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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第108話「戦線崩壊」

「なるほど。レジェンダリアは優れた通信技術を持っていると思っていたけれど、失われた古代魔法理論(ロスト・テクノロジー)で構築されてるのか」



 錆鉄で出来た塔の先端、キィキィと軋む鉄パイプで出来た手すりに腰掛けた少女が呟いた。

 彼女の名はメルテッサ。

 変哲のないメイドの子として生を受け、のちに指導聖母・悪典ヴァリアブルによってブルファム第六姫として見出された、生来からの忌み子だ。


 歪な心と体に万能を宿してしまった彼女は、この瞬間、人生で初めての充足感を得ている。

 神によって進化した『物質主上アイテムマイスター』による恩恵が、彼女に初めての成長を経験させているからだ。



「医師としてのカミナ・ガンデしか知らなかったけど、流石に天才の名を欲しい侭にしているだけはある。天穹空母もカミナ・ガンデの考案だったようだ」



 虚空に向いている彼女の視線の先には、緑色の文字が羅列している。

 複数の窓で区切られたそれは、まるで半透明な液晶画面。

 それが示しているのは、メルテッサを中心として半径5kmに存在している全ての魔道具の名称列挙。

 そして、複数ある窓の一つに記載されているのは……天球空母ーGR・GR・GGーの詳細情報だ。



未覚醒状態(ランク1)で『過去最大のパフォーマンス』を発揮させ、覚醒状態(ランク2)で『同系統の魔道具が過去に発揮したパフォーマンス』を流用する事ができるようになり、そして、超覚醒状態(ランク3)となった今、『ぼくの所持に関わらず、指定範囲内の全ての魔道具へ効果を適用できる』ようになった」



 噛みしめるような呟きは、自分へ向けた喜びか、神に向けた感謝か。

 ただ、一つ確かな事は……、この瞬間、メルテッサよりもランクが高い世絶の神の因子を持つ人間は存在しない。



「あぁ、どれだけ力を奮おうとも、自分の限界が計りしれない。なんて素晴らしいんだ」


「ありがとう、ラルラーヴァー。キミに負けたおかげで、やっとぼくは人間らしくなれたよ」



 メルテッサが肩を揺らして笑うと、彼女が座っている鉄パイプが軋んだ。

 通常ならば折れてしまうであろうそれも、彼女の物質主上の影響を受けている以上、崩落などあり得ない。



「さぁ、無限の成長(全能)を楽しもう。ぼくが持っているのは、神が世界を壊した力だ」



 口元を釣り上げて笑いながら、メルテッサは目の前に表示させている魔道具のパラメーターに指を伸ばす。

 そして指の先端がそれに触れると……、そこに『ステイタス改変』という文字が浮かびあがった。



 **********



「バルワン軍団将へ、緊急報告。均衡を保っていた戦線の一部が暴発。戦端が開かれました」

「……規模はどの程度だ?」



 ブルファム王国軍と睨みあいを続けているレジェンダリア軍・本陣。

 その中央にあつらえた天幕の中で、三人の屈強な男が報告者を視線で貫いた。


 ドラゴンであっても射殺せそうな鋭い眼光、その中でも最も鋭い目を持つバルワンは報告者へ簡素な問いを掛ける。

 ただでさえ、バルワンは寡黙である。

 その上、虫の居所まで悪いとなれば、最低限の言葉しか発せられる事は無い。



「行軍を開始したブルファム王国軍は約4000。7つの師団に分かれており、先陣を切った指揮官は鏡銀騎士団の4番隊副隊長ウラガ・ヒアーです」

「ブルファム軍には国王ルイが降伏したという情報は届いてないのか?」


「いえ、内通しているポーンの騎士は情報操作を行っており、末端の兵から情報を広めております」

「指揮系統を混乱させる為に下位者から情報を広めていく。レジェリクエ陛下の読み通り、情報が最上部に届いた事により混乱が起こり、戦闘が発生……ではないな。4000では数が多すぎる」



 ジャリっ、っと自分の顎を指でなぞり、バルワンは思案を始めた。

 その内心では、僅かな焦りが芽生え始めている。



 我ら終末の鈴の音(べルナロク)に下された命令は、戦線の維持。

 レジェリクエ女王陛下が、昨日より始まった世界核戦争において、一名の死者すら出さない事を『パーフェクトゲーム』と称したが故の膠着だ。


 この話を事前会議で聞かされた時は、建前だけの偽善であり、冗談の類だと思っていた。

 人が死なない戦いなど戦争とは呼べず、そんな物は実現不可能な夢物語だと、誰しもが鼻で笑っていたのだ。


 だが……、我らが総指揮官たるリリンサ様は、それを圧倒的な武力で成し得た。

 9万人という大軍勢をたった一人で圧倒し、一人の死者どころか重傷者すら出さずに鎮圧した様は、我らの矜持を粉々に破壊するには十分すぎる偉業だ。


 こうも圧倒的な力が存在する事すら知らず、仮初の頂きを与えられ、満足していた軍団将(我ら)

