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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第10章「真実の無尽灰塵」

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第87話「初めての友達③レジェリクエ」

「もふもふもふ……こくん。私の名前はもふふではない。リリンサ」

「冗談よぉ。ワルトナちゃんがリリンって呼んだのを聞いていたものぉ。私もリリンって呼んでいいかしら?」


「いい。じゃあ、私もレジェって呼ぶ事にする」

「いいわよぉ。改めてよろしくねぇ、リリンにワルトナちゃん」


「よろしく!」



 レジェリクエが満面の頬笑みで右手を差し出すと、リリンサも右手を差し出した。

 そして、手が肉まんで塞がっているのに気がついて、すぐに左手にチェンジ。

 普通に握手が出来なくなったので、恋人繋ぎで友好を分かち合った。


 そして、そんなやりとりを渋い顔のワルトナが見つめている。

 レジェリクエの裏側に何が潜んでいるのかを吟味しているのだ。



「……うん、何で僕だけちゃん付けなのかな?凄く気になるんだけど」

「え?なんとなくよぉ。なんか捨てられた子犬っぽいイメージだなって、それだけぇ」


「ふざけんな!僕なんかより、よっぽど幼い顔してる癖によく言うよ!!」

「でも、私は15歳ぃ。3つも年上よぉ」


「なにっ!!」

「もふふ!?」



 レジェリクエの告白に、リリンサとワルトナは同時に驚愕の声を上げた。

 リリンサは純粋に3つも年上だという事に驚き、肉まんを噛みちぎっている。

 一方、ワルトナは、自分達の年齢が12歳であるという事がバレている所に戦慄した。


 コイツ……、何者だ?と警戒を強め、膝上の紙袋を握りしめる。



「って、熱っ!?いつの間に僕の膝の上に置きやがった!?」

「さっきよぉ、そっちはあんまんが入ってるのぉ」

「あんまん……。ワルトナ、その紙袋、邪魔なら持ってあげる!」



 平均的な顔であんまんを要求してきたアホの子を放置しつつ、ワルトナはレジェリクエの正体に当たりを付けた。


 レベル7万……。

 歳が3つも上という事を考慮すれば、それ事態は納得がいくものだ。

 15歳になったリリンも、そのくらいはあるだろうし。

 問題は、大聖母ノウィン様クラスの後見人がコイツの後ろに居るって事だね。


 可能性があるのは、ノウィン様の隠し手札、大国ブルファムの刺客、指導聖母。それに、噂の新興国家……。

 今の所、思いつくのはこのくらいかな。


 で、正体不明の新興国家を除くと、どれも面倒な事この上ない。

 ①ノウィン様の刺客→僕が知らない以上、敵。

 ②ブルファム王国の刺客→有名になりつつある僕らを捕まえて仕官させたい。敵。

 ③指導聖母→敵。


 どれにしたって、ロクなもんじゃないね。



「で、キミの後ろに居るのは誰なんだい?ノウィン様か、ブルファムか、指導聖母か。教えてくれると助かるよ」

「どれでもないわぁ。神に誓って、この言葉が正しいと宣言するぅ」


「神に誓ってだって!?正気か!!」

「正気よぉ。私はただ貴方達と仲良く一緒にサーカスを見たいだけぇ。嘘を吐く必要なんて無いものぉ」



『神に誓って』

 それは、誓った内容が神の名の下に正しいと証明される、世界に刻まれたルールの一つ。

 指導聖母同士の戦い『強襲戦争』の制約文言から派生したものであり、その効果は絶対だ。


