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第31話「キャンプの醍醐味」

「お!焼けてる焼けてる。今夜の飯は焼き肉か!」



 リリンから夕食のお知らせが来た俺達は、早速話を切り上げて外に出た。

 そこにはモクモクと煙をあげながら何かをしているシフィーの姿。

 赤々と燃える焚き火を囲むように地面から串が伸びていて、肉の焼ける香ばしい匂いを充満させていた。



「うん!美味そうだな。これ、なんの肉なんだ?」



 パチリと弾ける度に肉汁が滴り落ち、炎の勢いが増す。

 あぁ、食欲を刺激してくるこの匂いがたまらない!


 俺は、火の近くに並べられていた座るのにちょうど良さそうな石に腰掛けながら、火の番をしていたシフィーに話しかけた。

 それと同時に俺の横にはリリン、向かいにはロイが座り、全員が揃う。


 辺りはすっかり暗くなっており、空には星が瞬いている。

 ムードだけは抜群な、キャンプファイアーの始まりだ。



「このお肉ですか?それはもちろん、タヌキです!美味しいですよ!」

「え"。………。」



 ロイは絶句し、和やかな空気も凍りつく。先制攻撃を仕掛けてきたのはシフィーだ。

 あーあ。俺が意図しなくても、ディナー・オブ・タヌキは免れなかったか。

 まぁ、そうなるだろうなとは思ってはいた。昨日の帰り、リリンは野菜やちょっとした小道具と一緒にタヌキの肉を購入していたのだから。


 俺は、現実から逃亡しているロイの肩を叩き、現実に呼び戻す。

 ロイは口元を引きつらせながら、伸ばしかけていた手を引っ込めた。そういえば昨日、二度とタヌキを食べないと神に誓っていたっけな。

 だけど好き嫌いは良くないぜ?俺だってタヌキは恐ろしいけれど、食う時は食う。あーこわい。


 そう思いつつ、俺も串に手を伸ばす。早くしないと晩飯が無くなってしまうからな。

 そうこうしているうちに、リリンは二本目に手を掛けているのだから油断も隙もないのだ。

 ちなみになぜリリンが2本目なのか分ったのは見れば一目瞭然だ。小さな口をもぐもぐと動かしながら焼けている串に手を伸ばしている。

 マジで、早い。魔法の詠唱も早いが、飯を食べるスピードも早い。よっぽど口が発達しているのだろう。



「なぁ、本当に食べるのか?食べなくちゃいけないのか?」

「もふ?もんもふぁもふふいのに!」

「リリン。口の中のもん飲み込んでから言え」


「んぐっ……ロイ、好き嫌いはいけない。ましてやウマミタヌキは非常においしい」

「いや、うん。美味いのはわかるんだが……あ!そう言えばシフィー!!昨日はあんなにタヌキと戯れて楽しそうだったじゃないか!良いのか?タヌキだぞ?」



 ロイはなんとか仲間を見つけるべく視線をさまよわせた後、シフィーに狙いを定め問いかけた。

 シフィーは突然の事に慌て、串を落としそうになりながらもロイに答えを返した。



「はい。それはそれ、これはこれ。ですっ!」

「……くっ!」



 ロイが非常に悔しそうだ。

 優しく肩をポンポンと二度叩き、諦めろと告げてやる。

 ロイは、もう一度だけ、くっ!と悪態を吐いた後、串に手を伸ばした。



「なぁ、大丈夫だよな?噛み付いてこないよな?」

「肉が噛む訳ねぇだろッ!いいから食えよ!!」


「う、うん……………………あ。美味い。」



 まったく、世話が焼けるぜ。

 そうして、初日のキャンプファイヤーは始まった。

 次から次へと肉を焼き、それを新鮮な野菜で巻いたり、パンで挟んだりしながら食べ比べる。

 タヌキの肉に飽きてきた頃、リリンがおもむろに別の謎肉を取り出し、場がどよめいたりしたがなんてことはない。

 その正体は昨日タヌキを購入した店で売っていた、『色々な余った肉の寄せ集め』なるものだった。

 リリンいわく、こういうよく分からない物の方がいろいろ楽しめてお得なのだという。火に照らして見てみたが明らかにタヌキとは違う肉も混じっている。

 というか、この肉、ブレイクスネイクだろっ!?!黒光りする鱗に見覚えが有るんですが?


 こうして、夜も更けていく。

 俺は意外とあっさりめな味だったブレイクスネイクを腹いっぱい食べた後、今は食後のデザートとして果物をつまんでいる。そうだ、明日の予定の打ち合わせでもしておこうか。



「明日はどうするんだ?まだ連鎖猪チェインボアを探すのか?」

「うーん。基本的には探す方向でいいと思う。思うんだけれど、気になっている事が有る」


「ん?気になる事?」

「そう、それは連鎖猪の足跡が一匹分しかないという事」


「?一匹って、唯のはぐれ猪ってことじゃないのか?」

「いや、言われてみればおかしい。僕の両親も言っていた。連鎖猪の最大の特徴は、絶対に群れで行動し、生涯群れの数が減るという事はないと」



 ロイの詳しい話によると、連鎖猪は一度に3~5匹の子を産み、群れの最低数は5匹なのだそうだ。

 その群れ単位で移動し他の群れと出会った場合群れは統合され、大所帯となっていく。そうして最終的には100匹を超える群れにまで成長し、大規模な食害を引き起こすらしいんだが、俺たちが追っていた足跡は紛れもなく一匹分。

 どうやらリリンはその事がお気に召さないらしい。



「連鎖猪は一蓮托生。戦闘を行うと決めたのならば、全ての個体で戦闘を行うし、逃げると決めたのなら全員で逃げる。一匹だけ別行動は絶対にあり得ない。有るとすれば……別の生物に襲撃され、一匹のみが生き残ったということ」