 今回も役割を与えられども、予定以上の戦果を上げる機会はなく、万事が滞りなく終えようとしている。


 そんな、我らの戦いに光明が差した様な気がした。



「へぇ、欲求不満な俺たちにゃ嬉しい報告だな」

「口を慎め、サンジェルマ。陛下の策謀に誤算が生まれたのだぞ」


「お前も内心じゃ喜んでるだろ、バルワン」

「……。暴徒として動いたにしては4000の兵は多すぎる。明確な指揮官が居ると見て間違いない」


「正確に言えよ。『居る』じゃなくて、『出て来た』って事だろ。敵の指揮官で無能以外は豚箱にぶち込んだろうが」

「おい、我が軍からは何人の斥候を送りだしている?ブルファム王国が停戦協定を無視した意図はなんだ?」



 内心を見透かされた事に気分を害したバルワンは、更に険しくなった表情を報告者へ向けた。

 そして、報告者は『ひぃ。』っと小さな嗚咽が漏れそうになるも必死に飲み込み、代わりに歯切れの悪い言葉を吐く。



「いえ、それが……」

「なんだ?はっきり申せ」



 僅かに逡巡するように視線を巡らせた報告者は、手に持っている報告書が間違っているのではないかと思っている。

 情報を伝達する高官である彼は、そこに書かれている言葉が信じられない。

 軍団将の命令を運ぶ者として、そのような伝令をした覚えがないからだ。



「先に戦端を開いたのは、我がレジェンダリア軍だという報告が……」

「……なんだと?」


「陣地で監視業務をしていたブルファム兵が狙撃され、死亡。協定破りをしたとしてブルファム王国側の過激派が遣いを出すも、我が陣地に入った瞬間、またも狙撃され死亡。最早、言葉を交わす価値なしとブルファム軍は出兵したようです」

「馬鹿な。女王陛下の命令を破る愚か者がいるはずがない。どうなっている……」


「真に信じられぬ事に、その狙撃を行った射手が我が軍に存在しています。彼の供述によると、バルワン軍団将から直々に通信が入ったと……」



 レジェダリア軍の中で最も優れた銃技術を持つセブンジード隊が別行動をしているとはいえ、数百m先から狙撃できる射手はそれなりの数がいる。

 だが、そんな命令をバルワンが出すはずがない。

 現状に不満を持っていたとしても、生粋の軍人である彼が女王の命令に背く事などあり得ないからだ。



「何がどうなっている……?」

「俺達が持つ通信機は特別製だ。お前がスられてなきゃあり得ねぇことだぞ。バルワン」


「無論、所持している。ここに……む?」



 バルワンが胸ポケットから携帯電魔を取り出した瞬間、無機質なコール音が鳴り響いた。

 それが意味するのは、『レジェリクエ女王陛下からの緊急伝令』。

 重要な仕事を行う事が多いバルワンは、レジェリクエ以外の着信は全て留守電になるように設定している。



「あはぁ、聞いたわよぉ、バルワン。膠着状態を維持するように下した余の命令を守れなかったんですってぇ?」

「申し訳ござません。誠に遺憾であり、ただちに原因を調査中であります」


「リリンサに劣る愚鈍には難しい御使いだったかしら?まぁ、いいわ。貴方にも出来る程度に策謀をランクダウンしてあげる」

「……陛下?」


「ブルファム軍を全滅させなさぁい」

「全滅とは殺せという意味で?」


「そうよぉ。言葉通りの意味で、一人残らず殺しなさぁい。レジェンダリアの力を見せつけるのよぉ。愚鈍でも暴力くらいは振るえるでしょぉ?」

「なるほど……。ところで、私は気になる事がございます」


「なにかしら?」

「貴方のパンツは純白ですか?」


「……は?」



 バルワンが唐突に放った、迷言。

 それを受けた電話の先の何者かは言葉が詰まり、思わず疑問の声を上げた。


 そして……、バルワンを含めた3人の軍団将が椅子から立ち上がる。

 そのままゴキゴキと首を鳴らし、外していた自身の装備を手に取った。



「どうやら陛下ではないようだな。……お前は誰だ?」

「くくっ、まさか堅物のお前が真面目腐った声で下着の色を聞いてくるとは思いもしなかった。……どんな確かめ方だよ」



 ぷつっ。っと回線が切れる音を残し、携帯電魔が沈黙した。

 それを以て、バルワン達は理解する。

 敵に通信機器を掌握され、すでに窮地に追い込まれているのだと。



「ダメだ。陛下に掛けてみたが繋がらねぇ。マズッたな」

「敵はレジェリクエ陛下の口調を真似ている。間違った情報を流されれば、一気に戦線は破綻するぞ」

「ただちに出陣する。行くぞ、トウトデン、サンジェルマ」



 レジェンダリア軍の戦略は、通信の魔道具を基軸にしている。

 それは純粋に情報戦で勝つ為の施策であり、同時に、レジェリクエが持つ支配声域の有効範囲を広げる為でもある。


 それが、根底から崩された。

 功績をあげたいという自身の欲求ではない純粋な焦りが、軍団将の歩調を早めていく。



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