 そんな揺ぎようが無い証拠を付きつけられ、ワルトナは完全に混乱した。

 有識者であればある程、神に誓ってという言葉を嫌う。

 絶対に覆せない言質を取られるなど、施政者にあるまじき暴挙だからだ。



「ワルトナ~。私も紙袋を守りたい。神に誓もふふ!!」

「迂闊な事を口走るんじゃないよ、このお馬鹿ッッ!!」



 渾身の力であんまんをリリンサの口に叩きこんだワルトナは、サーカスが終わったら徹底的な教育をすると決めた。

『神に誓って紙袋を守る!』などと宣言すれば、どんな制約が課せられるのか分かったものじゃない。

 下手をすれば、一生、紙袋を傷つける事が出来ないという、妙な制約が発生する事があるからだ。



「くすくすくす、おもしろぉい」

「僕は全然面白くない。弄ぶのは好きだけど、遊ばれるのは嫌いでね」


「余は遊ばれるのも好きよぉ。水面下で攻略して思い通りに操るぅ。ぞくぞくするじゃなぁい」

「良い性格してるねぇ。で、目的は?サーカスじゃないだろ?」


「あら、サーカス自体も楽しみにしてるわよぉ。でも、レベル6万の団長ジェストドゥンの実力がどんなものなのかも、とても楽しみぃ」

「僕らだってサーカスを楽しみにしてるんだ。公演の邪魔をするんなら容赦しないよ」



 レジェリクエの言葉は、ジェストドゥンと呼ばれた団長が本気を出さざるを得ない状況が起こると告げている。


 リリンサとワルトナ、二人のレベルも6万台であり、ジェストドゥンと戦闘能力は近い。

 そんな傑物が本気を出す状況など、絶対に面倒な事になるとワルトナは思った。

 それはリリンサも同様に思っているが、あんまんを味わいながら静観を選んでいるのは、ワルトナの処理能力に信頼を置いているからだ。



「私は何もしてないわよぉ。でも、ブルファム王国が強制的な招致を企てていてねぇ」

「強制的な招致?そういえば、トレイン・ド・ピエロがブルファム王都で公演をしたって話は聞いた事が無いな……」


「ジェストドゥンと確執が有って、王都公演を断っているそうなのよぉ。でも、ブルファムは姫の誕生日会に呼びつけたいと」

「やけに詳しいねぇ?まぁ、確執が有るって事は、先に手を出したのはブルファム王国だろ?」


「20年以上も前になるんだけど、公演失敗を責めて、廃業寸前まで追い込んだみたいねぇ」

「良くある話じゃないか。それなら、責任はトレイン・ド・ピエロにもあるし」


「そして、その裏側にあったのは、卓越した身体能力を持つ団員達の強制的な徴兵だったって訳ぇ。公演が出来ずに散り散りになった団員は、当時の戦争に参加させられたのぉ」

「……なるほど。旧時代の戦争なら、投げナイフなどの特技も輝くと」



 ワルトナとレジェリクエは、一気に難しくなった話題について議論を交わしている。

 一方、話についていく事を速攻で諦めたリリンサは、ステージの上で始まった準備に目を輝かせていた。


 トレイン・ド・ピエロは、サービス精神が高いサーカス団として知られている。

 普通なら幕が下ろされている準備光景も観客の前で行い、それが大変に面白いと好評なのだ。


 ポンポンと飛び交う椅子や大玉の間で、ピエロが華麗に空を飛ぶ。

 一挙手一動が妙に派手派手しく、無駄の様に見えて精錬されている動きにリリンサも大興奮だ。



「それにしても公演か。最近噂の新興国家への備えとして、パイプを繋げておきたいってのが本音だろうね」

「そうでしょうねぇ。どこにあるのか、果たしてそんな国が本当に存在しているのか、その素性の一切が不明な新興国家にそこまでの警戒をするなんて、流石は大陸の覇者というべきかしらぁ」


