。電気で金属を引き寄せてくるから、すごく戦いにくい」

「……ってことは、あの空のはキングフェニクスが作ったって事か?」


「刃物で出来てるから素手で殴ると怪我する。ガントレットが有って良かったし!」



 目を疑うだけで精いっぱいだったのに、耳も疑う必要が出て来て非常に困った。

 空へ全力の威嚇をしているアルカディアさんを宥めながら事情聴取をしてみると、どうやら、キングフェニクスは電気で金属を操る事が出来るらしい。

 そして、戦場に落ちている武器やら防具やらを一か所に集めて、巨大なゲロ鳥を作ったらしい。


 なるほど、あんな化物が10億エドロは確かに安いぜ、ぐるぐるきんぐぅー!



「相手の方が数が多いけどさ、こっちはそれを覆せる戦力な訳だろ?何で苦戦してたんだろうな?」



 俺達が戦場に降りた当初、戦況は五分五分で、負けそうになっているレジェンダリア兵も数多くいた。

 目に付いた以上は助けない訳にもいかず、俺とリリンで片っ端から戦闘に介入。

 それも、セフィナ捜索が上手く行っていない原因の一つとなっている。



「ぱっと見た感じ、使われている武器が強い。ミオが持っている武器と同等の性能のがいっぱいあるっぽい?」

「ミオさんの?戦場に来ているのか?」


「ミオは直属の部下に武器を貸している。部隊長クラスなら逸話級の武器を持っていても不思議じゃない」

「なるほど……、ま、俺達がここに来てからは戦況が良くなっているみたいだ。このまま行けば順当に勝てるな」



 レジェンダリア兵の数が少ないという事は、起こっている戦いの数が制限されているという事だ。

 仮に戦いが100箇所で起こっていたとして、俺やリリンが戦闘に介入した数は既に20を超えている。

 勝率という面で見れば、かなりの貢献をしているはずだ。



「私達の他にも援軍がいる……あ。セブンジードだ」

「……リリンサ様?」



 着々と優位へ覆って行く戦況の渦中、そこに立っていたのは、両手に銃を持っているチャラ男。

 魔弾のセブンでお馴染みの、セブンジードだ。



「温泉卿で療養していると聞いた。大丈夫なの?」

「……メイがな、ついにデレたんだ」



 怪我をしたって聞いたけど、大丈夫?というリリンの問いかけに、何の脈絡もない言葉が返ってきた。

 結構重傷だったって聞いたんだけど……、うん、身体の方は大丈夫そうだ。



「どういうこと?」

「白銀比様の御酌を命じられた俺は、そりゃあもう、この世の全て……天上の贅沢を堪能した訳だ。美人と美味い酒を飲む。それだけで贅沢だってのに、その場所はなんと……混浴だ」


「……。で?」

「お子様には聞かせられねぇ至福がな、こう……たっぷりよ」


「そのまま沈めばいいのに」

「あぁ、沈んださ!!揉んで沈んで、そして……、気が付いたらメイが立ってた。俺は死を覚悟した」



 あっ、修羅場だ。

 俺の時も大概に酷かったが、今回はツンだけ殺意メイドと偉大なるビッチの皇種の組み合わせだ。

 チャラ男では勝てそうもない。



「美女に挟まれて死ぬ。これもチャラ男冥利に尽きるか……と諦めたが、そうは成らなかった。メイは静かにお湯に入って来てな、そんで小さな声で言ったんだよ」

「……何をだ?」


「ずっと待ってるのに、何で私には手を出してくれないのよ。ってさ!!」



 ……ちっ、そのまま沈めばいいのに。

 むしろ俺が直々に沈めてやろうか。


 なお、セブンジードの惚気話に興味を無くしたリリンは近くの戦いに介入し、暴虐の限りを尽くしている。

 気持ちは大変に分かるが、唸る尻尾で敵をシバき倒すのは止めておけ。精神的な死人が出る。



「まぁ、ちっと幸運を使い過ぎたみたいでな、ナインアリアとサーティーズに蔑まれるわ、戦場に呼び戻されるわ、踏んだり蹴ったりだ。だがよ……、この戦況じゃ仕方がねぇわな」

