第91話「真・王女攻略③」
「くっ!大聖母ノウィンがリリン達のお母さんだったなんて……、俺はどうすればいいんだッ!教えてくれ、オチ担当のロイッ!」
「そのまま落ちる所まで落ちれば良いんじゃないか?ユニーク、フィン」
どうにかボケ倒して誤魔化そうとしたが……、此処からの起死回生は不可能だろッ!?
だって前門の大魔王、後門にも大魔王。
さらに後ろに大聖母、草葉の陰にニセタヌキ。
四面楚歌どころの騒ぎじゃねぇぞ。ニセタヌキは分裂するし。
「あのー、私達は情報を提供しましたよね?ラルラーヴァーを操ってる大聖母の正体が分かったんなら一緒ですもんね」
「……一応な」
「でしたら、私と友好を深める時間って事ですよね?ね?」
「そうだな。うん、それ所じゃなくなったから却下で!!」
「そんなー!?」
アルファフォート姫様が切実に悲しそうにしているが、マジでそれ所じゃない。
俺の人生、最大のピンチなのが確定的に明らかだからだ。
それでも、念の為に脳内でシミュレートをしておこう。
何かの間違いでアホの子がレボリューションし、未知のコラボレーションを生み出すかもしれない。
……。
…………。
………………やべぇ。
俺を取り巻く絶望が、クソタヌキを凌駕した。
「マジでどうするかな……。冗談は抜きにして、どうすればいいと思う?ロイ」
「なら僕も真面目に答えるが、どうする事も出来ないな」
「おい」
「話は最後まで聞きたまえ。いいか、ノウィン様がリリンちゃんの母親であり黒幕なら、キミ達の敵対関係も偽りだったという事になる」
「……なるほど、もし仮に、ノウィンがリリンに悪感情を抱いていれば後見人にならない訳だ」
「そういう事だ。敵の掌の上で踊っていれば、全て上手くいく可能性がある。ラルラーヴァーやノウィン様が何らかの実害を及ぼして来ない限り、静観で良いはずだ」
敵も味方も、全てノウィンの管理下にある。
そう考えれば、確かに納得できるものがあるが……、逆の意味で未来が不安になった。
もし仮にラルラーヴァーとリリンが和解し協力して俺を手篭めにしようとすると……、今度はリリンと俺をくっつけたくないワルトが全力で戦争を吹っかける気がする。
そこにテトラフィーア大臣と、指導聖母の利権が欲しい大魔王大臣が暗躍。
ついでに俺の事を敵視しているセフィナがカツテナイ害獣をけしかけてくると。
なんだこれ。俺が何をしたっていうんだよ。
……。
…………。
………………二股を掛けただろ、過去の俺が。
「隠れていた事実が大き過ぎて、何もできる事が無い。逆に幸運なんじゃないか?ユニフ」
「そうは言ってもなぁ……、俺はこの事実をリリンに伝えなくちゃならないんだぞ?」
「心情的にはそうだが、実際は急ぐ必要がない。セフィナの身の安全が保障されているからな」
「ん、そうか……」
「キミが納得する形で告げれば良い。リリンちゃんも分かってくれるさ」
リリンに隠し事をする事は、裏切りに近いと思っている。
ましてや、リリンの敵に関する事を黙っているなんてのは、尚更、酷い裏切りだ。
セフィナが生きていると知ってから、リリンは目に見えて変わっていった。
飯の量が増えたし、よく『むぅぅ』と鳴くようにもなった。
喜怒哀楽も分かり易くなったし、何度も俺を転がすようにもなっている。
きっとそれは、セフィナやダウナフィアさんの生存を知って心が揺れ動いているからで、それを無理やりに鎮めるのはリリンの為にならないと思う。
それに、今のリリンは祖父と出会い、ほんの少しの安らぎを得ている。
だから……、この会談が終わった後、二人きりになった所でリリンに告げよう。
「ふむ、予定外ではあったが、情報を話したという点には変わりあるまい。この戦争の落とし所を話してくれんか」
「そうですね。私の婚姻が切り札なのは分かっています。ですが、生半可な男性ではブルファム王は務まりませんよ」
決心はしたが不安でいっぱいな俺へ、オールドディーン達が話を切りだした。
俺がリリンの事で悩んでいるように、ブルファム王国の存亡は姫様の人生に直結している。
冷たい態度を取ってしまった責任もあるし、此処はしっかりと話をしておかないとな。
「約束だからな、ちゃんと話すよ。だが、かなりショッキングな話になるぞ。覚悟は良いか?」
「え、そんなにですか……?まさか、私を襲って子を産ませ、王位継承者を作るとか……?」
あ、ロイがショッキングな顔をしている。
心当たりがあるもんな。
「妙な所で鋭いな。実際、似たような事をレジェリクエ女王は実行してる」
「既に行ったと……?って事は、テロル姉様に子供がッ!?なんて酷い仕打ちをするのですかッ!!」
「違う違う。テロルさんは元気に教頭先生やってる」
「……きょうとうせんせー?」
「埒が明かないな。どうする?ロイ。俺が話しちゃっても良いか?」
良い感じにポンコツな姫様を放置して、ロイにお伺いを立てた。
そして、その光景を見ていたオールドディーンは何かに気が付いたらしい。
まさか……、と小さく言葉を溢し、鷹の様な眼を見開いている。
