第90話「真・王女攻略②」
「知っている事か……、その前に一つ確認をさせてくれんか?」
知っている事があるなら教えてくれ。
そんな俺の問いかけに、オールドディーンは厳つい顔で答えた。
表情から察するに、思う所があるんだろう。
ラルラーヴァーの正体を突き止める事は、セフィナ奪還への最短ルートだ。
真っ向から戦わなくとも、ワルトや大魔王陛下なら絡め手で追い詰められるからな。
それに……、ラルラーヴァーも、一応、俺の事を慕っているらしい。
リリンやセフィナを犠牲にしたやり方には賛同できないが、もし、過去の俺が原因でそれをしたというのなら、俺にも責任がある。
ここは落ち着いて考察をしつつ、その後、リリンと一緒に対応を考えたい。
「確認?いいぜ。何が知りたいんだ?」
「ラルラーヴァーが何をしたいのか、それを聞いておらんのか?」
「あぁ、聞いているぜ。俺を自分のモノにしたいって言ってたな。ちなみに、俺が失ってる記憶を知っているらしい」
「お前を手に入れて何をするのだ?」
「そこまでは聞いちゃいねぇよ。ただ……、なんとなくだが、悪い奴じゃない様な気がするんだ」
受けた実害だけを考慮するのならば、ラルラーヴァーは俺達にとって敵でしかない。
だが、心のどこかにある直感では、純粋な悪だと思えないでいる。
「ふむ……。そうさな。ラルラーヴァ―は悪人ではあろう。だが、外道ではあるまい」
「悪人だけど、外道じゃない?」
「目的を達成する為に手段を選ばないが故に悪人ではある。だが、その目的は人の道を外れてはおらん」
「どうしてそう思うんだ?」
「奴はセフィナをとても大事にしておった。それに、儂は諭されたのだ。息子や孫に謝れとな」
オールドディーンの表情の中に、ラルラーヴァーへの憎しみは見て取れない。
むしろ、尊敬の念が混じっている様な清らかな顔をしている。
ラルラーヴァーは、息子や孫との間に生まれた軋轢と悩みを聞き、解決に向けた言葉を掛けた。
伊達に牧師を名乗っている訳じゃないって事か。
「俺は質問に答えたんだし、そっちも知っている事を教えてくれ。頼むよ、じいちゃん」
「祖父に向けた初めての頼みがそれか。もっと答えやすい事を聞いてくれれば良いものを」
「大したことは分からないって事か?」
「指導聖母は認識阻害の仮面を付けておる。姿は勿論、口調や仕草での個人特定は難しい。思い付いた事は話してやるが……」
そう言って、オールドディーンは顎に手を当てて考え始めた。
ラルラーヴァーのイメージを頭の中で纏めているんだろう。
俺達もラルラーヴァーに会っているが、その姿はおぼろげにしか把握できていない。
漠然と女性ということしか分からず、他の情報はラルラーヴァーが自ら口にした事ばかり。
オールドディーンや姫とは交流していたらしいし、少しでも情報が出てくるといんだが……。
「奴の身体的特徴は、身長160cm程度で細身。右利きで魔法が宿った弓を使う。正確は几帳面であり、先に考えてから行動を起こすタイプ。そして、タヌキ嫌い」
「タヌキ嫌い?」
「時々、ゴモラへの怒りで震えておるよ」
「……やっぱりリンサベル姉妹以外には懐かないんだな。全力で煽ってくるニセタヌキがずっと目の前をウロウロしているとか、心労が半端じゃなさそうだ」
オールドディーンに貰った情報では、ラルラーヴァーの正体には近づけなさそう。
知ってる風だっただけに残念……ん?
アルファフォート姫の視線が泳いでいる気がするな?
気のせいかもしれないが、ちょっとカマを掛けてみるか?
「アルファフォート姫の方はどうだ?同じ女性同士、何か知ってたりしないか?」
「えっ、えぇっと……」
……。手応えを感じたんだが?
