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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第114話「戦線復帰」

「おらおらどぉしたロリコン野郎ッ!!ほざいてみろ!!」

「ババ専のてめぇに言われたかねぇッ!!」



 迸る剣閃と火花。

 激しくぶつかり合う小剣と鉈の応酬は、周囲に散らばった取り巻き共(塵芥)では辿りつけない領域だ。


 戦場で相見えたロンリゴンとマトゥルマンの戦いは、早々に決着が付くと思われた。

 何も知らない者から見れば、ランクが上のマトゥルマンの方が圧倒的に有利。

 ましてや、ランク2~3の手下を十数人従えている状況では、あまりにも多勢に無勢だ。


 だが、ロンリゴンを知る者……、レジェンダリア軍から見れば、その予想は覆る。

 レジェリクエ女王の直轄部隊『ポーンの騎士』の高位者に鍛えられた彼は、対人近接戦闘で無類の強さを誇るからだ。



「ほざけほざけ、泣いて詫びて頭を垂れろッ!!気が向きゃ生かしてやるってなぁッ!!」

「生憎、俺の頭は魔王様に下げっぱなしでな、これ以上は下がらねぇ!!」


「そうかよ、だったら転がっとけや!!《無花果の断裁(ディスミス)》」

「喰らうかよッ!!《枝打ち間引き(シニング)》」



 両者が大振りに武器を翳し、持ち前の膂力の限りに振り抜いた。

 それぞれが用いている技は、魔法の様な特性を持つ武技。

 過去の偉人が創り出したとされる超状の結果を産むそれらは、裏稼業を長く続けた者にとって必須スキルだ。


 マトゥルマンが使用した技は、頭部へ向けた斬撃の威力を3倍にする。

 防御に失敗すれば、まさに無花果の実を割った様に頭部が砕け、肉片が細かく飛び散る結果となる。


 一方、ロンリゴンが使用した技は、相手の四肢を切断する場合に防御魔法を弱体化させる。

 阻まれるべき障害が消えた事により、鉈が発揮する純粋な切断力が相手の体へと叩きこまれるのだ。


 頭部を砕こうと迫る小剣、それを落そうと狙う鉈。

 やがて両者の刃先が迫り――、マトゥルマンの小剣が跳ね飛んだ。



「ぐっ、ち”ぃ……」

「どういうこったァ?」


「マ”ドゥルマ”ン、でめぇ何を隠しでやがっだ?」



 虚空を待ったマトゥルマンの小剣。

 その先端に付着しているのは、ロンリゴンの血と頬肉だ。


 対人近接戦闘のエキスパートたるロンリゴンの戦法は、まず、盤石な情報収集から始まる。

 籠手調べにいくつかの攻撃を行い、わざと隙を作って誘い、相手の殺傷能力を見極めてからトドメを差す。

 傷を負わないであろう攻撃を受けることで、相手の体が伸び切った瞬間にカウンターを叩き込むのだ。


 そんな緻密な戦略の結果、ロンリゴンの頬は大きく裂かれ、ボタボタと血液が垂れ流されている。

 そしてそれは、マトゥルマンにとっても予想外の出来事だった。



「第九守護天使を突破するか……。そんな高等武器を持ってると思わなかったぜ」

「おいおい、どうしたよ俺ぇ?いつそんな武器を手に入れたんだ?」


「あぁ?」

「コイツは良いナイフだ。女の腹を50回裂いても切れ味が変わらねぇように、『保全』の能力が付いてる。が……」



 マトゥルマンは軽く手首を捻り、小剣を掠めさせた左腕を見やった。

 そして、そこに滲んだ血を見て思案し、思考を放棄する。

 理屈なんてどうでもいい。

 要するに、防御魔法を突破できる力が手に入ったのだと理解し、愉悦に塗れた。



「くかか!こりゃあ火事場の馬鹿力って奴か、それとも、唯一神・アンタマンユ様の思し召しって奴かぁ?」

「なんだ……?」


「逆転だって言ってんだよ、ロリコン」



 じゃらり。っと音を立て、マトゥルマンの腰からチェーンが引き抜かれた。

 数珠繋ぎにされている鎖に取り付けられているのは、刃渡り8cmの小太刀。

 それらを瞬く間に指の中へ挟みこんだマトゥルマンは、一切の躊躇なく両腕を振り抜く。



「くっ、そぉ!!」



 マトゥルマンが投げ放った十数本の小太刀は、自身の性癖を満たす為に作られたものだ。

 対等な者に向ける為では無く、捕らえた女を嬲る為に造られたそれは、殺傷能力よりも嗜虐性を重要視している。

 そんな、第九守護天使を突破できるはずも無い攻撃は、迎え撃つロンリゴンの鉈を刃毀れさせ――、2本の小太刀が腕に突き刺さった。



「おいおいおい、これも当たりかァ!?本当にどーなってやがる」

「てめぇが投げたナイフだろうが……!」


「防御魔法無視のナイフなんざ、こんな数を用意できる訳ねぇだろ。一時的なバッファか何かが、俺のナイフに掛ってるみてぇだぞ?」

「……慎重なお前がそんな顔してんだ、異常事態だってのは分かったぜ」


「かかか……、ほざけよほざけ。死なねぇ内に、ほざいとけェ!!」