 リリンの仮説では、連鎖猪が原因ではなく、別の外的要因によって起こされたという見方が一番しっくりくるということらしい。

 だけど、それってランク3の連鎖猪を一方的に狩れる存在がいるという事になる。その疑問はロイもシフィーも抱いたようで、この場を取りまとめるようにロイが質問を話しだした。



「それじゃ、リリンちゃんは連鎖猪を狩れるような存在がこの森の中に潜んでいると思うのかい?」

「可能性は十分にある。遠くから一匹で移動してきたのならば、途中で別の群れに統合するというのが自然で、ならば、この近くで一匹になったと考えるのが妥当」

「連鎖猪より怖い動物って、魔法竜マジックドラゴン満月狼(フルウルフ)とかの伝説級の怪獣になちゃいますよ!」



 シフィーは、昔絵本で読んだという、お話の中の怪獣について語り出す。

 どうやら、魔法竜はそのまま魔法を使う竜の事を指し、満月狼フルウルフは満月の夜にだけ姿を現す金色の狼の事をそう呼ぶらしい。


 うん、その絵本の内容はよく知らないが、魔法竜は存在するな。少なくとも、指揮官一匹と兵隊六匹の計七匹は間違いなくいる。この山の一つ向こうで絶賛、増殖中だ。



「まぁ、この山で危険な生物が見かけられたという情報は聞いていない。おそらく、誰か冒険者が群れを見つけて駆除に失敗し、生き残りがウロウロしているだけだと思う」

「なぁ、連鎖猪も十分に危険なんだが……?」



 ロイのボヤキを綺麗にスル―して、未だに残っていた串焼きに手を伸ばすリリン。

 もぐもぐと肉を頬張りながら、「まぁ、明日探せばわかる」と安直な考えだ。

 それに実は、連鎖猪を葬った危険な生物に俺は心当たりが有る。


 ……そう、ホロビノだ。

 ホロビノは、リリンから俺達の警護をしろと命令を出されている。

 あいつならば数なんて物ともせずに、連鎖猪を蹴散らすに違いない。そして何より、性格が雑なのだ。一匹や二匹打ち漏らしていても不思議ではないというか、むしろしっくりくる気すらしてくる。


 俺は自身の中で納得のいく答えを出し、とりあえず満足。

 ロイとシフィーは「冒険者が狩った生き残り……?」と疑問に感じているようだが、特に話題を蒸し返すことはなかった。

 明日の方針としては連鎖猪を探しつつ、ブレイクスネイクを狩るというのが行動予定となる。


 必要な会議も無事に終わり、今日はもう寝るだけかと思っていた俺をよそに、リリンがロイとシフィーに向けて話を切り出した。



「二人とも、今夜から魔法の練習を開始する。異論はある?」

「「!お、待ってました!!」」



 どうやら、ロイもシフィーもリリンに魔法を教わるのを楽しみにしていた様子。

 二人とも急にソワソワし出し、リリンの前に正座で座った。非常に露骨な態度である。



「いやー待ってましたよぅ。なんか、わたし達から言い出すのは図々しいような気がして……」

「あぁ、何といっても『第九守護天使セラフィム』だからな。本当に僕らは運がいい!」

「うん。二人とも異存はなさそうで、なにより。それではこれより魔法の練習を開始する。目指すのは大体ランク3~5の魔導師が扱う魔法、簡単ではないけれど一生懸命に頑張ってほしい」


「「はい!分かりましたッ」」



 うんうん。まさに真剣そのものだな。

 あ、というか俺も一緒に教えて貰おうかな……?そうすれば緊急時に役に立つもんな。うんそうしよう。

 そしてしれっと、ロイの横に座った。



「ではまず、魔法原典書テキストを配布する。シフィーにはこれ。『第九守護天使セラフィム』の原典書。ロイにはこれ。『主雷撃プラズマコール』と『雷光槍サンダースピア』の原典書。今夜はシフィーに付きっきりで、シフィー用の呪文の作成を行う。ロイは今晩中に二冊とも読了しておいて欲しい」

「はい!わかりました!!」

「あぁ、僕もわかった。だが僕には第九守護天使セラフィム は教えて貰えないのだろうか……?」


「そんな事はない。しかし何事も順序と言うものがある。まずはロイには魔法に慣れて貰う為にランク4相当の魔法を二つ用意した。対集団用の主雷撃プラズマコール と対個人用の雷光槍サンダースピア 。この二つがが有れば、戦場の絶対強者と名乗れるぐらいにはなれる」

「戦場の絶対強者……ごくり。」


「そう、そしてこの魔法を極めた時、ロイはこう呼ばれるようになるだろう。『戦雷の騎士長プラズムマスターナイツ・ロイ』と。そんな風になりたくはない?」

「なりたいッ!!とてつもなくなりたいッ!!!」



 ロイは今日一番に目を輝かせて、リリンを羨望の眼差しで見ている。対するリリンは平均的な表情の、悪い笑顔。騙す気満々なご様子。

 大丈夫だろうか。ロイは無事に、中二病な名前の騎士になれるのだろうか?


 さて、二人とも夢中で原典書を読んでいる。次は俺の番だな。



「うんじゃあ、リリン、俺にも何か貸してくれ!カッコ良くて強い奴がいいな!!」

「ユニクにはとっておきの特別な奴が有る。ぜひ心して読んで欲しい。……はい」



 そしてリリンから手渡されたのは、一冊の文芸書。


『英雄・ホーライ伝説 第八巻 溜息をつく老爺と、ため池で溺れる人魚姫』


 ……。ベストセラーな予感がするぜ!!



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