「いやいや、新興国家が有るのは確定的なんだよ。最近物流がおかしいって噂をちょくちょく聞くしね。何か知ってる?」

「もちろん知ってるわよぉ。買い付けをしている一団の元締めって私だものぉ」


「……へぇ。それは良い事を聞いたね。僕らの話もその伝手で聞いたのかな?」

「可愛い少女の皮を被った、ド鬼畜ロリ悪魔がいるって噂になってるわよぉ。リリン、はい、あーん」



 レジェリクエは自分の分の肉まんを紙袋から取り出すと、隣のド鬼畜ロリ悪魔1号に餌付けを試みた。

 そして成功。

 もふもふと口を動かすリリンサに頬笑みを向け、思ってたより10倍は可愛いわぁと呟く。



「くっ、完全にリリンを手玉に取られたか。リリンも知らない人に食べ物を貰うんじゃないよ!!お腹を壊したらどうするつもりだい!?」

「真正面から戦っても負けるのは私達の方。なら、手間のかかる毒とか入って無いと判断した。あと変な匂いもしないし」

「匂いで毒かどうか分かるのねぇ?凄いわぁ、一家に一人欲しいわぁ」


「あーもー。リリン、僕の分のあんまんは?糖分が無いとやってられない」



 リリンから差し出された紙袋を物色し、ワルトナもあんまんを手に入れた。

 そしてパクリと齧り付き、濃厚な甘さを堪能。

 ちょっとだけ幸せな気分になった。



「で、物流を支配できる程のお金持ちなキミが、僕らに何の用だい?」

「騙して、有り金を全部巻き上げようと思ってぇ」


「おい」

「でも、やめたわぁ。まさか、私を罠に嵌めるとはねぇ」


「最低限の準備くらいはしてるさ。僕たちは可愛らしい女の子二人組だからね」



 レジェリクエの瞳に映り込んでいるのは、周囲一帯の座席の上に置かれた紙だ。


 ワルトナが特上の席の全てを買い取ったのは、この紙を仕掛ける為だった。

 虚無魔法が得意なワルトナは、もしもの時を想定し、座席の上にとある紙を召喚。

 それらには『予約席』という判子が押されている。

 だが、その紙こそが、大規模殲滅魔法『水害の皇』の原典書を解いたものであり、リリンサが魔力を流す事で詠唱無しで発動が可能という、極悪な罠だ。



「面白い、本当に面白いわぁ。ぞくぞくしちゃう」

「お褒めに預かり光栄だね……、新興国の女王さま」


「おっと、どこで気が付いたのかしら?」

「キミが言質を口にした瞬間。まぁ、そんな白々しい事はどうでもいい。僕に気がつかせる為にやった事だろうし」


「くす、本当に面白い子ね。欲しくなっちゃう」

「よく言うよ、初めから狙ってきた癖に。キミは僕らの何を知ってる?」


「さてねぇ?貴方の予測を先に聞かせて貰えないかしらぁ」

「いいとも。まず――」


「ワルトナ、レジェ、サーカス始まりそう!!難しい話は後にした方が良い!!」



 後の世に大陸を支配する大魔王と呼ばれる者たちの、最初の頭脳戦。

 幾度となく繰り広げられる戦いの様式美、それは決まっている。


 ほぼ全てのパターンで空気を読まないアホの子が乱入し、停戦。

 決着がつかないまま有耶無耶になるというのが、心無き魔人達の統括者の日常だ。



『わぁーたくしぃ、ピエロン!ナイフの扱いには自信が有りまぁす!ほら、リンゴだって剥けちゃ……あいたぁ!指の皮がむけちゃったぁ……』



「あはは、すごい。指から噴水のように血が出てる!」

「うん、笑い事じゃないねぇ、致死量だねぇ。どーなってんだろ?魔法を使ってる感じしないしな……?」

「飛び散った血が床に零れていないのも妙よねぇ?気化しているのは分かるんだけどぉ」



 ついさっきまで高度な情報戦を繰り広げていた少女達は、素直にサーカスを楽しんでいる。

 サーカス名物たる、空中ぶらんこ、火の輪くぐり、動物ショー、玉乗り、曲芸……などなどを堪能し、とってもご機嫌だ。


 トレイン・ド・ピエロの公演チラシの謳い文句は、『ピエロは魔法を使えなぁい!』

 つまり、公演を魔法無しで行っているとし、すべてピエロの技量の成せる技だと宣言しているのだ。


 ちょっと擦れた子供や大人なら、どうせ魔法を使っているんだろ?という考えに行きつく。

 だが、この少女達の程の実力が有れば、行われている公演が魔法では説明がつかない事を理解できる。


 結果的に、この少女3人の目は輝き、真っ当に公演を楽しんでいる。

 それぞれが絶対に「パンフレットを買う!明日も見る!!」「僕も僕も!」「私もぉ!」とはしゃいでおり、舞台の上のピエロも満足げに笑っていた。



『そぉれ、いち、にぃ、さん、ご!おぉっと、サービスし過ぎしてしまいましたぁ!失敬失敬!!』


「すごい!ナイフを4回しか投げて無いのに、5本も刺さってる!!すごい!!」

「良く見ろリリン、リンゴに刺さってるのは5本だけど、その下の人に2本刺さってる!」

「あ、痙攣してる。普通に致命傷じゃないかしら?心配だわぁ」


『でもでも、まだまだナイフが余ってますのでぇ、観客の皆様にぃ、特別なプレゼントをご用意しましたぁ!舞台の上へ、ごしょーたぁーい!』



 壇上のピエロが腕を交差させると、ずらりと指の間にナイフが並んだ。

 ざっと数えて20本。その全てに番号が振られている事を目ざとく見つけている少女達は、顔を輝かせて立ちあがった。

 そして、ピエロが大振りに腕を振り抜いた瞬間、少女達も一斉に座席から飛び出す。



『わたしぃの愛、受け取ってくださ……ナンダッテッ!?』



 ズダダダン!と連続して壇上が鳴り、ピエロが驚天動地な声を上げた。

 そこに居たのは、可愛らしい小さなシルエット。

 3人で20本のナイフを抱えた少女達の乱入に、流石のピエロもドン引きしている。



『えっとぉ……?この可愛らしいお嬢様は……?』

「わたし、リンちゃん!」

「ぼくは、ワルちゃん!」

「うちは、レーちゃん!」


「「「サーカスに参加しに来た!」」」

『……ナンダッテェェェ!?』



 ピエロの心からの叫びを背景にして、3人の少女達がポーズを取った。


 下調べをしていたワルトナは、投げられたナイフの正体を知っている。

 ナイフを取った観客の中から何人かが選ばれ、舞台の上に招待されるのだ。


 サーカスに熱中した3人の少女は、冒険者として鍛えた身体能力を惜しみなく発揮。

 投げられたナイフを全て回収するという荒技で舞台へ乱入し、キラキラとした目をピエロに向けた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いつもは、記憶喪失のユニクやア…あまり考えてないリリンの視点だからでてこないけど、今回の絶対的な制約みたいな世界のルールってあの神からして多そうだなぁ。 となると、こんなルールを作るみ…
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