 ふらりと走り出したマトゥルマンはロンリゴンに肉薄し、懐から取り出したナイフを突き立てる。

 その刃に塗られた薄緑の液体に嫌な予感がしたロンリゴンは、鉈で受けることをせずに回避。

 そして、反動で飛び散っていた液体を小指の先で絡め取り、薄く延ばして匂いを嗅いだ。



「蛇毒か。流石に良いもん持ってるな」

「カガシの毒さ。数滴もありゃ全身の血をドロドロに溶かせるから、剥製(・・)の血抜きをする時に重宝するんだぜ」



 指先についた毒をズボンで拭き取りながら、ロンリゴンは毒の特性について考えていた。



 蛇毒は入手が容易な事もあって、裏稼業では重用される。

 その中でも各段にヤバいとされているのが、この『確我死カガシ』の毒だ。

 コイツは血液の凝結成分を壊し、血栓を作れなくしちまう。

 固まらずに流れ続ける血ってのは致命傷な訳で、俺は既に血を流している。


 この毒を傷口に喰らえば、俺は死ぬ。



 ふぅ、っと息を吐き、ロンリゴンは脳裏に浮かんだ妻とガキ共の名を呼んだ。

 そして、妻の腹に宿った光を『死ねない理由』にして振るい立つ。



「風呂に入れるまでは、死ねねぇな」

「あん?」


「こさえたガキと一緒に風呂に入るまでは、死ねないって言ったんだ」

「……ロリコンの鏡か?てめぇ」


「違う。父性だ」



 大地を踏みしめた衝撃で、小太刀が突き刺さっている左腕に激痛が走る。

 だが、返しの付いた刃を抜こうとすれば肉を削がれ、より多くの出血を招く。

 狭まって行く選択肢、その中でも最も高い勝機は、ただちに戦闘を終了させる事だ。



「死ねねぇんだよ!!こんな所でッ!!」

「いいぜ、ほざけよ。それがてめぇの遺言だッ!!」



 振るい、奮い、交差する小太刀と鉈。

 その刃が接触する度にロンリゴンの鉈は刃毀れし、衝撃で蛇毒が撒き散らされる。


 焦り、決着を急ごうとする者と、余裕を持ち、時間稼ぎに徹する者。

 両者の実力が拮抗している以上、望んだ結果を手に入れるのは……、冷静な思考のマトゥルマンだ。



「そうだ、てめぇの妻の名前を教えてくれよ。夫と子供を亡くした女が好きなんだ」

「下種がッ!」


「てめえもだろ。下種の種で出来たガキを引きずり出して、谷底に捨ててやる。覚えがあるよな?」

「くっ……、そ野郎がァァッ!!」



 焦り、怒り、悔恨、焦燥。

 人の感情を掻き混ぜるのが得意なマトゥルマンの攻撃は的確だった。

 正確にロンリゴンの弱点を抉り、致命的な失策を誘っているのだ。


 そして、その時が訪れた。



「……飽きたな。殺すぜ」

「なっ!?」



 パチンと弾けた視界。

 マトゥルマンが腕に付けているブレスレットが閃光を発し、周囲一帯の視界を塗り潰す。


 だが、ロンリゴンは近接戦闘のエキスパートだ。

 地面を踏みしめた音で位置関係を把握し、その方向へ反射的に鉈を突き出して防御する。

 そして、ズブリ。という、ぬかるんだ音を鉈の先端が発した。



「おぉ、こりゃぁ致命傷だぞ、ロリコン」

「仲間を……。なんつぅ真似を」


「二度と殺しはしねぇんだよな?で、どうやって助けんだ?」



 どちゃ。っと血溜りに沈んだのは、浅黒い髪の男。

 意識を刈り取られ戦線離脱していたといえ、死からは程遠い状態だったその人物は痙攣し、既に呼吸も止まっている。


 ロンリゴンの鉈が貫いてしまったのは、マトゥルマンの取り巻きと、自信の矜持。

 煽り狂わせられた感情、その琴線を破壊してしまったロンリゴンは動揺し、目の前で振り被られた小太刀へ反応出来なかった。

 走馬燈のようにゆっくりと流れていく景色。

 そして、せめてもの抵抗にと突撃を仕掛けようとし……、足を掬われて前のめりに倒れ込んだ。



「お前は弱いんだから、一人になるなと言っておいたはずだぞ。ロリコン」

「本当に聞き分けが無い方です。ロリコンなのですから、子供と一緒に低学年から学び直してはいかがですか?」



 投げかけられた罵倒。

 それはロンリゴンに取って、聞き覚えのあるものだった。



「ストロジャム様……、ミルティーナ様……。なぜここに?」

「自分の胸に聞いてみると良い」



 落ち着いた色合いの甲冑を身に纏った男性と、法衣の様な魔導服を身に纏う女性。

 その凛とした雰囲気は場の空気を飲みこみ、一瞬で書き換えてしまった。


 胸に輝くは、『NO.12』と『NO.13』。

 NO.13の文字を持つ女性『ミルティーナ』に抱き起こされながら、ロンリゴンは悟る。

 歩兵ばかりだった戦場(盤面)に、ポーンの騎士(ナイト)が参戦したのだと。



『こちら総司令官のテトラフィーア。ただ今より、戦闘管制(チェス)を始めますわ』



 自分の胸に聞け。

 そんなストロジャムの言葉の通り、ロンリゴンが胸に付けている金属プレートが僅かに輝いた。


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