というか、この姫様、滅茶苦茶チョロイ。
「ラルラーヴァーの件が片付けば俺も一息吐けそうだ。空いた時間でじっくり友好を深めるのも良いかもな」
「うっ」
「リリンの心象だっていいぞ。夕食をおねだりしてご機嫌だろうし、思わず頷いてしまうかも?」
「うぅ」
「あぁー、ラルラーヴァーがなー、正体さえ分かればなー」
「……タイム!おじいさまと相談する時間をください!!お願いします」
あ、知ってるって事を自供した。
クッキーすら必要ないとは、アホの子よりも制御しやすいぞ。この姫様。
そして、アルファフォートの自爆を見たオールドディーンは露骨に溜め息を吐いた。
言葉こそ発していないが、『これでは、国を任す事など出来ん……』と顔に書いてある。
「手短に頼むぜ!」
「はい、それではおじいさま、奥へ行きま……」
「ダメだ」
いくらなんでも手短すぎるだろっ!?
ちょっとくらいは話を聞いてやれよ、じいちゃん!!
「おじいさまっっ!?!?」
「ユニクルフィンとラルラーヴァー、どちらを取るのかという話でしか無いのだ。そして、儂の孫の方が劣勢なのは明らか。奴に喧嘩を売るのは得策ではない」
「でも……、」
「将来、ラルラーヴァーがユニクルフィンの隣に居るのは間違いあるまい。そして、お前の接近を全力で阻止するぞ。いいのか?」
なるほど、オールドディーンはラルラーヴァーの正体を確信してるっぽい。
そして、リリンとの戦いはラルラーヴァーが勝利すると踏んでいると。
……俺と話している時は一切顔に出さないとか、流石は食えないタヌキ大臣の異名を持つだけの事はあるな。じいちゃん。
そっちがその気なら、俺もやり甲斐があるってもんだぜ。
「じいちゃん達はラルラーヴァーが勝つって思ってるんだな。大聖母ノウィンの助力でもあるのか?」
「随分と娘を甘やかしておるようだな」
「娘……?確かにリリンもワルトも大聖母ノウィンの養子になってるが、甘やかしては無いだろ?」
「養子だと?実子であろう?」
「実子って何の事だ?んん、なんかおかしいな。話が食い違ってないか?」
リリンとワルトはノウィンの養子になっている。
この話はプロジアから聞いただけで裏付けを取ってないし、実際、ワルトが養子になっているのをリリンは知らなった。
だが、ワルトが指導聖母の地位を得ている事を考慮すると、可能性は高いんじゃないかと思っている。
だが、義理の親子の関係を持ち出すと、話が妙な方向に転がってしまう。
さっきの感じだと、ラルラーヴァー以外にノウィンの実子を知っているように聞こえたぞ。
「リリンやワルトがノウィンの養子って知らなかったんだな。……で、率直に聞くぞ。誰がノウィンの実子なんだ?」
「……。話せん」
「それを話してくれたら戦争の結末を教えてやるぞ。……むしろ、教えてくれなきゃ金輪際、俺がじいちゃんに話しかける事は無い」
「儂も耄碌したものよ。孫に詰め寄られるのが、こんなにも辛いとはな。……セフィナだ」
ちょっと強めな態度で行っただけで、割と簡単に落ちたな。
姫様ともども、ちょろいん過ぎる。
それにしても、セフィナは大聖母ノウィンの実の娘なのか。
へぇー、それは盲点だっ……、大問題だぞッッ!!これぇええええええええ!!
「ちょっと待て、セフィナがノウィンの娘ってどういう事だ!?」
「どうもこうもない。セフィナ本人がそう言っておる。この話は王城のどこに行っても噂されておるから、レジェリクエ女王の耳にも入っているだろう」
「マジかよ……、って事は、リリンのお母さんの正体って……」
「大聖母なのであろうな。アプルクサスの息子も、大物を釣り上げたものだ」
どっちかって言うと、アプリコットさんは吊り上げられた方だな。鞭で。
って、ボケ倒している場合じゃねぇぞ!!
大聖母・ノウィン=ダウナフィアさんだった場合、今までの大前提が崩れてしまう。
黒幕だと思っていたラルラーヴァーは大牧師という肩書きで、ノウィンの直属の部下という位置づけだ。
それなのに、ダウナフィアさんを攫い、家に火を放つなんて出来るはずが無い。
「嘘だろ……?それじゃ、リリンのお母さんは、ずっとリリンを騙していたって事になっちまう」
「例え騙してでも手放したくなかったのだろう。それが親というものだ」
確かにそうなのかもしれないが……、だとすると、リリン姉妹は大聖母の娘って事に?
……。
…………。
………………。
大魔王姉妹が俺を巡って姉妹喧嘩とか、未曾有のハーデスエンド到来。
生き残れる気がしねぇんだが、どうすればいいと思う?ロイ。