「王位継承権に関して、レジェリクエが仕掛けた策謀。それまでは説明してくれて構わない。だが、フィートフィルシアで教えて貰った事は僕の口から告げても良いだろうか?」
「よしきた。それで行こうぜ!」
打ち合わせの結果、フィートフィルシアに行く前に見聞した事の説明は俺が行い、それ以降はロイが説明する事になった。
俺が話すのは、大魔王陛下はレジェンダリア王家の血筋を引く正当な後継者である事、大魔王陛下とテロルさんが組んでいる事、絢爛謳歌の導きを持っている事、既にブルファム王国官僚の掌握が済んでいる事などだ。
「まず初めに、戦争を始めた理由だが……、ブルファム王国の支配体系を憂いたチュインガム前王は、市井で暮らしていた末妹レジェリクエに国を託す決断をした所から始まる」
「なに!?チュインガムは殺されたのではないのか!」
「生きてるよ。今はグオ大臣を名乗ってて、レジェリク女王を支える宰相みたいなポジションだな」
ローレライさんの事は口に出さない。
英雄として一般的に知られていないんなら、迂闊に話を広げると迷惑を掛けてしまう。
「奴が。同じ大臣として侮れんと思うておったが……」
「察したと思うが、ブルファム王国の管理から脱却する為にチュインガムは死んだ事にした訳だ」
「まったく。最近死人が蘇り過ぎだわい。これも大聖母の成せる御技という奴か」
「ノウィンは関わって無いぞ。すべてレジェリクエ女王の采配さ」
「信じられんが……、事実、儂らレジェリクエに負けた。完膚なきまでにな」
大臣として、レジェリクエ女王の素性を調べないはずがない。
年齢や経歴などを把握しているからこそ、12歳という幼さで国を背負った事実に驚いているんだろう。
「付け加えておくと、心無き魔人達の統括者のメンバーは、リリン、ワルトナ、レジェリクエ女王、カミナ、メナファス、ホロビノ。あとテトラフィーア大臣も半分以上仲間だ」
「カミナだと?そいつは、聖・オファニム大医院のカミナ・ガンデの事か?」
「そうだけど。知ってるのか?」
「原因不明の病に侵された国王陛下の為に、大陸中から名医を集めたのだ。そうして開いた合同カンファレンスの時に目に付いた覚えがある」
「何をしたんだ?」
「100名以上の医師に向かって病状を説明し、質疑応答を始めてすぐの事だった。『脳外科医と麻酔科医、眼科医と神経科医以外は帰ってもいいわよね。私も専門医じゃないから帰らせて貰うわ』と言って席を立ったのだ」
「それ、話を聞いただけで病名に当たりを付けたって事だよな?」
「詳しい病名は伏せるが、カミナ・ガンデの言う通りであった。だが、陛下を治療できる者はおらん。カミナ・ガンデも、それを分かっていたらこそ席を立ったのだと思ったのだが……」
「治せないではなく、治さないだった訳だ。ブルファム国王が健康になってしまうと、侵略が滞るからな」
確か、大魔王陛下はロイに王位継承の説明をしている時に「ブルファム王はボケ始めた」とか言っていた。
それが病的なものだったとは思いも寄らなかったぜ。
そして、カミナ・ガンデが治療を拒んだという事に気が付いたアルファフォート姫は絶句している。
父親の姿を知っているだけに、ショックが大きいようだ。
「カミナ・ガンデが治療できるというのなら、陛下の命は既にレジェリクエに掌握されているということだ。王位継承の必要性が無いのなら、落し所として十分であろうな」
「あぁ、カミナさんは行方不明中でな。俺達と一緒に行動していないぞ」
「なんだと?」
「本題から逸れてるって話だ。ブルファム王の生死を抜きにして、王位は継承される。真っ当な手段をレジェリクエ女王は持っているからだ」
「絢爛謳歌の導きか」
「正解!アレは俺が英雄ホーライの店で手に入れたもので本物だ。持ってる奴がブルファム王なんだよな?」
大魔王陛下が絢爛謳歌の導きを持っている事は、オールドディーン達は知っていた。
宣戦布告に使われたんだから、知ってて当然だ。
だが、それが本物かどうかの確証を持っていなかったらしく、偽物だという意見の方が多かったらしい。
そして、自分が王位継承の切り札じゃないと気が付いたアルファフォート姫は超絶句している。
ショックが大き過ぎて、顔から覇気とか魂とかが抜け落ちて行く。
「レジェリクエが紋章冠を所持している以上、現ブルファム王の方が逆賊となる。だが、その紋章冠が絢爛謳歌の導きであるという保証は、直接ホーライと出会ったお前達に所縁のある者にしか通用せん」
「絢爛謳歌の導きを俺達が手に入れたのは偶然で、本命の策謀は別にあるとしたら?」
「そうであろうな。まったく、今日は驚いてばかりだわい」
「そんな訳で、ロイ。出番だぞ」
ある程度の事を察しているオールドディーンは取り乱すこと無く、ロイへ視線を向けた。
そして、ロイはギュッと拳を握ってから、静かに口を開く。
「オールドディーン大臣、アルファフォート姫。聞いて頂きたい事がございます」
「許可する」
「どうやら僕は、ブルファム国王ルイの息子であるようです」