「何か知ってるのか?」


「陛下とテトラフィーア様が命令を取り下げてまで俺を呼び戻すなんて、大概にやべぇ状況だって話だよ。ユニクルフィン、想定外を想定しておけ。何が有っても動揺すんな」



 俺と会話している間にセブンジードが放った弾丸は23発。

 その全てが敵に命中し、一撃で意識を刈り取っている。


 どうやら、セブンジードは俺達の事を気に掛けていたらしく、警告を済ましたら、すぐに戦火に紛れて行ってしまった。

 付けていたプレートはNO.1。

 そこに『十字の天秤』マークが刻まれていたし、特殊工作員的な立場で1番強いって事なんだろう。



「ユニク、セブンジードは?」

「想定外が起こっても動揺すんなってさ」


「……むぅ、流石に良く見てる。ユニク、ミオっぽいのがあっちに居た。確認しに行っても良い?」



 戻ってきたリリンは、平均的にそわそわしていた。

 どうやら、敵を蹂躙している最中にミオさんに似た人を見つけ、慌てて戻って来たらしい。

 ちなみに、助けて貰ったレジェンダリア兵も慌ててる。

 ……敵のあまりに変わり果てた凄惨な姿に。



「どれどれ……?ん、あの人か。確かに動きは良いけどさ」



 リリンが向けた視線の先、そこにいたのは滑らかな剣閃で戦いを諫めている女騎士の後ろ姿だ。

 だが、澪騎士・ゼットゼロのトレードマークである武骨な鎧ではなく、どちらかと言えば新人冒険者よりの軽装をしている。

 確かに、ただならぬ剣裁きだけど……、って、レベルが99999(カンスト)してる。



「冥王竜と戦って99999になった?じゃあ、澪さんか?」

「ほぼ間違いなくミオだと思う。確認してくるから、アルカディアを見てて」


「おう、任せとけ!」



 そう言って走り出したリリンは敵を掻き分けて進み……、うん、物理的に尻尾で掻き分けたな。

 吹き飛ばされた敵兵は痛みでのた打ち回っているが……、まぁ、一応生きてる。


 ……って、あ。リリンが抱き付いた。

 ってことは本当にミオさんって事か。

 無事だと聞いてはいたが、これでひと安心だな。



「一応、俺達も挨拶をしておくかな。アルカディアさん、一緒に行こうぜ」

「ヴィギロア!ヴィギプルン!」

「う”ぃあ。近い。あの岩の陰だし!」



 俺が声を掛けた瞬間、アルカディアさんとドングリが走り出した。

 どうやらプラムさんはあの大岩の反対側にいるらしく、一直線に向かっていく。



「ちっ、ミオさんには悪いが……、こっちが優先だ」



 大魔王陛下は、プラムさんを攫ったのはラルラーヴァーでは無いと言っていた。

 全くの第三勢力という可能性が濃厚……って話だったが、アルカディアさんが警戒するほどの実力者なのは間違いない。


 俺もフォローに回った方が良さそうだ。

 そう判断して向けた視線に違和感があった。



「岩の破壊値数がない……?」



 いつ戦闘になるのか分からない以上、俺は既にグラムを覚醒させ、万全に備えている。

 周囲一帯の破壊値数を常に把握し、異常に高い耐久値を持つ武器を警戒してたのだ。

 それはもれなく高位の魔道具であり、必然的に強者の指数となるからだ。



「いや、違う。岩のように見えるけど……。あれは全部、砂なのか?」



 アルカディアさんと大岩との距離、残り15m。

 近づく音はタヌキの忍び足の様に静かで速く、風下だから匂いでバレる事もない。

 完全なはずの奇襲、それが確実に失敗するような気がした。



「ちっ、罠かよッ!?《超重力軌道ガルシステムッ!!》」



 周囲一体と俺の体を反発させ、走り出す。

 さらに、目の前にある空気との摩擦係数を破壊。

 妨げる物のない世界での加速は、容易に音速の壁を超え、更にその先へと簡単に踏み入る事が出来る。


 身体が軋むギリギリの速度でアルカディアさんに接近、肩を掴んで止めようと腕を伸ばし――、粒子レベルで崩壊した大岩、その中から出現した赤黒い魔剣へ目標を変えた。



「……っ!!《空間破壊パスカルブレイクッ!!》



 突き出された赤黒い魔剣へ、力の限りに破壊力を叩き付ける。


 俺もリリンも、この戦争で人を殺すつもりは無い。

 だが、心の底から滲み出る危機感が告げている。


 手加減など、不要。

 モウモウと立ち込める砂煙の奥にいるのは、正真正銘の強者だ。



「プロジアの側近メイド……、じゃ比べ者にならねぇな。こんなのが敵にいるなんて聞いてねぇぞ」

「にゃはは!確かに、アイツら4人を纏めても、おねーさんには届かなかったねー」



 纏めても届かなった……?

 それはつまり、4人を同時に相手取っても余裕で勝てるって事か。


 ゆらゆらと揺れる人影は女性のものだ。

 二人いる内の奥の方はプラムさんなんだろう、速攻で態勢を立て直したアルカディアさんが確保しに行っている。


 ……だが、全く安心する事は出来ない。

 動揺すんなって言われていたが、まさか、こんなことってあるのかよッッ!!



「なぁ、その声、レラさんだよな?何でこんな所にいるんだ?」

「おっ!さすがおねーさんの弟分。声で聞き分けるなんて、可愛いとこあるじゃん!!」



 聞き間違う訳が無いだろ。

 5年以上も一緒に過ごしたんだぞ。


 だが、砂煙の先にいるのは、俺の知っているレラさんじゃない。

 だってさ……、俺はグラムを全力で打ち込んだ。

 それなのに、迎え撃たれた上に叩き伏せられて、グラムの先端が大地に突き刺さっている。



「他にもさ、いろいろ聞きたい事はあるんだが……。その、圧倒的な覇気は何なんだ?」

「にゃは!それはね……」



 ひゅん。っと風が斬り裂かれ、立ち込めていた砂煙が晴らされた。

 まるでカーテンが開かれていくように真っ二つに割れていく空間、その中心に立っているのは紛れもないレラさんだ。


 だが……、そこにいるのは、『自称ユニくんのおねーさん』ではない。

 圧倒的格上、親父と同格の――。



「今のおねーさんは、ユニくんだけのおねーさんじゃないのだよ」

「じゃあ誰なんだ……?」


「ローレライ、それがユニくんとレジィのおねーさんである私の本名。ユルドさんの後を継ぐ次代の英雄だよ」



 リリンと旅をして強くなる事が出来たら、その時は、レラさんに恩返しをしたい。

 恋心とは明確に違う、純粋な親愛の気持ち。

 レラさんは5年以上も一緒に暮らした家族の様な存在で、そしてきっと、寂しい思いをしている人だ。


 そんな風に思っていた姉は、俺に剣を突きつけ――、



「にゃはは、おねーさんは、ユニくんに正体をばらして本気で戦える時を楽しみにしていたんだ。ちょっと遊んで欲しいな」



 見た事もない表情で、感じた事もない殺気を放った『英雄・ローレライ』が、赤黒い魔剣を振りかざした。


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